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2026年5月の記事

2026年5月30日 (土)

0.5の男

05

★★★★
2023年製作 日本のTVドラマ

 引きこもり生活を続ける雅治は、気づけば40歳。そんな折、両親と妹家族との同居が始まってしまう。これを二世帯ではなく「二・五世帯」と呼ぶのは、独身の雅治が“0.5”として扱われるからだ。彼の居場所は玄関脇の小さな部屋と決まり、そこでゲームに没頭する日々が続く。

 当初は妹家族との接触すら避けていた雅治だが、保育園に通う甥に懐かれるうち、少しずつ心の扉が開いていく。

 引きこもりに限らず、結婚しない(できない)若者が増える現代において、このテーマは決して他人事ではない。さらに妹夫婦の娘は思春期の中学生で、転校を機に不登校に陥ってしまう。現代家族が抱える複雑な悩みが、物語に自然に織り込まれている点も見逃せない。

 雅治が引きこもるきっかけは、会社で受けた上司のパワハラだった。素直で優しい性格が裏目に出てしまったのだろう。しかしその優しさこそが、子どもたちに好かれ、保育士にも好感を持たれる理由でもある。そして甥と担当保育士とのやり取りは、作品にほのぼのとした温度を添えている。

 主役の雅治を演じた松田龍平は、まさに適役と言うほかない。セリフは少ないものの、伏し目がちな視線や、わずかに丸めた背中で心情を語る演技は見事だった。
 母親役の風吹ジュンは、かつての日本の母親像を思わせる包容力を漂わせ、思わず胸が熱くなる。木場勝己演じる父親も、当初はランニングと囲碁だけの自己中心的な頑固親父に見えたが、物語が進むにつれ、深い思いやりを秘めた人物として立ち上がってくる。さらに子役たちの自然な演技にも、いつもながら感心させられた。

 本作は、個人主義が進む現代社会において、家族という最小単位のつながりを優しく、丁寧に描き出している。だからこそ、人と人との関わりの大切さが静かに胸に残る。ただ、時間配分の都合か、終盤で一気に物語が収束し、やや駆け足でハッピーエンドに落ち着いてしまった点だけが惜しまれる。

評:蔵研人

 

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2026年5月28日 (木)

私は整形美人

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★★★☆
2025年製作の日本のTVドラマ

 原作は2016年にLINE WEBTOONで公開されたネットマンガで、2018年には韓国で『私のIDはカンナム美人』としてドラマ化された。本作はその日本版リメイクである。

 幼い頃から容姿を理由にいじめを受け続けてきた片桐美玲は、大学入学を機に整形手術を受け、美しい顔へと生まれ変わる。入学前オリエンテーションでは、同級生たちから容姿を褒められ、男子からも好意を寄せられる。戸惑いながらも心の奥では高揚を抑えきれない美玲。
 しかしその喜びが冷めやらぬうちに、彼女の整形を知る唯一の存在────醜い容姿を持つ父親が現れ、秘密はあっけなく露見してしまう。さらに追い打ちをかけるように、整形前の美玲を知る中学時代の同級生・坂口慧が、同じ大学に入学していた。

 整形によって外見は変わったものの、中学時代の激しいいじめの記憶は深く刻まれ、美玲は自信を持てず、肝心な場面でいつも逃げ出してしまう。それでも本来の彼女は、優しく明るく、純真な心を持つ少女だ。
 その内面を見抜き、好意を寄せるのは、慧と先輩の向井優、そして女子ではダブりの紗季と天真爛漫なみどり。一方、美人だが我儘で二重人格的な榎本穂波が、物語の悪役として二人の関係に執拗に割り込んでくる。

 物語の中心は、美玲と慧の恋の行方である。だが、美玲は「イケメンすぎる慧が自分を好きになるはずがない」と思い込み、穂波は「美玲のものは全て奪ってやる」と執念深く横やりを入れてくる。こうして二人は幾度もすれ違いを繰り返すことになるのだ。

