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2026年7月 3日 (金)

正欲

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★★★☆
製作:2023年 日本 上映時間:134分 監督:岸善幸

 原作は、第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウの同名ベストセラー小説である。

 本作は厳密な意味での群像劇ではないが、「普通」という社会の基準から外れた欲望や孤独を抱えた人々を、三つの物語を通して描き出している。水に性的快感を見出すという特殊な嗜好を持つ男女、登校拒否となりYouTubeの世界へ逃避する小学生とその家族、そして男性恐怖症の女子学生と孤独な大学生───それぞれが、社会の中で言葉にしにくい「生きづらさ」を抱えながら生きている。

 中でも印象的なのは、新垣結衣と磯村勇斗が演じるパートである。物語の中心ともいえる位置を占め、静かな緊張感を漂わせながら進んでいく。ただし、「水フェチ」という性的嗜好については、観客として十分に理解し得たとは言い難い。なぜそれが欲望として芽生え、どのように快楽と結びつくのか───その心理的背景がもう一歩踏み込んで描かれていれば、物語の説得力はさらに増したのではないだろうか。

 一方、稲垣吾郎が演じる検事は、作中ではむしろ常識的な人物として配置されている。しかし、周囲の人物がいずれもどこか社会の枠組みから逸脱しているためか、彼の「普通さ」自体がかえって奇妙に映る。ここには、作品全体を貫く「普通とは何か」という問いが、さりげなく潜んでいるように思われる。

 それにしても、これほど陰影の深い眼差しを湛えた新垣結衣を見るのは初めてかもしれない。これまでの柔らかな“ガッキー”のイメージとは対照的な役柄だが、年齢を重ねた彼女の演技には確かな厚みが感じられた。

 扱われているテーマは重く、現代社会の価値観に鋭く切り込む問題作である。しかし、映画という限られた時間の中で三つの物語を並行させたためか、それぞれのエピソードが十分に深まりきらないまま終わってしまった印象も否めない。興味深い素材を多く含みながらも、どこか消化不良の感触を残す点は惜しまれる。

 とはいえ、原作小説は未読である。いずれ作品の源流にあたる小説をじっくり読み、この物語が提示しようとした「正欲」の意味を改めて考えてみたいと思う。


評:蔵研人 

 

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