カテゴリー「書籍・雑誌」の記事

2009年9月30日 (水)

Love history

  天文台に勤める由希子は、いつの間にか33才になってしまった。明日は10才年下の加納との結婚式である。だがずっと気になっている荷物が、押入れの奥で眠っているのだった。
 恋多き由希子だが、一体何人の恋人が彼女のそばを通り過ぎて行ったのだろうか。気になる荷物とは、過去の恋の思い出が詰まった品々なのである。

love history (角川文庫) Book love history (角川文庫)

著者:西田 俊也
販売元:角川書店
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 由希子は決意を固め、ダンボール箱に詰まった大切なものを車に運んだ。燃やすには惜しいが、いつまでも手元に置いておく訳にはゆかない。それで山の中に埋めておこうと、雪道の中を走り始めたのだ。
 このあと、由希子は事故を引き起こし、意識が朦朧とする中で、意識だけが過去へタイムスリップしてゆくのである。それも音楽を媒介として、過去に経験した全ての恋を辿ってゆくのだった。
 一方、現在の時間では、結婚式を前日に控えた花嫁が急に行方不明になり大騒ぎとなる。そして新郎の加納は、必死になって由希子の行方を探すのであった。
 過去に戻った由希子は、それぞれの恋人との別れのシーンを再経験するのだが、今回も同じ別れを繰り返すのか、それともそれを阻止して別の人生を歩むのだろうか。
 タイムスリップものというよりは、恋愛小説であり、過去へのタイムスリップも、どちらかと言えば、死に際に見る記憶のらせん現象とも考えられる。
 巧みな構成力とメルへンチックで叙情詩のようなストーリー展開。なかなか興味深い内容であり、中編なのであっという間に読破してしまった。ただ残念ながら、男性視点でのロマンを書き綴っているだけなので、共感とか感動という心の琴線に触れる熱いものを全く感じなかったのが残念である。

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2009年9月24日 (木)

レッドゾーン

 映画化されたときは余り興味の湧かない作品だったので、つい映画館に行きそびれてしまった。だがこの本に偶然出会って、その内容の凄さに舌を巻いた。上下二巻に分冊した内容の濃い重量感のある小説ではあるが、まるで実話のようなシリアスなストーリー展開に心を奪われ、あっという間に読破してしまった。

レッドゾーン#上# Book レッドゾーン(上)

著者:真山 仁
販売元:講談社
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 タイトルのレッドとは、中国を指しているのだろうか、始めから終わりまで、中国という大国の驚くべき脅威をひしひしと感じさせてくれる。この国の外貨準備高は、2兆ドルをはるかに超える巨額に達しており、その全てを使い切ることも躊躇しないというのだ。小心者の日本人には、とても考えられない壮大な大陸的な発想なのか、それとも自已の利益のためなら、国ぐるみで何でも行う赤い悪魔なのだろうか。
 ストーリーのほうは、この巨人中国が日本最大級の自動車メーカーであるアカマ自動車を買収しようと画策するところから始まる。これを阻止しようと必死で対抗策を練るアカマの経営者たち。そして日本に絶望したサムライファンドの鷲津政彦は、どらら側につくのだろうか。
 策略と裏切りが渦巻くハゲタカ集団たちの緊張感みなぎる戦いを、リアルにそしてパワフルに描いた経済小説である。なお映画のほうは『ハゲタカ』というタイトルで上映されているが、内容は著者の同名小説ではなく、本作をアレンジしたものなので間違いなきよう。

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2009年8月 8日 (土)

時空を超えて

 60才になる医師のエリオットは、肺がんを患い余命数ヶ月の運命であった。カンボジアのジャングルで命がけで医療に専念したお札にと、原住民の村長から不思議な薬をもらう。この薬は全部で10錠。薬を服用して眠りにつくと、数十分間だけ30年前にタイムスリップすることが出来るのだ。
 自分の責任で最愛の恋人だったイレナを亡くしてしまったエリオットは、死ぬ前に一目だけでも生前の彼女に逢いたいと、半信半疑で薬を飲み、30年前にタイムスリップする。そしてそこで最初に出逢ったのは、30才の若かりし日の自分自身であった。

時空を超えて (小学館文庫) Book 時空を超えて (小学館文庫)

著者:ギヨーム ミュッソ
販売元:小学館
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 30年前にイレナを事故から救えば、20年前に行きずりの女性との間に出来た愛娘のアンジーが生まれてこない。この矛盾した二つの命を救うことが可能なのか…。
 タイムトラべルと恋愛を組み合わせたラブ・ファンタジー作品は、ハーレクインものを含めて山ほどある。大体がハッピーエンドのラブファンタジーか、切なさの残るリリカルファンタジーのどちらかである。
 だが本作はそのどちらにも属しているうえ、ファンタジーにサスペンスとアドベンチャーをブレンドした魅力を併せ持っているのだ。またテンポが良くリズムカルなので、まさに映画を観ているのかと錯覚してしまう。
 映画と言えば、本作はフランスで映画化されることが決定しているという。早くこの映画を観たいなぁ…。だがネットを探した限りでは、いまだ具体的な映画化の話は見つけられなかった。

 ここまでは、良いことずくめ作品のように書いてしまったが、気になることもいくつかある。まず過去の自分自身と逢って、会話までしているのは、非常に不自然ではないか。60才のエリオットは、30才のときに未来の自分とは逢っていないからである。
 このように、過去の自分と逢ってしまうと、タイムパラドックスが発生してしまうので、通常はこの状況を避けるか、過去の自分には気づかれない配慮が施されているものだ。まあ本作は、過去の自分との接触がないと成立しないので、ここは目をつぶるしかない。
 もうひとつ腑に落ちないのは、過去のエリオットが、未来のエリオットの言うことを、苦悩しながらもことごとく守るということだ。イレナとは結婚しても、いいじゃないの。20年後に行きずりの女性と浮気すれば、娘のアンジーも無事生まれるはずである。
 また浮気をせずにアンジーが生まれなかったとしても、それはパラレルワールドでの話なのだから、深刻に考えることもないと思うのだが…。
 この二点だけが、どうしても納得出来ない。だが、著者の巧みなストーリー展開のため、イレナが登場するあたりから、グイグイとお話の中に惹きこまれてしまった。そして終盤は、通勤電車の中にもかかわらず、涙々の大感動で読了したわけである。

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2009年8月 2日 (日)

依存 

 登場人物と場所はほぼ限定的で、埋屈っぽい会話が延々と続く。まるで舞台劇のような展開である。
 会話というよりは討論会といった趣きだが、テーマはおおむね二つの事象に絞られる。ひとつはタックの母親の件で、これは禁断の性愛が絡んでくる。そしていまひとつは、ルルちゃんのマンションでの鍵事件で、こちらはストーカーがテーマだ。
 いずれにせよ、なにかに依存しなくては生きられない人間の弱さに起因している。この作品では、いくつかの物語を提示しながら、依存性について、その原因と結論について、全負で徹底的に論じてゆくのである。
 この議論のメンバーは安規大に通う酒呑みグループ達であり、中心的な役割は、ボアン先輩、タカチ、タック、ウサコの4人が演じている。ほとんどのメンバーが本名ではなく、あだ名で呼び合っているところが若々しくて、いかにも学園ドラマを感じさせられる。

依存 (幻冬舎文庫) Book 依存 (幻冬舎文庫)

著者:西澤 保彦
販売元:幻冬舎
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 実に600頁を悠に超える長編であり、議論づくめの展開となれば、とても最後まで読み抜けないだろう。しかし本作は、その議論自体がミステリーの謎解きも兼ねているので全く退屈せず、知らぬ間に依存性世界の怖さを認識することになるのだ。
 こうした手法はなかなかユニークであり、本作は著者の作品の中でもかなり秀逸な出来ではないかと感じた。なお本作の中心人物達が活躍する匠干暁シリーズは、本作で五作目になっている。

スコッチ・ゲーム (幻冬舎文庫) Book スコッチ・ゲーム (幻冬舎文庫)

著者:西澤 保彦
販売元:幻冬舎
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 また完結シリーズではあるが、背景を知る意味でも、本作を読む前に前作『スコッチ・ゲーム』を先に読んでおいたほうがいいだろう。その『スコッチ・ゲーム』では、タカチ(高瀬千帆)自身に起きた事件が中核となっていたが、本作ではタック(匠干暁)自身の複雑な過去が解明されているのである。
 かなり陰湿でへビーな記憶を、無理やり告白させられるような後味の悪さが残るものの、ボアン先輩の包容力には癒されるはずである。

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2009年6月 6日 (土)

株の世界の歩きかた

 著者はカブドットコム証券の役員をしている臼田琢美さんで、株式投資に対する愛情をひしひしと感じる。そして株の美味しさとホロ苦さも、十分噛みしめているようである。

株の世界の歩きかた Book 株の世界の歩きかた

著者:臼田 琢美
販売元:日本経済新聞社
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 本書はこれから株の売買を始めたいという、株式取引初心者向けの本だが、ノウハウ本や参考書のように気取ったところがない。だからと言って、やたらと図やイラストを挿入しているケバい本でもない。
 株式取引を読み物風にまとめて、優しくそして判り易く解説してくれるので、読んでいて楽しいし、知らぬ間に株式取引の何たるかが理解出来てしまう。
 著者のポリシーは、基本的に株は中長期的に保有するものということなので、デイトレをめざす人達にはもの足りないかもしれない。しかし健全かつ本格的な株式投資を目指す人にとっては、たとえ中級者であっても十分満足出来る本に仕上がっている。とにかく好感の持てる一冊だ。

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2009年5月31日 (日)

まだ見ぬ冬の悲しみも

 少しきどり過ぎの感があるタイトル作品を始め、『奥歯のスイッチを入れろ』、『バイオシップ・ハンター』、『メデューサの呪文』、『シュレディンガーのチョコパフェ』、『闇からの衝動』と長いタイトルの中編小説が並ぶ。

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション) Book まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

著者:山本 弘
販売元:早川書房
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 『奥歯のスイッチを入れろ』は、バトルスーツに身を固めた超最新サイボークのアクションシーンに終始する。まるでマンガのワンシーンを丁寧に再現したかのような小説で、かなり面白いのだが、バトルシ一ンを詳細に描き過ぎていて、読者はいつまでもお預けを食らい続ける。まるで、板垣恵介のマンガのようでストレスが溜まってゆく。
 『バイオシップ・ハンター』は、宇宙ものでバイオシップという生物宇宙船にまつわる話。『メデューサの呪文』は、言葉を兵器に出来る異星人のお話。『闇からの衝動』は地下室にある穴の奥に潜む怪物のお話で、SFチックなホラーである。
 そしてタイトルの『まだ見ぬ冬の悲しみも』と『シュレディンガーのチョコパフェ』の二作こそが、目的の時間テーマ小説なのだ。どちちも時間や次元を操ることにより、この世が破壊されるというネガティブポリシーをテーマとしている。
 著者の新感覚パラドックス理論と、明快なストーリー展開には、絶大なる拍手を送りたいが、中編ではなく長編作品も読んでみたいものである。

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2009年5月20日 (水)

リセット

 北村薫の同名小説とはかなり趣きが異なり、スバッと本音で切り込んでくるので、なかなか説得力があり、小説の中にぐいぐいと引き込まれてしまう。最近読んだ小説の中では抜群の面白さを感じた。
 ストーリーのほうは、高校の同期会に遅れた三人のおばさん達が、不思議なレストランの中で、三人揃って30年前にタイムスリップするところから始まる。

リセット Book リセット

著者:垣谷 美雨
販売元:双葉社
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 三人の身分は、専業主婦の知子、キャリアウーマンの薫、苦界に身を落とした晴美である。それぞれが現状に大いなる不満を抱いており、人生をもう一度やり直せたらと願っていたのだ。
 三人の中で一番の美貌を誇る知子の不満は、高校時代のイケメン同級生と結婚したため、専業主婦となってしまい、あこがれの女優になれなかったこと。それでも理解のある夫なら、ある程度の許容範囲におさまっただろう。だが自分本位で、意地の悪い舅・姑の世話まで押しつけて、知らん顔をしている夫が許せないのである。
 長身で男性顔負けに仕事をこなし、一見充実したキャリアウーマンライフを送っているかのように見える薫も、実は男性中心の社会に不満ダラダラなのだ。
 そして男に騙されて妊娠し、高校を中退してからというもの、荒さんだ生活を続け、身も心もズタズタになったまま、独身の貧困生活にあえいでいる晴実。彼女こそ不満がないはずがない。
 そして同時に意識が高校時代に戻ってゆく三人。彼女たちは、記憶のかなたにあった30年前の世界と、現実の30年前とのギャップの大きさに驚きながらも、今度こそはと新しい人生を必死でやり直すのである。

 結果は読んでのお楽しみだが、人生の面白さと難しさ、人間の優しさと我がままさが交叉していてなかなか考えさせられる。また女性たちの赤裸々な告白も実に歯切れよい。
 努力や運によって人生インフラの中味は大きく変えることは可能だ。しかし自分自身の価値観なり生活態度が変わらない限り、本当の満足感は得られないということである。

 この小説の著者である垣谷美雨は50歳前後で、主役の三人の年令とほぼ重っている。著者も実生活でいろいろ苦労したのであろう。この小説を書くには、そうした人生経験が必要であるが、一方読む側にもある程度の人生経験がなくては共感出来ないかもしれない。

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2009年5月12日 (火)

陽だまりの彼女

 広告会社に勤務する奥田浩介は、クライアントの担当者との顔合わせで、偶然にも中学の幼馴染である真緒と10年振りで再会する。
 中学時代は少し頭の足りない少女だった真緒は、バリバリ仕事をこなす立派社会人に成長していた。大変身した真緒を目の当たりにした浩介は、次第に惹かれてゆき、ついには彼女の虜になってゆく。

陽だまりの彼女 Book 陽だまりの彼女

著者:越谷 オサム
販売元:新潮社
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 最初から最後まで、これでもかと言わんばかりの甘いムードと、イチャイチャの連続に、読んでいるほうが恥かしくなってしまう。だが主人公同様読者のほうも、少しずつ彼女の謎めいた行動が気になってくる。
 裸で町を歩いていたという少女時代の噂。里親に引取られる前の中学以前の記憶が全くないこと。あれほど低能だったのに、東大をめざすほど優秀になったこと。などなどまた浩介と結婚した後も、次々と不可解な行動をする真諸…。
 一体彼女は何者なのだろうか。異星人なのか、タイムトラべラーなのか、それとも何か特別な事情があるのか。中盤くらいまでは彼女の正体と、この小説の括り方に大いに興味を持った。

 だが結局は『鶴の恩返し』だったのだ。表紙をみればすぐ判るし、タイトルもそのことを示唆している。これでは余りにも素直過ぎるじゃないの、もう少し捻りの効いたエンディングを期待していたのにね。
 でも恋する嬉しさ、楽しさ、切なさ、哀しさがひしひしと伝わってくる、青春時代が甦る心温まるお話であることは確かである。このお話を読んだ読者は、きっと妻や恋人が愛しくなるはずである。

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2009年5月 2日 (土)

時空を超えて

 イラストを多用した講談社X文庫。当然ながら、ティーンズ向けの「学園SFラブストーリー」といったところである。読み始めたときは、多少バカにしていたのだが、これが結構面白いのだ。読み易いので、通勤の行き帰りで、あっという間に読破してしまった。

  Photo

 彩木学園高校に入学した主人公の千尋は、部長の河世先輩に憧れて、全く興味のない「オカルト研」に入部してしまう。そして自分から河世に告ってつき合い始めるのだが、ひょんなことから未来にタイムスリップし、河世が事故で死んでしまう事を知る。これを阻止するため、千尋は今度は過去へ跳ぶ。
 タイムパラドックスが生じるため、過去は絶対変えられないとする理論が主流であるが、パラレルワールドの存在を認めることにより、過去は変えられるとする理論もある。
 では本作はどちらに属するのか。だがそれを明かしてしまうとネタバレになるので、そこは読んでのお楽しみということにしたい。楽しくちょぴり切ないお話が好きな女性に、是非お勧めしたい作品である。

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2009年4月26日 (日)

ステップ 

 西澤保彦の『7回死んだ男』というミステリーがあるが、本書では主人公の斎木章が10回も死ぬのだ。ミステリーでもあるのだが、どちらかというとハードボイルドタッチである。

ステップ Book ステップ

著者:香納 諒一
販売元:双葉社
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 死んでしまうと、また過去に戻ってやり直しが出来るのだが、何時間前に戻るのか判らないうえに、だんだん過去に戻る時間が短かくなってゆくのだ。従って取り戻せない失敗も発生してしまう。それがこの繰り返し小説を、飽きずに読ませる仕組みなのだろう。
 過去の繰返しを描いた小説の代表は、ケン・グリム・ウッドの『リプレイ』と、北村薫の『ターン』であろう。また映画では、何といってもビル・マーレーとアンディ・マクドウェルの『恋はデジャ・ヴ』の右に出るものはないだろう。
 ただ本作のようなハードボイルド系の繰返し作品は初めてであり、非常に楽しかったな。また緻密に計算され尽されたスト一リー展開も見事である。

 だがやはり、10回もミスを犯して死んでしまう主人公にイライラが募る。なんだかしつこい気もする。それに、せっかく美女が二人も登場するのに、濡れ場が全くないのも淋しいじゃないの。
 繰返しのほうは10回ではなく、せめて5~6回位で十分である。もしかして、西澤保彦の「7回」に張り合って、10回に引き伸ばした訳ではないだろうな。

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2009年4月12日 (日)

時間をまきもどせ

 誰にでも失敗したことを取り消して、もう一度やり直したいと切望するときがあるだろう。この作品は、パワー・オブ・アンという携帯用タイムマシンを使って、そうした願いを叶えようとする少年のお話である。とても心温まるファンタジー系SFジュブナイルといえよう。

時間をまきもどせ! Book 時間をまきもどせ!

著者:ナンシー エチメンディ
販売元:徳間書店
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 主人公の妹が、犬を追いかけてトラックにはねられてしまうのだが、この事件を抹消するために過去に戻る。だが、なかなか思うように軌道修正が出来ない。妹が助かっても別の犠牲が生じてしまうからだ。
 ゲームのコンテニューなら、何度も繰り返しているうちに確実にゲームを終了することが出来る。だが人の世界はそう簡単にはゆかない。なにかが異なれば、因果律が狂って別の結果を生み出してしまうからだ。

 これをパラレルワールドと呼ぶのだが、人生とはなかなか難しいものである。児童文学とはいえ、いろいろと考えさせられる作品であった。
 大きい文字で約210頁の中編であり、ハラハラさせるストーリー展開なので、通勤の行き帰りであっという間に読破してしまった。タイムトラべルに興味のない大人にも薦めたい一冊である。

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2009年4月 8日 (水)

名前探しの放課後

 原因不明のタイムスリップで、3ヵ月先の未来から戻ってきた高校生の依田いつか。彼は3ヵ月先に同級生が自殺するが、それが誰だったのかは、どうしてもは思い出せないと言う。そこで彼は、これから起こる自殺を阻止しようと、仲間たちと協力して自殺者の名前探しを始める。

名前探しの放課後(上) Book 名前探しの放課後(上)

著者:辻村 深月
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 タイムスリップという超常現象からスタートするのだが、本作ではタイムパラドックスなどにはほとんど言及していない。だからSF系の小説ではなく、タイムスリップは単に未来の自殺を阻止する、というテーマのための小道具に過ぎないのだ。
 はっきり言えば、「学園ミステリー」そのものなのである。女性視点で味付けが薄いので、おじさんには少々物足りなかったが、女性や学生たちには、爽やかな味が美味しいのかもしれないね。

 読み処は、真摯で清楚な同級生坂崎あすなと、鉄道マニアの同級生河野との友情。そして美味しい洋食を提供するグリル・さか咲の存在かな…。
 全二巻で途中少し中だるみの感もあるが、終盤の急展開とラストの大ドンデン返しは、なかなか面白いし見事だったね。ただ注文を付ければ、せめて一冊にまとめる程度の長さにして欲しかった。

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2009年4月 4日 (土)

靖国への帰還

 大平洋戦争末期、米軍機の本土空襲を阻止するため、残り少ない戦闘機「月光」に勇んで搭乗する武者中尉。だが健闘むなしく、空中戦で被弾して厚木基地に不時着する。
 そのまま気を失って、気が付くと基地の病院のべッドの中であった…。ところが見た事もない蛍光灯という照明器具があるし、敵の米国兵もいる、どうも妙な違和感を感じるのだ。

靖国への帰還 Book 靖国への帰還

著者:内田 康夫
販売元:講談社
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 次第に判ってくるのだが、武者中尉は昭和20年から、現代の世界へ愛機月光ごとタイムスリップしてしまったのである。同乗していた部下は、着陸時に死亡してしまったという。そのために、自分の存在とタイムスリップを証言してくれる人間が不在となってしまった。
 だが月光の存在を含めて、武者の話を信じないと辻つまが合わなくなるため、国家としても武者のタイムスリップを信じざるを得なくなってくる。この件については、国家的極秘事項として扱われていたが、月光の墜落現場を見た者や米軍兵の口から、次第に噂が広まり、マスコミ達の興味を惹くことになってしまう。
 当然、武者の外出は禁止され、狭い基地内だけの不自由な日々が続いていた。ところが、突然中越大地震が勃発し、マスコミの興味がそちらに移ってしまったとき、やっと武者の外出が許可される。もちろん武者の最大の希望は、靖国神社参拝であった…。

 このあと、過去の軍人からみた靖国神社論が展開されるのだが、なかなか判り易く説得力のある論理である。またA級戦犯についても、戦争に負けたからこそ大罪人扱いされるが、もし日本が勝っていれば、マッカーサーこそA級戦犯になったはずだ…と小気味よく持論をぶちまける。
 そしてお国のために身も心も捧げ、靖国へ軍神として奉られることを信じながら、散っていった同胞たちの心情を吐露するのだ。読んでいるうちに、なるほどと妙に納得してしまう自分が怖かったが、この問題には正解がないことも真実であろう。

 どちらかといえば硬派な作品であるが、初恋の女性との再会に絡むストーリーは、なかなかロマンチックでかつ興味深い。そしておばあさんになってしまったが、いつまでも武者の面影を抱いて生き抜いてきた彼女がいじらしいのだ。
 ラストのまとめ方は定石通りだが、武者の心情を考えれば、あれ以外には方法はないだろう。自分を含めて、現代の軟弱な男性と比較すると、まるでサムライのような戦前の男性。戦争経験のあった亡父を思い出し、とどめなく涙が溢れ出してしまった。
 人生とは国家とはそして青春とは一体何かを問う感動小説である。日米戦争の存在さえ知らない現代の青年たちにこそ、是非一読してもらいたい作品ともいえよう。

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2009年2月25日 (水)

虹の天象儀

 古いプラネタリウムを使って、過去にタイムトラべルするお話。確かにプラネタリウムは、その神秘的でメカニカルな形状が、まるでタイムマシンのようだし、天空を写し出すのだから、時空も操作出来るような気分になってしまいそうだ。
 世界初の光学的プラネタリウムの開発を行ったのが、ドイツのカール・ツァイス社であることや、その性能とマニュアルの素晴しさと、整備・調節の判り易さを述べている。また日本におけるプラネタリウムの歴史についてもかなり詳細な記述がある。

