カテゴリー「書籍・雑誌」の記事

2008年7月19日 (土)

ときのかけら 

 わずか180頁足らずなのに字が大きく、かつシンプルなお話なので、あっいうまに読み終えてしまった。はじめは、図書館の『時・特設コーナー』に展示していたことと、そのタイトルからタイムトラべル系のファンタジーかと思った。
 だがどちらかというと、大人も楽しめる青春ラブストーリーといったところか。タイトルの「時間」とのかかわりは、オープニングとエンディングだけなのだが、このちょっとした配慮がなかなか洒落ているんだな。

ときのかけら Book ときのかけら

著者:君島 孝文
販売元:文芸社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

  そもそも時間とは不思議な存在だ。楽しいときの時間は、あっという間に過ぎてしまうし、辛いときは嫌になるほど長く感じてしまう。この感覚はたぶん誰もが共有している事実であろう。
 だから、冒頭で著者が言っているように、時間が不要な人の時間を保存して、使いたい人へ分け与えられたら効率的だとは思う。また時間の速度や方向をコントロールできたら面白いだろうなとも考える。それらが実現したら、全ての人々は苦悩も後悔もない極楽のような人生をおくれるのだろうか・・・。
 僕は決してそうは思わない。もちろん初めの頃は、嬉しくて楽しくてしょうがないだろう。だが、全てが予測出来てかつ変更出来る人生なんて、いずれは飽きてしまうに違いない。苦があるから楽があるように、初めは見えないものが見えるようになるから面白いのだ。・・・とは言ってみても、一度くらいは時間をコントロール出来たら嬉しいことも確かである。

 この小説がSFやファンタジーでないことは前述した通りだが、時間とのかかわりが重要なモチーフになっていることは確かである。「貴史が別れて淋しそうだったから、あたしも別れたの」という幼馴染み理香子の言葉が、最後まで胸に突き刺さって離れない。優柔不断だが優しい貴史の気持ちは判るようで判らない。でも最後には誰でも暖かい気持ちになれるのでご安心を。

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2008年6月18日 (水)

15秒 

 僅か15秒の時間の遅れにより、鉄道、CATV、工場の機械に異変が起こり、2名が死亡してしまうことになる。ところがこの時間の遅れは、人為的に引き起こされたものであった。
 まるで神のように、時間を動かすことが出来る人間が存在するのか。完全時計とは一体何なのか。あたかもタイムマシーンのような装置を想像させる序盤の展開。

    15m_2

 だが結局は、かったるい小説だった。鉄道員の実態に鋭いメスを入れたまでは良かったのだが、それ以上のストーリーがなさ過ぎる。
 だから小説を読んでいる気がしない。鉄道と無線マニアの解説書を読んでいる気分なのだ。

文節が極端に短い文章が、それに拍車をかけるようでもあった。アイデアは悪くないのだが、遺憾せん小説になっていないのが悔やまれる。
 だから、ミステリーであリながら、全くドキドキすることもなく、高揚感も味わないままラストを迎えてしまった。一体この小説で何を描きたかったのか、何を主張したかったのかが、よく見えてこない作品だったな。

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2008年6月14日 (土)

カレンダーボーイ

 『カレンダー・ガールズ』という英国映画があったが、本作は全くそれとは関係がないので念のため…。本作は、中年の男性2人が、同時に少年時代にタイムスリップして、あの3億円事件を阻止し、クラスメートの少女を救うというお話である。

カレンダーボーイ Book カレンダーボーイ

著者:小路 幸也
販売元:ポプラ社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 タイムスリップものは数々あれど、2人同時に心だけがタイムスリップし、毎日寝るたびに過去と現在を往復するという話は珍しい。浅田次郎の『地下鉄に乗って』とやや似てはいるが、心だけタイムスリップというところが全く異なっている。
 また昭和時代のノスタルジーに浸るという展開は、広瀬正の『マイナスゼロ』を思わせる。なかなか楽しくて、一体どのような結末を迎えるのか、ワクワクしながらページをめくり続けた。
 だがラストの収束がかなり大雑把で判り難いね。なんだか急に面倒くさくなって、適当に幕を下ろしてしまった感がある。それまでは、かなり面白い話だったので、非常に残念な気分になってしまった。

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2008年6月 3日 (火)

