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2026年3月の記事

2026年3月30日 (月)

AVN エイリアンVSニンジャ

Avn-vs

★★☆
製作:2011年 日本 上映時間:80分 監督:千葉誠治

 まあ、この程度だろうとは思っていた。とはいえ、あまりにも挑発的なタイトルに惹かれ、結果として80分という時間を無駄遣いしてしまった感は否めない。

 物語は「天正伊賀の乱」の最中、宇宙から飛来した未確認飛行物体が伊賀の里に不時着するところから始まる。耶麻汰、陣内、寝隅の三人の忍者と一人の女忍者が、謎の物体から現れた鋭い牙と爪を持つ異形の存在——エイリアンと死闘を繰り広げるという、まさにタイトル通りの時代劇アクションである。

 エイリアンと称されてはいるものの、その実態は涎を垂らし、人間に寄生するという設定を除けば、どう見てもプレデターの亜流にしか見えない奇妙な生物だ。上半身の造形は、ぎりぎり目をつぶれなくもない。しかし下半身に至っては、羞恥心を刺激するほど露骨な着ぐるみ感が漂い、人間が中に入っていることを隠そうともしない。

 さらに物語が進むにつれ、エイリアンとのチャンバラ、果てはプロレスまがいの取っ組み合いまで展開され、悪ノリは次第に歯止めを失っていく。

 とはいえ、アクションのテンポ自体は悪くなく、全体には一定のスピード感がある。また色っぽくて可愛い女忍者の存在が視覚的な潤いとして機能しているのも事実だ。すべてを真面目に受け取ろうとせず、最初から割り切って鑑賞するのであれば、案外それなりに楽しめる作品なのかもしれない。

評:蔵研人

 

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2026年3月27日 (金)

エイリアン:ロムルス

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★★★
製作:2024年 米国 上映時間:119分 監督:フェデ・アルバレス

 長らく心待ちにしていたエイリアンシリーズの最新作であったにもかかわらず、うっかり劇場公開を見逃してしまった。その後、近隣のレンタルビデオ店が相次いで閉店し、鑑賞の機会を失ったまま時が過ぎていった。そんな折、たまたま加入したアマゾンプライムで本作が無料配信されているのを見つけ、思わず小躍りしながら再生ボタンを押したのである。

 エイリアンシリーズとしては、リドリー・スコットが監督した『エイリアン コヴェナント』以来、実に6年ぶりの新作。また、20世紀フォックスがディズニーに買収されてから初めてのエイリアン映画でもある。さらに「これまでのシリーズの要素がすべて詰まっている」と謳われ、過去作への敬意と愛情が込められた作品だという触れ込みだった。
 時系列としては第四作の続編ではなく、1979年の初作『エイリアン』の“その後”を舞台に、若者たちが再びエイリアンの恐怖に巻き込まれる、いわば番外編的な位置づけといえるだろう。

 ただ、物語の中心となる宇宙空間を漂う廃船の存在意義が、鑑賞中はどうにも掴めず、物語に深く入り込めなかった。後になって調べてみると、その船こそがタイトルにもある“ロムルス号”であり、初作のラストでリプリーが宇宙へ放り出したエイリアンを回収した船だったという。そうした背景を知っていれば、また違った見え方があったのかもしれない。

 舞台の大半は薄暗い宇宙船内部で、エイリアンの姿もはっきりとは映らない。人間ドラマの描写はほとんどなく、ただ逃げ惑うばかりで、アクションとしてもホラーとしても中途半端な印象が残った。期待が大きすぎたのかもしれないが、シリーズの中では『エイリアン3』に次いで物足りない作品だった。

評:蔵研人

 

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2026年3月25日 (水)

私の夫と結婚して

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★★★★☆
2024年 韓国ドラマ & 2025年 日本ドラマ

 原作は韓国のネット小説で、2024年に韓国でドラマ化され大ヒットを記録した。本作はその日本版リメイクであり、舞台や俳優、脚本は日本向けに刷新されているが、制作には韓国のスタジオドラゴンが関わっている。
 