虹の天象儀  /瀬名秀明/著 [本] 虹の天象儀 /瀬名秀明/著 [本]
販売元:セブンアンドワイ ヤフー店
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 我国の第1号機は、昭和12年に大阪市立電気科学館(大阪市立科学館)に設置されたカール・ツァイス社製の23号機であり、当時はアジアで唯一のプラネタリウムとして、大阪の象徴的存在でもあった。
 東京での最初のプラネタリウムは、翌昭和13年に、有楽町の東日天文館(毎日新聞社)に設置されたカール・ツァイス26号機だという。だがこの26号機は、昭和20年に米軍の空襲により焼失し、東京でプラネタリウムを楽しむには、戦後の昭和32年に渋谷に五島プラネタリウムがオープンするのを待たねばならなかったのだ。
 当時この五島プラネタリウムは大人気で、小学生の校外授業などにも使用されていた。だが残念なことに、東急文化会館取り壊しとともに、平成13年にその姿を消してしまったのである。

 そのほかにも、プラネタリウムに関するメカニカルな記述が詳細に述ベられている。薬学博士号を持つ著者ではあるが、それにしても、プラネタリウムに対する熱烈な愛情がなければ、これほどの知識は得られないだろう。
 物語のほうは、渋谷のプラネタリウム閉館式の後に不思議な少年が現われ、主人公のプラネタリウム技師を、過去の世界へ誘うというメルヘンチックな中編小説である。
 織田作之助をはじめ、懐かしい著名人の実名がバンバン登場する。これはもう、SFとかタイム卜ラベルと言うより、五島プラネタリウムへのオマージュであり、昭和ノスタルジーへの回想録と言ってもいい作品である。ある意味で「ムード小説」とでも呼ぼうか。なんとなくこれが、長野まゆみの『天然理科少年』とか、マンガ家・谷口ジローの『遥かな町へ』などと雰囲気が繋がるんだな…。

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2009年2月 8日 (日)

嘘はよみがえる

 まだ映画化はされていないようだが、ミステリアスで、恋愛あり、アクションありでまさに映画向けの小説だと感じた。そのうえカべルという秘密結社が、デリバティブマネーを操作して、裏で全世界を牛耳っているという社会派テーマもなかなか興味深い。

  Uso
 また主人公のイヴと、彼女を狙う殺し屋ジュールズの二人が、かなり粘着質でしつこい。この二人の見えざる戦いが、読者をぐいぐいと引っ張ってゆくのだ。とにかく良く出来た作品である。

 失踪した上院議員候補べントリーの生死を確認すベく、復顔作業を依頼された復顔彫刻家のイヴは、家族と離れてバトンルージュへ移り、教会地下の作業場で仕事にかかる。ところが、この作業の進行を好まない何者かにより、彼女の周りの人物が次々と殺害されるのだ。さらに魔の手は、彼女の家族にも伸びてくる。

 復顔した頭蓋骨は、果してベントリーか否か。刻々と明かされてゆく、べントリーとジュールズの行動、それにカべルの思惑。さらには、イヴを助ける恋人ジョーと、元恋人の友人ガレンの007ばりの活躍にも目が離せない。

 最近になってやっと実用化されつつある感のある燃料電池。近い未来には、必ず石油の代替燃料になるに違いない。ところが、まだその実用化が悲観的であった2000年頃から、その役割の重大性に着目した著者の慧眼には敬意を払いたいものだ。

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2008年11月30日 (日)

その日のまえに

 「その日」とは、あの世に旅立つ日のことである。作者はその旅立ちの日を共通テーマとして、「生きること」、「死ぬこと」、「残されること」を、それぞれ独立して描いた短編集にするつもりだったという。
 だが著者の恩師である平岡篤頼氏の急死により、『その日のあとで』というテーマでの話を書きたくなったそうである。結局『その日のあとで』に連なる形で、それまで発表していた短編を書き直したり再編集して、この作品に仕上げたらしい。

その日のまえに (文春文庫) Book その日のまえに (文春文庫)

著者:重松 清
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 本作に収録されている短編は、『ひこうき雲』、『朝日のあたる家』、『潮騒』、『ヒア・カムズ・ザ・サン』、『その日のまえに』、『その日』、『その日のあとで』の7作である。そしてそれらのうち、『朝日のあたる家』以外の作品は、どこかで微妙に繋がっているのだ。
 その繋がり方については、多少無理があるように感じるが、前述した通り、あとから再編集したということなので許容範囲とすることにしたい。またその最大原因である『その日のあとで』が、短編集の中で一番出来映えが良い事を考えても、多少のブレは致し方ないだろう。

 ハッピーエンド好みの僕としては、暗く重いテーマの短編ばかりなので、かなり気が滅入ってしまったのだが、ラストの『その日のあとで』を読んで、それまでのフラストレーションが一遍に吹き飛んでしまった。『その日のあとで』は、それほど秀逸な作品なのであり、究極すれば、この本はこの一作のために存在しているのだと言っても過言ではないだろう。

 死とは人生の終着点なのか、別の世界への入口なのか、死んでみないことには答は出せない。もし死にゆく者にとって、死が「本来あるベき世界」への羽ばたきだとしても、残された者には、悲しみのセレモニー以外の何者でもないのだ…。
 ところで『未来郵便』というサービスをご存知だろうか。最長20年先の自分や家族に宛てた手紙を、保管して配達してくれるサービスである。僕もこのサービスを使って遺言を書きたいと思っていたのだが、『その日のあとで』の中でも、看護士によってその役割が果たされるシーンがあり、きっと誰もが感動してしまうことだろう。

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2008年11月 1日 (土)

私の男

 絶句!…第138回直木賞を受賞したこの小説を、どう評したらいいのだろうか。テーマが近親相関というタブーであるだけではなく、その愛情描写が異常なほど熱いエネルギーを放射しているのだ。まさに一歩間違えれば狂気の奈落の底である。ギリギリの瀬戸際で綱渡りをしているかのようだ。再度、絶句!

私の男 Book 私の男

著者:桜庭 一樹
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 もし、著者が男だったら、ロリコンでマザコンの変態と罵られよう。もし、時間軸を逆転させなかったら、単なるエロ小説に成り下がっていたかもしれない。もし、二つの殺人事件が挿入されていなければ、初めから結論を書いてしまったことがアダになり、ストーリー展開に対する興味が薄まってしまっただろう。 

 これら全てを見事にクリアしてしまう緻密な構成力と、唸るほど巧妙で流れるような美しい文体に、呆れてしまうほど感心し、嫉妬してしまった。これなら直木賞は当たり前、逆立ちしてもこんな作品は書けないな。
 さらに全6章の語り部が、主人公の「腐野花」、「花」の婚約者である「尾崎美郎」、私の男である「腐野淳悟」、そして再び高校生の「腐野花」、次に淳悟の恋人だった「大塩小町」、そして終章では小学生の「腐野花」と、次々と変遷してゆくので飽きることがない。

 それでもテーマがテーマだけに、そのドロドロとした禁断の男女関係に耐えられない読者もいるだろう。だから、かなり好き嫌いの評価がはっきりする作品であることは否めない。それにしてもだ、これほど巧妙に計算され尽くされた作品に巡り逢ったこともない。何度も繰り返すようだが、感動とか面白いというレべルではなく、ただただ絶句するほど凄い小説なのだ。
 桐野夏生にしても、宮部みゆきにしても、最近の女性作家たちの宇宙人的な力量は計り知れないものがあるよね。

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2008年10月10日 (金)

夢をかなえるゾウ

 自分を変えたいと思っているが、何一つ実行出来ないヘタレサラリーマンの主人公の前に、突然ゾウの姿をしたおかしな神様ガネーシャが現れる。この神様は大阪弁でまくしたて、あんみつをがんがん食べ、四六時中タバコを吸いまくり、ああ言えばこう言うといった具合に、主人公の弱みを次から次へと指摘してくるのだ。
 そして勝手に居候を決め込み、無断で人の金を使いまくる。そのたびに主人公は腹を立てるのだが、この神様に『成功の秘訣』を教わりたいというスケベ心から、いつも最後には言い負かされて言いなりになってしまう。

夢をかなえるゾウ Book 夢をかなえるゾウ

著者:水野敬也
販売元:飛鳥新社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ただ単にこうした単純な話が繰り返され、最後に教訓を垂れるといった展開に終始する。いわば面白おかしく読み易い形にした「自己啓発書」なのだ。だからただ単純に面白いね・・・で終わってしまっては、くその役にも立たないつまらない本ということになってしまう。せっかくこの本を読んだのであれば、ガネーシャが残した教訓を、読者も納得したうえで実践してみればよい。

 その教訓の一部をまとめれば次の通りである。
1.靴を磨く
2.コンビニでお釣りを募金する
3.食事を腹八分におさえる
4.人が欲しがっているものを先取りする

 そしてこうした教訓が、30項目近く書かれている。そのほとんどが、いまさら感心することでもなく、他の自己啓発書に書かれていることのおさらいに過ぎない。ただこの本では、どうしてそうすれば成功するのかという理由を、ドラえもんとのび太の掛け合い漫才よろしく、ぶっちゃけて判りやすく楽しく書いているのだ。また、ではどうしてほとんどの人がその教訓を活かし切れないのか、その回答までも判りやすく用意しているのである。ここら辺りが、この本のユニークなところで、読書が苦手で勉強嫌いの若者達の心を掴み取り、140万部突破の大ベストセラーになったのであろう。

 さてこの本に登場するガネーシャというゾウの姿をした得体の知れない神様について、せっかくだからちょこっと知っておこうね。実はこのガネーシャは、ヒンドゥー教の神の一人であり、インドでは除災厄除・財運向上で信仰を集めているという。また智慧・学問の神でもあり、学生たちにも人気があるらしい。

 ではなぜゾウの姿をしているのか、伝説では父親のシヴァ神の怒りに触れて首を落とされ、代わりにゾウの頭をつけられたという。また片方の牙が折れているのは、やはり父シヴァ神の投げた斧を、牙で受け止めたために折れたのだそうである。
 さてこの本では、夢をかなえるためには、ガネーシャの教訓を実行するのみとして結んでいるが、本当に夢をかなえられるのか否か、一度チャレンジしてみたらいかが。確かにガネーシャの教訓を5年間以上続けて実行すれば、50%以上の可能性で夢をかなえられるかもしれない。あと残るのはタイミングと時の運であろう。

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2008年8月31日 (日)

ポンコツタイムマシン騒動記 

 町の発明家先生が、廃品回収した電機製品を利用してタイムマシンを作りあげ、娘のトキ子とラーメン屋の三郎少年を乗せて過去に旅立つ。コミカルなジュブナイルで、舞台はたったの2ヵ所、登場人物も10人以下という、映画ならばさしづめ「超B級低予算映画」といったところか。

ポンコツタイムマシン騒動記 (講談社 青い鳥文庫fシリーズ) Book ポンコツタイムマシン騒動記 (講談社 青い鳥文庫fシリーズ)

著者:あさり よしとお,石川 英輔
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ストーリーも単純で、同じ場所を行ったり来たりするだけである。これは舞台劇にはおあつらえ向けだね。ところがタイムトラベルファンにとっては、この単調さがなかなか味わい深いのである。
 同じ場所といっても、時間軸と次元が異なるため、正確には違う場所になるのかもしれない。その同じような場所での微妙な変化を楽しむのが、タイムトラベルファンの醍醐味なのだ。

 これはバック・トゥ・ザ・フューチャーの、主人公マーティーを取り巻く人々の変化と、ある意味似ているよね。しかし決定的に違うのは、本作ではタイムマシンで跳ぶ世界は、全てがパラレルワールドだということである。この設定には少しイライラするのだが、現状の理論では一番矛盾の少ない設定なのだろう。
 ちなみに、バック・トゥ・ザ・フューチャーの場合も、ある意味パラレルワールドに近いのだが、両親が結れそうもなくなると、マーティーの写真が消えそうになる発想は、パラレルワールドではない感じでもあり、ちょっとはっきりしないのである。

 この小説は1979年に朝日ソノラマから出版され、その後の2003年に大幅に改訂して講談社から再版されたという。朝日ソノラマ版を読んでいないので、どの部分を手直ししたのかは判らない。
 しかしほのぼのとした時代背景はともかくとして、タイムトラベル理論には余り古さを感じないことからして、そのあたりを直したのかもしれないね。また、あさりよしとお氏が描くイラストの雰囲気も、本書のイメージにピッタリとはまっていると思う。

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2008年8月29日 (金)

トムは真夜中の庭で 

 ジュニア向けタイムトラベル小説の代表作である。中古書店ではどうしても手に入らなかった幻の名作。ところが図書館では簡単に借りることが出来てしまった。なんだ初めから図書館を探せばよかったんだな・・・。

 弟ピーターがはしかに罹ってしまったため、トムは夏休みに、親戚の家にあずけられてしまう。叔父さんと叔母さんしかいない親戚の家は、子供のトムにとっては退屈で、夜もなかなか寝付けない。すると、玄関の大時計が13時を打ち、家の外の世界は一変する。そこに大きなイチイの木と、広く美しい庭園が出現し、クラシカルな服装をした少女が遊んでいるではないか。

 ところが朝になって外に出ると、そこにはあの庭園は存在せず、そこにはごみ捨て場と駐車場しかなかった。もちろんあの少女も住んでいるはずがない。あとで判ることだが、あの美しい不思議な庭園は、ヴィクトリア時代の庭園であり、真夜中の暗闇にしか存在しない世界だったのだ。

トムは真夜中の庭で Book トムは真夜中の庭で

著者:フィリパ・ピアス,高杉 一郎,Philippa Pearce
販売元:岩波書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 少女の名前はハティといい、小さい頃に両親を亡くし、親戚の叔母さんのお屋敷に引取られた。彼女は三人の従兄弟たちと一緒に住んでいたが、年が離れていることもあり、いつも独りぼっちで遊んでいたのである。そしてなぜか彼女だけが、トムの姿を見たり、トムと話をする事が出来るのだった。
 トムはこの美しく広大な庭園が大好きになり、ハティと二人でいろいろな遊びを興じてゆく。こうしてトムは、毎晩皆が寝静まった頃、家のドアを開けて、この別世界でハティと一緒に遊ぶことになる。

 何度もこの世界を訪れているうち、トムはこの世界では時間が乖離していることに気付く。あるときはもっと小さい頃のハティ、そしてあるときは大人になったハティ。そしてどんな時でも、ハティはトムを待ってくれていた。
 なんだか、ジュニア版『牡丹灯篭』のような世界だが、決してハティは幽霊ではない。過去にハティが残したスケート靴が、トムの部屋の床下で発見されたのである。そのスケート靴を持って、トムは過去の世界で、ハティとアイススケートを楽しむことになる。

 それにしても、この小説は緻密に構成されているし、庭園やキャム川、イーリーの大聖堂などの描写も正確である。あとで判ったことだが、作者のフィリパ・ピアスは、この地方で、やはり大きく古いイチイの木が生えている家で育ったという。それでこの小説の舞台について、これだけ精密描写が出来たのだろう。
 ラストになって、トムがなぜこの不思議な世界へ進入することが出来たのかが解明されるが、ネタバレになるので、ここでは詳しく述べないことにしよう。ただトムが時を超えた世界を体験できたのは、子供の持つ純真な思いと無垢な愛情と想像力のお陰であるとだけ言っておこう。そして人は年をとるに従って、だんだんとまた子供の頃の心に戻ってゆくのである。

 いずれにせよその結末は実に感動的であり、いくつもの螺旋階段が見事一つに収束するかのような緻密な構造に誰もが驚くことだろう。最後にこの完成度の高い作品が、1958年のカーネギー賞に輝いていることを報告して筆を置く事にする。

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2008年8月15日 (金)

タイムマシン論

 相対性理論を非常に判り易く解説してくれているのだが、物理オンチの私には今一つ理解出来ない。だが読み易い本なので、2日間で一気に読み終ってしまった。
 さて現在の理論では、光より早く進む物体はあり得ないと考えられている。光速に近づくと質量が膨張してしまうからであり、質量の増加に伴って、速度が落ちるからだという。

タイムマシン論―最先端物理学によるタイムトラベル入門 Book タイムマシン論―最先端物理学によるタイムトラベル入門

著者:二間瀬 敏史
販売元:秀和システム
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 また双子のパラドックスやウラシマ効果という言葉を知っているだろうか。つまり、静止しているものよりも、動いているものの時間のほうがゆったりと進むのである。
 結局、相対性理論では未来には行けても、過去に戻ることは出来ない。過去に戻るためには、光速を超えるか次元を曲げるしかないという。机上の理論では、ワームホールとか、タキオンを利用することによって可能だという。だが現在の科学では、これらを利用するための空間やエネルギーが得られず、当面の間は、とうてい実現不可能であろう。

 また、そもそも未来に行けるといっても、テープの早送りと同じで、過去をスキップしているに過ぎないのだ。バック・トゥ・ザー・フューチャーのように未来の自分に逢ったり、現在に戻って来たり出来ない限り、タイムトラベルしたとは言い難いだろう。
 最近出版された本なので、もう少し新しい理論の発見などを期待したのだが、結局判り易く書き直しただけで、数10年前の理論から一歩も出るものではなかったのが残念である。

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2008年8月10日 (日)

小説 西の魔女が死んだ

 先日映画を観たばかりであるが、この原作を読んで、映画がいかに原作に忠実だったかがよく判った。逆に言えば、まるで脚本のような原作なのだ。

西の魔女が死んだ (新潮文庫) Book 西の魔女が死んだ (新潮文庫)

著者:梨木 香歩
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 といっても、やはり小説では「まい」の心情が手に取るようにわかる。心の動きを映像で表現するのは難しいが、自然や風景は小説より映画のほうが判り易いし、美しく表現することも出来る。つまりどちらもその持ち味を十分に発揮し合って五分と五分であった。
 それにしてもこのお話は、上手に出来上がっている。映画を観たとき以上に、その構成力の素晴らしさに舌を巻いてしまった。ことにラストが良い、というかラストに繋がってくる前半・中盤の下ごしらえの丁寧さに感心してしまうのだ。

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この人を見よ

 神経質でユングに傾倒する神秘主義者のカール・グロガウアーは、イエス・キリストの生涯に異常な執着心を持っていた。ある日偶然にタイムマシン製作者と知り合い、人体実験でタイムマシンに搭乗することになる。

           Scan10367_2

 彼はキリストの処刑を見届けようと、西暦29年のエルサレムに跳んだ。だがそこで出会ったイエスは、およそ救世主とは見えないとんでもない人間であった。
 そして知らぬ間に、大きな時のうねりと歴史とが、彼を不思議な運命へと導き始める。やがて彼自身がイエス・キリストを演じることになってしまい、ゴルゴダの丘へと向かうのだった。
 大変なストーリーであり、キリスト教徒たちが読んだら「神への冒涜だ」と、この小説を罵倒するに違いない。しかし、イエス・キリストの正確な生涯など、誰も知り得ないのだ。もしかして、信じられない驚くべき真実が隠されているのかもしれない。

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2008年8月 7日 (木)

新・家族狩り

 前から気になっていた天童荒太の作品を、やっと読むことが出来た。序盤はやや荒っぽい展開かなと感じたが、中盤から物語の中にグイグイと引き込まれてしまう。それで全5巻の大長編を僅か一週間で、一気に読み抜いてしまったのである。

 幻世(まぼろよ)の祈り 家族狩り 第1部 幻世(まぼろよ)の祈り 家族狩り 第1部
販売元:セブンアンドワイ
セブンアンドワイで詳細を確認する

 やはり登場人物が豊富なことと、それぞれの家族環境が誰にでも起こり得る事情なので、感情移入し易いためだろう。主人公と思われる人物が続々登場し、時間と場面も次々に切り替わってゆく。
 あえて主役と思われる登場人物をあげると、頑固一徹・暴虐無人で自分の勘だけを信ずる初老の馬見原刑事。虐待される少女・駒田玲子の家庭環境に深くこだわり過ぎて、自分をコントロール出来なくなる足の悪いケースワーカー氷崎游子。人間不振でやる気のない美術教師だったが、ある事件を境に人間性を取り戻す巣藤浚介の三人だと思われる。またこのほかにも準主役級の人物が、数多く登場するので誰がとうなるのか予測が出来ない。

 そして物語は、この三人の主役を軸にして、彼等を取り巻く家庭環境や人間関係、社会や事件などを掘り下げてゆく。そして同時期に起こる二つの「少年による父母殺害事件」の犯行理由を追求してゆくことになる。
 文章が巧いわけでもない、テーマが斬新だというわけでもない。だがこの小説には、熱くほとばしる情熱が溢れている。そして「現代家族」という病巣の中で、もがき続ける人々の苦しみを、改めて感じざるを得ないだろう。

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2008年8月 3日 (日)

ボトルネック

 2年前に事故で東尋坊から墜落死した恋人を弔うために、同じ場所に立った嵯峨野リョウ。だが彼もバランスを崩して崖から落ちてしまうのだ。そして気がつくと、そこは彼女と初めて言葉を交わした金沢の公園であった。

 ところがそこは、彼が存在しない世界で、彼の世界では水子だった彼の姉が生きている世界だったのだ。姉のサキは想像力と行動力に優れ、全てにおいてリョウを凌いでいる。そして死んだ彼女も生きているし、最悪だった家庭も平和な状況だったのである。

 ここまでは、パラレルワールドの世界そのものだ。そしてリョウが存在する世界とサキが存在する世界を一つ一つ比較してゆく。

ボトルネック  /米澤穂信/著 [本] ボトルネック /米澤穂信/著 [本]
販売元:セブンアンドワイ ヤフー店
セブンアンドワイ ヤフー店で詳細を確認する

 なかなか面白い視点の小説だと思った。それでぐいぐいと引き込まれて、あっという間に読破してしまったのだが、終盤に再び東尋坊から帰ってきてからというものの、急に重苦しい展開となる。そしてタイトルのボトルネックの意味が解明されてゆくのだ。

 結局、作者は何を言いたかったのか。このタイトル通りに解釈するには、余りにもリョウが救われないではないか。単なるパラレルワールド小説に落ち着かなかったことは評価に値するかもしれないが、なんとも後味の良くない複雑な気分でもある。

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2008年7月19日 (土)

ときのかけら 

 わずか180頁足らずなのに字が大きく、かつシンプルなお話なので、あっいうまに読み終えてしまった。はじめは、図書館の『時・特設コーナー』に展示していたことと、そのタイトルからタイムトラべル系のファンタジーかと思った。
 だがどちらかというと、大人も楽しめる青春ラブストーリーといったところか。タイトルの「時間」とのかかわりは、オープニングとエンディングだけなのだが、このちょっとした配慮がなかなか洒落ているんだな。

ときのかけら Book ときのかけら

著者:君島 孝文
販売元:文芸社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

  そもそも時間とは不思議な存在だ。楽しいときの時間は、あっという間に過ぎてしまうし、辛いときは嫌になるほど長く感じてしまう。この感覚はたぶん誰もが共有している事実であろう。
 だから、冒頭で著者が言っているように、時間が不要な人の時間を保存して、使いたい人へ分け与えられたら効率的だとは思う。また時間の速度や方向をコントロールできたら面白いだろうなとも考える。それらが実現したら、全ての人々は苦悩も後悔もない極楽のような人生をおくれるのだろうか・・・。
 僕は決してそうは思わない。もちろん初めの頃は、嬉しくて楽しくてしょうがないだろう。だが、全てが予測出来てかつ変更出来る人生なんて、いずれは飽きてしまうに違いない。苦があるから楽があるように、初めは見えないものが見えるようになるから面白いのだ。・・・とは言ってみても、一度くらいは時間をコントロール出来たら嬉しいことも確かである。

 この小説がSFやファンタジーでないことは前述した通りだが、時間とのかかわりが重要なモチーフになっていることは確かである。「貴史が別れて淋しそうだったから、あたしも別れたの」という幼馴染み理香子の言葉が、最後まで胸に突き刺さって離れない。優柔不断だが優しい貴史の気持ちは判るようで判らない。でも最後には誰でも暖かい気持ちになれるのでご安心を。