公認会計士vs特捜検察

 凄い本である。小説ではなく、ドキュメンタリーなのだが、大長編の告白文といってもよいだろう。
 一部上場会社だったシロアリ駆除会社「キャッツ」の役員三人による、株価操縦・粉飾決算などの特別背任罪が、いつのまにか著者である公認会計士の、有価証券虚偽記載罪にすり替えられてしまう。
 とにかく逮捕された公認会計士自身が、冤罪に怒り、全精力を注ぎ込んで無罪主張文を書いたのだから迫力がある。だが専門用語や金融・会計の仕組みを知らない人にはかなり読み難いだろう。

公認会計士vs特捜検察 Book 公認会計士vs特捜検察

著者:細野 祐二
販売元:日経BP社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 初めこの分厚い本を読むのはかなりしんどかったが、中盤を過ぎた頃からは、裁判の成行きが気になり、むさぼるように一気に読み込んでしまった。
 一番ショックだったのは、検察の独善的かつ封建的な取り調べ方法である。 
 これがもし本当なら、こんな恐ろしいことはない。検察側に不都合な証人や証拠は全て無視し、陰で証人を脅迫しながら、検察に都合のよい証言書に無理やり署名させるのだから…。
 今時まだこんな野蛮な国家権力乱用を続けているのかと、信じられない気分で一杯だ。さらには、それら検察の横暴ぶりを承知しながらも、99.9%の有罪判決しか出さない裁判官にも憤りを禁じ得ない。これでは裁判所の独立性など全くないではないか。
 だが、本書が摘発されていないこと、また映画『それでもボクはやってない』でも同様の状況だったことを考えると、検察の横暴と検察ベったり裁判官の存在は嘘ではないのだろう。

 ただ一方通行の話なので、ここに書かれていること全てを、鵜呑みにするわけにもゆかない。それに本書中には、どうしても納得しかねることが三点ある。それをまとめると次の通りになる。

1)そもそもこの裁判の発端となった「村上専務詐欺事件」について、余り詳しく書き込まれていないのが不思議である。なぜ村上専務は、8億円もの個人資産を、いとも簡単に手渡したり、あっさり高利貸しの保証人になったりしたのか、全く合点がゆかない。
2)正義感に溢れる著者が、どうして大友社長から1000万円の裏金を受取ったのか。あとで返す積もりだったと弁解しているが、一時的にせよ受取った事実は歯切れが悪過ぎる。
3)株の買占めに対坑するためとはいえ、なぜ大友社長は60億円もの大金を使う気になったのか。そもそも自分が大株主なのだし、それほどの金を使うほど買占めに狼狽する必要があったとは思えない。

 この三点について、著者の書いた事が真実かもしれないが、余りにもその経緯や背景についての説明が少な過ぎるし、心理描写なども全く描かれていないのだ。なにか、嫌な臭いがする。もしかすると、検察同様、自分に都合の悪い部分を隠しているのではないだろうか…。

 裁判のほうは最高裁まで控訴され、未だに著者は1人で国家権力と戦い続けているという。とにかくもの凄いエネルギーである。私も含めて普通の人ならば、とっくに諦めているだろう。
 なんだか映画『不撓不屈』のモデルになったTKC創設者の飯塚税理士を思い出してしまった。今の時代にも、細野会計土のようなサムライが残っていたとは驚愕の限りであり、さすがの私も脱帽せざるを得ない。だが前述の三つの疑問だけは、いつまでも私の心にくすぶり続けている。

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2008年5月31日 (土)

シーオグの祈り

 13才の少年が主人公で、少女マンガチックなカバーイラスト。あきらかにこの作品がSFジュヴナイルであることを語っている。
 過去と現在を行ったり来たりするお話なのだから、SFであることは間違いない。またジュヴナイルではあるが、大人が読んでも全く違和感がない。それどころか、1847年のアイルランド人迫害と彼等の貧困生活に、きっと大人達も心を痛めてしまうだろう。