 末期がんで入院しているヒロインが、力を振り絞って久し振りに自宅に帰ると、親友と夫の不倫現場を目撃してしまう。挙句に夫の暴行によって命を落とすのだが、その瞬間に10年前にタイムリープし生き返ることになる。そしてここから、彼女を裏切った親友と夫への復讐劇が始まるのである——。

 同じ物語を語っているはずなのに、韓国版と日本版の『私の夫と結婚して』は、まるで異なる季節の空気をまとっている。ひとつは真夏の陽炎のように激しく、もうひとつは冬の朝の静けさをたたえている。同じ原作を抱きながら、二つの国はそれぞれの呼吸で物語を紡ぎ直し、まったく異なる表情を生み出した。

 韓国版のヒロイン、カン・ジウォンを演じるパク・ミニョンは、美貌と強度を兼ね備えた存在感で、裏切りの痛みを真正面から引き受ける。変身後の彼女は怒りも悲しみもためらわず解き放ち、その直線的な感情表現が物語を一気に加速させる。
 また悪役たちは鮮烈で、感情も過剰なほどに露わだ。さらに復讐は痛快で、人物たちの輪郭は真昼の太陽の下の影のようにくっきりと浮かび上がる。韓国ドラマ特有の濃度が、この物語を激情の詩へと押し上げている。

 一方、日本版でヒロイン神戸美紗を演じる小芝風花は、感情を外へ噴き出さない。怒りは胸の奥で静かに形を変え、悲しみは言葉にならないまま沈殿する。復讐は叫びではなく、淡々と積み重ねられる行為であり、ヒロインの歩みは夜明け前の薄明の中を進むようだ。足音は静かだが、その沈黙がかえって深い余韻を残す。日本版は、まるで感情の「余白」を描く作品のようだ。

 そしてラストの描き方も対照的だ。韓国版は二人の結婚後の幸福をこれでもかと丁寧に描き、人生の再生を強く印象づける。一方、日本版はプロポーズの瞬間で幕を閉じ、恋愛ドラマの王道とも言える余韻を選んだ。

 韓国版は火花散る激情の詩、日本版は心の底に沈む静かな詩。同じ旋律を持ちながら、前者は力強く響き、後者は細く長く震える。物語とは、語られる国の空気を吸い込み、そのリズムで脈打ち始めるものなのだと、改めて実感させられた。
 どちらも一気に観ることを避けられない秀作であり、気づけば睡眠時間が削られてしまうだろう。いずれにせよ、二つのドラマの優劣は単なる好みの問題にすぎない。


評:蔵研人

 

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2026年3月23日 (月)

カラオケ行こ!

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★★★★

製作:2024年 日本 上映時間:107分 監督:山下敦弘

 合唱コンクールの強豪校として知られる森丘中学校。その合唱部部長・岡聡実は、ある雨の日、ヤクザの成田狂児から突然カラオケに誘われる。狂児は、組長主催のカラオケ大会で最下位の罰ゲームを避けるため、聡実に歌の指導を懇願するのだった。気乗りしないままレッスンを始めた聡実だが、次第に二人の間には奇妙で温かな友情が芽生えていく。

 この奇抜な組み合わせを描いた物語の原作は、和山やまによるマンガであり、2025年10月時点でシリーズ累計160万部を突破しているという。

 原作未読のまま鑑賞したが、まず心を掴んだのは成田狂児を演じる綾野剛の独特の存在感だ。そして、オーディションで選ばれた新星・齋藤潤が演じる岡聡実の清々しさが加わり、二人の質感が混ざり合うことで、不思議な調和を帯びた世界観が立ち上がっていた。

 当初は、カラオケが上達していく成長物語なのだろうと軽く考えていた。しかし、変声期と思春期の揺らぎに戸惑う少年と、過去に囚われたヤクザの若頭補佐という組み合わせは、予想をはるかに超えて斬新で、物語に深い陰影を落としている。