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2008年6月18日 (水)

15秒 

 僅か15秒の時間の遅れにより、鉄道、CATV、工場の機械に異変が起こり、2名が死亡してしまうことになる。ところがこの時間の遅れは、人為的に引き起こされたものであった。
 まるで神のように、時間を動かすことが出来る人間が存在するのか。完全時計とは一体何なのか。あたかもタイムマシーンのような装置を想像させる序盤の展開。

    15m_2

 だが結局は、かったるい小説だった。鉄道員の実態に鋭いメスを入れたまでは良かったのだが、それ以上のストーリーがなさ過ぎる。
 だから小説を読んでいる気がしない。鉄道と無線マニアの解説書を読んでいる気分なのだ。

文節が極端に短い文章が、それに拍車をかけるようでもあった。アイデアは悪くないのだが、遺憾せん小説になっていないのが悔やまれる。
 だから、ミステリーであリながら、全くドキドキすることもなく、高揚感も味わないままラストを迎えてしまった。一体この小説で何を描きたかったのか、何を主張したかったのかが、よく見えてこない作品だったな。

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2008年6月14日 (土)

カレンダーボーイ

 『カレンダー・ガールズ』という英国映画があったが、本作は全くそれとは関係がないので念のため…。本作は、中年の男性2人が、同時に少年時代にタイムスリップして、あの3億円事件を阻止し、クラスメートの少女を救うというお話である。

カレンダーボーイ Book カレンダーボーイ

著者:小路 幸也
販売元:ポプラ社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 タイムスリップものは数々あれど、2人同時に心だけがタイムスリップし、毎日寝るたびに過去と現在を往復するという話は珍しい。浅田次郎の『地下鉄に乗って』とやや似てはいるが、心だけタイムスリップというところが全く異なっている。
 また昭和時代のノスタルジーに浸るという展開は、広瀬正の『マイナスゼロ』を思わせる。なかなか楽しくて、一体どのような結末を迎えるのか、ワクワクしながらページをめくり続けた。
 だがラストの収束がかなり大雑把で判り難いね。なんだか急に面倒くさくなって、適当に幕を下ろしてしまった感がある。それまでは、かなり面白い話だったので、非常に残念な気分になってしまった。

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2008年6月 3日 (火)

公認会計士vs特捜検察

 凄い本である。小説ではなく、ドキュメンタリーなのだが、大長編の告白文といってもよいだろう。
 一部上場会社だったシロアリ駆除会社「キャッツ」の役員三人による、株価操縦・粉飾決算などの特別背任罪が、いつのまにか著者である公認会計士の、有価証券虚偽記載罪にすり替えられてしまう。
 とにかく逮捕された公認会計士自身が、冤罪に怒り、全精力を注ぎ込んで無罪主張文を書いたのだから迫力がある。だが専門用語や金融・会計の仕組みを知らない人にはかなり読み難いだろう。

公認会計士vs特捜検察 Book 公認会計士vs特捜検察

著者:細野 祐二
販売元:日経BP社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 初めこの分厚い本を読むのはかなりしんどかったが、中盤を過ぎた頃からは、裁判の成行きが気になり、むさぼるように一気に読み込んでしまった。
 一番ショックだったのは、検察の独善的かつ封建的な取り調べ方法である。 
 これがもし本当なら、こんな恐ろしいことはない。検察側に不都合な証人や証拠は全て無視し、陰で証人を脅迫しながら、検察に都合のよい証言書に無理やり署名させるのだから…。
 今時まだこんな野蛮な国家権力乱用を続けているのかと、信じられない気分で一杯だ。さらには、それら検察の横暴ぶりを承知しながらも、99.9%の有罪判決しか出さない裁判官にも憤りを禁じ得ない。これでは裁判所の独立性など全くないではないか。
 だが、本書が摘発されていないこと、また映画『それでもボクはやってない』でも同様の状況だったことを考えると、検察の横暴と検察ベったり裁判官の存在は嘘ではないのだろう。

 ただ一方通行の話なので、ここに書かれていること全てを、鵜呑みにするわけにもゆかない。それに本書中には、どうしても納得しかねることが三点ある。それをまとめると次の通りになる。

1)そもそもこの裁判の発端となった「村上専務詐欺事件」について、余り詳しく書き込まれていないのが不思議である。なぜ村上専務は、8億円もの個人資産を、いとも簡単に手渡したり、あっさり高利貸しの保証人になったりしたのか、全く合点がゆかない。
2)正義感に溢れる著者が、どうして大友社長から1000万円の裏金を受取ったのか。あとで返す積もりだったと弁解しているが、一時的にせよ受取った事実は歯切れが悪過ぎる。
3)株の買占めに対坑するためとはいえ、なぜ大友社長は60億円もの大金を使う気になったのか。そもそも自分が大株主なのだし、それほどの金を使うほど買占めに狼狽する必要があったとは思えない。

 この三点について、著者の書いた事が真実かもしれないが、余りにもその経緯や背景についての説明が少な過ぎるし、心理描写なども全く描かれていないのだ。なにか、嫌な臭いがする。もしかすると、検察同様、自分に都合の悪い部分を隠しているのではないだろうか…。

 裁判のほうは最高裁まで控訴され、未だに著者は1人で国家権力と戦い続けているという。とにかくもの凄いエネルギーである。私も含めて普通の人ならば、とっくに諦めているだろう。
 なんだか映画『不撓不屈』のモデルになったTKC創設者の飯塚税理士を思い出してしまった。今の時代にも、細野会計土のようなサムライが残っていたとは驚愕の限りであり、さすがの私も脱帽せざるを得ない。だが前述の三つの疑問だけは、いつまでも私の心にくすぶり続けている。

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2008年5月31日 (土)

シーオグの祈り

 13才の少年が主人公で、少女マンガチックなカバーイラスト。あきらかにこの作品がSFジュヴナイルであることを語っている。
 過去と現在を行ったり来たりするお話なのだから、SFであることは間違いない。またジュヴナイルではあるが、大人が読んでも全く違和感がない。それどころか、1847年のアイルランド人迫害と彼等の貧困生活に、きっと大人達も心を痛めてしまうだろう。

シーオグの祈り Book シーオグの祈り

著者:ジェイムズ ヘネガン
販売元:ランダムハウス講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 主人公のトムは、生まれながらの孤児であるが、里親に悪態をつき、食べ物は平然と店で盗み、何人もの里親の間を転々するたくましい少年だ。
 リバプールに住む彼は、同じ孤児のブランドンを伴って、教会裏にある墓地に忍び込むのだが。そこで自分だけが、ブラックホールのような、大きな穴の中に吸い込まれてしまうのだ。気が付くとそこは約120年前のアイルランドであった。
 過去で彼は、自分と瓜二つのダリーという少年の命を助け、ダリーの妹ハナや、彼等の優しい両親と知り合うのだ。そして過去の世界で、彼等と家族同様の生活を過ごすのだが、あるとき再び現代にタイムスリップしてしまう。
 何度か現代と過去を往復するのだが、その都度トムは成長し、いまだかつて経験したことのない人の愛情に触れることになる。
 そしてラストの大団円。これがなんとも嬉しい結末で、思わず涙ぐんでしまった。とにかく、心温まる良い作品に仕上がっている。

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2008年5月17日 (土)

雷の季節の終わりに

 これで現在出版されている恒川光太郎の本を全て読んでしまった。『秋の牢獄』『夜市』そして本書の順である。著者はデビューして間もないため、まだ三冊しか出版していないのだから仕方がない。
 ただ長編は本作のみで、あとは中編集である。どちらかと言えば、著者は中編向けの作家であり、さすがに長編になると終盤に息切れした感があった。

雷の季節の終わりに Book 雷の季節の終わりに

著者:恒川 光太郎
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 この話は、「穏(おん)」と呼ばれる僻地の集落から始まる。この穏では、冬と春の間の二週間に、神季または雷季と呼ばれる季節が介在し、鬼衆たちが村の鼻つまみ者を処刑する風習が残っているのだ。

 この地図にも載っていない穏という村は、「風わいわい」という不死鳥が徘徊する幻の里で、現実世界から隔離された異世界でもあった。こうした魔可不思議な世界観は、『夜市』、『風の古道』、『神家没落』と全く同じであり、これが恒川ワールドたる所以なのである。
 ただ同じ世界観でも、ストーリー展開がかなり異なるので、決して飽きがこない。これは著者の美麗な文体と、卓越した構成力の成せる技なのであろう。

 本作では穏と現代での二つの話がパラレルに流れてゆく。そして終盤には、その二つの世界が時を超えて融合していくのだ。いつもながら、その構成は見事としか言いようがない。
 ただ難を言えば、『夜市』などの中編作品に漂っていたノスタルジーや、幻想的な雰囲気が少し薄れてしまった感がある。それに、ラストの面倒臭くなったような早終いにも、少し抵抗感が残ってしまった。

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2008年5月11日 (日)

夜市

  どんなものでも売っているという、夜市と呼ばれる異世界の不思議な夜店。幼い頃、ここで「野球の能力」と「幼い弟」を引き換えにした祐司は、なにも知らない同級生のいずみを伴い、弟を買い戻すために夜市を再度訪れるのだった。
 第12回日本ホラー小説大賞受賞作で、著者の出世作でもある。審査員の荒俣宏、高橋克彦、林真理子の三人がこぞって大絶賛している稀にみる大秀作なのだ。

夜市 Book 夜市

著者:恒川 光太郎
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 まず文章が巧い。無駄がなく読み易く、しかも抒情的で知的なのである。しかも話全体の構成力が抜群であり、ジャンルを超えた面白味を持つ。
 そして高橋克彦氏が言うように、なによりも比類ない「発想の転換の才能」の持ち主なのである。いきなり直木賞候補に推されたのも納得出来るというものだ。
 

   本書以外の著作では、『秋の牢獄』しか読んでいないが、まだ新人で余り作品が出版されていないので仕方がない。次は『雷の季節の終わりに』を読む予定でいる。
 本書では『夜市』と『風の古道』の二作の中編が掲載されているが、 どちらも妖怪が闊歩する世界を描いた、似たような雰囲気のお話なのだ。ただ『夜市』のほうは、市で何かを買わない限り元の世界に戻れないが、一方『風の古道』は、ところどころに抜け道が存在するという違いがある。 

   『夜市』は、おどろおどろしい中にノスタルジックな雰囲気が漂う。その世界感は『干と千尋の神隠し』や、宮沢賢治の『注文の多い料理店』などと同じような香りがする。
 そして緻密に計算され尽したラストの締め方も実に見事である。だからハッピーエンドで終結しなくとも、カタルシスが得られるのだ。

 一方の『風の古道』も、おどろおどろしさとノスタルジーにおいては、決して『夜市』に負けてはいない。ミステリアスで面白い話なのだが、『夜市』のような深みは感じられなかった。『夜市』の出版に際して、急遽書き下ろしたらしいが、『夜市』のサイドストーリー的な勾いがするのは否めないだろう。

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2008年5月 6日 (火)

小袖日記

 わたしは30歳目前のOL。上司との不倫が破局し、失意のどん底へ。さらに雷を浴びて、現代から平安時代に心だけがタイムスリップ。心の移動先は、紫式部の侍女である小袖ちゃんという設定である。この小袖ちゃんが紫式部の私設秘書となって、源氏物語』の取材に飛び回るのだ。
 かくして著者のオリジナル・珍訳『源氏物語』の始まり始まり。さてその中味は、『夕顔』、『末摘花』、『葵』、『明石』、『若紫』の五作を並ベた連作短編シリーズになっているじゃないの。

小袖日記 Book 小袖日記

著者:柴田 よしき
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 著者は男のような名前だが、れっきとした女流作家。おっと女流などと言おうものなら、「女性蔑視だ」などと騒ぎ出しそうな雰囲気がある。
 このウーマン・リブ系の著者は、よほど『源氏物語』が気に入らないらしい。そりゃあそうだ、世界最古の長編小説といえども、ぶっちゃけ光源氏というプレイボーイの女遊びを正当化したようなお話の集大成だからね。ウーマン・リブ思想の女性にとっては耐え難い屈辱なのだろう。

 ということで、本作はタイムスリップものとしては、ど素人の作品でSF的な構想は全くない。つまるところ『源氏物語』の気に入らない部分を自分流に手直しして、よしき版『源氏物語』を創ってしまったのである。
 これが著者の最大の狙いであり、これで彼女はだいぶ溜飲を下げたのではないだろうか。などと、勝手に著者のメッセージを解釈してしまったが、勘違いだったらごめんなさい。
 お話のほうは、こんな解釈もあったのかと思わせる構成の巧さに脱帽したし、文章も平易で現代流に綴っているので一気に読破してしまった。ことに『末摘花』の赤鼻の原因や『明石』の正体などは、一捻りした面白い解釈じゃないの。
 また庭を流れる小川が当時の水洗便所だったり、女性達はめったに立たず、膝を使って這うように移動したりと、平安時代の生活様式が判り易く紹介されていたのが印象的だった。
 ただ雷でタイムスリップをする、『バック・トゥ・ザ・フューチャー 』そのままのパクリは、ちと安易過ぎるというか、全搬的にSFについてはやや勉強不足ですぞ…。

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2008年4月19日 (土)

ふしぎの国の安兵衛

 江戸時代の武士が、現代にタイムスリップしてきて、現代女性と知り合い、そしてマスコミの兆児となる。このパターンは原田泰子の『満月』と全く同じではないか。
 ただ『満月』が甘く切ない純粋なラブストーリー仕立てなのに対して、本作はユーモア溢れるホームドラマという趣向である。基本的な構成は『満月』のパクリに近いが、本作は『満月』以上に面白い。だから二時間程度であっという間に読破してしまった。

 ストーリーは、キャリアウーマンのひろ子と息子の友也が、江戸時代からタイムスリップして、途方に暮れていた安兵衛を助けるところから始まる。その後安兵衛は恩返しのため、友也の世話と家事一切を引き受け、ひろ子にとって彼は必要不可欠な存在となるのだった。
 とにかく楽しく読ませながらも、一方では軟弱になった現代家庭をピリリと皮肉っているところに味がある。そしてさりげないラストの括り方もなかなか見事だったね。

ふしぎの国の安兵衛 Book ふしぎの国の安兵衛

著者:荒木 源
販売元:小学館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ところでこの本のセンスのないカバーデザインにだけは参ったね。ちょんまげ姿のじゃがいも小僧が、寝ころんでいるイラストに、水色と黄色の背景というダサイセンス。最初このカバーをみて、思わず読むのをやめようかと思ったくらいだもの…。
 本書の著者である荒木源氏は、ほとんど無名の作家であるが、朝日新聞社を退社し、2003年に『骨ん中』という社会派ミステリーでデビューしている脱サラ作家である。今後の活躍を祈りたい。

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2008年4月13日 (日)

秋の牢獄 

 この本には三つのお話が詰め込まれている。タイトルの『秋の牢獄』のほか、神家没落』、『幻は夜に成長する』の三篇である。
 著者の恒川光太郎は2005年に『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞し、いきなり直木賞候補となった脅威の新人である。そのじっとりした美しい文体から繰り出す、ノスタルジックな世界観はやみつきになりそうだ。

 秋の牢獄 秋の牢獄
販売元:セブンアンドワイ
セブンアンドワイで詳細を確認する

 さて三つの話は、全く関連性のない別の話である。しかし全ての作品には、「監禁される」というテーマが根底に流れている。
 『秋の牢獄』は、映画の『恋はデジャ・ブ』北村薫の『ターン』と同様に、同じ毎日が繰り返されてしまう話である。ただこの奇妙な世界に迷い込んだのは、主人公1人だけではなかった。
 そこには同じ状態の漂流者が何人も存在し、彼等はグループを形成していた、という設定が前述の映画や小説と異なる展開である。11月7日から翌日に行けないということから、ある意味11月7日の中に監禁されていると考えることができるだろう。
 『神家没落』に登場する古い家は、誰かが残らない限り、一度入ると絶体に外に出られない。そして代々誰かが犠牲になって、この家を守ってきた。外の人々は、その住人を神と呼ぶ。もちろん、これこそ監禁以外の何物でもないよね。
 『幻は夜に成長する』は、三作の中では一番もの悲しい作品だ。祖母から超能力を与えられた少女が、ある宗教団体の生き神様として、監禁されて生きるようになった過程を描く。きっと読者たちには、少女の不安と孤独と絶望感がひしひしと伝わってくるはずである。
 それにしても、本書の著者である恒川光太郎の力量は計り知れない。既存の作家にはない独特の感性とパワーバランスに酔いしれてしまった。1973年生まれと、まだ若いのでこれからが楽しみな作家である。

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2008年4月11日 (金)

悲しき人形つかい

 タイムトラベルとは全く関係のない梶尾作品を初めて読んだ。タイトルは口バート・A・ハインライン『人形つかい』のオマージュであろう。

悲しき人形つかい Book 悲しき人形つかい

著者:梶尾 真治
販売元:光文社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 エイリアンが人体に侵入して人間を操るという『人形つかい』に対して、本作では介護用のボディフレームを、死人に装着するという荒唐無稽な発想だ。そして終盤では、このボディフレームを使ってやくざと戦闘するというお笑いドタバタ風味の作品なのである。
 まるで『ロボコップ』、『エイリアン2』、『鉄人28号』、はたまた落語の『らくだの馬さん』をごちゃまぜにしたような展開には笑ってしまうだろう。しかしまあよくもこんなバカバカしいネタだけで長編小説を作ったものである。
 小説というより、これはもうマンガの世界に近いしろものなのだ。あのロマンチストの 梶尾真治が描く世界感とは思えない。
 と言いながらも、面白い作品であることは否めず、数時間であっという間に読破してしまった。

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2008年4月 6日 (日)

6時間後に君は死ぬ

 オムニバスの中編集で、タイトル作品のほか『時の魔法使い』、『恋をしてはいけない日』、『ドールハウスのダンサー』、『3時間後に君は死ぬ』の5作を収録している。

6時間後に君は死ぬ  /高野和明/著 [本] 6時間後に君は死ぬ /高野和明/著 [本]
販売元:セブンアンドワイ ヤフー店
セブンアンドワイ ヤフー店で詳細を確認する

 『3時間に君は死ぬ』は、タイトルの『6時間後に君は死ぬ』の続編で、5年前に出逢った山葉圭史と原田美緒が再会を果たす。そして3時間後に起こる大惨事を食い止めようと、ハラハラドキドキの探索を行うのだ。続編でありながらも、『6時間後に君は死ぬ』よりずっと面白い。

 『時の魔法使い』と『恋をしてはいけない日』は、まるで梶尾真治の描く時間テーマラブファンタジーを髣髴させられる。きっと著者も梶尾真治のファンなのだろう。
 一番良かったのが、『ドールハウスのダンサー』で、現実を人形に置き換えたかのような魔可不思議な世界に惹き込まれてしまった。
 主役というわけではないが、全編を通じて登場するのが、ビジョンという予知能力を持つ山葉圭史であり、この中編小説のアテンダーでもある。『13階段』を書いた高野和明とは全く別人のような話の展開に、著者の貪欲さと懐の広さを感じてしまった。

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2008年3月31日 (月)

きみがいた時間 ぼくのいく時間

 サブタイトルの「タイムトラべル・ロマンスの奇跡」が、この本の全てを物語っている。そう、梶尾真治のおはこともいえる、時間テーマの中・短編ラブファンタジー集である。
 書き下ろしの『きみがいた時間 ぼくのいく時間』をはじめ、『江里の"時"の時、『時の果の色彩』、そして処女作の『美亜へ贈る真珠』の四作が詰め込まれている。

     Kimi

 『きみがいた時間 ぼくのいく時間』は、著者の代表作『クロノス・ジョウンターの伝説』のサイドストーリーという趣きがある。主人公の里志は、事故で亡くなった妻の紘未を救うため、39年前にしか戻れないクロノス・スパイラルに乗る、という中編小説。
 『江里の"時"の時』は、異なる次元に住む男女の恋愛をリリカルに描く短編。また『時の果の色彩』は、タイムマシンを使って、過去に住む女性との恋を描くユニークなお話である。
 『美亜へ贈る真珠』については、処女作にふさわしい初々しいファンタジーロマンスで、すでに名作ファンタジーとして認知されている。
 また巻末には、著者と『劇団キャラメルボックス』の脚本・演出を手がけている成井豊との情熱対談が収められていて、これも梶尾ファンにはなかなか楽しい対談である。
 いずれにしても本書は、梶尾ファン必携の一冊と言ってよいだろう。是非ご一読あれ。

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2008年3月26日 (水)

へび女房

 著者は男のような名前であるが、れっきとした女性である。最近40代の女性作家が一番脂が乗りきっているよね。
 彼女もその一人であり、過去に直木賞の推薦候補者に選ばれたこともある。これは最近の女流作家に共通していることだが、文章が緻密で小説のバックボーンを丁寧に調べあげる。

へび女房 Book へび女房

著者:蜂谷 涼
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 本書には、タイトルの『へび女房』のほか、『きしりかなしき』、『雷獣』、『うらみ葛の葉』の4編が収められている。
 どの作品も明治維新という激動の時代に、たくましく、したたかに、それでいて真摯さを失わなかった女性達の生き様を描く。そして幕末から維新にかけて活躍した実在の人物が頻繁に登場し、ヒロインたちと微妙に関わりを持つのだ。
 歴史上の人物については、歴史に残る事実に添いながらも、別のファインダーで覗いてゆく。このあたりの匙加減は、とにかく唸るほど見事なものである。
 また全編に芸者という職業が絡みついているのは、当時の女性達が身を売るよりほかに生きる術がなかったことを主張したかったのだろうか。
 『へび女房』は、女房がへびの化身だったというお伽話ではない。世の中が変わっても、武士の面目を捨て切れない夫に頼らず、自らマムシを仕入れて「へび屋」を開業した女房の苦労話なのである。
 『きしりかなしき』は、大名の姫君から芸者に身を落とし、外国人の妻となった女性の葛藤を描いた傑作。また『雷獣』と『うらみ葛の葉』でも芸者と外国人妻を中心的に描いている。
 そしてこの4編は、そのほかの登場人物でも、微妙にリンクしているのだ。なんだかオムニバス映画を観ているような気分になってしまった。

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2008年3月22日 (土)

ルネサンスへ飛んだ男

 時間反射機を使って、20世紀から15世紀のフィレンツェにタイムトラべルをした青年のお話である。タイトルやブックカバーのイラストから想像して、J・デヴローの『時のかなたの恋人』のようなラブファンタジーをイメージしていたのだが…。

ルネサンスへ飛んだ男 (扶桑社ミステリー) Book ルネサンスへ飛んだ男 (扶桑社ミステリー)

著者:マンリイ・ウェイド ウェルマン
販売元:扶桑社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ところがこれが大いなる勘違いであり、そして嬉しい誤算でもあった。この作品でもリズという清楚で心優しい奴隷少女が登場するが、お互いにほのかな恋心は抱くものの、大恋愛には至っていない。
 どちらかというと、恋愛よりも史実に基づいた脚色の精緻さに重心を置いているようだ。従って、荒唐無稽と思われる出来事が全て、歴史上の事実だったことを知ったときには驚愕の思いであった。
 そして科学的知識の豊富さと、絵に描いたようなラストのドンデン返しにも、誰もがきっと脱帽してしまうだろう。そして本作が書かれたのが、1948年というからさらに感心させられてしまう。

 それにしてもこれほどの力作が、なぜ2005年まで日本で翻訳されさかったのか。そのことについては、翻訳者があとがきで記しているが、完全版と削除改訂版の二つの版が存在しているのが原因らしい。
 もちろん本書は、完全版に基づいて翻訳されているのだが、削除改訂版の良い部分もかなり取り入れているという。ということは、翻訳者の力量も相当なものだということである。
 余り期待せずに買った本だが、時としてこのような幻の名作に出会えることがとても嬉しい。だから古本あさりを止められないのかもしれないね。