 韓国版は未視聴だが、そちらではいじめ描写がかなり強烈で、外見至上主義への問題提起を含む社会派ドラマだという。一方、日本版は「自分を好きになるまでの青春ラブストーリー」として描かれている。韓国の整形文化を思えば、その違いにも納得がいく。機会があれば韓国版もぜひ観てみたい。

 このような清純な恋愛ドラマを観るのは久しぶりだったが、物語は奇をてらわず、王道の流れを丁寧になぞっている。それでもラストシーンは洒落ているし、キャスト陣は皆はまり役で魅力的だ。主役の二人はもちろん、登場シーンは多くないものの、慧の母親を演じた田中美里の静かに輝く美しさには思わず見入ってしまった。

評:蔵研人

 

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2026年5月26日 (火)

us アス

Us

★★★☆

製作:2019年 米国 上映時間:116分 監督:ジョーダン・ピール

 ある避暑地での出来事である。黒人の一家が夏休みを過ごすため別荘を訪れたところ、自分たちと瓜二つの謎の存在に襲われる。彼らは赤い衣服をまとい、手には大きなハサミを握っていた。

 着想そのものは新鮮で、独自の世界観が立ち上がっている。しかし、恐怖そのものは意外と強くは感じられなかった。相手の顔がすぐに判別でき、人間側もそれなりに反撃できるためだろう。
 加えて、夫の情けなさが目立ち、最終的に最も頼りになるのが母親という構図は、近年の米国ホラーの定番になりつつあるようだ。さらに、薄暗くて視認しづらい画面づくりもまたホラーの常套手段なのだろうが、「暗くしなくても怖さは創れるはずだ」と言いたくなる。

 物語の細部における裏付けはやや希薄で、心理的な深掘りや派手なアクションも控えめである。では何が面白いのかと問われると、即答は難しい。惹かれたのは、得体の知れない四人の影が並び立つ、あのシルエットの不気味さまでだった。

 それでも、赤い服の彼らは何者なのか、どこから現れ、何を目的としているのか──その問いだけが観る者を引っ張っていく。結局、その手がかりはオープニングの“ウサギ部屋”に潜んでいた。
 そして、ラストのどんでん返しは確かに背筋を冷やす。結局のところ、この映画の肝はその二点に尽きるのかもしれない。

評:蔵研人

 

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2026年5月24日 (日)

スリザー

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★★★
製作:2006年 米国 上映時間:96分 監督:ジェームズ・ガン

 “スリザー(slither)”とは、湿った闇の底を這いずるように進む動作を指す。その語感は、本作に登場する茶褐色のナメクジ状クリーチャーの気味悪さを、すでに一語で言い当てている。
 『エイリアン』のチェストバスターを思わせる形状だが、ここではそれが孤独な一匹ではなく、無数の群れとなって押し寄せる。蠢く影が地を覆い尽くすさまは、まるで悪夢が現実へ侵食してくる瞬間を目撃しているかのようだ。

 この異形の生命体は宇宙の彼方から落下し、『寄生獣』のように人間の脳へと潜り込み、やがて醜悪な巨躯へと変貌する。その過程は、ドロドロ、ブクブク、ゲロゲロ、グチャグチャと、擬音語すら追いつかないほどの腐臭を帯びた変容劇である。
 エイリアンほどの不死性は持たないものの、圧倒的な数と、ただ存在するだけで人の本能を逆撫でする“生理的な嫌悪”が、観客の心をじわじわと侵食していく。変身前の姿はゾンビと大差なく、既視感の中に漂う不潔さが、なおさら不快感を増幅させる。

 B級グロ映画としての枠組みは確かに備えているが、その趣味の悪さは一線を越えている。物語の薄さはこの種の作品では織り込み済みとしても、クリーチャーの造形が不気味さと不潔さだけに依存し、しかもどこか古びた印象を拭えない点は惜しい。
 もしそこに一滴でも独自の美意識や造形的な詩情が注がれていたなら、この“気持ち悪さ”は単なる嫌悪を超え、異様な魅力へと昇華したかもしれない……。