 正直に言えば、中盤までは大きな盛り上がりがあるわけではない。だが、終盤に向かうにつれ、物語は静かに心の奥へと染み込んでくる。そしてクライマックス——聡実が初めて歌う鎮魂の「紅」。

 声変わりで思うように声が出ない中、ただ想いだけを燃やして歌い上げる姿は、まさに魂の叫びだった。気づけば私の頬も涙で濡れていた。本作は、この一曲のために存在していると言っても大げさではない。そしてその直後に訪れる、粋などんでん返しが、さらに涙のおかわりを誘うのだ。

評:蔵研人

 

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2026年3月19日 (木)

「時間」はなぜ存在するのか

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★★★☆
著者:吉田伸夫

 著者は東京大学理学部を卒業し、同大学院博士課程を修了した理学博士である。専門は素粒子論だが、科学哲学や科学史など、学問の境界を越えて幅広い研究を続けている。

 本書は、そもそも時間とは何なのか、私たちが“時間の流れ”を感じるのはなぜなのかといった根源的な疑問に、できる限り平易な言葉で迫ろうとする一冊である。もっとも、学者としての習性ゆえか、ところどころ難解な概念や理論も顔を出す。しかし、『時をかける少女』や『火の鳥 未来編』、『インターステラー』、『スタートレック』といった小説・マンガ・映画の例を巧みに織り交ぜて説明してくれるため、読者が藪の中に置き去りにされることはない。

 さらに著者は、生命の歴史に刻まれた時間、そして宇宙の始まりから終焉に至る壮大な時間のスケールにまで視野を広げ、時間という概念の多層的な姿を描き出す。

 いずれにしても素人の私には、本書を解説したり評価する能力は存在しないので、その目録だけを次に記しておきたい。

はじめに 何もない場所に時間は流れる?

第1章 時間はどこにあるのか
1.硬直したニュートンの時間
2.時間の伸び縮みが重力を生む
3.アインシュタインの時空

第2章 「流れる時間」という錯覚の起源
1.始まりの謎
2.ビッグバンは爆発ではない
3.宇宙は壊れていく

第3章 循環する時間、分岐する時間
1.循環する時間
2.未来はどこまで定まっている?
3.分岐する時間

第4章 いきものの時間、人間の時間
1.物質世界も進化する
2.生命誌から見た時間
3.人間にとって時間とは

第5章 時間の終わり
1.壊れていく宇宙の末路
2.人間と時間

以上である

評:蔵研人

 

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2026年3月16日 (月)

今日から俺は!! (劇場版)

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★★★☆
製作:2020年 日本 上映時間:114分 監督:福田雄一
 
 最初は『東京卍リベンジャーズ』のパロディかと思ったが、調べてみれば本作の原作マンガのほうがはるかに早く連載されていた。そう考えると、あの『ビー・バップ・ハイスクール』の焼き直しであり、その系譜を踏まえたパロディ的な風味をまとった作品と言ったほうがしっくりくるのではないだろうか。

 そして原作マンガの後に、テレビドラマ化、そして実写映画化という“王道ルート”をたどり、キャストもほぼ同じ顔ぶれで固められている。

 本作は徹底してコミカルな作りで、主人公・三橋貴志は喧嘩無敗の強さを誇り、運動神経も抜群。瞬発力に優れたイケメンでありながら、逃げ足の速さと勝つためには手段を選ばない狡猾さも併せ持つ。ばかばかしいほどに誇張された人物像だが、その“ばかばかしさ”こそが作品の魅力であり、笑いを保証してくれる。

 それにしても、学園暴力映画というジャンルは、どうしてこうも最後にグループ同士の殴り合いで幕を閉じるのだろう。お約束とはいえ、その様式美に思わず苦笑せずにはいられない。

評:蔵研人

 

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2026年3月14日 (土)

野球少女

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★★★☆

製作:2021年 韓国 上映時間:105分 監督:チェ・ユンテ

 プロ野球選手を夢見る一人の女子高校生。その孤独な闘いを描いたスポーツ根性ドラマである。

 現実の韓国プロ野球界には、いまだ女性選手は存在していない。しかし一方で、女性を明確に排除する規約もまた存在しない。制度上、理論的には女性がプロ野球選手になる可能性は残されている。とはいえ、男性でさえ突破が困難な狭き門である。体力差や生理的条件といった数多のハンディキャップを考えれば、理論と現実の間には深い溝が横たわっているのが実情だろう。