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チルドレン

 子供のことをチャイルドというが、複数になると「チルドレン」になる。つまり全く別人になってしまうのだ。という例え話には、妙に説得力がある。

チルドレン (講談社文庫 (い111-1)) Book チルドレン (講談社文庫 (い111-1))

著者:伊坂 幸太郎
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 本書は「バンク」、「チルドレン」、「レトリーバー」、「チルドレンⅡ」、「イン」の5作の短編を連ねたオム二バスである。全作に共通して登場するのが、自分を中心に宇宙が回っている陣内という豪快な男だ。
 余りにも強引で手前ミソな彼の言動に、「バンク」では少々腹が立つのだが、他の短編を読み進めてゆくうち、彼の暴言に納得してしまうから不思議だ。なんとなく憎めないキャラだし、結局いつも彼の示唆するところが、問題解決の糸口となるからである。
 この一連の短編は、時系列的に並べられてはいないが、主要な登場人物が固定的であり、5つの話が微妙にリンクしてある意味長編小説を形どっているのだ。またそれぞれの語り部を、陣内以外の常連キャラがリレー方式で努めているが、これも新しい試みかもしれない。
 5つの話はいずれも面白いのだが、僕は変った銀行強盗を描いた「バンク」と、父と息子の在り方を問う「チルドレン」を評価したい。「バンク」は陣内が学生時代に遭遇した事件、一方「チルドレン」のほうは、陣内が家裁の調査官になってからのお話であり、なんと12年間の時差があるのだ。
 ミステリーといえば、探偵や警察が登場するものと思い込んでいたが、こうした方法もあるのだなと、改めて感心してしまった。明らかに、伊坂幸太郎のアイデアと想像力の勝利だろう。

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2008年3月16日 (日)

時の”風”に吹かれて

 タイムトラベルファンタジーの名手である梶尾真治の短編集である。書き下ろしではなく、既に発表されたものを集めたので、梶尾ファンなら読了したものが混ざっているかもしれない。
 全部で11作だが、得意のタイムトラベルものは、表題の『時の”風”に吹かれて』と『時縛の人』だけである。だがそれ以外の9作も、それぞれ独自の味がしてなかなか楽しめた。

時の風に吹かれて Book 時の風に吹かれて

著者:梶尾 真治
販売元:光文社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 以下に11作について、簡単なレビューを書いておこう。
1.時の”風”に吹かれて
 尊敬していた画家の叔父が遺した、白藤札子という美しい女性の絵。叔父が生涯独身を通したほど愛した女性でもあった。だが残念ながら、彼女は昭和36年のデパート火災で一命を落している。
 そして彼女は、主人公の恭哉にとっても、憧れの女性であったのだ。友人がタイムマシンを開発したことを知り、彼は昭和36年に戻って白藤札子を救おうと決意する。
 著者が得意とするリリカルな作品であり、11作の中でも一番心に残る作品であった。
2.時縛の人
 これもタイムマシンものであるが、前作とは全く異なる作風である。時間は瞬間の積み重ねという哲学の名句から、タイムマシンは「だるま落とし」の基本原理を使って過去に移動する。
 ところがその「だるま落とし」理論に見落としがあったため、過去に遡った途端に大変な問題に遭遇するのだ。 
3.柴山博士臨界超過!
4.月下の決闘
5.弁天銀座の惨劇

 3~5の3作とも、筒井康隆風味のドタバタナンセンス調が気に入らない。古い感性のSFで、どちらも僕の好みではなかった。
6.鉄腕アトム/メルモ因子の巻
 鉄腕アトムのオマージュであろうか。まるで手塚治虫の鉄腕アトムが、そのままマンガから小説の世界に入り込んだようだ。巧い!思わず手を叩きたくなる梶尾アトムだった。
7.その路地へ曲がって
 別世界のような路地裏に住んでいる年をとらない母に巡り合う息子の話。心の中に潜むノスタルジーを呼び起こすような珠玉のストーリーだ。
8.ミカ
 ある日突然、飼い猫が人間の女に見えてしまう哀れなお父さんのお話。家族に対する苛立ちが産んだ妄想なのだろうか。
9.わが愛しの口裂け女
 結婚した女が、実は口裂け女だったのだが、死ぬまで彼女を愛し続けた父親の話。とてもいい話なのだが、ラストにもう一工夫出来なかったのだろうか。
10.再会
 11作の中で、唯一SF味のしない作品である。ゼンちゃん存在がファンタジックではあるが、純文学風のあっさりとした味わいがあった。
11.声に出して読みたい事件
 3頁程度のショートショートだからしかたないが、ちょっと馬鹿にされたようなお話だったね。

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2008年3月 6日 (木)

幽霊人命救助隊

 東大二浪で首吊り自殺した裕ー、キャリァウーマンになり損ねて飛び降り自殺した美晴、会社経営に失敗し服毒自殺した市川、ヤクザ稼業の限界に絶望し、短銃自殺した八木。
 この四人が神様の命令で、地上に降り幽霊になって100人の自殺願望者を救うという荒唐無稽なお話である。しかも夕イムリミットは49日間、1日2人以上のペースで自殺をくいとめなくてはならない。
 これが成功した暁には、成仏して天国ヘ行けるという。なんだか、浅田次郎の「椿山課長の七日間」と通じるものがある。

幽霊人命救助隊 (文春文庫 た 65-1) Book 幽霊人命救助隊 (文春文庫 た 65-1)

著者:高野 和明
販売元:文藝春秋
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 彼等は人には見えない聞こえない、透過してしまう存在であるが、なぜか物質に対しては存在感がある。だが彼等は物質を動かせない。つまり、例えば誰かがドアを開けない限り、彼等だけではドアを開けられない、入れないのである。
 こんな状態で、どうすれば100人もの人間を救助出来るのか。ところが、彼等はこの八方塞がり状況を打破すべく「七つ道具」を所持していたのである。
 このマンガのようなバカバカしいお話が面白いのは、裕一以外の三人が自殺したのが、裕一よりずっと以前だったということだ。市川が15年前、美晴が17年前、八木に至っては、なんと24年前なのである。
 ということは、市川、美晴、八木にとっては、現代の日本はカルチャーショックで、まるでタイムマシンで未来に跳んできたのと同じなのだ。そのあたりの彼等の驚きようや、時代遅れな流行語が飛び交う様が楽しいよね。

 それから自殺願望者の大半は「うつ病」である。だから著者はうつ病について、かなり詳細に調べている。おかげで自殺とうつ病についての認識がかなり高まってしまった。楽しみながらお勉強出来るという具合で、一粒で二度美味しいのだ。
 ただ100人助けるまでに、何人もの同じような救助が続くので、途中少し辟易してしまうかも…。だが実は、最後100人目の自殺願望者の救助こそ、本作中最大の焦点なのである。この感動のクライマックスでは、きっと誰もが熱い涙を流さずにはいられないだろう。

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2008年3月 2日 (日)

乳と卵と芥川賞

 第138回芥川賞受賞作掲載ということで、久し振りに文芸春秋誌を購入した。それにしても今回の芥川賞は大騒ぎだ。受賞者の川上未映子が美人でスタイルが良いからである。
 当然芥川賞の運営母体である文芸春秋社も、そのことを十分承知していて、川上未映子の全身写真を使って、全国紙に全面広告をうった。またこの新刊書籍の腰巻にも、大写しの顔写真が載っているのをみても疑いのないところだ。

川上未映子/乳と卵 川上未映子/乳と卵
販売元:HMVジャパン
HMVジャパンで詳細を確認する

 数年前の「金原ひとみと綿矢りさ」のときと同様、マスコミは連日大騒ぎ。こりや~あ凄い宣伝効果だろうな。バカなマスコミ達は、文芸春秋社の思惑通りに動いてくれる。…でいつの間にか芥川賞は、美人でないととれない文学賞になってしまったようだ。
 芥川龍之介や、どうしても受賞出来ず悔しがった太宰治、既に亡くなった歴代の受賞者たちは、きっと天国で苦々しく思っているに違いない。もしこうした傾向が続くと、本当に文学を愛する者たちは、きっと芥川賞などは相手にしなくなるだろう。そして芥川賞のブランド価値も暴落するはずである。
 だがそれを一番危惧しているのは、こうした状況を作り上げてしまった文芸春秋社自身であろう。だから決して毎回美人コンテストを行うわけではなく、そのタイミングを見計らっているような気がする。これはゲスの勘ぐり、芥川賞コンプレックスおじさんのヒガミである。
 さてつい芥川賞への思い入れとグチばかりが先行してしまい、肝腎の作品評を書くのを忘れてしまったようだ。まあ美人コンテストなどと失札なことを言ってしまったのも、芥川賞を文学界の最高峰として崇め奉った青春時代を踏みにじられた気がしたからである。

 今回芥川賞を受賞した川上さんには何の怨みもないので、どうかご勘弁願いたい。もちろん受賞作の『乳と卵』は、決して出来栄えが悪い訳ではないのだが、あの読み辛い長文はこれきりにしてもらいたい。次作は樋口一葉のオマージュという隠れ蓑に逃げないで、堂々と自分の言葉で小説を書いてもらいたい。
 また石原慎太郎を除く審査委員のセンセイ方は、絶賛する人と体制に従って渋々賛成した人に分かれているように思われる。これらのセンセイ方は本当に芥川賞の権威を認識しているのか、はたまた著者の意図を遥かに超えて深読みし過ぎているのか、あるいはこの程度のものを読みこなせないと恥ずかしいので分かった振りをしているのか、おバカな私にはとても理解出来ない。
 さてこの『乳と卵』は、母と娘と叔母(妹)の三人しか登場しないお話であり、しかも小学生の娘である緑子は、ほとんど喋らない。そのうえ表向きのテーマは、女性にしか共感出来ない「豊胸手術」と「生理」のことだけで終始する。
 だからお爺さんの石原慎太郎が、不愉快になるほどつまらなかった気持ちは判らん訳ではない。彼だけがバカ正直だっただけなのだろう。
 しかしおじさんである僕が読んだ限りでは、石原氏がいうほどつまらない小説だとは思わない。あの長文には参ったものの、家族に対する三人三様の愛情をヒシヒシと感じたからである。
 だが僕はこの作品以外に彼女の小説を読んだことがない。ましてや彼女のブログを覗いても、あのダラダラした長文が目立つ。
 だからつい、彼女は普通の文章が書けないのだろうかと疑ってしまうのだ。何度も繰り返して恐縮だが、こんな幼稚な疑いを晴らすため、あるいは美人コンテストではなかったことを証明するためにも、是非次作は普通の文章に挑戦して欲しい。
 貧しい家庭環境を乗り越えて、懸命に努力して生きている川上さんの姿勢は、僕の過去ともオーバーラップする。そんなこともあり、僕は彼女にとても期待している。だから彼女に対する真の評価は、次作をじっくり読ませてもらってからにしたい。

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2008年2月24日 (日)

13階段 

 本作は、第47回江戸川乱歩賞に輝いた社会派ミステリーで、2003年に映画化されている。
 ストーリーのほうだが、刑務所の刑務官南郷正二と、殺人罪で仮釈放中の三上純一がコンビを組んで、ある死刑囚の冤罪を晴らす、という変った設定になっている。

13階段 (講談社文庫) Book 13階段 (講談社文庫)

著者:高野 和明
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 南郷は死刑囚樹原の記録を読んで、もしかして樹原は冤罪なのではないかと疑った。それは樹原が犯行時刻の記憶を失っていること。そして最近彼が、記憶の断片を甦らせたことにあった。
 その記憶の断片とは、犯行現場で「階段を見た」という記憶だけなのだが、そこに南郷はこだわり続ける。そして、そのわずかな手掛かりだけを頼りに、南郷と純一はそれぞれが抱えている葛藤と戦いながら、次第に調査に没頭してゆく。

 この小説を読んで、死刑執行までの手順や、その背後に渦巻く官僚と政治家の権謀術策など、いろいろ勉強になることが多かった。そして殺人犯、被害者の家族、死刑執行人たちそれぞれの心情が、これでもかとばかり見事に綴られているのだ。
 さらには刻々と迫るタイム・リミット、ラストの迫力ある攻防に心臓がドキドキと脈打つ。そのうえ最後の最後にも、再びドンデン返しが用意されているのだ。
 この文句のつけようがない素晴らしい出来栄えに、思わず故松本清張の作品を思い出してしまった。

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2008年2月21日 (木)

つばき、時跳び

 短編ファンタジーの名手『梶尾真治』にしては珍しい長編ものである。
 曾祖父の代から熊本城下の山間にひっそりと佇む百椿庵。ここは名前の通り、椿の花が咲き乱れるお屋敷なのだが、現在は誰も住んでいないため、荒れ果てている。売れない作家の井納惇は、父に頼まれてこの屋敷を管理方々、住み込むことになってしまった。

つばき、時跳び Book つばき、時跳び

著者:梶尾 真治
販売元:平凡社
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 ところがこの屋敷には、昔から女の幽霊が現れるという。そしてある日、惇は若く美しい幽霊を見てしまうのだ。ところが暫くして、彼女は幽霊ではなく、幕末の百椿庵からタイムスリップしてきた「つばき」という名の美少女であることが判明する。
 ストーリーの舞台は、ほとんどが百椿庵とその周辺だけなのだが、全く退屈しないから不思議である。
 またタイムトラべルの仕組みや、タイムパラドックスには余り触れてはいないが、それはこの際どうでもよい。このストーリーでの興味の大半は、井納とつばきの清純で淡い恋愛だからである。

 原田康子の小説に『満月』という作品がある。こちらは江戸時代からタイムスリップしてきた武士と、現代の女性との恋を描いた作品だ。
 本作のほうは、『満月』とは男女の設定が入れ替わり、しかも百椿庵があたかもタイムトンネルかの如く、現代と幕末を男女が行き来する。
 そういえば、もうひとつ似たような小説で、石川英輔の『大江戸神仙伝』という小説があった。こちらは、江戸と東京を行ったり来たりするおじさんの、ちょっとエッチなラブコメといった風味。
 本作のつばき同様、いな吉という若くて可愛い芸者が登場する。どちらの女性も、若いけれどしっかりもので、落ち着いていて、明かるくて、純真で、優しく男性を立ててくれる。
 いまどき絶対にいない、全世界の野郎どものあこがれの女性像なのだ。しかも主人公はどちらもおじさんで、年もずっと離れているのにモテモテなのだから、これ以上望むことはない。
 だからこの小説は、著者の憧れの女性像を綴ったものでもあり、男性たちに泡沫の安らぎを与えるために書き下ろしたのではないだろうか。
 また熊本名物の由来や美人画の謎との融合は絶妙だし、「りょじんさん」との出会い方も洒落ている。なんとなく広瀬正の『マイナスゼロ』を髣髴させられた。
 ただ惜しむらくは、あのとってつけたようなハッピーエンドである。あそこはそのままにして、 いつもの梶尾流「切ないラブファンタジー」で終ったほうが、いつまでも心に残る名作となったのではないだろうか。

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2008年1月31日 (木)

モザイク

  主人公のミミは、生れ出る前に父が病死し、それを苦にした母も自殺をしてしまったため、もの心ついたころから祖父母に育てられた。
 そして小さいころから、古武道の達人である祖父に、武術を通じて超越した精神を磨かれる。
 彼女は自衛隊を除隊した後に、『移送屋』という変わった組織に加入する。そこでは、ひきこもりで精神を病んでいる青年を説得し、精神病院に運ぶのが彼女の仕事だったのだが、途中青年に逃げられてしまう。
 青年は渋谷の街に潜んでいることが分かり、彼女は青年を探して渋谷を彷徨するのだが・・・ 

モザイク (幻冬舎文庫) Book モザイク (幻冬舎文庫)

著者:田口 ランディ
販売元:幻冬舎
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 この小説には、携帯電話と人の繋がりを宇宙的な観点から記述しているが、その中で『メールは一方通行で、ある意味「片思い」のような感覚を抱いてしまう』というような記述があり、なるほどと思った。そしてそこからいらだちが起こり、ストレスが発生するのかもしれない。
 この小説は現代人のかかえるデジタル社会の苦悩を、ケータイを利用した全く新しい形の超新興宗教で救出しようとする実験的な作品であり、興味深く読ませてもらった。
 それにしても、田口ランディーのセックス描写はいつも凄まじく、とても女性の感性とは信じられない。とにかく不思議で謎の多い女性作家である。

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2008年1月12日 (土)

転々 (小説)

 前半は映画の『転々』と同じで、借金で首が回らなくなった貧乏学生の主人公が、100万円貰う約束で借金とりと転々と東京散歩をするのだ。映画を先に観たせいか、小説の中にもオダギリ・ジョーと三浦友和の顔が浮かんでくる。

転々 (新潮文庫) Book 転々 (新潮文庫)

著者:藤田 宜永
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ただカンフーを使う時計屋、絵描きのネェちゃん、妻の勤務するスーパーの同僚や愛玉子屋などは出てこない。もちろん岸部一徳もだ。それらは映画の中でもやや不自然だったから、たぶん笑いネタとして無理やり挿入されたのだろう。
 逆に主人公が恋こがれる、美鈴というストリッパーが登場する。後半はこの娘の話しに終始して、散歩はどこかに消えてしまう。
 それから映画で南野洋子が演じた偽装妻は登場したものの、大好評だった擬似家庭風景はなかった。さらにラストでこの偽装妻の正体が明かされて、びっくり仰天なのだ。
 映画にはのどかさと笑いと癒しがあったが、なにか内容をはぐらかされている感があった。一方原作のほうは、少しシリアスタッチで、主人公の過去探求に重点をおいている。
 映画のようにまったり気分にはなれなかったが、原作が映画より劣っているわけでも、優れているわけでもない。たぶん映画と原作は全く別の感性で創られているのだろう。

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2008年1月 9日 (水)

機械たちの時間

 映画は断然ハードSFに限るが、小説はどちらかと言えば、ソフトタッチのファンタジーのほうが好きである。しかしたまには、ハード系のSF小説も悪くはないね。

           Scan10298

 本作はタイトルからしてガチガチのハードSFのように感じるが、同じハードでもハードボイルドタッチに仕上げられているので読み易かった。
 未来の火星からやってきた主人公の邑谷武は、脳に組み込まれたTIPによって戦闘モードに変身すると、まるでターミネーターだ。そして敵の無期生命体マグザットは、マトリクッスに登場するイカ野郎のセンティネルを髣髴させられる。
 また本作では、時間軸を行ったり来たりするのだが、機械の未来は人間の過去であり、人間の未来は機械の過去だという発想がユニークである。だからこそ、著者が渇望した「未来に原因のあるSF」が完成したのであろう。

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2007年12月24日 (月)

おもいでエマノン 

 ノーネーム(名無し)の逆さ綴り「EMANON」を通称とする少女「エマノン」。彼女は太古の時代からの記憶を持ち続けている。
 だがその記憶は、子供を産むと、その子に引き継がれ、自分自身の記憶からは消去されてしまうのだ。そして記憶を引き継いだ娘がエマノンとなり、全国放浪の旅に出る。

おもいでエマノン (徳間デュアル文庫) Book おもいでエマノン (徳間デュアル文庫)

著者:梶尾 真治
販売元:徳間書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 なかなか斬新なアイデアである。このエスパー少女を主人公にして、オムニバススタイルのショートストーリーが連なっている。本書にはタイトルの「おもいでエマノン」ほか全8作のストーリーが詰め込まれている。
 著者の梶尾真治は、初めの「おもいでエマノン」だけで完結にするつもりだったらしい。そのあと好評を得たため、何となくエマノンを登場させているうちにシリーズとなってしまったようだ。
 本作以外にも『さすらいエマノン』、『かりそめエマノン』、『まろうどエマノン』と、たて続けに出版されている。そして今も継続中である。小説のほうは無理の引き延ばしている感があり少し食傷気味だな。
 だが鶴田謙二が描くカバーイラストがとてもいいね。亜麻色の長髪をなびかせた大きな瞳の少女は、エマノンのイメージぴったりだ。このイラストに惹かれてこの本を手にする人も多いことだろう。

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2007年7月29日 (日)

ねじの回転

 恩田陸の文章は、どことなく小麦紛とバターの香りがする。だから翻訳小説のような、お洒落な雰囲気が漂う。また2.26事件という語り尽くされた題材を扱いながらも、全く斬新さを失っていない。

ねじの回転―February moment (上) (集英社文庫) Book ねじの回転―February moment (上) (集英社文庫)

著者:恩田 陸
販売元:集英社
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 2.26事件を背景に、同じくタイムスリップするお話として、宮部みゆきの『蒲生邸事件』がある。こちらはどちらかというと、タイムスリップという手法を持いたミステリーといった趣だ。
 一方本作のほうは、ハードな部分は「シンデレラの靴」とか「懐中連絡機」とか、「不一致」とか、耳ざわりの良い言葉を使って回避しているが、ある意味ガチンコのSF小説といってよいだろう。
 また実在した人物三人を主役に据えたり、天皇に対しても触れたりと、かなり生々しい展開に終始する。ただ女性がほとんど登場しないため、ストーリーに暖かさが感じられないのがちょっと寂しい。
 そのためか、『蒲生邸事件』のように感情移入が出来ないが、SF小説としては決して悪くはない。ただストーリーの結未については、もうひと捻りして欲しかったね。

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2007年7月22日 (日)

死者は黄泉が得る

 前半はかなり読み辛い。舞台が米国で固有名詞が憶え難いこともあるが、「死後編」と「生前編」の時間設定が異なることが原因であろう。
 次々とゾンビの館を訪れる女達。彼女達はゾンビ達に殺され、生前の記憶を消去され、ゾンビ達の仲間入りをする。しかしその割には、ゾンビ達は増えるどころか、だんだん減っているような感じなのだ。

    Nishi

  また生前の世界では、美貌の人妻クリスティンを取り巻く人々が、次々と殺害されてゆく。犯人はまるで『13日の金曜日』のジェイソンのような不気味な男のようだ・・・。
 なんだかよく判らないままに、「死後」と「生前」のストーリーがジグザグに進行してゆく。ミステリーとホラーをミックスしたような展開にドキドキするものの、やはり正直言って意味不明なのだ。
 ところが終盤になると、生前の連続殺人の謎が、まるで難解なパズルを解き明かすように一挙に解明される。実に凝りに凝りまくっていて、お見事としか言いようが無いが、さらにその後にも「ドンデン返しの扉」が幾重にも張り巡らされているのだ。
 圧倒的に見事な結末とは言え、前半の出来事の大半は霧のかなたである。それで結局もう一度ページを戻して、再確認することになる。まるでメビウスの輪の内側を歩いているうちに、いつの間にか外側に出てしまったような気分である。ただラストの「あれ」は何を意味するのだろうか。 
 

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2007年7月17日 (火)

時生

 重松清の『流星ワゴン』は、父が過去にタイムスリップして息子と会う話だった。ところが本作では、逆に瀕死の息子がタイムスリップして、若かり日の父に逢いに行くのだ。
 どちらかというと、浅田次郎の『メトロに乗って』と同様の構成なのだが、ムード的には『流星ワゴン』のほうに近いかもしれない。

時生 (講談社文庫) Book 時生 (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
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 著者の文体は相変わらず素人臭いが、読み易いのとアイデアが面白いので、サクサクと読み進んでしまうよね。
 若かりし日の父は、自分を捨てた母を恨み続け、刹那的でヤケッパチに生きてきた。それがある日、未来の自分の子である時生と巡り合うことによって、少しずつ変貌してゆくのだ。
 ところで父と息子の関係ほど微妙で複雑な関係はない。父は息子を愛すると同時に嫉妬し、息子は父を尊敬しつつも憎しみを持つ。あたら近親なだけに、逆に呪いのような骨肉争いも生じるのだろう。
 こうした作品を読んでいると、自分も一度父親の若かり日を垣間見たい衝動にかられる。それにしても楽しい作品だったよね。いつも思うのだが、東野圭吾の小説には「ハズレ」というものがないよね。