評:蔵研人

 

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2026年5月22日 (金)

プラットフォーム

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★★★
製作:2021年 スペイン 上映時間:94分 監督:ガルダー・ガステル=ウルティア

 舞台は、およそ三百階層にも及ぶ「垂直自主管理センター(通称 VSC)」と呼ばれる刑務所施設の内部のみで完結する。会話のある登場人物も十名に満たず、閉ざされた空間で物語が進行する点は、どこかスリラー映画『キューブ』を思わせる。

 本作の特徴は、各部屋の中央にぽっかりと開いた四角い穴である。そこを上下する台座には豪華な料理が所狭しと並べられ、囚人たちは台座が止まるわずかな時間にむさぼるように食事を奪い合う。
 残された食べ物は下層へと運ばれていくが、階層が下がるほど残飯は減り、最下層に至っては何ひとつ残らない。結果として、下層の囚人は生き延びるために同房者を殺し、その肉を口にせざるを得ないという、凄惨な展開が待ち受けている。

 上層ほど豊かで、下層ほど飢えるという構造から、本作がヒエラルキー社会への批判や、理想主義への皮肉を意図していることは推測できる。しかし、あまりにも多くの謎が放置され、ドラマ性も希薄なため、次第に緊張感が薄れてしまう。観客に残された期待は「謎の解明」だけだったが、その答えも提示されないまま物語は幕を閉じる。

 着想そのものは魅力的であるにもかかわらず、核心が明かされないことで作品の力が削がれてしまった印象だ。さらに、終始不潔さを強調する映像表現が続くため、観客を置き去りにするような不快感も残る。残念かつ惜しい作品と言えるだろう。

評:蔵研人

 

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2026年5月21日 (木)

つくみの記憶

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著者:白石一文

 三十一歳になった松谷遼平は、会社の懇親会でアルバイトの隠善つくみと、はじめてまともに言葉を交わす。すると彼は、説明のつかない奇妙な感覚にとらわれる。少年時代、生死の境をさまよった体験をもつ遼平。その記憶と、目の前にいるつくみの存在とが、どこかで密やかに結びついているように感じられるのである。

 やがてある晩、遼平は自宅でつくみと関係を持ち、その最中に恋人・友莉と鉢合わせしてしまう。この出来事をきっかけに友莉は姿を消し、彼女をめぐって不穏な噂が流れ始める。

 物語前半は、つくみの強引とも映る行動と、遼平の優柔不断さ、そして結果として裏切られる形となった友莉の苦悩が描かれる。とりわけ友莉の立場に思いを寄せると、彼女の人生が思わぬかたちで揺さぶられていく展開には、やりきれなさを覚えずにはいられない。後に彼女は再び歩み出すが、その再生の描写にはやや性急な印象も残り、十分に感情が熟す前に結論へと導かれたようにも感じられた。

 さらに後半では、物語は思いがけず幻想的な色彩を帯び、寓話的とも言える展開へと踏み込んでいく。その飛躍は大胆であり、作者らしい挑戦とも受け取れるが、現実の重みを背負ってきた前半との接続には、やや断絶を覚える読者もいるだろう。結末もまた明確な答えを示すことなく、妙な余韻を残したまま幕を閉じてしまう。

 私は白石一文の作品を愛読してきた一人である。だからこそ、本作には強い期待を抱いていた。その期待ゆえにか、読後にはどこか食い足りない感覚が残った。決して凡作ではない。しかし、作品が内包していたはずの深みや必然性が、最後の一歩で輪郭を結びきらなかったように思われてならない。熱心な読者であるからこそ感じた、ほろ苦い物足りなさであろうか……。


評:蔵研人

 

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2026年5月19日 (火)