 もっとも、韓国国内では野球協会などが女子選手の育成や競技参加を促進するための協力体制構築に乗り出している、という動きも聞こえてくる。本作は、そうした社会的な胎動に呼応するかのように生み出された作品なのかもしれない。

 主人公チュ・スインは、最速134キロの速球と鋭い変化球を武器に、高校卒業後のプロ入りを固く信じている。しかし現実は冷酷だ。女性であるという理由だけで、彼女はプロテストを受ける機会すら与えられない。家族や学校からも夢を諦めるよう忠告され、それでも彼女は耳を貸さず、黙々と努力を積み重ねていく——。

 タイトルから連想したのは、男子に混じって高校野球で無双する天才少女の痛快な活躍譚だった。だが実際には、試合の場面は驚くほど少ない。描かれるのは、女性であるがゆえに夢への道を閉ざされる少女の苦悩、その重く長い時間である。したがって、爽快なスポーツアクションを期待して臨むべき作品ではない。

 本作はむしろ、スポーツを通して社会の構造的な壁を照らし出す社会派ドラマとして受け止めるのがふさわしい。その視点で鑑賞するならば、静かながらも確かな余韻を残す一作であろう。

評:蔵研人

 

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2026年3月12日 (木)

東京リベンジャーズ2血のハロウィン編

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★★★☆
製作:2023年 日本 上映時間:運命 90分 決戦 96分 監督:英勉

 和久井健の人気コミック『東京リベンジャーズ』を北村匠海主演で実写映画化し、大ヒットを記録したのはいまだ記憶に新しい。その続編を望む声に応える形で、本作『血のハロウィン編』は第二部として製作され、『運命』『決戦』の二編構成で公開された。

 第一作鑑賞時には原作未読だったため気づかなかったのだが、原作やアニメに触れた後で本作を観返すと、マイキーやドラケンをはじめとする主要人物たちの再現度の高さに驚かされる。単なるメーキャップの力だけではなく、原作の空気を体現できる俳優を丹念に選び抜いた結果なのだろう。

 物語は、救えたはずの橘日向が、凶悪化した東京卍會によって再びタケミチの目前で命を落とすという、あまりにも残酷な運命から幕を開ける。さらに今回は、東京卍會創設メンバーであるマイキー、ドラケン、場地、三ツ谷、パーちん、一虎の六人のうち、場地と一虎が組織を離脱し、敵対勢力・芭流覇羅(バルハラ)へ身を投じるに至る経緯が中心に描かれていく。

 かつて固い絆で結ばれていた仲間たちが刃を向け合う————東京卍會崩壊へとつながる決戦の火蓋が、ついに切られるのだ。タケミチはそれぞれの想いの重さを受け止めながら、最悪の未来を回避し、ヒナタと仲間たちの運命を変えるべく戦いに身を投じていく。

 本作が前後編に分けて公開された理由について、制作側は「一本に収めるには物語の分量があまりにも膨大だった」と説明している。確かに原作の密度を考えれば理解できる判断ではあるが、近年では三時間前後の大作も珍しくない。導入部、エンドロール、回想シーンなどの重複部分を整理すれば、一本の作品としてまとめることも不可能ではなかったはずだ。

 ただ実際、前後編合計の興行収入は42億円を超えており、仮に一本にまとめていた場合、この数字に届いたかどうかは疑わしい。そう考えると、二部作とした判断には、物語上の必然だけでなく、興行的な戦略も大きく影響していたと見るのが現実的だろう。

 とはいえ、全31巻・全278話に及ぶ原作を、映画という限られた枠で完結させることは容易ではない。本作もまた、物語の最終章には到達していない。続編への期待は高まるばかりだが、現時点では正式な製作発表はない。ただし、興行成績やキャストのスケジュール次第では、その可能性が断たれたわけではないだろう。