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2007年7月15日 (日)

なぎさの媚薬2

  悲惨な女性の思い出を秘めて、渋谷の街を歩いていると、伝説の娼婦が現れ、セックスをしながら、男を過去に運ぶという。そして男に、不幸のどん底に沈んだ女を救わせるのだ。

なぎさの媚薬〈2〉哲也の青春・圭の青春 Book なぎさの媚薬〈2〉哲也の青春・圭の青春

著者:重松 清
販売元:小学館
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 なんだかマンガのような話を、直木賞作家が大真面目に書き綴る。週刊ポスト誌に連載されたシリーズを、オムニバスにまとめた単行本の二冊目で、「哲也の青春」と「圭の青春」の2作が納められていた。
 どちらも似たような過激な性描写が多く、それが少しくどく感じられる。週刊ポスト誌の要求なのかもしれないが、もう少し控え目に描いたほうが、逆にもっと欲情すると思うのだが・・。
 どちらかと言えば、僕には「圭の青春」のほうがお気に入りである。この作品では、義姉へのあこがれと郷愁が見事に融合し、心の琴線に熱いものが触れた思いがした。
 一方の「哲也の青春」は、ロックグループという馴染みの薄いテーマのためか、やゝ感情移入し辛かったね。
 ストーリー的には、どちらも良く練り込まれており、直木賞作家の力量をみた思いがする。こんな小説を読んでいると、僕も一人で夜の渋谷を歩いてみたくなってしまった。

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2007年6月26日 (火)

やみなべの陰謀

 江戸時代から現代に、千両箱を持ってやってくる、アロハシャツの大男の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』である。それにしても、このタイトルは意味不明だ。
 この話は5話の短編で構成され、それぞれ主人公が微妙に入れ替わる、一種のオムニバスである。

やみなべの陰謀 (ハヤカワ文庫JA) Book やみなべの陰謀 (ハヤカワ文庫JA)

著者:田中 哲弥
販売元:早川書房
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 第1話「干両箱とアロハシャツ」は、栗原守という青年が主人公で、何やらヤーさんの抗争に巻き込まれてしまう。それから、「ドブさん」という正体不明の変なおじさんが登場し、落語のような雰囲気で話が進んでゆく。

 第2話「ラプソディー・イン・ブルー」も、栗原守が主人公だが、第1話との関連性がない。どちらかというとラブコメ風のタッチだが、文体は筒井康隆風のハチャメチャ・ナンセンス調である。大村井君という気持ちの悪い、オタク風の友人が登場するが、5話中一番面白かった。

 第3話「秘剣神隠し」は、江戸時代の悲恋物語。ここで、タイムスリップしてくるアロハシャツの正体が、寺尾俊介という巨漢武士であることが判明する。

 第4話「マイ・ブルー・へヴン」は、近未来の話。訳の判らん大阪府知事が、極端な独裁体制を敷く。余りにも非現実的で、残虐なので一番嫌いな話だ。

 第5話「干両は続くよどこまでも」は、また現代に戻った寺尾俊介が、このタイムトラベルの解明をする。しかしこの収束には不満が多い。
 小説で一番いけないのは、実は夢だった。という終わり方だ。この話が夢だった訳ではないが、結果としては似たような結末になるのである。またせっかくドブさんや大村井君というユニークなキャラを登場させたのに、彼等は正体不明のまま中途半端に切捨てられている。

 第1話から第3話までは、かなりお面白く読ませてもらったが、どうもそれ以降の話が退屈で最後の収束もいい加減な感じがする。
 この田中哲弥という作家、どうも基本的になまけもののようである。適当にストーリーをはしょるので、長編ものは書けそうも無いし、15年間で本書以外に4冊位しか書いていないのだ。たぶん本気になって小説に取り組めば、味の良い短編が書けると思うのだが・・・。

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2007年6月16日 (土)

二百年の子供

 ノーべル賞作家「大江健三郎」が書いたとは思えない不思議なタッチの本である。恐らく彼がこのような小説を書くのは、最初で最後になるであろう。
 「二百年の子供」というタイトルは、120年前の過去と80年後の未来をタイムトラベルした3人兄弟の話だからなんだね。これはSFとかファンタジーというよりも、お伽ばなしというほうが似合っているかもしれない。

二百年の子供 (中公文庫) Book 二百年の子供 (中公文庫)

著者:大江 健三郎
販売元:中央公論新社
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 三人でシイの木のウロに入って、手を繋いで同じことを念じると、その念じた時代にタイムスリップするのだ。本当にタイムトラべルしているのか、はたまた同じ夢を観ているのかは最後まで謎のままである。
 ただ薬やナイフを置いてきたり、手紙や石笛を持ってきたり出来たのだから、夢ではないのだろう。しかし複数で同時に見るリアルな夢が、実はタイムトラベルなのかもしれない、というアイデアは仲々面白いよね。
 兄は知的障害者、兄思いの妹は感情の起伏が激しく、弟は機敏で老成している。とても個性のある兄弟達だが、三人三様で見事にジョイントするのだ。そして妹も弟も、兄のことを「真木さん」呼ぶのもユニークである。
 この小説は、2003年1月から10月まで、読売土曜朝刊に掲載されたジュブナイルである。これより9年前に大江氏は、ノーべル文学賞を受賞し、作家としての締めくくりを迎えたのであろうか。
 この作品では、子供と老人との関わりや、今という時間の大切さを優しく書き綴っている。少年少女向けと言いならがら、なかなか味のあるテーマと文章で紡ぎ込まれてあった。
 読み易いのであっという間に読了してしまう。まだ未読の方は、機会があれば是非読んでみて欲しいね。

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2007年6月 8日 (金)

イエスのビデオ 

 イスラエルの遺跡発掘で、2000年前の人骨と一緒にビデオカメラの取扱説明書が発見される。だがそれがソニー製のビデオカメラの取扱説明書だと明かしてくれるまでに、約60頁も退屈な前置きを読まされるのだ。

イエスのビデオ〈上〉 Book イエスのビデオ〈上〉

著者:アンドレアス エシュバッハ
販売元:早川書房
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 出だしからこの調子だから、物語のテンポは甚だ良くない。何度か途中で投げようかと思ったが、そもそも翻訳モノは序盤の我慢が必要なのだ。そう自分に言い聞かせながら、とうとう上巻のラストに近づいてしまった。
 さすがにこの辺りになると、やっとボルテージが高まってくる。それにしても長いおあずけを食らったものだ。やっとストーリーに変化が現れて、暫くはむさぼるように読んだが、ビデオの存在はいまだ行方不明のままなのである。
 思いがけない場所で、やっとビデオを見つけ、それを確認するのが下巻の276頁あたり。しかしビデオに写された映像は、まだまだ観ることが出来ない。どうしてこれほどひっぱる必要があるのだろうか。
 やっとラスト近くになってビデオ映像が判明するのだが、ここはかなり感動するところである。そしてラストのドンデン返し。この終盤の構成は驚くほど巧みだ。この上下約800頁の長編小説は、まるでこのラスト前のわずか8頁のために存在しているといっても過言ではない。
 この小説を読むに当たっては、SFとかタイムトラべルを期待しないほうがよいだろう。むしろ冒険アドべンチャーとか、ミステリー好きの人にお勧めである。そしてまさに映画向きな作品といえよう。

 先日パソコンTVGyaOで、映画化されていた本作品『サイン・オブ・ゴッド』を偶然観る事が出来、心ならずも驚いてしまった。普通は映画が原作を越える事は滅多にないのだが、本作品は映画の方が出来が良いのだ。ストーリー展開も若干異なっていたが、無駄がなく論理的な方向にまとめてある。そしてラストも原作とは大きく異なり、私が途中まで小説を読みながら考えていた結末通りであったのだ。
 

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2007年6月 2日 (土)

神はサイコロを振らない

 10年前に宮崎空港を飛び立ったまゝ、消息不明になっていたYSー11機と乗客68人が、突然羽田空港に戻って来たからさあ大変!。
 実は10年前にマイクロブラックホールに吸い込まれ、10年の時空を超えて再び地上に降り立ったのだと言う。たちまちこの大ニュースは、世界中を激震することになってしまうのだった。

神はサイコロを振らない
配信元:電子書店パピレス
提供:@niftyコンテンツ

 ただこの事態を予測していた天才加藤教授によると、生還したYSー11機もろとも乗客全員が、3日後に再び消失してしまうというのだ。教授の理論が正しいのか、はたまた別の奇跡が起こるのか・・・。
 『この胸いっぱいの愛を』と似たような展開だが、こららのほうが圧倒的にスケールが大きい。なにせ主な乗客・乗務員達の生還後のストーリーをパラレルに描いてゆくのだから・・。
 著者の大下英司は、航空機に造詣が深く著書には戦記物が多い。だからメカニカルな説明も多く、退屈な部分がある反面、説得力と迫力が感じられる。
 タイトルの『神はサイコロを振らない』の由来は、アインシュタインが「偶然」を要素とする当時の量子力学を皮肉った言葉のようだ。
 日本の小説には珍しく、巻頭に登場人物の名前と特長が記されていたが、あとでそれがかなり役立つことになった。それだけ登場人物が多くて、名前とそのバックボーンを覚えることが大変なのである。
 またそれが、この作品の評価を分けることになるのだろう。スケールが大きくいろいろなサイドストーリーを楽しみたい人には、お薦めだが、心理描写や感情移入を楽しみたい人には、少し退屈で物足りないかもしれないね。

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2007年4月30日 (月)

君の名残を

 本作はタイムスリップというSFアイテムを使った「歴史小説」であるが、このタイトルからは全くその内容を想像出来ないよね。
 著者は10年間に亘って本作の構想を暖めていたという。そして本作を書きたいがために小説家になったらしい。だからこの作品を読んでいると、その確固たる情熱がヒシヒシと伝わってくる。 

君の名残を Book 君の名残を

著者:浅倉 卓弥
販売元:宝島社
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  著者の『平家物語』 に対する造詣の深さには、ただただ感心するばかりだが、ことに「木曽義仲」に対するラブコールは強烈である。まるで著者こそが「巴御前」の化身であるかの如く義仲にのめり込んでいた。
 この物語の舞台は、平家の衰退と源氏の台頭する時代にある。そしてその時代を確立させるために、なくてはならなかった三人の人物を、未来から呼び寄せるのだ。
 タイムスリップさせるパワーの源は、『神』としか考えようがないが、この小説の中では、それを『時』と呼ぶ。タイムスリップしてくるのは、白石友恵こと「巴御前」のほか、原口武蔵の「武蔵坊弁慶」、北村志郎の「北条義時」である。
 この三人はもとの世界では、仲の良い友人だったりと縁の深い関係なのだが、過去の世界では敵対する関係に転換してしまう皮肉な定めなのだ。そしてそれぞれが、異邦人でなければ成し得ない歴史上の役割を担うのである。
 巴御前は木曽義仲の妻として、彼に剣道の指導をし、命がけで彼を守る。そして義仲ともども、平家を京都から追い払う。武蔵坊弁慶はやはり源義経に剣道の技術を授け、平家を壇の浦にて滅ぼす役割だ。
 つまりこの二人の活躍により平家が滅亡し、源頼朝が天下をとることが可能になるわけである。さらには朝廷に対する恐れを全く持たない北条義時こそが、「鎌倉幕府」という盤石の組織を作り上げてゆく。
 これは定められた歴史の一幕であり、何人もこの事実を揺るがすことは出来ない。だからこそ過去を知る友恵や武蔵ですら、結局はその大きな流れに逆らうことは不可能だったのである。
 それにしても流石に、満を持して書き込んだお話だけに、もの凄い迫力であった。ところどころに脚色が見えるものの、結局は全てが見事に歴史にリンクしてゆく。
 また著者自身が白状している通り、手塚治虫の『火の烏』での死生感も併せて描き切っている。それはこのお話の狂言まわし「覚明法師」の容貌や、その不幸な生い立ちが猿田彦にそっくりなこと。平清盛の狂態や後白河法皇の悪役ぶりが、まさに火の鳥での描き方と同一であることでも判る。
 この長い小説を読み終って、なにかホットするような、心が解き放たれるような、不思議な充足感が得られた。SF好きな人にも、歴史好きな人にも、映画好きの人にも自信を持ってお薦め出来る。会心の一遍であることは間違いないだろう。

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2007年2月28日 (水)

ひとり日和

 石原慎太郎と村上龍が揃って激励!という文芸春秋の吊広告に釣られてしまった。殊にいつも文句しか言わない石原慎太郎が、珍しく誉めているのが気になる。

ひとり日和 Book ひとり日和

著者:青山 七恵
販売元:河出書房新社
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 著者の青山七恵さんは、23才のOLであるが、かなり早熟というか老成している感があった。それと心情の動きを表現する文章では、言葉の組合わせ方が驚くほど巧い。それも妙に気取らず、自然な形にコーディネートしてあるのだ。
 選考委員の山田詠美は、「日常に疲れた殿方にはお勧め、私にはいささか退屈」とシニカルな選評を書いているが、僕にはそうは感じられない。
 またこの作品の主人公に、虚無感や倦怠感を感じる選評や読者が多いようだが、僕にはそんなネガティブなイメージは感じられなかった。彼女はただ気が強く、頑固で淋しがり屋なのだ。そして独占欲が強くて感情的で、我儘なので男達は疲れてしまうんだね。

 普通のOLたちは、いかにすれば上手に男とつき合えるのかを知っていて、巧みに自分を制御している。ところが彼女はある種のナルシストで、どうしても自分を変革したくないのだろう。そして逃げられることを恐れて、もう一歩が踏み出せずにいる。恐れる位なら自分を変えれば良いのだが、それが出来ないところに不幸を見た。
 だから母親とさえ心を開いて気楽に接する事が出来ない。唯一彼女がシンクロ出来たのは、ちょっと自分に似た老女だけだったのではないだろうか。

 ところが彼女は、まだそれらのことを十分に理解していないため、男に逃げられる度に悲しみと不安を募らせるわけだ。いつか老女のようなもったりした男性と巡り合った時、彼女に本当の幸せが訪れることだろう。

 京王線のある駅前に佇む不思議な古い家。その家には、駅前から入ることは出来ない。ぐるりと回わり道をして玄関に辿りつく。そこに住むのは、遠縁の老女「吟子さん」と猫たち。
 駅からは入れないのに、縁側からは駅のホームがまる見えである。この家自体が他人の侵入を拒み、自分からは一方的に駅にいる人々を眺めるのだ。
 それはまさしく主人公が、他人の小物をこっそり盗んで、臭いを嗅いだりしている姿に似ているではないか。 
 この小説は、男に捨てられるが、フリーターからOLになって、大人へと脱皮しょうとする若い女性の淡々としたお話だ。それだけでは、どこにでも転がっている平凡な話なのだが、一緒に暮す老女とのユニークな絡み加減が際立っている。
 恐らくそこが選考委員の共感を引き込んだ最大要因であろう。今後の作品次弟では、彼女は大作家へ羽ばたいてゆくかもしれない。注目に価する新人であり、石原慎太郎と村上龍が激励した理由が判ったような気がする。

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2007年2月 3日 (土)

分身

分身 Book 分身

著者:東野 圭吾
販売元:集英社
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 東京と北海道で、双葉と鞠子という瓜二つの美女が現れる。だが二人は一度も逢ったことがないし、お互いの存在も知らない。

 双葉の章と鞠子の章を全15章に分割し、これを交互に差し込んで、ストーリーはパラレルに進んでゆく。初め二人は双子で、何らかの理由で別々の家庭で育てられたのだろうと思っていた。ところが、彼女達は二歳違いであり、双方とも母親に似ていないのである。では父親が浮気をして出来た異母姉妹かとも考えたのだが、父親にも全く似ていないのだ。

 それに二人は、性格は異なるものの、姿形は全く同一人物のような「そっくりさん」なんだね。あと考えられることは、一つしかない・・・。 そんなわけで出生の原理はすぐ判ったのだが、何故そうなったのかという原因が、全く不明のまま物語はどんどん進んでゆく。そして二人はいつも行き違い状況で、ナカナカ巡り逢えない。

 この『君の名は』状態に、かなりフラストレーションが溜まり、イライラさせられるのだが、「怖いもの見たさ」で夢中でページをめくってしまう。序盤は平易で素人のような文章であったが、後半の先進医学に関する記述は凄いよね。よくここまで調べあげたものだと感心するしかなかった。 

 もしかするとこの作品、映画化の話しがあるかもしれないな。たしかに映画向きの作品である。

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2007年1月27日 (土)

さよならの代わりに

 なんと綿密で用意周到なストーリーなのだろうか。ミステリーなのかSFなのか、最後の最後まで明かさないところが憎いね~。
 劇団『うさぎの眼』の一員である主人公和希は、未来からタイムスリップして来たと言い張る祐里とつき合ううちに、ある殺人事件に巻き込まれてしまう。

さよならの代わりに Book さよならの代わりに

著者:貫井 徳郎
販売元:幻冬舎
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 この殺人事件の犯人が、なかなか判らない。終盤になって犯人が解明されると、なんだと思うくらい当たり前の人物が犯人だった。普通ならこいつが犯人だと思わせて、実は全く思いがけない人物が犯人だったりするものだが、このあっさりし過ぎた展開は、逆に新鮮に感じるから面白いものだ。
 またタイムトラベル中に、インターネット上のフリースペースを使うというアイデアが、斬新で見事だったね。おそらく僕の知っている限りでは、初めて登場したタイムトリックである。
 ラストは実に切ない結末であるが、不思議と涙が出てこなかった。『さよならの代わりに』祐里が残した言葉が、明かるい別の未来での再会を暗示しているからであろうか。ヒシヒシと、心に染み込んで琴線に触れるような、しみじみとしたお話だった。

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2007年1月 8日 (月)

削除ボーイズ0326

 第一回ポプラ社小説大賞を受賞したSFジュヴナイル。ミステリアスな展開もあり、大人が読んでも十分楽しめる作品に仕上がっている。

削除ボーイズ0326 Book 削除ボーイズ0326

著者:方波見 大志
販売元:ポプラ社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 主人公は小学生なのだが、いやに老成している感がある。ブログを運営したり、株の売買をしたり、好きな異性に告ったりと、まさに高校生も顔負けなのだ。

 それとも僕が遅れているだけで、最近の小学生達は、実際にこれほどマセコケてしまったのだろうか。TVやネットの影響を考えると、そうであっても不思議ではないがね。小学生達の実態を知っている方がいたら、この際に是非教えて頂きたい。

 さてこの小説で大活躍する削除マシンは、過去の一定時間を削除してしまうという、一種のタイムマシンである。だが過去を削除すると、タイムパラドックスにより現在も変わってしまう、という大きなリスクが伴う。

 またタイトルの「0326」とは、削除マシンで削除出来る最大時間「3分26秒」のことを指している。だがマシンを使っているうちに、この時間もだんだん短かくなってくるのだ。その短い時間設定は、話の拡散と矛盾の坩堝にはまらないための安全装置なのだろう。

 あえて結論を出さずに終幕となったが、読者に結末をバトンタッチする手法は、決して間違ってはいないはずである。342ページの厚い本なのだが、読み易いので一気読みしてしまった。

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2006年12月17日 (日)

クロノス・ジョウンターの伝説

 クロノスジョウンターとは、簡単に言えば「タイムマシン」のことである。命名したのは梶尾真治だが、クロノスとは時間の神であり、ジョウンターは、A・べスターのSF『虎よ虎よ』に書かれたジョウント(瞬間移動)をもじっているらしい。

クロノス・ジョウンターの伝説 Book クロノス・ジョウンターの伝説

著者:梶尾 真治
販売元:朝日ソノラマ
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 ストーリーは、このクロノスジョウンターに試乗した4人の軌跡を、オムニバス風に4つの短編に分割して描いている。クロノスジョウンターは、タイムマシンであるが、過去に行くには限界がある。そして過去に滞在している時間が限られており、時間がくると自動的に未来に飛ばされてしまうのだ。
 また過去に行くほど、その反動が強くなり、より遠くの未来に飛ばされる仕組みになっている。それがこの物語を面白くしている最大要因であろう。だから背景は同じでも、どの作品にも独特の雰囲気があり、どれもが同じくらい面白いのだ。
 一作目は、一目惚れした女性を救うために、1時間前にタイムスリップする男の話。
 二作目は、取り壊されてしまった骨董品的な古い旅館を観るために、5年前に戻る男の話。
 三作目は、少女時代にあこがれた青年の命を救うために、完成された薬を持って過去へ戻る女医の話。
 そして最後の四作目は、他の三作とはやや異なり、『クロノス・コンディショナー』という、過去の自分の体に心だけが戻る、というマシンを体験した女性の話で、外伝扱いとなっている。
 どれもがファンタジックな恋愛物語で、しかもどの作品を読んでも、心がハッピーになれるのが嬉しい。
 最近、昔の時間テーマアンソロジーを読んだが、ほとんどがドタバタタッチの短編SFで、うんざりしてしまった。ところが梶尾真治の時間テーマものは、SFというよりファンタージーの香りが強い。そしてリリカルでロマンチックである。もちろん好みの問題であるが、僕はそんな味が大好きなのである。
 それから映画用ということで、この『クロノスジョウンターの伝説』を大幅に書き直した作品が、ノベライズの『この胸いっぱいの愛を』であることを付け加えておこう。
 

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2006年11月19日 (日)

手紙 小説

映画のレビューはこちら

 映画を観て感動し、無性に原作を読みたくなったのだ。まさに映画会社と出版社の思う壺だが、それだけこの作品が素晴らしいのだろう。

手紙 Book 手紙

著者:東野 圭吾
販売元:文藝春秋
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 映画も原作もストーリーとテーマには、ほとんど変わりはないのだが、映画のほうに大きな問題点を見付けてしまった。
 映画のほうは、直貴が漫才師を目指していたが、原作ではロックバンドのボーカルを目指していたのである。映画を観ているときから、なぜお笑いなのか疑問を感じていたが、原作を読んでさらにその疑問が増幅してしまった。
 というのは、ボーカルになるきっかけが、ジョン・レノンの『イマジン』を歌ったことにあるからだ。そしてラストシーンでもイマジンというバンド名で『イマジン』を歌うのである。
 そしてこの作品のテーマは「差別」なのであり、『イマジン』では差別のない平等な世界を歌っているではないか。この組み合わせは、決して偶然ではない。だからこそお笑いではなく、ボーカルでなくてはならないのだ。
 あと細かい設定がいくつか違っていることも見付けたが、それは映画の限界と、好みの問題と片づけてもいいだろう。
 さて映画で納得出来ず、原作を読んで解明しようと思ったことがひとつある。それは由実子が、直貴をひたすら待ち続け、愛し続けた理由である。だが残念ながら、原作でもそこのところは、はっきりしなかった。
 現実には、由実子のような女性は稀な存在である。彼女は現代に生きるマリア様であり、著者の願望が生んだ理想の女性なのかもしれない。

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2006年9月23日 (土)

僕を殺した女

 それにしても随分と思い切ったタイトルをつけたものだ。それに「ある朝目覚めると主人公篠井有一は、ヒロヤマトモコという美女になっていた」という設定は、どこかで聞いた事があるだろう。