シーオグの祈り Book シーオグの祈り

著者:ジェイムズ ヘネガン
販売元:ランダムハウス講談社
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 主人公のトムは、生まれながらの孤児であるが、里親に悪態をつき、食べ物は平然と店で盗み、何人もの里親の間を転々するたくましい少年だ。
 リバプールに住む彼は、同じ孤児のブランドンを伴って、教会裏にある墓地に忍び込むのだが。そこで自分だけが、ブラックホールのような、大きな穴の中に吸い込まれてしまうのだ。気が付くとそこは約120年前のアイルランドであった。
 過去で彼は、自分と瓜二つのダリーという少年の命を助け、ダリーの妹ハナや、彼等の優しい両親と知り合うのだ。そして過去の世界で、彼等と家族同様の生活を過ごすのだが、あるとき再び現代にタイムスリップしてしまう。
 何度か現代と過去を往復するのだが、その都度トムは成長し、いまだかつて経験したことのない人の愛情に触れることになる。
 そしてラストの大団円。これがなんとも嬉しい結末で、思わず涙ぐんでしまった。とにかく、心温まる良い作品に仕上がっている。

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2008年5月17日 (土)

雷の季節の終わりに

 これで現在出版されている恒川光太郎の本を全て読んでしまった。『秋の牢獄』『夜市』そして本書の順である。著者はデビューして間もないため、まだ三冊しか出版していないのだから仕方がない。
 ただ長編は本作のみで、あとは中編集である。どちらかと言えば、著者は中編向けの作家であり、さすがに長編になると終盤に息切れした感があった。

雷の季節の終わりに Book 雷の季節の終わりに

著者:恒川 光太郎
販売元:角川書店
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 この話は、「穏(おん)」と呼ばれる僻地の集落から始まる。この穏では、冬と春の間の二週間に、神季または雷季と呼ばれる季節が介在し、鬼衆たちが村の鼻つまみ者を処刑する風習が残っているのだ。

 この地図にも載っていない穏という村は、「風わいわい」という不死鳥が徘徊する幻の里で、現実世界から隔離された異世界でもあった。こうした魔可不思議な世界観は、『夜市』、『風の古道』、『神家没落』と全く同じであり、これが恒川ワールドたる所以なのである。
 ただ同じ世界観でも、ストーリー展開がかなり異なるので、決して飽きがこない。これは著者の美麗な文体と、卓越した構成力の成せる技なのであろう。

 本作では穏と現代での二つの話がパラレルに流れてゆく。そして終盤には、その二つの世界が時を超えて融合していくのだ。いつもながら、その構成は見事としか言いようがない。
 ただ難を言えば、『夜市』などの中編作品に漂っていたノスタルジーや、幻想的な雰囲気が少し薄れてしまった感がある。それに、ラストの面倒臭くなったような早終いにも、少し抵抗感が残ってしまった。

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2008年5月11日 (日)

夜市

  どんなものでも売っているという、夜市と呼ばれる異世界の不思議な夜店。幼い頃、ここで「野球の能力」と「幼い弟」を引き換えにした祐司は、なにも知らない同級生のいずみを伴い、弟を買い戻すために夜市を再度訪れるのだった。
 第12回日本ホラー小説大賞受賞作で、著者の出世作でもある。審査員の荒俣宏、高橋克彦、林真理子の三人がこぞって大絶賛している稀にみる大秀作なのだ。

夜市 Book 夜市

著者:恒川 光太郎
販売元:角川書店
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 まず文章が巧い。無駄がなく読み易く、しかも抒情的で知的なのである。しかも話全体の構成力が抜群であり、ジャンルを超えた面白味を持つ。
 そして高橋克彦氏が言うように、なによりも比類ない「発想の転換の才能」の持ち主なのである。いきなり直木賞候補に推されたのも納得出来るというものだ。
 

   本書以外の著作では、『秋の牢獄』しか読んでいないが、まだ新人で余り作品が出版されていないので仕方がない。次は『雷の季節の終わりに』を読む予定でいる。
 本書では『夜市』と『風の古道』の二作の中編が掲載されているが、 どちらも妖怪が闊歩する世界を描いた、似たような雰囲気のお話なのだ。ただ『夜市』のほうは、市で何かを買わない限り元の世界に戻れないが、一方『風の古道』は、ところどころに抜け道が存在するという違いがある。 

   『夜市』は、おどろおどろしい中にノスタルジックな雰囲気が漂う。その世界感は『干と千尋の神隠し』や、宮沢賢治の『注文の多い料理店』などと同じような香りがする。
 そして緻密に計算され尽したラストの締め方も実に見事である。だからハッピーエンドで終結しなくとも、カタルシスが得られるのだ。