 もっとも、物語の中心が高校生時代である以上、時間の経過とともにキャストの年齢との乖離が避けられなくなる。その意味でも、このシリーズが次の一手を打つ猶予は、決して長くはないのかもしれない。

評:蔵研人

 

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2026年3月10日 (火)

ジョン・ウィック:コンセクエンス

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★★★☆
製作:2023年 米国 上映時間:169分 監督:チャド・スタエルスキ

 本作は、ジョン・ウィック・シリーズ第四作目にあたる。大通りであろうとダンスホールであろうと、衆人環視の只中で銃撃戦が繰り広げられ、これほどの大騒動が起きても警察は一切姿を見せない。相変わらず、現実感を完全に置き去りにした、あきれ果てるほどの殺戮アクション映画である。あまりにも荒唐無稽な世界観ゆえか、日本では熱狂的な支持を得るには至っていない印象もあるが、アメリカでは高い人気を誇っているという。
 それにしても、撮影当時すでに60歳を目前にしていたキアヌ・リーブスが、満身創痍の体でこの役を演じ切っていることには、素直に敬意を抱かざるを得ない。

 本作はシリーズ最長となる169分の長尺であるが、ドニー・イェン演じる座頭市を思わせる盲目の刺客ケイン、真田広之扮する旧友コウジ、さらには犬を連れた賞金稼ぎなど、登場人物は実に多彩だ。舞台もニューヨーク、大阪、ベルリン、パリへと目まぐるしく移動し、それぞれの都市で大規模なアクションが展開される。そのスケール感は、まさに圧倒的と言ってよい。

 大阪では、西洋的なガンアクションと東洋の殺陣を融合させた、独創的な戦闘シーンが披露される。ベルリンでは、クラブに鳴り響く重低音のビートと銃声が奇妙に同期し、明滅する照明の中で死闘が続く。そしてパリの凱旋門周辺では、車を使った混沌とした戦闘シーンが強烈な印象を残す。
 いずれにせよ、派手な車同士の衝突や、長い階段を延々と転げ落ちる場面など、スタントマンたちの命がけの仕事ぶりには、ただただ頭が下がる思いである。

 本作がこれまでのシリーズと異なるのは、単に上映時間が長いという点だけではない。大阪という舞台の選択、そして真田広之とドニー・イェンという東洋を代表する二人のアクション俳優が準主役として物語を牽引している点において、ジョン・ウィックの世界は新たな次元へと踏み出したと言える。
 また両者が持つ身体表現の説得力と存在感が、シリーズにこれまでになかった深みと国際性をもたらしていることは、疑いようのない事実だろう。


評:蔵研人

 

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2026年3月 8日 (日)

落日 TVドラマ

Tv

★★★☆

『落日』は、湊かなえ原作、2023年にWOWOWで放送された全四話構成のミステリードラマである。

 新進気鋭の女性映画監督・長谷部香(北川景子)は、新人脚本家の甲斐真尋(吉岡里帆)に、15年前に起きた「笹塚町一家殺害事件」を題材にした映画脚本の執筆を依頼する。事件は、引きこもりの青年・立石力輝斗(竹内涼真)が妹を刺殺し、放火によって両親も死に至らしめたという凄惨なもので、しかもそれは真尋の故郷で起きた事件だった。

 すでに死刑判決が確定しているこの事件を、なぜ香は今になって映画にしようとするのか。なぜ彼女は、力輝斗が検察に対して「嘘の供述」をしたと断じるのか。そして、もしそれが真実だとすれば、彼はなぜ嘘をついてまで死刑を受け入れたのだろうか。物語は、こうした疑問を次々に投げかけながら進んでいく。

 謎に満ちた構成自体は非常に魅力的である一方、登場人物たちがあまりにも密接に関わり合っている点には、違和感を覚えずにはいられなかった。詳細を述べればネタバレになるため控えるが、偶然や因縁が過剰に重なり合い、どこか作為的に感じられる部分があるのは否めない。