Bokuokoroshita_1  そう・・誰でもが知っている、「ある朝目覚めると僕は、巨大な毒虫になっていた」という、フランツ・カフカ『変身』の冒頭を思い出すはずである。
 この小説では、主人公の篠井有一が、女性に変身してしまっただけでなく、5年間の記憶も全くなくなってしまった。~という設定になっている。
 最初は5年前の世界から、見知らぬ女性の体の中に篠井有一の心がタイムスリップしたのだと思っていた。
 ところがこの小説は、そうした時間テーマSFではなかったのだ。どちらかというと、サスペンスとかミステリーというジャンルなんだね。
 テーマは、主人公篠井有一の正体解明に終始することなのだが、本人の自問自答が中心であり、心象風景もコロコロと変貌してゆくんだね。
 そして話が進むに従い、SFよりももっと荒唐無稽な現実が、読者の前に剥き出しにされる。そして二転三転しながら複雑に絡みあったパズルを解いてゆくのだ
 もしかすると、安部公房のような一風変わった純文学とも言えるし、夢野久作のようなサイコ小説といってもおかしくないだろう。
 それにしても、この北川歩実という作家は、男なのか女なのかさっぱり判らない。聞くところによると、年齢も含めて一切が不詳の覆面作家だというのだ。
 北村薫も当初は覆面作家だったというが、なんらかの賞をとれば、身元はバラさずにはいられない。
 ではなぜ覆面をするのだろうか。サラリーマンで、二足のワラジを会社に知られたくないのだろうか。それとも売れなくなった超有名作家の小遣い稼ぎなのだろうか。
 いずれにせよ売れっ子になれば、やがて正体が明かされる日も来るだろうが、こやつはただものではない気がする。

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2006年9月 9日 (土)

タイム・リープ あしたはきのう

『本と映画のランデヴー第八弾』 

 久し振りのランデヴーであります。小説は11年前で映画も9年前と、ともに古臭くなってしまいましたが、タイムトラベルファンは必見の名作といえるでしょう。先に小説を読んだので、その順番通りにレビューしましょう。

 学園もののタイムトラベル小説といえば『時をかける少女』とか『サマー/タイム/トラべラー』を思い出すが、ことタイムトラベル理論のわかり易さでは、本作が抜群に秀逸である。
 著者の高畑京ー郎がこの作品を発表したのが、1995年で彼が28才の年である。してみると、かなり天才的な青年だったと言えるよね。

Scan10114  文章は平易で分かり易いが、とくに文学的に優れた表現をするでなし、コツコツと調査した背景描写があるわけでもない。またまっとうに会話のある登場人物は、上巻ではほば2人きり。そしてストーリー展開は、ラストの事件を除けば、主人公翔香の一週間の平凡な日常描写だけでなのである。
 たったそれだけで上下2冊の本に分けているのだから、ある意味少し図々しいかもしれないね。しかし読んでいて全く退屈しないし、逆にぐいぐいと心が引張られてゆくのだから不思議だ。
 ここでのタイムトラベルには、ある一定の法則が存在するようだ。それを簡単にまとめると次の通りである。

 意識だけが時間移動する
 同じ時刻へは一度しか跳べない
 何か怖いことに会うと時間移動する
 眠ると明日ではない日に時間移動する

 つまり一週間をランダムに切リ刻んで、意識だけが小間切れにされた時間の中を、行ったり来たりしているのだ。
 またタイムパラドックスやパラレルワールドの存在は認めているものの、そこに行きつかないことを配慮した展開であった。
 前半はタイムトラべルに理論に終始しながらも、後半ではミステリーへと移行し、オープニングとラストが見事に繋がってゆくのだ。
 ライトノべルとはいえ、流石に時間テーママニア達が『隠れた名作』と評価するに十分な作品であった。

 この小説はその後、1997年に映画化されているようである。早速ビデオ屋へ行き、古い棚からこの作品を探し出した。
 細かな設定の違いは少しあったが、大筋は小説とほぼ同じだったので、何だか2度小説を読んだような気分であった。

タイム・リープ TIME LEAP DVD タイム・リープ TIME LEAP

販売元:バンダイビジュアル
発売日:2003/04/25
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 主演の二人は、小説のさし絵同様、美男美女には変わりないのだが、ちょっと老けた感じで若干清々さに欠けていたようだ。あとで俳優の実年令を調べたら、やはり20才であった。
 あと小説での関君の役割は重要で、準主役級だったのだが、何故か映画ではチョイ役であった。また小説ではかなり重要だった、「翔香が、護身術を教わるシーン」が映画ではカットされていたのがちょっと解せない。
 その関係もあり、八幡神社でのクライマックスにも迫力が不足していたし、なにか盛り上がるものも感じられなかったのが残念である。たぶん犯人の描き方を、中途半端にアレンジしたことに問題があったのかもしれない。
 まあ、悪い映画ではないが、わざわざ劇場まで足を運ぶほどの代物ではないと思った。
 
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2006年9月 5日 (火)

天然理科少年

 表紙の写頁は、吉田美和子さん製作の「美少年人形」である。とても清楚で幻想的で、この小説のイメージにピッタリだと思う。なお各章の扉には、ノスタルジックな詩と、コメント付きの美しい写真も飾られている。

天然理科少年 Book 天然理科少年

著者:長野 まゆみ
販売元:文藝春秋
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 わずか147頁の薄っぺらな文庫本だが、なかなか丁寧に創ってあり、とても気分が良いのだ。
 放浪癖のある父親と二人で生活し、短期間に転校を重ねる少年が、ある田舎町で遭遇した不思議なお話を描いた、ファンタジー小説である。その淡々として瑞々しい人物描写と、センチメンタルな郷愁に、なんとなく昔読んだ、『つげ義春』のマンガを思い出してしまった。
 小柄な賢彦少年との巡りあいが、「バナナ檸檬水」というのも、古めかしさの中にお洒落な香りが漂っている。
 また父の名が「梓」で、少年の名が「岬」とは、二人ともなんと優しくロマンチックな名前なのだろうか。
 そしてこの名前の由来と父の心が、時空を越えて見事に繋がり、そっと宝石箱を開くように、煌びやかに過去が解き明かされてゆく。それはなんとも、心地良い締め括りであろうか・・。

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2006年8月31日 (木)

流星ワゴン

 なんともはやマンガチックで、懐かしい響きを持ったタイトルである。この「ワゴン」とは、幽霊父子が運転するワゴンカーであり、ワインカラーのオデッセイのことでなのである。
 そしてこのオデッセイこそ、『バック・トゥ・ザ・フューチャーでいうデロリアンであり、一種のタイムマシンなのであった。

流星ワゴン Book 流星ワゴン

著者:重松 清
販売元:講談社
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 病床の父親とは、ほば絶縁状態。妻はテレクラに狂い、一人息子は受験に失敗し家庭内暴力に走る。そして会社が傾き、リストラの対象になる。・・こういう最悪の家庭環境に追い込まれたとき、あなたならどうするだろうか?
 主人公のカズは、もう人生なんてどうでもよくなり、いっそ死んでしまいたい気持で一杯になる。そして目の前に止まったワインカラーのオデッセイに乗ってしまうのだった。これがこのお話の始まりである。
 前述した通り、このワゴンカーはタイムマシンで、家族が破綻する以前の過去へ疾走して行く。どういう訳か自分と同年期の父も、一緒にタイムトラべラーになっているのだ。
 それから、悲惨な自分の現在(未来)を変えようと、何度か過去を改竄しようと試みる。だがどうやっても、過去は絶対に変えられないのだ。
 この小説でのタイムトラべルは、過去の自分の体に、現在(未来)の自分の意識だけがとりつくという方式であり、決して過去の自分に遭遇することはないようだ。そして現在(未来)に戻るつど、過去の自分にはそのときの記憶も、記録も全く残らない仕組みになっている。ただ稀にそれとなく、体験感覚が揺り戻されることがあるようだが、それが『デジャヴ』と呼ばれている現象らしい。
 いわゆる「リプレイ」ものなのだが、絶対に過去は変えられないため、パラレルワールドの存在もない。
 タイムトラべルとして考えると、かなり違和感を感じるのが、同時にタイムトラべラーとなる父親チュウさんの年齢である。カズと同い年であるはずがないのだが、チュウさんは幽霊に近い存在と考えて、タイムトラべルと関連付けないほうがよいだろう。このお話はタイムトラべルと、幽霊を重ね合わせた物語なのだから・・。
 なにせ466頁もあるブ厚い文庫本だが、ストーリーの中味は非常にシンプルで、どこにでも居そうな三組の「父と息子」を描いている。まずはオデッセイを運転する幽霊の橋本さん父子、そして主人公のカズとチュウさん、もう1組はカズと息子の広樹である。
 そしてこれだけの長編にも拘わらず、女性達はほとんど存在感がなく、父と息子の関係だけに終始している。この辺りの描き方は、女性読者には少し抵抗がかもしれない。そこにこの作者の、父親に対する強烈な思い入れを感じたね。
 私の父親は42才で鬼籍に入っている。出来ることなら、私もタイムマシンに乗って、若かりし頃の父と一献傾けたいものである。
 父子の愛憎とタイムトラベルという筋立ては、浅田次郎の地下鉄(メトロ)に乗ってと良く似た展開である。ただ浅田次郎のように切ないエンディングではない。だからと言って、決してハッピーエンドとも言えない。
 過去にこだわらず、「未来に向かって力強く生きてこそ、幸福への扉が開かれる」と言いたいのだろうか。

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2006年8月20日 (日)

イエスタデイ・ワンス・モア

 なぜこんな長ったらしく、気取ったタイトルをつけたのか疑問だったのだが、ラストのどんでん返しでその意味が判かった。
 著者の小林信彦氏は、昭和7年生まれだ。そしてこの小説が書かれたのは、平成に入ってからなので、当時著者は50代後半である。それにしてはなかなか『粋なおじさん』だなと、妙に感心してしまった。

Scan10112 ストーリーのほうは、主人公の高校生が、平成初期から昭和34年にタイムスリップし、そこで見よう見真似の『危うい生活』を送るお話が中心となっている。
 そこで未来(現在?)のTVで観た、お笑いギャグを利用して、一躍売れっ子のTV作家になってしてしまうのだ。なかなかひょうきんでユニークな発想じゃないか。
 また古き良き昭和30年代の描写が、なかなか凝りまくっている。当時の著者は、花の20代。たぶんかなり思い入れの強かった時代なのだろう。まるで彼の思い出話を、とくとくと聞いているようで、とても微笑ましい。
 懐かしい東京風景はもちろんだが、主人公の育ての親である、多佳子伯母との再会のくだりが一番印象的だ。ことに若い伯母に迫られるシーンは、複雑な心境になってしまうだろう。自分だったら冷静でいられたかどうだか、余り自信がないね。
 途中までは、浅田次郎の『地下鉄(メトロ)に乗って』を髣髴させる展開であったが、甘く切ない浅田節とは異なって、明かるくバタくさいノスタルジーを感じた。
 ラスト近くになってタイムパトロールが登場するのだが、これが僕には気に入らない。それまで、せっかくノスタルジーの小部屋で甘い気分に浸っていたのに、土足で踏みにじられた感じがした。
Scan10111_1  ところがこの展開は、Part2『ミート・ザ・ビートルズ』への複線だったんだね。
 『ミート・ザ・ビートルズ』では、ビートルズとホテルの一室で、念願の直接会話を果たすのである。そしてそれが、父と母のめぐり逢いの還流となるのだ。
 このPart2は、第一作には及ばないとしても、ことにビートルズファンには、味わい深いストーリー仕掛けとなっているはず。
 薄い本なので、是非2本立て続けに読んでみよう。

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2006年8月 2日 (水)

サマー/タイム/トラべラー

 スラッシュが2つも入るタイトルなんて、そうザラにあるものじゃない。おかげでファィル名には使えないじゃないの。
 それにしてもこの作品は本当に小説なの?少なくとも前半はどちらかというと、小説仕立ての『時間テ一マSF論』という感がしないでもない。

サマー/タイム/トラベラー (1)  ハヤカワ文庫 JA (745) Book サマー/タイム/トラベラー (1) ハヤカワ文庫 JA (745)

著者:新城 カズマ
販売元:早川書房
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 主な登場人物は、タイムトラべルが出来る悠有を除けば、老成したような高校生ばかりであり、しきりにウンチクをひけらかす。ことにSF作家の名前や作品名がポンポン飛びだすので、SFオタクには嬉し懐かしだが、そうでない人には耐えられないだろう。
 それにストーリー展開が、えらくまどろっこしいと言うか、回りくどい。まるでヒグマが潜んでいるブナの林を、振り向きもせず、鼻唄まじりでのんびりと歩いているようだ。
 それに『プロジェクト』などと気取っているが、単なる『SF同好会』じゃないか。ストーリーのほうも前半は、この同好会でのウンチク大会に終始し過ぎて退屈で死にそうだった。

サマー/タイム/トラベラー2 Book サマー/タイム/トラベラー2

著者:新城 カズマ
販売元:早川書房
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 それにこの物語にある地名は、全てが架空のものだというのに、もっともらしい地図を何枚も掲載する必然性がみえてこないのだ。いい加減にして欲しい。もう少し上手にまとめれば、わざわざ2冊にすることもなく、充分1冊に納まる内容である。
 ・・と文句ばかり言いたくなる作品だが、後半になって急遽『学園ドラマ』から、『ミステリー小説』へ脱皮し、ラストに至っては、まるで悠有のタイムトラべルの如く、猛烈な勢いで末来を通り抜けてしまうのだ。
 しかしエンジンがかかるのが余りにも遅過ぎるよ。読み辛い文章と、退屈なストーリーで、ここまで無理やり引っ張っておきながら、今度はあっという間に終ってしまうしね。

 読了後の満足感もなければ、感動する場面もない。そして著者が『夏への扉』と『ジェニーの肖像』の大ファンであるという確証だけが残った。

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2006年7月 1日 (土)

満月 

『本と映画のランデヴー第七弾』 

だいぶ古い本で絶版になっているようです。まず原作からご紹介しましょう。

約600ページのクソ分厚い本を何日持ち歩いただろうか。決して難しい小説ではないのだが、それにしてもこの本と同じく、とても重い読了感が残った。

Scan10079_2  満月の夜に、300年前から杉坂小弥太という侍がタイムスリップしてくる、というSF仕立てのお話である。だがその設定さえ除けば、小弥太と野平まりとの、甘く切ないラブストーリー以外の何物でもないのだ。
 呪術によって300年の時を超えるという理屈や、マリとの初遭遇シーンについては、かなりいい加減な感じがするが、『ラブストーリー』なのだと思えば、いたしかたなかろう。
 話の展開は、まりの視点で進んでゆくが、山の天気のようにコロコロ変わる女性の心理描写を、実に見事に描いている。さすがに女性作家であり、一見正反対に見える「まりと祖母の両者ともが」著者の分身なのかもしれない。
 恋人に300年前の待を用いたのも、著者の理想の男性像を満たすためであろう・・・。りりしく、たくましく、強く、辛抱強く、それでいて優しく、その上誠実で、純情な男性など、すでに現代には存在しないからだ。そのうえ美男とくれば、世界中の女性が放っておかないだろうね。
 変に誤解されても困るが、小弥太は男性の私にとっても、素敵な男なのだから・・・
 結局二人は、最後まで本格的なエッチをしないのだが、まりの過激な心情と、小弥太の純真でひたむきな愛情が、実に見事に絡み合い、年甲斐もなくドキドキしてしまった。
 繰り返すようだが、SFとしてはほとんど評価出来ないので、ラブストーリーとして読むこと。
 ただ菩提寺の過去帳と、水戸藩の快風丸、コタンのトーテンポール、易者の予言の全てが繋がるところが、著者の面目躍如といったところであろう。

次は映画のほうですが、こちらもDVDはない。古い古い古いね!

 主演が原田知世と時任三郎と言えば、もう相当昔の映画であることが判るだろう。細かい設定では、だいぶ原作と違いがあったし、ストーリーの流れもハデなドタバタシーンが多過ぎたと思う。
 またそもそも原作にない、余計なストーリーを追加したため、忍者よろしく弘前城に忍び込むという、無意味なシーンを追加するハメになってしまったのだ。
 映画だから派手に加工したい気持ちは判るが、原作はアクションではなく、あくまでも「ラブストーリー」なのだぞ。

Mangetu  原田知世はとても可愛いし、まさに和製メグ・ライアンである。ただ初めは嫌いだった小弥太を、好きになってしまう心の変化が、今ひとつ描き切れていなかった。
 
いっぽう時任三郎は背が高過ぎて、昔の武士役には不向きだし、これは私の思い込みだが、原作のイメージともだいぶ異なっていたような気がする。
 前半は原作に忠実で楽しい映画だったが、知世の兄貴が出現してから、ドタバタアクション映画になり下ってしまったようだ。実に残念である。原作の良さを本当に理解していない人が映画を作ると、こんな映画になるという悪い見本のような映画だった。
 ただ『ねぷた祭』を観ながら、弘前城主のことを回想するシーンには、思わず涙ぐんでしまったね。それとスッキリとしたラストシーンも、やや捻りを入れた原作よりも好きかもしれない。さしあたり日本版『ニューヨークの恋人』かな。

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2006年6月25日 (日)

異邦人 fusion

 いゃ~驚きましたよ。なんと面白い小説なのでしょうか。朝の通勤時に読み始めて、帰りの電車では一気に読了してしまいました。
 西澤さんの本は、『七回死んだ男』以来ですが、どうやら「SFミステリー」というジャンルを確立しそうな勢いを感じましたね。
 さてストーリーをかいつまんでご紹介しましようか。
 主人公の永広影二は、東京の大学で助教授をしていて、郷里に帰るため羽田から飛行機に乗ります。

異邦人―fusion Book 異邦人―fusion

著者:西澤 保彦
販売元:集英社
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 搭乗前に空港から、実家にいる姉の美保に電話を入れると、『月鎮季里子』の小説を買って欲しいと頼まれるのでした。月鎮季里子とは、昔の姉の恋人であり、現在は東京で小説家になっているというのです。
 そう、姉はレズビアンだったのです。そして季里子とかけ落ちする予定が、父の急死によって中止になり、意に反して家業の食堂を継ぐことになってしまったのであります。
 「父の死」、それは23年前に郷里の砂浜で起きた殺人事件であり、今だに犯人が捕まっていない謎の事件でした。
 もしこの父の死がなければ、姉も無理に養子をとって家業を継ぐ必要もなく、東京で季里子と幸福に暮らしていたと思います。それは全て、弟の影二を大学に入れるための自己犠牲だったのですから。
 そうしたやり切れない思いが、たえず影二を悩ましていたようです。この日は珍しく昔姉が編んだセーターと、やはり姉にもらった腕時計を身につけていたのです。

 そして郷里の空港へ着陸したとたんに、影二は23年前の世界へタイムスリップしてしまうのでした。
 ここで偶然、まだ14才だった天才少女月鎮季里子に出会い、3日後に起こるであろう、父の死を阻止することを決心するのです。

 ・・・とまあこんな感じでお話は、進んでゆくのですが、タイムトラべルやそのために引き起こされる「タイムパラドックス」についても、これでもかとばかり丁寧に解説されていました。
 ところで、新貨幣やクレジットカードなどが、過去に持っていけないのですが、手帳やボールペンは持っていけるものの、他人に渡すと消えてしまう。などなど、余り理論的ではない設定が気になりましたが、アイデアとしては面白かったと思います。もちろん作者も、このあたりは熟知していて、クドクドと言い訳がましい文章が繰り返されていましたね。
 なぜそうした設定にしたのか・・、例えば未来の品物を持ち込むことによって、歴史を歪めないためだとしたら、なぜ影二自身がタイムスリップ出来たのか?その疑問については、作者が先回りして言い訳をしていましたが、なにかすっきりしなかったことは 否めません。
 それはそれとして、前半のノスタルジックな描写と、終盤の犯人探しに加えて父親が助かるのかどうか~、の展開はハラハラドキドキで、ミステリー作家の面目躍如といったところでしょうか。
 ただハッピーな終わり方は良いとしても、あまりにもご都合主義過ぎる結未は、この作品の価値を少し下げてしまったような気がしてなりません。もし終わり方さえもっと上手にまとめていたら、広瀬正の『マイナス・ゼロ』に並ぶ名作に仕上がったのではと、余計に残念で堪りません。

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2006年6月17日 (土)

ブルータワー

 直木賞作家である著者が、満を持してSFに初挑戦した大作である。本作を書くにあたって、著者は「現在日本の出版界は社会的リアリズム全盛で、SFやファンタジーなど想像力に傾斜した小説は商売にならないといわれている。天邪鬼なぼくは、今こそファンタジーを始める時期だと思う」と語ったそうだ。
 SFファンにとっては非常に嬉しく、心強い言葉である。そしてかつてのようにSFブームを巻き起こしてもらいたいと願う。

ブルータワー Book ブルータワー

著者:石田 衣良
販売元:徳間書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 さてこのように期待は大きく膨らんだのだが、残念ながら従来のSFの殻を打ち破るほどの大殊勲はあげられなかった。
 ストーリーは、脳腫瘍を病む主人公瀬野周司が、その激しい痛みとともに200年後の世界へ「精神だけ」タイムスリップする。その未来は暗く、黄魔と呼ばれる生物兵器に汚染されていた。人々はその黄魔から身を守るため、2Kmの巨大なタワーを作り、その中でヒエラルキー社会を構築しているのだった。そうしたタワーのひとつで旧新宿にそびえるのが、『ブルータワー』(青の塔)なのである。
 瀬野周司の精神が移転する体は、そのタワーの最上階近くに住み、ブルータワーの特権階級での一人セノ・シューであった。彼は正義感に燃え、黄魔から世界を救おうと、未来と現代を何度も往復するのである。
 ここまで話せば、映画ファンならなんとなく『マトリックス』や『バイオハザード』等を組み合わせたような臭いを感じるであろう。もう少しオリジナリティーが欲しかったね。
 またハッピーな結末は良いのだが、あの親切過ぎるエピローグは、不要だったのではないだろうか
 だからと言って決して駄作ではないし、つまらない作品ではない。余りにも期待を膨らませ過ぎた裏返しなのだろう。著者の次回SF作品に期待したいところだ。
 ところで映画化すればヒットしそうだが、大人の視覚に耐えられる作品に仕上げるには、莫大な製作費が必要となるので、日本だけの配給では難しいだろうね。 

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2006年6月13日 (火)

名残りの雪

 短編ではあるが、いつまでも心に残る味わい深い作品であった。主人公の伊藤は、昭和の時代から幕末へとタイムスリップし、そこで新選組の隊員として働くことになる。そしてまた現代に戻って守衛の仕事をするのだが・・。

NHK少年ドラマシリーズ 幕末未来人 I DVD NHK少年ドラマシリーズ 幕末未来人 I

販売元:アミューズソフトエンタテインメント
発売日:2001/08/24
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 これだけでは、よくあるドタバタSFと変わらないのだが、この作品はラストの落とし方がすごいのである。それを明かすとネタバレになるのでやめておくが、つまり「逆転の発想」とでも言っておこうか。
 かって『幕末未来人』というタイトルで、NHKでドラマ化されている。DVD化されたので、出来れば近いうちに観たいと思う。

  なおこの作品は、眉村卓の短編集『思いあがりの夏』または『虹の裏側』に収録されている。

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2006年6月 6日 (火)

君がいる風景

 初め、平谷美樹(ひらたに・みき)と読んでしまった。まぎらわしい名前だが、著者の名は「ひらや・よしき」と読み、紛れもなき男性だそうだ。彼は2000年に、『エリエリ』で第1回小松左京賞を受賞した期待のSF作家である。