 一方の『風の古道』も、おどろおどろしさとノスタルジーにおいては、決して『夜市』に負けてはいない。ミステリアスで面白い話なのだが、『夜市』のような深みは感じられなかった。『夜市』の出版に際して、急遽書き下ろしたらしいが、『夜市』のサイドストーリー的な勾いがするのは否めないだろう。

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2008年5月 6日 (火)

小袖日記

 わたしは30歳目前のOL。上司との不倫が破局し、失意のどん底へ。さらに雷を浴びて、現代から平安時代に心だけがタイムスリップ。心の移動先は、紫式部の侍女である小袖ちゃんという設定である。この小袖ちゃんが紫式部の私設秘書となって、源氏物語』の取材に飛び回るのだ。
 かくして著者のオリジナル・珍訳『源氏物語』の始まり始まり。さてその中味は、『夕顔』、『末摘花』、『葵』、『明石』、『若紫』の五作を並ベた連作短編シリーズになっているじゃないの。

小袖日記 Book 小袖日記

著者:柴田 よしき
販売元:文藝春秋
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 著者は男のような名前だが、れっきとした女流作家。おっと女流などと言おうものなら、「女性蔑視だ」などと騒ぎ出しそうな雰囲気がある。
 このウーマン・リブ系の著者は、よほど『源氏物語』が気に入らないらしい。そりゃあそうだ、世界最古の長編小説といえども、ぶっちゃけ光源氏というプレイボーイの女遊びを正当化したようなお話の集大成だからね。ウーマン・リブ思想の女性にとっては耐え難い屈辱なのだろう。

 ということで、本作はタイムスリップものとしては、ど素人の作品でSF的な構想は全くない。つまるところ『源氏物語』の気に入らない部分を自分流に手直しして、よしき版『源氏物語』を創ってしまったのである。
 これが著者の最大の狙いであり、これで彼女はだいぶ溜飲を下げたのではないだろうか。などと、勝手に著者のメッセージを解釈してしまったが、勘違いだったらごめんなさい。
 お話のほうは、こんな解釈もあったのかと思わせる構成の巧さに脱帽したし、文章も平易で現代流に綴っているので一気に読破してしまった。ことに『末摘花』の赤鼻の原因や『明石』の正体などは、一捻りした面白い解釈じゃないの。
 また庭を流れる小川が当時の水洗便所だったり、女性達はめったに立たず、膝を使って這うように移動したりと、平安時代の生活様式が判り易く紹介されていたのが印象的だった。
 ただ雷でタイムスリップをする、『バック・トゥ・ザ・フューチャー 』そのままのパクリは、ちと安易過ぎるというか、全搬的にSFについてはやや勉強不足ですぞ…。

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2008年4月19日 (土)

ふしぎの国の安兵衛

 江戸時代の武士が、現代にタイムスリップしてきて、現代女性と知り合い、そしてマスコミの兆児となる。このパターンは原田泰子の『満月』と全く同じではないか。
 ただ『満月』が甘く切ない純粋なラブストーリー仕立てなのに対して、本作はユーモア溢れるホームドラマという趣向である。基本的な構成は『満月』のパクリに近いが、本作は『満月』以上に面白い。だから二時間程度であっという間に読破してしまった。

 ストーリーは、キャリアウーマンのひろ子と息子の友也が、江戸時代からタイムスリップして、途方に暮れていた安兵衛を助けるところから始まる。その後安兵衛は恩返しのため、友也の世話と家事一切を引き受け、ひろ子にとって彼は必要不可欠な存在となるのだった。
 とにかく楽しく読ませながらも、一方では軟弱になった現代家庭をピリリと皮肉っているところに味がある。そしてさりげないラストの括り方もなかなか見事だったね。

ふしぎの国の安兵衛 Book ふしぎの国の安兵衛

著者:荒木 源
販売元:小学館
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 ところでこの本のセンスのないカバーデザインにだけは参ったね。ちょんまげ姿のじゃがいも小僧が、寝ころんでいるイラストに、水色と黄色の背景というダサイセンス。最初このカバーをみて、思わず読むのをやめようかと思ったくらいだもの…。
 本書の著者である荒木源氏は、ほとんど無名の作家であるが、朝日新聞社を退社し、2003年に『骨ん中』という社会派ミステリーでデビューしている脱サラ作家である。今後の活躍を祈りたい。