ジェノサイド004

004

★★★☆
製作:2020年 オーストラリア 上映時間:131分 監督:マーク・トイア

 軍需企業で研究開発を担当するヤンツ、クローガー、アンの三人は、上司フォスターの命令で東南アジアへ派遣される。任務は軍事用AIロボットの実地テストのはずだった……。だが現地に到着すると、ボラーという胡散臭い男が待ち構えており、今回の仕事がCIA絡みの危険な案件であることが明らかになる。もはや引き返すことは許されない。

 やがて、ジャングル上空から四体のロボットがパラシュートで投下され、近隣の村に潜む麻薬密売組織を殲滅せよという命令が下される。しかしその頃、運悪くボランティアの若い医師たちがジャングルで迷い、村へ向かっていた。

 着地したロボットたちは起動し、麻薬組織を攻撃し始めるが、作戦の秘密を守るため、女子供や医師たちまでも無差別に殺戮し始める。

 ジャングルの映像は美しく、ロボットの造形も意外に洗練されている。B級作品だろうとタカを括っていたものの、思いのほか楽しめたのは嬉しい誤算だった。ただし、子どもが撃たれたり、解剖されたりする場面は胸が締めつけられるほど辛い。

 タイトルの「004」は、投下された四体のロボットを指すのだろうと思っていた。しかし物語が進むにつれ、そのうちの四号機が着陸時の衝撃でモジュールが外れ、遠隔操作不能となり、自我に目覚めていく。そして終盤でなんと「命とは何か」を語り始める展開を思えば、004とはこの四号機そのものを象徴しているのかもしれない。

 物語の大半は、ジャングルの中でロボットに追い回される緊迫したシーンが続き、まるで『ターミネーター』のような恐怖を味わう。しかし、エンドロール直前に挿入される一瞬のカットこそ、実はこの映画で最も背筋が冷たくなる場面なのかもしれない。


評:蔵研人

 

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2026年5月16日 (土)

ロボコップ リメイク版

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★★★★
製作:2014年 米国 上映時間:121分 監督:ジョゼ・パジーリャ

 ロボコップといえば、1987年に大ヒットを記録し、第3作まで制作された伝説的SFアクション映画である。本作はその続編ではなく、むしろ第一作のリメイクと捉えたほうが分かりやすいだろう。

 優秀な警官が瀕死の重傷を負い、身体はほとんど原形をとどめないほど破壊される。辛うじて残った頭部だけを生かし、全身を機械で補ったサイボーグとして再生させる。
 この展開は、1963年から『週刊少年マガジン』に連載された平井和正・桑田次郎によるSF漫画『8マン』を想起させる。もはや“影響を受けた”というより、構造的にはほぼ踏襲していると言ってよい。

 本作はその流れを受け継ぎつつ、基本的な構成はオリジナルをなぞっている。しかし、時代の推移と特撮技術の飛躍的進歩により、ロボコップの造形やアクションのスピード感は大きく進化した。
 オリジナル版が『ターミネーター』的な無骨な機械感を漂わせていたのに対し、リメイク版はどこか『アイアンマン』を思わせる洗練されたデザインで、科学的な裏付けを感じさせる設定が随所に見られる。

 一部のオリジナルファンからは不評の声もあるようだが、私が両作を並行して鑑賞した限りでは、リメイク版が大きく劣るとは思えなかった。
 ただし、妻子と会えないというオリジナル版の設定のほうが物語としての必然性を感じられたこと、そして“なぜ今あらためてロボコップなのか”という問いに明確な答えが見えなかったことは否めない。

評:蔵研人

 

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2026年5月14日 (木)

盲剣楼

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★★★☆
製作:2022年 中国 上映時間:77分 監督:ヤン・ビンジア

 オープニングでは、盲目の剣客が賭場のイカサマを見破った帰り道、逆恨みしたならず者たちに襲われる。まるで『座頭市』の一場面を思わせ、「これは模倣作か」と身構えたのだが、物語が進むにつれ、次第にその印象から離れていくのが分かり、ひとまず納得した。