Scan10074  さて簡単にストーリーを教えると、25才の医師である主人公が、中学時代に淡い恋心を抱いていた美鈴ちゃんを助けに、10年前にタイムスリップするお話である。そう!とっても可愛かった美鈴ちゃんは、中学3年生のときに、「ある事故」に遭って若き命を失ってしまったのだ。
 ところが、せっかくタイムスリップに成功したのに、ほとんど過去の記憶を失ってしまった主人公。さて一体どうやって美鈴ちゃんを救うのか。ペペンペンペン!
 タイムスリップする中学校は東北にあり、ラストのクライマックスは三陸海岸の近くである。なぜこの場所を舞台に選んだのか、もちろん著者の居住地ということもあるが、実は昔のニュースを調べれば判るのだが・・・いやネタバレになるのでここでは秘密にしておこう。
 この作品はジュヴナイルSFであり、中学生や高校生を対象として書かれているようだ。従って清純で素直で嫌味がないし、ラストは皆んな幸せになる。
 それが大人にはやや物足りないかもしれないが、甘酸っぱさに、ハラハラ風味をブレンドした青春ドリンクもたまには良いだろう。

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2006年6月 3日 (土)

タイムトラべル・ロマンス

  なんとロマンチックで幻想的なタイトルなのでしょう。そのうえサブタイトルは「時空をかける恋物語への招待」ですから、梶尾真治ファンならずとも、喉から手が出るほど欲しくなる本ではないでしょうか。

タイムトラベル・ロマンス-時空をかける恋 物語への招待 Book タイムトラベル・ロマンス-時空をかける恋 物語への招待

著者:梶尾 真治
販売元:平凡社
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 ところでこの本は小説ではないので、お間違えなきよう願います。だからと言ってSF論というほど振りかざしてはいませんし、SF入門というのか、SF小説とSF映画の紹介を通してSFを語る本とでも言うのでしょうかね。
 もちろんSFですから、タイトルのタイムトラべルだけではなく、ロボットやエイリアンの話も出てきますよ。でも半分以上はタイムトラべルについて語っていますから、どうぞタイムトラベルファンの方々もご安心ください。
 ハードカバーではありますが、わずか157頁の小さめの本なので、通勤時の行き帰りで、あっという間に読み終わってしまうでしょう。
 著者の梶尾真治はあとがきで、この本を『SFへのラブレター』かもしれないと語っていましたが、まさに彼のSFへの大いなる愛情を感じた1冊でありました。

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2006年5月31日 (水)

時間泥棒

 時間を盗むエイリアン?により、ある条件下での時間がだんだん歪んでくる。そしてその犯人を、主人公である警察官が捜査するというストーリーである。

Scan10069_2  日本のSFだったら、なんとなく筒井康隆あたりが書きそうなテーマだが、たぶん彼が書けば、荒唐無稽のドタバタ劇になってしまうだろう。ところが本作品は、ある程度のユーモアを香辛料としながらも、時間についての物理学上のハードな考証にも、決して力を緩めていないところが素晴らしい。
 時間が歪む謎について解明するために、霊能者、物理学者、神父たちと次々にインタビューするのだが、一番関係のなさそうな神父さんが一番役立つのは、以外であり皮肉ぽくって愉快だった。
 この作品は小説としては面白いが、映画化して好評を得るのは、かなり難しいかもしれないね。
 

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寛永無明剣

 この著者は、いつも文章が重厚で堅いので敬遠気味でした。ただこうした時代ものなら、結構その味を生かせると思いました。
 もともと時間テーマSFだということは分かっていたので、時代劇は前半だけかと思っていましたが、延々と約2/3は時代小説そのものでした

寛永無明剣 Book 寛永無明剣

著者:光瀬 龍
販売元:角川春樹事務所
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 ただ闇に潜むような、不気味で強大な敵の存在に、チラりチラリとSFの影が見え隠れしていたことは間違いありません。
 終盤になると、携帯用のタイムマシンが大活躍し、江戸~古代~現代~超未来や亜空間を行ったり来たりし始めるので、そのギャップの激しさについてゆけない人もいるかもしれません。
 また2系統の敵が、それぞれ探している『さざれ石』と『女子』の謎の解明が、この小説最大のハイライトだと思うのですが、十分な解説がなされていないので、消化不良を起こしています。
 それにしても、著者はメカや歴史などを重々しく描くのが得意のようですが、細かな心理描写は苦手なようですね
 しかしながら、上手に江戸時代の歴史背景を一捻りしながら、荒唐無稽な話の辻褄を合わせて、この小読を描き続けた著者も、『昭和無明筆』の達人ではないでしょうか。

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2006年5月25日 (木)

時間街への招待状

 なんとロマンチックで、ファンタジックな響きを持ったタイトルなのだろうか。絶版になってしまった古い本だが、是我非でも読みたいという欲望に駆られてしまった。
 あちこちの古本店を探したが、なかなかこの本に巡り逢えない・・。諦めかけていたとき、偶然ブック・オフでこの本を見つけた時は、思わず小踊りしてしまった

Scan10066  著者の亀和田武は、かなり昔に『劇画アリス』というエロ雑誌の編集長をしていた時期がある。このエロ雑誌は、当時自販機販売という、画期的な販売方法を取り入れ、エロ御三家として、マニアの間では評価の高い雑誌だった。
 それらは、全て若かりし日の亀和田の手腕と人脈によるものだという。その後彼は、当時流行していたSF作家になり、現在はワイドショーのコメンテーターのような仕事をしているようだ。
 彼の作品は、ほとんどが短編であり、幻想的でシリアスなタッチと、荒唐無稽なドタバタ調の二つの味がある。シリアスなほうは、まるで文学青年が書いた私小説ような感じがして、とても清々しい味がする。それでなんとなく、彼が寡作だった意味も分かった。
 さて本書は、わずか281頁の手軽な厚さであるが、その中には超短編も含めて、15編の作品が掲載されている。
 そのうち時間テーマSFと呼べるものは、『1966年冬、ハートブレイク・ホテル』、『時の因人』、『嫌われ者のルーツ』、『時間と街路』の4作だけである。
 『時間街への招待状』というタイトルから、全ての作品が時間テーマSFだと思い込んでいたので、期待を外されてしまった。しかしながら、時間テーマ以外の作品にも、かなり傑作が含まれていたので許すことにしよう。
 ことに、『海獣島』、『目覚めよと呼ぶ声あり』、『ア・ロング・バケーション』が、私のお気に入りである。
 時間テ一マのほうは、『時の因人』、『嫌われ者のルーツ』が、ドタバタ調で、残りの2作かロマン私小説風という感じだ。
 私の趣味は、後者の二作のほうである。ともに青春時代に失った彼女への思いが、現在に繋がってくるお話だが、ストーリーとして優れている、『時間と街路』よりは、『1966年冬、ハートブレイク・ホテル』のほうを選びたい。
 前者は切なくて心を打たれるものの、後者の「これから何かが変わりそう」、な結末が好きだからである。

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2006年5月23日 (火)

あの夏に・・・

 少女向けの講談社X文庫で読み、電車の中では、ちょっとおじさんは恥ずかしかったです。・・・だってカバーには、少女マンガ家でもある著者・折原 みとの、『瞳の大きな少女の絵』が、堂々と描かれているからであります。
 Ano さてストーリーは、女優である主人公の少女が、映画の撮影中に、原爆が落とされる1ヵ月前の広島にタイムスリップするところから始まります。
 そしてそこで、同い年でありながらも、心優しく正義感の強い青年と知り合い、恋に落ちてゆくわけです。所々に絵の挿入してあるページもあるし、文体も平易で大変読み易いと思いました。
 ところでラストシーンの詳細は秘密ですが、最後に上手に過去と現在を結合して締めくくっていました。また当時の人々の純な気持ちが伝わってきて、ジ~ンと心を打たれました。少女向けの小説とはいえ、決して侮れないですね。

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2006年5月21日 (日)

ブログ本3冊

 ブログ人口は、驚異的に年々増加しているという。近い将来、自分の意志表明をしたいと考えている人の大半は、ブログを立ち上げるのではないでしょうか。

 さて、そういう自分自身も今年に入ってからブログを立ち上げた、『ブログ一年生』であります。ブログに興味がある方、すぐにブログを立ち上げたい方、僕のようなブログ初心者の方。そのブログ初心者が、最近読んだブログ本三冊をご紹介いたしましょう。

ウケるブログ 高瀬賢一
 
 タイトルをみた限りでは、いかにブログを目立つように演出するか、あるいは宣伝するのかを書いた本のように感じるだろう。
 ところがこの本は、ブログテキストを書く上での、文章作法を書いた本なのだ。

Scan10065  中味の構成は、一応Q&A方式となっているが、Question18に対して、Answerが100と圧倒的にAnswerが多い。そしてこの100のAnswerの見出を読むだけでも、文章作法の基本が身に付くはずである。
 またそれぞれのAnswerには、具体的な例文が付いているので、初心者にも大変判り易い仕組みとなっている。
 一応ブログ文の書き方と言うことだが、一般的な文章作法として読んでも、それほどおかしい内容ではないと思った。
 また最後のまとめで、10ページ足らずだが、トラバックや検索サイト等の利用による宣伝方法も簡単に記載してあるので、念のため・・。
 ブロガーであれば、一冊購入しても決して損のない本だと思うね。
 もちろん、ハデなタイトルを付けたり、文章を巧く書いても、つまらない内容では、やがて読者は去ってしまうだろう。

  一番必要なことは、何にでも興味を持って、常にアンテナを張り巡らして、視野を広げておくことである。

ブログ進化論  岡部敬史

 本書はブログの入門書でもなければ、ブログの作り方を書いたノウハウ本でもない。ましてや人気ブログの紹介本では決してない。あくまでもタイトル通りの「ブログ論」なのであり、それ以上でも以下でもない。

ブログ進化論—なぜ人は日記を晒すのか Book ブログ進化論—なぜ人は日記を晒すのか

著者:岡部 敬史
販売元:講談社
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 内容を簡単にまとめると、下記のようになる。
1.ブログの平易さ、面白さとブー厶となった理由
2.新しいメディアとしてのブログの効用
3.ブログの今後の発展性について
 
 難しい本でも楽しい本でもないが、ある程度ブログを知っている人や、既にブログを作っている人が読めば、多少はブログ活用のヒントになるかもしれない。

人とお金が集まるブログ作りの秘伝書  石崎秀穂

 長ったらしく、大仰なタイトルなので、何となくいかがわしい臭いがするが、内容はかなり充実している。

人とお金が集まるブログ作りの秘伝書 Book 人とお金が集まるブログ作りの秘伝書

著者:石崎 秀穂
販売元:シーアンドアール研究所
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 内容を要約すると、次の通り

  ブログとは何んなのか
  アクセス数のアップ方法
  リピーターを増やす秘技
  文章作法について
 ● ブログで收入を得るには
  困ったときの対処法

 この一冊でブログの全てが判るという位、欲張な内容である。ブログ初心者から中級者まで、多くのブロガーの入門書として最適かもしれないね。
 ちなみに著者の石崎氏は、脱サラ後にブログ等で月收45万円を得ているという。従って、実践的なブログノウハウ本ともいえるだろう。

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2006年5月10日 (水)

美亜へ贈る真珠

  梶尾真治の短編はかなり好評である。ただ彼の書く短編には、二通りの風味がある。一つは筒井康隆流のドタバタ味、いま一つは叙情詩のようなリリカル味だ。僕の好みは、断然後者のリリカル味であり、幸い本作もそれに属していた。

美亜へ贈る真珠―梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇 Book 美亜へ贈る真珠―梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇

著者:梶尾 真治
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 本作では、未来だけに一方通行する航時機に乗ってしまった恋人を、外から何十年も見つめ続ける女性の切ない恋心を見事に描いている。このお話の中では、彼女が彼にもらった『真珠』の存在がキーになっている。そしてラストのどんでん返しも、この『真珠』によって表現されているのだ。
 なんと切なく美しい小説なのだろう。だがこのラストの描写の中で「七色に輝く真珠は殖え続けていたのです。」という記述が、何度読み返してもどうしても理解出来なかった。航時機の中での時間の経過が異常に遅いので、落ちてゆく真珠の残像がそう見えるのだろうか。自分の貧弱な読解力に、ちょっと悲しくなってしまった。
 本作は短編集『地球はプレイン・ヨーグル卜』に収められていたが、その中に本作と似た味がする『詩帆が去る夏』も掲載されている。こちらはタイ厶テーマではなく、愛する女性のクローンを育てる話だが、本作よりも判り易くもっともっと切ないお話だった。

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2006年4月18日 (火)

地下鉄(メトロ)に乗って

 直木賞『鉄道員(ぽっぽや)』を書いた浅田次郎が、吉川英治新人文学賞を受賞した作品である。
 過去にタイムスリップして、自殺した兄を助けに行ったり、反目している父の若かりし日を訪ねるため、「戦後」、「戦中」、「戦前」、「戦後」・・と時間軸を行ったり来たりする。

地下鉄(メトロ)に乗って Book 地下鉄(メトロ)に乗って

著者:浅田 次郎
販売元:講談社
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 ところで地下鉄のことを「メトロ」と呼ぶのはフランスであり、イギリスでは「チューブ」とか「アンダーグラウンド」、アメリカは「サブウェイ」で、ドイツでは「ウーバーン」と呼ぶらしい・・・。日本では「メトロ」という言葉が一番馴染んでいるし、なんとなくそこはかな郷愁さえ感じてしまう。ことに銀座線丸の内線には、ピッタリの呼び名であろう。
 さてこの話を読み始めたときは、古い地下鉄の出入口が、『タイムトンネル』になっていると思っていたが、どうもそうではないらしい。家で眠っているときにも、タイムスリップしてしまうからだ。
 結局なぜタイムスリップしたのか原因も判らずじまい、もしかすると全てが主人公の妄想か、夢だったのかもしれない・・。しかしもしそうだとすると、何故「みち子」が登場したのか説明し辛くなってしまう・・・その辺りは曖昧であり、エンディングも余り歯切れが良くなかった。
 どうして浅田次郎の作品は、いつも切なく救われない話が多いのだろうか。確かにこの小説はSF的な手法を使ってはいるが、実は似たもの同士の「父と息子の確執と苦悩」を描いた心理小説と言えないこともない。
 そしてこの場合、「みち子」の存在は、嫌悪していた父と同様に、主人公も愛人を持ちたいという願望が作り出した妄想だったと、解釈するしかないだろう。そしてそれを皮肉な結末と結びつけると、主人公の父に対する激しい愛憎と情念を体中に感じてしまうのだ。
 確かに父と息子の関係は難しい。息子にとって父親は、なくてはならない存在なのだが、父親がその存在感を示せば示すほど、若い息子は父を恐れたり憎んだりするものである。
 やがて父が死んで息子が成長したときに、初めて父の偉大さを知り、父を尊敬する時が来るだろう。さてさて父親とは、なんと報われない存在なのだろうか・・・。

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2006年4月 9日 (日)

未来(あした)のおもいで

 工藤静香主演の『未来の想い出』という、やはりタイムスリップものの映画があるが、それと本作品は全く別物なので間違えないで欲しい。本作は『黄泉がえり』の原作者である梶尾真治の、SFファンタジー小説である。
 デザイナーの滝水浩一と、27年後の美女「藤枝沙穂流」は、白鳥山頂で突然起こった時空のゆがみに巻き込まれ、時を超えてめぐり逢うことになる。そのときは時空を超えたことにも気付かず、短かい会話を交しただけで別れるが、それぞれが元の世界に戻ると、お互いに忘れられない存在となるのだ。

未来(あした)のおもいで Book 未来(あした)のおもいで

著者:梶尾 真治
販売元:光文社
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 ただいつも未来と過去の時空が繋がっている訳ではないので、その後はなかなか逢えない。ところが山頂のある場所だけは、時空が重なっているのか、物だけは時空移動が出来るのだった。
 そこで二人が考えたのが、箱の中に手紙を入れて、「時空文通」をすることだった。どちらがパクッたのかは不明だが、このアイデアは韓国映画『イルマーレ』と全く同じなのである。
 このストーリーの後半、27年後の世界で沙穂流が、滝水の友人だった長者原という初老の男に会った時点で、全ての結末が推測出来てしまった。もう少しドキドキ・ハラハラさせて、ラストにどんでん返しがあっても良かったのではないか。余りにも予想通りにサクサク進んでしまったのが少し残念だ、もうひと捻りの工夫が欲しかった・・・。
 文庫本で239頁、そのうえ活字が大きく行間もゆったりしている。その上、平易で判り易い文章なので、通勤の行き帰りで、あっという間に読破してしまった。
 多少もの足りなさを感じたが、タイムスリップものが好きで、清潔な純愛に憧れている人なら、爽やかな感動を味わうことが出来るだろう。

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2006年4月 5日 (水)

沖で待つ

 平成十七年度下半期の芥川賞受賞作品である。大手住宅機器メーカーの総合職OLと、同期の男性との間でかわされた『ある約束』を描いたお話。
 選考委員のセンセイ方の中に、この作品の中に「新しさ」を発見したと、べタホメ論評を書いている人がいたが、思わず失笑せずにいられなかった。昔、出版社に籍を置いていたので判るのだが、純文学指向の作家センセイは、世間知らずが多い。ほとんどのセンセイ方が、上場会社とかサラリーマンとか、OLのことなど何も知らないのだ。

沖で待つ Book 沖で待つ

著者:絲山 秋子
販売元:文藝春秋
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 確かに読み易く、筋立ての構成は上手であるが、内容については「新しさ」どころか古臭いくらいである。この小説にある同期男女間の友情などは、大卒女子が急増したバブル期頃から、よくあることであって、ことさら珍しいことではない。ストーリーもOL時代の思い出話を、多少脚色したような臭いがする。まぁ純文学とは、昔からそういうものだ、と言われれば、ごもっともと、挨拶するしかないのだが・・・・
 またこの手の話は、OLの書いているブログを見れば、ゴマンと出てきそうである。タイトルの『沖で待つ』というネーミングだけは、芥川賞らしいのだが、そのイメージとはほど遠い内容であった。それでも最近の受賞作の中では、まだまだましなほうであろう。
 芥川賞といえば、青年時代に憧れの的であったが、この程度の作品で受賞出来るのだから、その権威も地に落ちたものだ。
 選考委員の一人である石原慎太郎の言うように、作品の全体的なレベルが下がっているのか、あるいは選考委員側の選考レべルが下がっているのかは、ノミネートされた全作品を読めない私達には知る由もない。
 かなりキツイレビューになってしまったが、決して絲山さんを非難するつもりで書いた訳ではないので、誤解無きようお願いしたい。・・・どちらかと言うと、選考委員と主催出版社に対する、小人物のいいがかりだと思って欲しい。

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2006年4月 1日 (土)

理由

 さすが直木賞受賞作である。宮部流の情報収集力は、いつもながらと感心するが、本作品はそれに加えて複雑な人間関係を見事に収束している。それはいくつかの河の流れが、次々と本流に引き込まれ、ついには大海の渦潮に吸い込まれるが如くであった。
 ストーリーは、「高級マンション家族全員殺戮事件」の犯人らしき人物が発見されるところから始まる。そして殺害された人々や、犯人及びその周辺の人々の家族関係を克明に描いてゆく。

理由 Book 理由

著者:宮部 みゆき
販売元:新潮社
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 また文体のほうも、事件の全貌を知っている記者が、事件の細部にわたってまとめたレポートを、再度一つ一つ丁寧に検証してゆく・・・というようなスタイルをとっている。従って、ところどころで、インタビュー形式の会話が織り込まれるというような、新趣向に最初は多少戸惑ったが、慣れるとなかなか面白い手法だと思った。
 さてここまでの紹介文を読めば、誰でもこの作品が社会派ミステリー小説であることは、すぐに察視がつくだろう。ただし「犯人探し」や、「犯行の動機」については、途中でほぼ見当がつくので、ラストでの種明かしには、さほど驚かない人が多いかもしれない。
 ところがこの作品は単なるミステリーではなく、マンション殺人事件を源流として、そこに関わるいろいろな家族の心情を描き、「家族とは一体何だろう」という命題について、強烈なメッセージを送っているのである。
 また家族の中でも、殊に「親子」の関係について深くメスを入れている。親がいるから自分もいるのだが、私も青春時代に「生まれたくて、生まれた訳ではない、何故生んだんだ!」などと馬鹿なことを言って母を悲しませたことがあった。
 小さなときは父母の存在が全てであるが、ある程度一人立ち出来るようになると、口うるさい親が段々疎ましくなってくるのは、世の習いなのだろうか。だからと言って一人で暮らすのは、淋しいし不経済である。ましてや最近の子供達は、一人一部屋を与えられ、TVやケータイなどの小道具も所持し、ある程度の自由を既に手に入れてしまっている。
 また親のほうの立場からしても、自分自身の自由だけのために、家族を捨てて家を出るわけにはゆかない。それは会社を捨て、社会から非難され、友人や財産も捨てることになるからである。
 従ってこの物語に登場する数人については、かなり追い詰められた事情があったことになる。その中には、生まれながらに不幸な運命を背負った者もいるが、ちょっとした考え違いから、いきなり不幸のどん底に突き落とされた者もいる。
 そう言う意味では、今日迄は幸せな私や貴方も、何かの拍子に明日から急に不幸に襲われるかもしれないということなのだ。なにが怖いかといえば、それが一番恐ろしいことなのである
 細かいところまで良く調べあげ、人間の持つドロドロとした部分を巧みに描いた素晴しい作品なのだが、一つだけ納得出来ない部分があった。それはこの小説の中核ともいえる『マンションからの墜落死』の原因である。ボロアパートならともかく、セキュリティーの整った高級マンションで、そんな簡単な力でべランダから振り落とされるものなのだろうか・・・ということである。
 最後に、間違いではないのだが、この小説を展開させるための要となった『短期賃貸借制度』が近年廃止されたので、その経緯などを簡単に書いておく。

 民法改正のきっかけは、この小説同様『短期賃貸借制度』を悪用して、競売による売却を妨害するケースが頻繁に続き、入札参加者が激減したためである。
 法の施行日は、平成16年4月1日であり、この改正により、「抵当権が登記された後に賃借契約が結ばれた場合」は、その賃借の期間に関わらず、賃借人は買受人が所有権を取得した時点より、無条件で6ヶ月以内に明け渡しをしなければならないことになった。

  更に宅建業者は、この内容について重要事項説明書の中で、必ず説明しなければならなくなったのである。

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2006年3月19日 (日)

この胸いっぱいの愛を 

『本と映画のランデヴー第五弾』 であります。映画、マンガ、小説の順で見ましたので、その順番に従ってレビューしてゆきましょう。

映画は映画館で観たのでもう半年近く前になります。 ★★★☆

 ある場所から、4人の男女が同時に20年前の世界にタイムスリップする。その4人は、どうしても過去に戻ってやり直したいことがある・・・ということで共通していた。

この胸いっぱいの愛を -未来からの“黄泉がえり”- DVD この胸いっぱいの愛を -未来からの“黄泉がえり”-

販売元:ビデオメーカー
発売日:2005/09/22
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 1人は盲導犬と離れ離れになってしまった老女であり、2人目は過去に他人の花壇を壊したまま、謝り忘れてしまった世界的に著名な学者である。そして3人目は、出産と同時に母親を亡くしてしまった暴力団のチンピラで、全員が過去にやり残したことを成し遂げると、元の世界か何処かへ消えてゆくのだ。
 最後の4人目が主人公(伊藤英明)で、彼が少年時代にあこがれていた近所のお姉さん(ミムラ)に逢うことになる。このお姉さんは、天才バイオリニストなのだが、主人公の少年時代に病気で死ぬことになっている。
 なかなか興味深いテーマであり、感動的なシーンも多く、子役も含めて出演者それぞれが、持ち味を生かした良い作品であった。とくにミムラが、とても魅力的な女性になり切っていたと思う。また中村勘三郎、賠償干恵子などの大物が、チョイ役で出演していたのにもちょいと驚いた。
 ただ時間テーマものとしては、設定にかなり無理があったし、反則技も乱発していたのが気に入らない。
 過去の自分に会うことは、タイムパラドックスを引き起こすためタブーのはずだが・・・最初から最後まで自分と一緒に暮らすのだから、かなり安易な設定ではないか。
 そもそもそんな過去があれば、現在の行動には繋がらなかったはずだから、主人公のストーリーは成り立たないのだ。
 また過去を変えれば、現在も変わるはずだが、何も変わっていない(あるいは説明不足か)のも納得しかねた。それに、あれ程慕っていたお姉さんと、いつの間にか疎遠になってしまったパラレルワールド?も、矛盾を感じるし、余り気分が良くはなかった。
 もっと上手な種明かしが出来ないところに、この監督の限界を感じる。更には、観客サービスのつもりで挿入したような、ラストの天国らしきシーンも余計な一幕ではないだろうか。