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2008年4月13日 (日)

秋の牢獄 

 この本には三つのお話が詰め込まれている。タイトルの『秋の牢獄』のほか、神家没落』、『幻は夜に成長する』の三篇である。
 著者の恒川光太郎は2005年に『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞し、いきなり直木賞候補となった脅威の新人である。そのじっとりした美しい文体から繰り出す、ノスタルジックな世界観はやみつきになりそうだ。

秋の牢獄 Book 秋の牢獄

著者:恒川 光太郎
販売元:角川書店
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 さて三つの話は、全く関連性のない別の話である。しかし全ての作品には、「監禁される」というテーマが根底に流れている。
 『秋の牢獄』は、映画の『恋はデジャ・ブ』北村薫の『ターン』と同様に、同じ毎日が繰り返されてしまう話である。ただこの奇妙な世界に迷い込んだのは、主人公1人だけではなかった。
 そこには同じ状態の漂流者が何人も存在し、彼等はグループを形成していた、という設定が前述の映画や小説と異なる展開である。11月7日から翌日に行けないということから、ある意味11月7日の中に監禁されていると考えることができるだろう。
 『神家没落』に登場する古い家は、誰かが残らない限り、一度入ると絶体に外に出られない。そして代々誰かが犠牲になって、この家を守ってきた。外の人々は、その住人を神と呼ぶ。もちろん、これこそ監禁以外の何物でもないよね。
 『幻は夜に成長する』は、三作の中では一番もの悲しい作品だ。祖母から超能力を与えられた少女が、ある宗教団体の生き神様として、監禁されて生きるようになった過程を描く。きっと読者たちには、少女の不安と孤独と絶望感がひしひしと伝わってくるはずである。
 それにしても、本書の著者である恒川光太郎の力量は計り知れない。既存の作家にはない独特の感性とパワーバランスに酔いしれてしまった。1973年生まれと、まだ若いのでこれからが楽しみな作家である。

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2008年4月11日 (金)

悲しき人形つかい

 タイムトラベルとは全く関係のない梶尾作品を初めて読んだ。タイトルは口バート・A・ハインライン『人形つかい』のオマージュであろう。

悲しき人形つかい Book 悲しき人形つかい

著者:梶尾 真治
販売元:光文社
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 エイリアンが人体に侵入して人間を操るという『人形つかい』に対して、本作では介護用のボディフレームを、死人に装着するという荒唐無稽な発想だ。そして終盤では、このボディフレームを使ってやくざと戦闘するというお笑いドタバタ風味の作品なのである。
 まるで『ロボコップ』、『エイリアン2』、『鉄人28号』、はたまた落語の『らくだの馬さん』をごちゃまぜにしたような展開には笑ってしまうだろう。しかしまあよくもこんなバカバカしいネタだけで長編小説を作ったものである。
 小説というより、これはもうマンガの世界に近いしろものなのだ。あのロマンチストの 梶尾真治が描く世界感とは思えない。
 と言いながらも、面白い作品であることは否めず、数時間であっという間に読破してしまった。

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2008年4月 6日 (日)

6時間後に君は死ぬ

 オムニバスの中編集で、タイトル作品のほか『時の魔法使い』、『恋をしてはいけない日』、『ドールハウスのダンサー』、『3時間後に君は死ぬ』の5作を収録している。

6時間後に君は死ぬ Book 6時間後に君は死ぬ

著者:高野 和明
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 『3時間に君は死ぬ』は、タイトルの『6時間後に君は死ぬ』の続編で、5年前に出逢った山葉圭史と原田美緒が再会を果たす。そして3時間後に起こる大惨事を食い止めようと、ハラハラドキドキの探索を行うのだ。続編でありながらも、『6時間後に君は死ぬ』よりずっと面白い。

 『時の魔法使い』と『恋をしてはいけない日』は、まるで梶尾真治の描く時間テーマラブファンタジーを髣髴させられる。きっと著者も梶尾真治のファンなのだろう。
 一番良かったのが、『ドールハウスのダンサー』で、現実を人形に置き換えたかのような魔可不思議な世界に惹き込まれてしまった。
 主役というわけではないが、全編を通じて登場するのが、ビジョンという予知能力を持つ山葉圭史であり、この中編小説のアテンダーでもある。『13階段』を書いた高野和明とは全く別人のような話の展開に、著者の貪欲さと懐の広さを感じてしまった。

