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2026年8月16日 (日)

動物界

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★★★☆
製作:2024年 フランス 上映時間:128分 監督:トマ・カイエ

 狼へと変貌する“狼男”の物語は古今東西くり返し映画化されてきた。しかし本作『動物界』では、人間は特定の獣に限らず、鳥や昆虫など多様な生き物へと変異してゆく。しかもその変化は突発的ではなく、静かに、しかし確実に肉体を侵食し、一度“新生物”となれば二度と人間には戻れない。

 そうした意味で、本作は従来の変身譚とは一線を画している。単なる異形の恐怖ではなく、変貌してゆく少年の揺れる心を真正面から描き出している点が、何より印象深い。

 舞台は近未来。原因不明の突然変異によって、人間の身体が徐々に動物化してゆく奇病が世界中に蔓延していた。変異した者たちの中には凶暴性を帯びる者もおり、彼ら“新生物”は強制的に隔離施設へと収容されている。そしてフランソワの妻ラナもまた、そのひとりだった。

 ある日、“新生物”を移送する車両が事故を起こし、彼らは森へと逃亡する。行方不明となったラナを捜すため、フランソワは16歳の息子エミールとともに奔走する。だがその最中、今度はエミール自身の身体にも異変が現れ始めるのだった。

 エミールを演じた ポール・キルシェ は実に素晴らしい。動物化という異様な設定を借りながら、思春期特有の孤独や不安、そして自己の輪郭が崩れてゆく恐怖を繊細に演じ切っている。また父フランソワを演じた ロマン・デュリス も秀逸だ。単に口うるさく頑固な父親ではなく、不器用ながらも妻と息子を深く愛する男として存在しており、終盤のある決断の場面には胸を強く締めつけられた。

 本作が問いかけているのは、人間と異なる存在は果たして排除されるべきなのか、それとも共存への道はあり得るのか、という問題だろう。そして同時に、変わりゆく家族を、それでもなお愛し続けられるのかという普遍的なテーマでもある。

 異形の幻想と家族のドラマ、さらには社会的寓話をここまで自然に融合させたSF映画は稀有だ。静かな森の気配のなかで、人間という存在そのものが揺らいでゆく────その独創的な切り口には、ただ感嘆するほかない。


評:蔵研人

 

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