「さてマンガ版のほうです」
 映画が上映される前に、少女マンガに連載されたため、ネタバレを配慮して2部構成とし、メインの『バイオリンのストーリー』は2部に回わしていた。

この胸いっぱいの愛を Book この胸いっぱいの愛を

著者:河丸 慎,「この胸いっぱいの愛を」製作委員会
販売元:小学館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 1部のほうは、その他の人のストーリーに、マンガ家のオリジナルを加えた形だった。それで初めは、『何だ映画と全然違うじゃないか!』とちょっぴり腹が立ったが、あとがきを読んで納得した。
 僕はそもそもが、少女マンガのデザイン画のような、硬くて個性の無い絵が嫌いなので、そのあたりの印象は余り良くない。だが映画とも原作とも多少異なっていたので、それなりに味があり楽しめたと思う。

 「そして最後に小説版でございます」
 正式な原作は『クロノス・ジョウンターの伝説』で、それを同著者が映画化を睨んでノべライズとして、アレンジしたものらしい。
 従ってストーリーは、ほとんど映画と変わらなかったが、重要な部分が映画では省略されていたり、変更されていたことが判った。

この胸いっぱいの愛を Book この胸いっぱいの愛を

著者:梶尾 真治
販売元:小学館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 映画ではタイムスリップしたのが4人だったが、小説のほうでは6人だったのだ。正確にいうと、省略された2人はカップルだったので、お話としては1つのストーリーがカットされたことになる。たった1つのストーリーだが、このお話は、5つのストーリーの中でも2番目に素晴しい話で、泣ける話でもある。そして、このストーリーの拠点となる鈴谷旅館とも接点を持つし、ラストの展開にも影響することになるのだ。
 もう1つはラストシーンが、大きく異なっている。映画では大不評だったラストと異って、小説のほうは実に見事な締めくくりを施していたと思う。
 それから映画の中では、タイムスリップやパラドックスに関わる理論が全くなかったが、小説のほうでは、多少無理はあるものの、それなりに納得出来る理論をちりばめていた。さすが小説は素晴しい・・・というよりはこれを映画化した監督のセンスのなさに、改めて呆れてしまった。タイムパラドックスを扱った似たような映画といえば、『いま、会いにゆきます』があり、これも映画、マンガ、小説のハシゴをしたが、こちらは映画に軍配をあげたい。原作ものでも、作り方次第で映画が勝つことも出来るのである。

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2006年3月14日 (火)

五分後の世界

 まずこのタイトルに惹かれ、しかも著者が村上龍であることを知り、この古い本を読む決意をした。
 文庫でわずか293頁の作品なのであるが、主人公は初めからいきなり訳の分からない戦場で、国連軍とアンダーグラウンドとの戦争に巻き込まれてしまう。そして主人公の名前が、小田桐ということ以外は全く固有名詞が出てこないのである。

五分後の世界 Book 五分後の世界

著者:村上 龍
販売元:幻冬舎
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 そもそもここでいう国連軍が、我々が知っている現在の国連軍なのかも判らないうえ、「アンダーグラウンド」なんぞというのは聞いた事もない。スターウォーズの悪の帝国を真似たのだろうか・・・
 そして主人公の小田桐は、訳の判らない戦闘と労働を強いられるが、彼の周囲にいる人間のほとんどが混血で、日本人は26万人しか存在しないという。さらには、オールドトーキョーだのオサカなどというスラム化された町があるという。もしかすると核戦争で人類はほぼ絶減し、わずかに残ったミュータントのような人間達が、性懲りも無くまた戦争をしているのか?それでオールドトーキョーは昔の東京のことで、オサカは大阪のことなのだろうか?・・・
 などと考えるうちに戦闘シーンが激しくなり、体中が燃え尽きたり、手足や顔が肉片となり吹き飛んで、死体の山が積まれてゆく。
 一体何で、こんな所にいるのか、何故こんな戦いをしているのか、小田桐は何物なのか、何も判らず説明もなく、ただただ残酷な殺戮シーンだけが延々と121頁まで続くのだ。
 これではまるで、SFアクション映画ではないか!これは小説なんだろ、しかも芥川賞作家の村上龍の作品だよな!それに彼は、あとがきで最高傑作と自我自賛しているではないか、「そのうちきっと面白くなるのだ・・・」自分に何度もそう言い聞かせながら、ブン投げたくなる気持ちを押さえながら、シンドイ気分でページをめくり続けた。
5_6  121頁まで延々と続いた戦闘シーンがやっと一段落し、第5章「アンダーグラウンド」へ進む。小田桐はここから文字通り、地下にある「アンダーグラウンド」という世界へ連れてゆかれる。そしてここで、この世界の正体を知ることになるのだ。
 小田桐が現在いる世界は、『五分後の世界』というよりは、なにかの拍子に迷いこんでしまった『パラレルワールド』だったのだ。そしてその世界では、今迄彼が住んでいた世界とは5分間のズレが生じていた・・・ということなのだが、なぜ5分間のズレがあるのかは、結局最後まで全く不明であった。詰るところラストシーンで『ある決心』をすることを、示唆するための一種の小道具に過ぎなかったのだろうか。
 さてこの『パラレルワールド』は、大平洋戦争で日本が広島、長崎に原爆を落とされても、連合軍に降伏しないまま、さらに小倉、新潟、舞鶴にも原爆を投下され、それでも降伏せずに、延々と戦争を続けている世界だったのだ。
 そして本土は、続々と連合軍に占領され、わずか26万人になってしまった日本人達は、地下2000mに逃げ込んで、そこに小都市を創ったという。それが「アンダーグラウンド」と呼ばれる場所なのである。それでも彼等は、依然としてゲリラ戦を続けて、連合軍との戦いを辞めようとしないのだ。
 しかも天皇は、スイスに逃れているという。一体日本人は何のために、そこまで戦いを続けるのか。それはアインシュタイン博士に言わせると、『自由と勇気とプライド』のためなのだそうだ・・・
 まるでアラブ系の自爆テロ集団や北朝鮮のようではないか。おそらく平和ボケした、現在の日本人達に対する痛烈な皮肉なのだろう。
 ところでこの辺りから、やっとこの世界のバックグラウンドが見え始め、この小説の行く末が気になり出すのだ。そして美人将校のマツザワ少尉の登場や、その家族達の生活や慣習を知るうちに、一瞬なんだか懐かしく、心良い気分になってしまった。
 その後「アンダーグラウンド」に住む世界的ミュージシャンであるワカマツのコンサートが、オールドトーキョーで開催されることになり、小田桐は護衛兵とともに「アンダーグラウンド」を出発する。これは小田桐を元の世界に戻すための旅でもあったのだが・・・
・・・・・
 そしてまた100頁以上の暴動と戦闘が、ラストまでいやと言うほどしつこく続くのである。せっかく新たなる展開に、心を弾ませた僕が甘かった。もう勘弁してくれと、祈るような気持ちで、やっとこの小説を読み終わったときは、精魂尽き果てて、くたくたになってしまった。
 著者の強烈な信念と、チャレンジ精神には脱帽するが、もうこんな実験小説にはつき合いたくない。
 ところが巻末の解説文で、渡部直已氏は、「作者が主人公の内面について一切説明せずに、ひたすら戦闘場面にのみ直面させられ続ける状況」を次のように語り、この作品を絶賛している。
『すなわち、主人公の決定的な改心(コンバート)を、戦闘描写(コンバット)の異様な持続そのもののなかから引きだそうとすること』
 ・・・さすがにプロの評論家は、するどい視点と臭覚と文体を駆使して、ゼニのとれるレビューを創り上げるものだと感心してしまった。

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2006年3月 9日 (木)

赤目四十八瀧心中未遂

『本と映画のランデヴー第四弾』   タイムリーじゃなくてすみません・・・

 尼ヶ崎でどん底の生きざまを続ける二人の男女のやるせなさが、心にひしひしと伝わって、久し振りに胸にジ~ンと響いた純文学小説でした。

赤目四十八瀧心中未遂 Book 赤目四十八瀧心中未遂

著者:車谷 長吉
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 一昨年一部のマイナーな映画館で上映され、寺島しのぶが日本アカデミー主演女優賞を受賞したと思います。劇場で見逃してしまったので、是非ビデオ化されたら観ようと思っています。

★★★★ ・・・ということでDVDを観てみましたよ!

 車谷長吉の純文学小説を、ここまで忠実に描いた脚本を絶賛したいと思います。
 また一昨年の日本アカデミー主演女優賞に輝いた、寺島しのぶの大胆な演技にも拍手を送りたいと思います。彼女は見事なプロポーションを持っていますが、決して絶世の美女ではありません。でもそのアンバランスな魅力が、尼ヶ崎という地域にマッチしていました。

赤目四十八瀧心中未遂 DVD 赤目四十八瀧心中未遂

販売元:ビデオメーカー
発売日:2005/02/22
Amazon.co.jpで詳細を確認する

  たださすがに、小説のように心の葛藤を詳細に描くことは難しかったと思いますが、逆に赤目四十八滝の神秘的な美しさは、映画でしか描けなかったと感じました。そしてその神がかりな風景の中に、心中に向かう2人の心象が溶けこんで、原作に勝るとも劣らない、見事な作品に仕上がっていたと思います。
 残念なことに、まだまだこのような作品は、メジャーには乗せられず、一部のミニシァターでしか上映されないのが実情であります。是非DVDで堪能してみてください。

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2006年2月23日 (木)

魂萌え

 どうにも変なタイ卜ルだが、世間知らずの専業主婦敏子が、早過ぎた夫の死を乗り越えて、一人でたくましく生きてゆこうと決意する迄を描いている。と言えば、この妙なタイトルの意味が、なにげに理解出来るだろう。

魂萌え ! Book 魂萌え !

著者:桐野 夏生
販売元:毎日新聞社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 この小説の登場人物は、主人公の長男夫婦と長女夫婦、高校時代からの3人の友人達、そして亡夫の愛人と蕎麦打ち仲間達と、まるでホームドラマそのものだ。そしてストーリー展開も、日常的でたわいのないお話ばかりに終始するのである。唯一カプセルホテルでの、『風呂婆さん』との出会いシーンだけが、桐野風味を感じさせてくれたぐらいだ。ほんとに桐野夏生さんが書いたのかと、疑りたくなってしまう内容なので、トリッキーな話を期待すると裏切られるだろう。。。
 だからといって断じてつまらない小説ではない。それに専業主婦の中年女性達の中には、自分にも身に覚えがある人が多いはずだから、かなり共感を得られるはずである。
 ただ男の立場から見ると、この主人公の煮えきらないグズグズした対応と、世間知らずでバカのつくお人好し加減には、かなりイライラさせられ腹が立ってくるのだ。実際に中年の専業主婦って、皆こんなにも頼りないものなのだろうか・・・。きっと旦那が元気なときは、とくに困ったこともなく、平々凡々と過ごしているうちに、子育てと家族の食事の支度以外は何も出来ない女になってしまうのかな。だから『オレオレ詐欺』や『蒲団セールス』などの餌食になってしまうのだ。
 今の若い女性には少ないと思うが、いわゆる戦前派でそこそこ裕福な人々は、男も女もこういうつぶしの利かない、お人好しが多いのだろうか・・・と言ってみたものの、自分も傍から見れば五十歩百歩なのかもしれないな・・・。ははは。
 かなり厚い本なので、通勤時には荷物になって肩が痛くなってしまった。この話は、特に大きな盛り上がりもなく、主人公が一人で強く生きてゆくことに目覚めたところで終わってしまうため、読了後の充実感も薄く、何となく中途半端な気分のままである。このあと続編を書いて、連続TVドラマに仕立てれば、かなりヒットするのではないだろうか。
 ただこのような小説は、僕のようなおじさんではなく、同じ悩みを持つ、同年代の専業主婦が読むべき本なのだろうな。

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2006年2月19日 (日)

異人たちとの夏

本と映画のランデヴー第3弾は山田太一の小説から始まりました。

 かなり昔出版された山田太一の小説で、確か映画も上映されていたはずである。なにしろ出だしから最後迄ずーと面白いし、文庫本で220頁の薄い本なので、あっという間に読み終わってしまった。
Scan10023  内容は荒唐無稽でちょっと変わった作品だが、SFやホラーというジャンルではなく、純文学でもない。そこには山田太一ワールドが広がっていた、というより言いようがない。登場人物は死んだはずの父母と、恋人、友人、別れた妻と圧倒的に少ないのに、なんとなく賑々しい感じがするのも不思議だ。
 それは自分よりずっと若い父母と、浅草の街の取り合せが、実にしっくりとしていて、陽だまりのようなノスタルジーを肌に感じたからであろう。
 この若い父母は主人公が小さい頃に、交通事故で亡くなったはずなので、結局は幽霊ということになるのだが、どちらかというと主人公が異世界へ迷い込んだと言っても良いかもしれない。
 私も父が亡くなった年令を一回り以上超えてしまったし、母の年令を超えるのももうあと僅かである。それで他人ごととは思えず、まるでこの小説の中で、自分自身も亡父母に巡り会ったのかと錯覚し涙涙の嵐なのだ。
 それにしても昔の人はしっかりものだったなぁ。30才を過ぎれば皆一人前の大人だったし、うだうだ言わずによく働いていたと思う。だから父親は頼りがいがあったし、反面怖い存在でもあった。一方母親は優しく、自分の事よりいつも夫や子供のために生きていたものだ。
 この作品に登場する亡父母に、自分の亡父母の影が重なり、私の心も父母が生きていた時代に跳んでしまった。こうなったら、もう涙が流れ出して止まらないのだ。ただ同時進行する、胸に火傷の跡がある女との恋は、せつなくもの悲しい。そしてラストには、用意周到なドンデン返しが待ちかまえているのである。
 この手のお話を理解するには、少なくとも40年位の人生経験を積んでいないと辛いかもしれないが、きっと若い人達にも何かを感じるところがあることだろう。

さて次は映画のほうです  ★★★

 山田太一の小説を読んでから、この作品が映画化されていることを知った。監督はファンタジー作品の大御所である大林宣彦監督で、主演は風間杜夫、恋人役に名取裕子、父親役は片岡鶴太郎、そして母親役に秋吉久美子と、ハマリ役揃いである。これではこの映画を観ない訳にはゆかない。ただこの映画が上映されたのが、1988年と古過ぎるため、レンタルビデオ店で探し出すのが一苦労だった。

異人たちとの夏 DVD 異人たちとの夏

販売元:松竹
発売日:2005/12/03
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 映画の良いところは、昔ながらの浅草の街並や寄席の雰囲気を、ほのぼのとした映像で表現出来たことだろう。母役秋吉久美子のアッパッパーやシュミーズ姿には、古きよき時代の懐かしさを感じて泣けてしまった。また自分より若いが頼りになる父役を、片岡鶴太郎がこの人しかいないという程見事に演じている。
 この映画は原作に忠実で、ほぼ原作通りの展開なのだが、二つの大きな問題点があった。
 ひとつは皆さんが指摘している通り、名取裕子と別れるシーンだ。あれは酷すぎる!せっかくすき焼き屋で流した熱い涙が、一辺に乾いてしまったではないか。そしてその時点で、B級ホラー映画に転落してしまったようだ。一体大林監督は何を考えていたのかと、首を傾けざるを得ない。
 もう一つの問題点は、主人公が離婚して一人息子ともしっくりせず、狭いマンションで1人寂しく暮らしていた・・・というバックボーンをじっくり描いていないことである。この重要な事実を省略してしまったことは、致命的なミスである。つまり主人公のこうした心理的な疲労感がなければ、異人たちを呼び起こすこともなかったからに他ならない。

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2006年2月14日 (火)

蒲生邸事件

 やっとこの分厚い本を読み終わった。頁数は425頁だが、小さい字で2段に組んでいるので、実質は約800頁近くあるのではないか。
 ストーリーのほうは、予備校受験中の主人公孝史が、ひょんなことから昭和11年にタイムスリップしてしまい、そこで二・二六事件と絡んだ、蒲生邸で起きた『ある事件』に巻き込まれる・・・という流れである。

蒲生邸事件 Book 蒲生邸事件

著者:宮部 みゆき
販売元:毎日新聞社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 あとがきで著者も述懐しているが、二・二六事件については、深く掘り下げて研究しているわけではないし、それ自体をテーマにしている訳でもない。あくまでも、運命の4日間の中で『蒲生邸に起きたある事件』と、『蒲生邸に住む人々の奇妙なお話』がメインテーマであり、二・二六事件はその伏線に過ぎないのだ。
 またタイトルから想像すると、『クラシカルミステリー』の趣が漂ってくるのだが、この小説が日本SF大賞を受賞していることからも、タイムスリップに照準を合わせていることがわかる。 ただ本格的時間テーマSFとするならば、その理論構成やストーリー展開にもう一工夫して欲しかった。
 例えば主人公が現代に帰る場合に、昭和11年と同時間が経過しているというのも説得力がない。これでは1年単位のタイムスリップしか出来ないことになるが、そのことの説明が全くなかったと思う。
 また個人レべルの小さな過去は変えられるが、歴史の大きな流れは変えられない、とする理論にはそれなりに納得するが、それでも過去を変えた場合は、パラレルワールドの存在を無視することは出来ないはずだ。しかしこの小説ではパラレルワールドについては、一切触れていない。それならば、いっそ小さなことであっても過去の事象は、一切変えられない・・・ということにしてしまったほうが、正解だったのではないだろうか。
 宮部さんの作品には、ミステリーやらSFやら社会派推理やらの多重ジャンルものが多いので、今回もたまたまSF大賞を受賞ものの、やはりジャンルの定まらない作品だったのかもしれない。また読者がタイムスリップ理論にうるさくこだわる人でなければ、どうでも良いことだし、そもそも過去へのタイムスリップ自体が、あり得ない事象なのだからむきになるな、と反論されればそれまでである。
 SF的にはつっこみ処が多いものの、全搬的には良く出来た小説だと思う。前半の約1/3は、淡々とした展開に少々退屈だったが、孝史が『美少女ふきの末来を救う』ことを決意するあたりから、俄然心のエンジンが全開となってしまった。
 ラスト近く、過去と現代が繋がる部分の描写で、広瀬正の『マイナスゼロ』や、米国映画の『ある日どこかで』を思い浮べる人がいたら、かなりのSF通であろう。
 とにかく宮部さんの粘り強い情報収集力には、いつもパワーを感じるし、情報とストーリーとの巧みな融合センスには、いつも驚き感心してしまうのだ。

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天使がいた三十日

 大きな字で、行間も広くページ数も少ないので、小一時間もあれば読み終わってしまうだろう。読み易いので、マンガ感覚で早読みしたい人や、読書が苦手な人にはお勧めしたい。

天使がいた三十日 Book 天使がいた三十日

著者:新堂 冬樹
販売元:講談社
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 最愛の妻を亡くした作曲家が、突然の妻の死によって、生きる希望と活力を失い、作曲の仕事を捨てて、運送屋やラーメン屋を転々とする。
そしてクリスマスイヴの寒空の下で、『凍え死』しそうになるのだが、マリーという雌犬によって助けられる。それが彼とマリーの共同生活の始まりだった。
 マリーに死んだ妻が乗り移ったのか、彼が無意識にマリーに妻の面影を被せてしまったのか、マリーはまるで亡くなった妻のような行動をする。ここで動物のけなげさと、亡妻の限りない愛が重って、一気に涙腺が緩んでしまうのだ。事実私も、電車の中にも拘わらず、涙と鼻水に咳まで絡んで、身体の中までがグシャグシャになってしまったのだから。
 この小説は登場人物も少ないし、物語の展開も単純だ。そのうえバックボーンに重いテーマもないし、十分な情報収集もしていない。まるで長い長い詩のようなメルへン小説である。そのせいか、なんとなく女子校の文芸部員が書いているような感じがしてならなかった。
 素人にでも書けそうな小説だが、泣かせるツボだけは押えていたと思う。判り易いので、TVドラマにしたらヒットするかもしれない。

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2006年1月14日 (土)

リプレイ

 アメリカの小説ですがケン・グリム・ウッドの「リプレイ」は読みましたか?
『ターン』が毎日の繰り返しであるのに対して、「リプレイ」は1生の繰り返しなんです。43才になると突然死んでしまい、18才の若者時代の自分に過去の記憶を失なわずに戻る。

リプレイ リプレイ

著者:ケン・グリムウッド
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ・・・そしてまた43才になると死亡して再び18才の若者時代戻るということを繰り返すので、何度も人生をやり直せるし、大きなギャンブルや株価などは、記憶している限り大儲けも出来るし、美女もおもいのまま!といった痛快なお話です。
 余りこれを繰り返しても退屈しますが、程よい時期に同じようにリプレイを繰り返す美女と出合ってから、ストーリーは俄然お面白くなり、一体結末はどうなるのか非常に気になり始めます。
 同じ新潮社から日本版にリメイクされたコミック「リプレイJ」も出ていますが、やはり原作本には遠く及びません。時間があったら是非一読してみて下さい。自信を持ってお勧めします。

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読みたい本の入手先

 最近出来た図書館はいいですね。夜8時頃まで開いているし、駅前で便利だし、広くて綺麗で、ビデオやCDも借りられますからね。
Photo  ただ困ったことに人気作品や人気作家の小説はいつも貸出中で、予約しても順番が回わってくるのに1年位かかる場合があります。
 そこで本の種類ごとに、お得な入手方法をまとめてみました。
1.仕事に必要な本
これは会社が金を出してくれるのだし、最新情報が必要であり、常備したいので、間違いなく本屋で買うでしょう
2.1~2年前の大べストセラー本
増刷し過ぎて余ったのか、多分闇ルート経由だと思いますが、ブックオフなどで100円で平積みしていることがあります。
3.コミック
 最近のコミックは長編が多く、全30巻なんていうものもザラにあるので、普通に買っていては大変な出費になってしまいます。それでなんとか安く手に入らないかを考えます。
手塚治虫など優良なコミックは、図書館で借りられますが、そうでないものは、やはりブックオフなどで100円で売っているものを狙うか、マンガ喫茶や貸本屋(最近一部のブック・オフでも始めた)などを利用してみるのが常套手段でしょうね。
近い将来はインターネットを経由した、貸本デマンドが主流になるような気がします。
4.情報本
 これは保存しておきたいし、新しい情報でないと意味がないので本屋で買うのが一番ですが、インターネットで検索すれば本よりも役立つ情報がゾロゾロと手に入る場合がありますので要注意。
5.小説
 狭い自宅に保存するのも、金を出すのももったいないので、これこそ図書館から借りるのが王道であります。
 但し先に述ベた通り、新しい大きな図書館では、人気作品や人気作家の小説はいつも貸出中なので、会社の近くの古い図書館や公民館にある小さな図書館のほうが、手に入り易いでしょう。

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