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2008年3月31日 (月)

きみがいた時間 ぼくのいく時間

 サブタイトルの「タイムトラべル・ロマンスの奇跡」が、この本の全てを物語っている。そう、梶尾真治のおはこともいえる、時間テーマの中・短編ラブファンタジー集である。
 書き下ろしの『きみがいた時間 ぼくのいく時間』をはじめ、『江里の"時"の時、『時の果の色彩』、そして処女作の『美亜へ贈る真珠』の四作が詰め込まれている。

     Kimi

 『きみがいた時間 ぼくのいく時間』は、著者の代表作『クロノス・ジョウンターの伝説』のサイドストーリーという趣きがある。主人公の里志は、事故で亡くなった妻の紘未を救うため、39年前にしか戻れないクロノス・スパイラルに乗る、という中編小説。
 『江里の"時"の時』は、異なる次元に住む男女の恋愛をリリカルに描く短編。また『時の果の色彩』は、タイムマシンを使って、過去に住む女性との恋を描くユニークなお話である。
 『美亜へ贈る真珠』については、処女作にふさわしい初々しいファンタジーロマンスで、すでに名作ファンタジーとして認知されている。
 また巻末には、著者と『劇団キャラメルボックス』の脚本・演出を手がけている成井豊との情熱対談が収められていて、これも梶尾ファンにはなかなか楽しい対談である。
 いずれにしても本書は、梶尾ファン必携の一冊と言ってよいだろう。是非ご一読あれ。

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2008年3月26日 (水)

へび女房

 著者は男のような名前であるが、れっきとした女性である。最近40代の女性作家が一番脂が乗りきっているよね。
 彼女もその一人であり、過去に直木賞の推薦候補者に選ばれたこともある。これは最近の女流作家に共通していることだが、文章が緻密で小説のバックボーンを丁寧に調べあげる。

へび女房 Book へび女房

著者:蜂谷 涼
販売元:文藝春秋
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 本書には、タイトルの『へび女房』のほか、『きしりかなしき』、『雷獣』、『うらみ葛の葉』の4編が収められている。
 どの作品も明治維新という激動の時代に、たくましく、したたかに、それでいて真摯さを失わなかった女性達の生き様を描く。そして幕末から維新にかけて活躍した実在の人物が頻繁に登場し、ヒロインたちと微妙に関わりを持つのだ。
 歴史上の人物については、歴史に残る事実に添いながらも、別のファインダーで覗いてゆく。このあたりの匙加減は、とにかく唸るほど見事なものである。
 また全編に芸者という職業が絡みついているのは、当時の女性達が身を売るよりほかに生きる術がなかったことを主張したかったのだろうか。
 『へび女房』は、女房がへびの化身だったというお伽話ではない。世の中が変わっても、武士の面目を捨て切れない夫に頼らず、自らマムシを仕入れて「へび屋」を開業した女房の苦労話なのである。
 『きしりかなしき』は、大名の姫君から芸者に身を落とし、外国人の妻となった女性の葛藤を描いた傑作。また『雷獣』と『うらみ葛の葉』でも芸者と外国人妻を中心的に描いている。
 そしてこの4編は、そのほかの登場人物でも、微妙にリンクしているのだ。なんだかオムニバス映画を観ているような気分になってしまった。

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2008年3月22日 (土)

ルネサンスへ飛んだ男

 時間反射機を使って、20世紀から15世紀のフィレンツェにタイムトラべルをした青年のお話である。タイトルやブックカバーのイラストから想像して、J・デヴローの『時のかなたの恋人』のようなラブファンタジーをイメージしていたのだが…。

ルネサンスへ飛んだ男 (扶桑社ミステリー) Book ルネサンスへ飛んだ男 (扶桑社ミステリー)

