お遊さま
★★★☆
製作:1951年 日本 上映時間:95分 監督:溝口健二
日本映画史において“三大巨匠”の一角を占める溝口健二が、国際的評価を確立する以前に手がけた一作である。監督自身のフィルモグラフィの中では、やや影の薄い作品といえるかもしれない。
原作は谷崎潤一郎の名篇「芦刈」。脚本は「お艶殺し」「春怨」などで知られる依田義賢。主演に田中絹代と堀雄二、脇を乙羽信子、柳永二郎、進藤英太郎らが固める、当時としては堅実な布陣である。
田中絹代演じるお遊さまは、小曽部家から金満家・粥川家へ嫁いだものの、間もなく夫と死別する。だが一人息子の養育を条件に、嫁ぎ先に留まり、贅沢と遊芸に身を委ねることを許された特異な境遇の女性である。
ある日、妹のお静が芹橋慎之助と見合いをすることになり、お遊さまは付き添いとして同行する。ところが慎之助は、お静ではなく、ひと目でお遊さまに心を奪われてしまう。
導入部の見合い場面では、慎之助が遠くから一行を見つめるショットが印象的だ。スクリーン上でも、お静の姿はお遊さまや侍女の陰に隠れてほとんど見えない。この構図は慎之助の視線をなぞるだけでなく、彼の胸中に芽生えた熱情をも巧みに映し出している。こうした細部への目配りこそ、溝口健二が“名匠”と呼ばれるゆえんだろう。
もっとも、原作に忠実であるがゆえに、奇妙な三角関係の成り立ちや物語の結末は、現代の観客にはやや理解しにくい部分もある。また、作品自体が古いため、音声や映像に多少の乱れが見られたのは惜しまれる点であった。
それにしても、お静を演じた乙羽信子の清純な美しさには驚愕した。ましてこの頃に、誰があの新藤兼人監督の『鬼婆』で裸になって強烈な演技を見せる本格女優になると予想できたであろうか。
評:蔵研人
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