 結婚式当日、新郎と実兄を殺され、自身も辱められた花嫁。彼女は役所に訴えるが、加害者が権力者であるため、役人は腰を引き、挙げ句の果てには被害者である花嫁を逮捕してしまう。そんな無法ぶりに堪忍袋の緒が切れた懸賞金稼ぎが正義の鉄拳を振るう──実に分かりやすい中国製時代活劇である。

 この賞金稼ぎは、剣術のみならず棒術・拳法・関節技にも通じ、一人で百人を超える敵を容易になぎ倒す超人的存在だ。単純明快で爽快なのだが、いくつか腑に落ちない点もある。

 まず、自分の恋人を危険にさらしてまで、なぜ見知らぬ花嫁のために命を懸けるのか。正義のためと言うが、それならなぜこれまで黙していたのか。また、その恋人も強者でともに戦うのかと思いきや、なにもしないうちに、あっさり捕まってしまう。彼女の存在意義が物語上どこにあるのか、どうにも理解しがたい。

 とはいえ、製作者としては「細かいことはさておき、圧倒的なアクションを楽しんでほしい」と言いたいのだろう。まあそれを望む観客にとっては、間違いなく拍手喝采の作品である。上映時間が短いのも、その割り切りゆえかもしれない。
 ただ、映画とは本来それだけではないのではないか──そんな思いが、観終わった後に静かに残ってしまった……。

評:蔵研人

 

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2026年5月12日 (火)

イノセンツ

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★★★☆
製作:2021年 ノルウェー他・北欧合作 上映時間:117分 監督:エスキル・フォクト

 超能力に目覚めた4人の子どもたちを描いた物語である。
 舞台はノルウェー郊外の住宅団地。夏休みのあいだに友だちになった四人の子どもたちは、親の目が届かない場所で、ひそかに自分たちの内に潜んでいた力に気づき始める。近所の林や遊び場でその力を試すうち、無邪気な遊びは次第に危険な領域へと踏み込んでいく。

 物語の最初の異常は、猫を団地の最上階から投げ落とし、瀕死の猫の頭を踏み潰すという、背筋の凍るような描写で幕を開ける。四人の中でもベンという少年だけが突出して暴力的で、やがて超能力を使って他者を操り、間接的に殺人へと手を染めてしまう。

 これほどの異常事態が起きているにもかかわらず、子どもたちは大人に助けを求めようとしない。信じてもらえないと感じているのか、自分たちにも責任があるとどこかで悟っているのか。その沈黙がベンの暴走を加速させてしまうのだが、同時に彼らは「自分たちで終わらせなければならない」と幼いながらも考えているように見える。

 主人公は最年少のアイダ。彼女は、自閉症をもつ姉アンナに両親の関心が向くたび、抑えきれない嫉妬を抱いていた。しかし、同じ団地に住むアジア系の少女アイシャのテレパシーによって、アンナの内に眠っていた能力は徐々に研ぎ澄まされていく。そして、暴力に溺れるベンを止められるのは、もはやアンナだけとなる。

 四人の子どもたちはそれぞれに強烈な個性を放っているが、とりわけアイダとアンナの姉妹の演技は圧巻であり、本作の魅力の大半を担っていると言っても過言ではない。
 本作はノルウェーのアカデミー賞と称されるアマンダ賞で4冠を獲得し、世界各地の映画祭でも16の賞を受賞した。観客を絶賛と衝撃の渦に巻き込んだ問題作であり、まさに“子どもたちだけが創り出す無垢な恐怖”が息づいている。


評:蔵研人

 

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2026年5月10日 (日)

遺書、公開。

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★★★☆
製作:2025年 日本 上映時間:119分 監督:英勉

 奇妙なタイトルだが、内容はまさにその言葉どおりであり、ただそれだけで十分に成り立つ作品だった。
 私立高校の新学期、2年D組の生徒24人と担任教師に、全員の“明確な順位”を記した「序列」メールが一斉に届く。誰が作成し、誰が送信したのかは不明のまま、半年が過ぎてゆく。そんなある日、誰もが羨む人気者で序列1位の女子・姫山椿が、校内で謎めいた死を遂げる。そして葬儀の後、クラス全員の机の上に、彼女からの遺書が置かれていた。

