人質の法廷
著者:里見蘭
はじめてこの本を手にしたときは度肝を抜かれた。なにせ二段組で600頁もある巨大な分厚い本だったからである。もしこれを文庫本にしたら、たぶん5冊を超えてしまうだろう。それに内容は裁判の話なので法律用語や条文が飛び交うのだ。二週間の約束で図書館から借りたのだが、遅読の私に完読できるのか不安であった。
タイトルの『人質の法廷』とは人質司法とも呼ばれ、否認供述や黙秘している被疑者や被告人を長期間拘留する(人質のような扱いをする)ことで自白等を強要しているとして日本の刑事司法制度を批判する用語のことである。
したがって本作では、状況証拠だけでは逮捕できないと考えた警察・検察側が、寄ってたかって無理やり自白に追い込み冤罪逮捕された被告人を守る弁護士と警察・検察・裁判官との戦いが克明に描かれている。
それにしても警察と検察がつるむのは理解できるが、公正な立場だと信じていた裁判官までが彼等の味方だったとは恐怖以外の何物でもなかった。やはり国家権力という同じ穴の狢だからであろうか……。
それはそれとして、法律を学んだ訳でも法曹界の経験者でもないのに、法律はもとより弁護士、警察、検察、裁判などの仕組みや実情を知り尽くしている著者の勉強力・調査力あるいはネットワーク力には驚愕するばかりである。また漫画の原作やファンタジーなど多彩な引き出しも保持しているようなので、是非ほかの作品も味わいたいと考えている。
ここで本作のあらすじをざっと記してみよう。
主人公の川村志鶴はまだ駆け出しの女弁護士だが、勉強熱心で正義感に溢れ、そのうえ男勝りのパワーを発揮して弁護士活動を続けている。そんなある日、当番弁護の要請が入り「女子中学生連続殺人事件」の容疑者の弁護を担当することになる。
容疑者の増山敦彦は典型的なデブッチョロリコンオタクで、いかにも犯人らしい風采なのだが、志鶴は彼の言葉を信じて冤罪をはらそうと積極的に弁護人を引き受けるのだが、気の弱い増山は警察・検察に恫喝されやってもいない罪を認めてしまうのだった。
読者たちはこのあたりでは、冤罪ではなくもしかすると増山が殺人犯なのかも、と考えてしまうかもしれない。だが中盤になって突如真犯人が登場し、かなり詳細にその犯行手口が描かれてしまうのである。
そう、あくまでもこの小説は犯人探しではなく、国家権力たちの不法な取り調べや裁判がテーマなのだ。それは理解しているのだが、余りにも悪質で残虐な真犯人の行動には許しがたい憤りを抑えることができない。さらに余りにも惨すぎる、少女たちへの暴行描写に反吐が出る思いも禁じえなかった。
なんといってもクライマックスは、約200頁にわたる終盤の裁判シーンである。このあたりはまるで自分も傍聴しているような臨場感に巻き込まれ気を抜くことができず、私自身もパワー全開となり夜を徹して一気に読破してしまった。
納得できるなかなか素晴らしい大団円であったが、その後の真犯人に対する詳しい描写がなかったのだけが心残りである。いずれにせよ専門用語が飛び交う分厚い本にしては、読者をぐいぐいと引き込んでくれるので読み易く面白かった。
評:蔵研人
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