著者:マンリイ・ウェイド ウェルマン
販売元:扶桑社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ところがこれが大いなる勘違いであり、そして嬉しい誤算でもあった。この作品でもリズという清楚で心優しい奴隷少女が登場するが、お互いにほのかな恋心は抱くものの、大恋愛には至っていない。
 どちらかというと、恋愛よりも史実に基づいた脚色の精緻さに重心を置いているようだ。従って、荒唐無稽と思われる出来事が全て、歴史上の事実だったことを知ったときには驚愕の思いであった。
 そして科学的知識の豊富さと、絵に描いたようなラストのドンデン返しにも、誰もがきっと脱帽してしまうだろう。そして本作が書かれたのが、1948年というからさらに感心させられてしまう。

 それにしてもこれほどの力作が、なぜ2005年まで日本で翻訳されさかったのか。そのことについては、翻訳者があとがきで記しているが、完全版と削除改訂版の二つの版が存在しているのが原因らしい。
 もちろん本書は、完全版に基づいて翻訳されているのだが、削除改訂版の良い部分もかなり取り入れているという。ということは、翻訳者の力量も相当なものだということである。
 余り期待せずに買った本だが、時としてこのような幻の名作に出会えることがとても嬉しい。だから古本あさりを止められないのかもしれないね。

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チルドレン

 子供のことをチャイルドというが、複数になると「チルドレン」になる。つまり全く別人になってしまうのだ。という例え話には、妙に説得力がある。

チルドレン (講談社文庫 (い111-1)) Book チルドレン (講談社文庫 (い111-1))

著者:伊坂 幸太郎
販売元:講談社
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 本書は「バンク」、「チルドレン」、「レトリーバー」、「チルドレンⅡ」、「イン」の5作の短編を連ねたオム二バスである。全作に共通して登場するのが、自分を中心に宇宙が回っている陣内という豪快な男だ。
 余りにも強引で手前ミソな彼の言動に、「バンク」では少々腹が立つのだが、他の短編を読み進めてゆくうち、彼の暴言に納得してしまうから不思議だ。なんとなく憎めないキャラだし、結局いつも彼の示唆するところが、問題解決の糸口となるからである。
 この一連の短編は、時系列的に並べられてはいないが、主要な登場人物が固定的であり、5つの話が微妙にリンクしてある意味長編小説を形どっているのだ。またそれぞれの語り部を、陣内以外の常連キャラがリレー方式で努めているが、これも新しい試みかもしれない。
 5つの話はいずれも面白いのだが、僕は変った銀行強盗を描いた「バンク」と、父と息子の在り方を問う「チルドレン」を評価したい。「バンク」は陣内が学生時代に遭遇した事件、一方「チルドレン」のほうは、陣内が家裁の調査官になってからのお話であり、なんと12年間の時差があるのだ。
 ミステリーといえば、探偵や警察が登場するものと思い込んでいたが、こうした方法もあるのだなと、改めて感心してしまった。明らかに、伊坂幸太郎のアイデアと想像力の勝利だろう。

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2008年3月16日 (日)

時の”風”に吹かれて

 タイムトラベルファンタジーの名手である梶尾真治の短編集である。書き下ろしではなく、既に発表されたものを集めたので、梶尾ファンなら読了したものが混ざっているかもしれない。
 全部で11作だが、得意のタイムトラベルものは、表題の『時の”風”に吹かれて』と『時縛の人』だけである。だがそれ以外の9作も、それぞれ独自の味がしてなかなか楽しめた。

時の風に吹かれて Book 時の風に吹かれて

著者:梶尾 真治
販売元:光文社
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 以下に11作について、簡単なレビューを書いておこう。
1.時の”風”に吹かれて
 尊敬していた画家の叔父が遺した、白藤札子という美しい女性の絵。叔父が生涯独身を通したほど愛した女性でもあった。だが残念ながら、彼女は昭和36年のデパート火災で一命を落している。
 そして彼女は、主人公の恭哉にとっても、憧れの女性であったのだ。友人がタイムマシンを開発したことを知り、彼は昭和36年に戻って白藤札子を救おうと決意する。
 著者が得意とするリリカルな作品であり、11作の中でも一番心に残る作品であった。
2.時縛の人
 これもタイムマシンものであるが、前作とは全く異なる作風である。時間は瞬間の積み重ねという哲学の名句から、タイムマシンは「だるま落とし」の基本原理を使って過去に移動する。
 ところがその「だるま落とし」理論に見落としがあったため、過去に遡った途端に大変な問題に遭遇するのだ。 
3.柴山博士臨界超過!
4.月下の決闘
5.弁天銀座の惨劇