 どこかマンガ的な匂いがする──そう感じたのだが、調べてみればやはり原作は陽東太郎による漫画作品で、2017年から2022年まで『ガンガンJOKER』に連載され、全9巻が刊行されていたという。

 物語は、担任教師を含むクラス全員が、自分宛ての遺書を教室で読み上げるという異様な展開で進む。遺書が読み進められるたびに、姫山に向けられていた嫉妬や憎悪、羨望といった感情が次々と露わになっていく。 

 序列を作った者、遺書を書いた者──その正体が少しずつ明らかになっていく構成だ。舞台のほとんどが教室内で完結しており、製作費も抑えられているのだろう。クラス全員が物語の中心人物であり、誰が主役とも言い切れない群像劇としての面白さがある。

 ただ、時折挿入される“誰かが水槽を覗き込む”シーンが気になっていた。その意味がラストで明かされるのだが、むしろそここそが、この物語で最も背筋の冷える瞬間だったのかもしれない。


評:蔵研人

 

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2026年5月 8日 (金)

DOGMAN ドッグマン

Dogman

★★★★

製作:2024年 米国 上映時間:114分 監督:リュック・ベッソン

 ある夜のこと、1台のトラックが警察に停車を命じられる。運転席には負傷した女装の男性、荷台には十数匹の犬。拘留されたその男は「ドッグマン」と呼ばれ、事情聴取に訪れた女性精神科医に、自らの半生を静かに語り始める。物語は彼の告白を辿るように、過去へと遡りながら進んでいく。

 なぜ彼が“ドッグマン”と呼ばれるのか。その答えは、救いのない少年時代に潜んでいる。父親に犬小屋に押し込められ、暴力に晒されて育った少年。
 犬たちの存在に支えられながら成長し、恋を知り、社会に馴染もうとするも、人間の裏切りによって深く傷ついていく。だからこそ彼は人間を信じられず、犬にだけ愛情と信頼を注ぐようになったのだ。

 悲壮感と狂気が漂う雰囲気は『ジョーカー』を思わせるが、あちらほど重苦しくはなく、わずかながら救いの光が差しているようにも感じられる。
 犬たちを使った盗みや殺しの場面は、タイトルを体現するアクションとして興味深いが、何より印象に残ったのは、車椅子を降りて舞台で歌うシャンソンのシーンである。さらに、エンドロールに流れる主題歌も心地よく、席を立つのが惜しくなるほどだ。

 いずれにせよ、本作はドッグマンを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズの存在感と役者魂に尽きると言ってよい。「ニトラム」や「ゲット・アウト」など、彼の他の出演作もぜひ鑑賞してみたくなってしまった。


評:蔵研人

 

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2026年5月 6日 (水)

生成AIで世界はこう変わる

Ai

著者:今井翔太

 著者は東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・松尾研究室に所属し、1994年生まれ。人工知能分野、とりわけ強化学習の研究に従事している研究者であり、本書の執筆者としては専門的知見を備えた適任者といえるだろう。

 本書は、「生成AIとは何か」「生成AIを動かす技術」という基礎的解説から始まり、「生成AIの導入により消える仕事・残る仕事」「生成AIが創るコンテンツの価値」「生成AIと共に歩む未来」といった社会的・経済的論点へと議論を広げていく構成となっている。生成AIをめぐる技術的背景と応用可能性を、比較的平易な言葉で整理した入門書としての性格が強い。

 もっとも、本書は2024年1月の刊行であり、昨今の技術革新速度を思えば、部分的にかなり状況が変化している可能性も否めない。また、生成AIが社会にもたらす影響は、技術論にとどまらず、歴史的・人類学的・倫理的視座をも必要とする大きなテーマである。その広大な問題系を、一人の技術研究者の視点のみで描き切ることには、一定の限界も感じられた。

