つくみの記憶
著者:白石一文
三十一歳になった松谷遼平は、会社の懇親会でアルバイトの隠善つくみと、はじめてまともに言葉を交わす。すると彼は、説明のつかない奇妙な感覚にとらわれる。少年時代、生死の境をさまよった体験をもつ遼平。その記憶と、目の前にいるつくみの存在とが、どこかで密やかに結びついているように感じられるのである。
やがてある晩、遼平は自宅でつくみと関係を持ち、その最中に恋人・友莉と鉢合わせしてしまう。この出来事をきっかけに友莉は姿を消し、彼女をめぐって不穏な噂が流れ始める。
物語前半は、つくみの強引とも映る行動と、遼平の優柔不断さ、そして結果として裏切られる形となった友莉の苦悩が描かれる。とりわけ友莉の立場に思いを寄せると、彼女の人生が思わぬかたちで揺さぶられていく展開には、やりきれなさを覚えずにはいられない。後に彼女は再び歩み出すが、その再生の描写にはやや性急な印象も残り、十分に感情が熟す前に結論へと導かれたようにも感じられた。
さらに後半では、物語は思いがけず幻想的な色彩を帯び、寓話的とも言える展開へと踏み込んでいく。その飛躍は大胆であり、作者らしい挑戦とも受け取れるが、現実の重みを背負ってきた前半との接続には、やや断絶を覚える読者もいるだろう。結末もまた明確な答えを示すことなく、妙な余韻を残したまま幕を閉じてしまう。
私は白石一文の作品を愛読してきた一人である。だからこそ、本作には強い期待を抱いていた。その期待ゆえにか、読後にはどこか食い足りない感覚が残った。決して凡作ではない。しかし、作品が内包していたはずの深みや必然性が、最後の一歩で輪郭を結びきらなかったように思われてならない。熱心な読者であるからこそ感じた、ほろ苦い物足りなさであろうか……。
評:蔵研人
下記のバナーをクリックしてもらえば嬉しいです(^^♪↓↓↓
↓ブログ村もついでにクリックお願いします(^^♪
| 固定リンク | 0



コメント