 3~5の3作とも、筒井康隆風味のドタバタナンセンス調が気に入らない。古い感性のSFで、どちらも僕の好みではなかった。
6.鉄腕アトム/メルモ因子の巻
 鉄腕アトムのオマージュであろうか。まるで手塚治虫の鉄腕アトムが、そのままマンガから小説の世界に入り込んだようだ。巧い!思わず手を叩きたくなる梶尾アトムだった。
7.その路地へ曲がって
 別世界のような路地裏に住んでいる年をとらない母に巡り合う息子の話。心の中に潜むノスタルジーを呼び起こすような珠玉のストーリーだ。
8.ミカ
 ある日突然、飼い猫が人間の女に見えてしまう哀れなお父さんのお話。家族に対する苛立ちが産んだ妄想なのだろうか。
9.わが愛しの口裂け女
 結婚した女が、実は口裂け女だったのだが、死ぬまで彼女を愛し続けた父親の話。とてもいい話なのだが、ラストにもう一工夫出来なかったのだろうか。
10.再会
 11作の中で、唯一SF味のしない作品である。ゼンちゃん存在がファンタジックではあるが、純文学風のあっさりとした味わいがあった。
11.声に出して読みたい事件
 3頁程度のショートショートだからしかたないが、ちょっと馬鹿にされたようなお話だったね。

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2008年3月 6日 (木)

幽霊人命救助隊

 東大二浪で首吊り自殺した裕ー、キャリァウーマンになり損ねて飛び降り自殺した美晴、会社経営に失敗し服毒自殺した市川、ヤクザ稼業の限界に絶望し、短銃自殺した八木。
 この四人が神様の命令で、地上に降り幽霊になって100人の自殺願望者を救うという荒唐無稽なお話である。しかも夕イムリミットは49日間、1日2人以上のペースで自殺をくいとめなくてはならない。
 これが成功した暁には、成仏して天国ヘ行けるという。なんだか、浅田次郎の「椿山課長の七日間」と通じるものがある。

幽霊人命救助隊 (文春文庫 た 65-1) Book 幽霊人命救助隊 (文春文庫 た 65-1)

著者:高野 和明
販売元:文藝春秋
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 彼等は人には見えない聞こえない、透過してしまう存在であるが、なぜか物質に対しては存在感がある。だが彼等は物質を動かせない。つまり、例えば誰かがドアを開けない限り、彼等だけではドアを開けられない、入れないのである。
 こんな状態で、どうすれば100人もの人間を救助出来るのか。ところが、彼等はこの八方塞がり状況を打破すべく「七つ道具」を所持していたのである。
 このマンガのようなバカバカしいお話が面白いのは、裕一以外の三人が自殺したのが、裕一よりずっと以前だったということだ。市川が15年前、美晴が17年前、八木に至っては、なんと24年前なのである。
 ということは、市川、美晴、八木にとっては、現代の日本はカルチャーショックで、まるでタイムマシンで未来に跳んできたのと同じなのだ。そのあたりの彼等の驚きようや、時代遅れな流行語が飛び交う様が楽しいよね。

 それから自殺願望者の大半は「うつ病」である。だから著者はうつ病について、かなり詳細に調べている。おかげで自殺とうつ病についての認識がかなり高まってしまった。楽しみながらお勉強出来るという具合で、一粒で二度美味しいのだ。
 ただ100人助けるまでに、何人もの同じような救助が続くので、途中少し辟易してしまうかも…。だが実は、最後100人目の自殺願望者の救助こそ、本作中最大の焦点なのである。この感動のクライマックスでは、きっと誰もが熱い涙を流さずにはいられないだろう。

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2008年3月 2日 (日)

乳と卵と芥川賞

 第138回芥川賞受賞作掲載ということで、久し振りに文芸春秋誌を購入した。それにしても今回の芥川賞は大騒ぎだ。受賞者の川上未映子が美人でスタイルが良いからである。
 当然芥川賞の運営母体である文芸春秋社も、そのことを十分承知していて、川上未映子の全身写真を使って、全国紙に全面広告をうった。またこの新刊書籍の腰巻にも、大写しの顔写真が載っているのをみても疑いのないところだ。