 とりわけ「消える仕事・残る仕事」や「生成AIと共に歩む未来」に関する議論については、もう一段踏み込み、現実社会の具体的事例との比較や、異なる立場からの見解との対話が示されていれば、より立体的な論考となったのではないかと惜しまれる。

 生成AIという奔流の只中にあって、本書はその現在地を示す一つの標識ではある。しかし読者としては、その標識の先に広がる地平まで、もう少し遠望してみたかった──そうした思いが、読後に静かに残った。


評:蔵研人

 

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2026年5月 4日 (月)

絶叫

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★★★☆
製作:2019年 日本のドラマ全4話 監督:水田成英


 本作は、主人公と思しき女性の独白から静かに幕を開ける。
 国分寺のアパートで、一人暮らしの女性の遺体が発見される。死後およそ半年が経過し、遺体は複数の飼い猫に食われ、すでに原型をとどめていなかった。警察は当初、「よくある孤独死」として処理しようとするが、刑事・奥貫綾乃は、そこに拭いきれぬ違和感を覚え、独自に捜査を続けていく。

 同じ頃、国分寺署はNPO法人代表・神代武の殺害事件も追っていた。一見、何の関係もなさそうな二つの事件。しかし、ある接点が浮かび上がった瞬間、物語は思いもよらぬ方向へと転がり始める。

 ヒロインの鈴木陽子は、地味で貧しく、特技もなく、まともな仕事にも愛にも恵まれない女性として描かれる。だが、彼女だけが特別に不幸なのではない。この物語に登場する人物の多くが、それぞれに深い闇と傷を抱えながら生きている。そのあまりの陰鬱さに、正直なところ、何度も視聴を中断しようかと迷ったほどだ。

 それでも最後まで観ることができたのは、鈴木陽子を演じた尾野真千子の、まるで暗闇を這いずり回るかのような凄絶な演技と、不幸の最底辺から覚醒していく展開に強く引き寄せられたからである。

 本作は、社会の底辺や影の世界に追いやられた人々の、救いのない不幸と苦しみを、容赦なく突きつけてくる。観る者の心に、重く、湿った痛みを残す──そんな、悲しみに満ちたドラマであった。


評:蔵研人

 

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2026年5月 2日 (土)

ヘッド・オブ・ステイト

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★★★☆
製作:2025年 米国 上映時間:116分 監督:イリヤ・ナイシュラー

 犬猿の仲にある米国大統領と英国首相が、世界を揺るがす陰謀を阻止するため、互いの確執を捨てて手を結ぶ——本作は、そんな設定を軸にしたコメディタッチのアクション映画である。

 NATOの会合に向かうため、二人が搭乗したエアーフォース・ワンが、正体不明の敵の襲撃を受けて墜落する。二人だけは、辛くも残された二つのパラシュートで脱出したものの、降り立ったのはロシア国境に近いベラルーシであった。

 その後、執拗に襲いかかる刺客たちとの戦いを通じて、二人は次第に奇妙な連帯感を育んでいく。しかし、すでに機密文書は敵の手に落ち、NATOの結束は崩壊の危機に瀕していた。果たして彼らは無事に帰還し、迫りくる瓦解を食い止めることができるのだろうか。

 物語の骨格は以上の通りで、まるで『ジョン・ウィック』シリーズを思わせるように、敵が次から次へと押し寄せる。スピード感とテンポの良さは評価できる一方、その執拗さと刺客たちの“ほとんど不死身”とも言える描写には、やや苛立ちを覚える場面もある。ただ、コメディ仕立てであるがゆえに、その過剰さもどこか許せてしまうのかもしれない。

 元アクション俳優という設定の米国大統領は、明らかにアーノルド・シュワルツェネッガーを想起させる造形であり、それが本作をより愉快に味わえるスパイスとなっていることは否めない。

評:蔵研人

 

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