 演技面では評価が分かれる。北川景子は、まるで感情を抜き取られた抜け殻のような佇まいで終始抑制的な演技を見せるが、その選択が必ずしも成功しているとは思えなかった。一方、竹内涼真の沈んだ演技は役柄とよく噛み合っており、自然な説得力を感じさせた。吉岡里帆と黒木瞳は安定した存在感を放ち、妹役を演じた久保史緒里の不快感すら覚える悪役ぶりは、むしろ称賛に値する。

 全四話の中では、導入として強い引力を持つ第一話と、感情の余韻を残す第四話がとりわけ印象的だった。その反面、中盤にはやや停滞感があり、物語を引き延ばしている印象も残る。構成上、全三話に凝縮したほうが、より緊密で完成度の高い作品になったのではないか、という思いも拭えない。


評:蔵研人

 

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2026年3月 5日 (木)

サブスタンス

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★★★☆
製作:2024年 米国 上映時間:142分 監督:コラリー・ファルジャ

 タイトルの『サブスタンス』とは「本質」や「中身」を意味する言葉であり、本作では主人公エリザベスの価値観の核心を端的に表している。

 かつて一世を風靡したスター、エリザベスは50歳の誕生日を迎えたその日に、長年レギュラー出演してきたエアロビクス番組を、年齢を理由に突然降板させられる。現実を受け止めきれず錯乱状態に陥った彼女は、自分の巨大な看板が撤去される光景に気を取られ、交通事故を起こしてしまう。

 幸いにも怪我は軽傷で済んだが、意気消沈するエリザベスに、病院の看護師が密かに「サブスタンス」と呼ばれる違法薬品の存在を示すUSBメモリを手渡す。それを再生すると、若さと美しさを取り戻せるという魅惑的な映像が流れ出すのだった——。

 その後の展開は、ある意味で想像通りである。若く完璧な肉体を持つ分身が、まるでクローンのようにエリザベスの背中を割って這い出してくる。強烈な嫌悪感を伴う場面だが、これはまだ序章にすぎない。

 本体と分身が共存するためには、一週間ごとに肉体を交換しなければならず、さらに老化を防ぐため、本体の脊椎から抽出した安定液を定期的に注射する必要があった。最初はそのルールを忠実に守っていた分身だが、成功と多忙の中で、次第に約束を逸脱していく。ここから物語は一気に加速し、本作の真価が露わになる。

 前半はSFの装いをまとっていた物語は、やがてホラーへ、さらに容赦のないスプラッターへと変貌していく。

 主人公エリザベスを演じるのはデミ・ムーア。長らく第一線から距離を置いていた彼女が、この役で圧倒的な存在感を示し、各国の映画賞で再評価を受けたことは、本作のストーリーと不思議な共鳴を見せている。

 本作は決して単なるホラー映画ではないし、若さへの執着を描いた個人の悲劇にとどまるものでもない。むしろそれは、ルッキズム(容姿至上主義)に深く侵食された社会構造が生み出した、痛ましい「自己分裂の寓話」と言うべきだろう。

 高い評価と話題性を考えれば、さらに高得点を与えたくもなる。しかし、ラストに提示された過剰なスプラッター表現は、私に強烈な眩暈をもたらした。
 その生理的な拒否反応こそが本作の狙いなのかもしれない。しかしそれでもなお、私には直視できなかったため、今回はあえて減点せざるを得なかった。


評:蔵研人

 

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2026年3月 3日 (火)

奥様は、取り扱い注意 劇場版

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★★★
製作:2021年 日本 上映時間:119分 監督:佐藤東弥

 元特殊工作員と公安エリートの夫婦を描いた人気TVドラマの劇場版である。過去に連続ドラマとして放送され、本作はその正統な続編にあたる。主演の伊佐山夫婦役はドラマ版と同じく、綾瀬はるかと西島秀俊が務めている。もっとも、TVドラマを未見の私にとっては、背景説明が十分とは言えず、理解しづらい部分がいくつか残った。

 物語は、弾丸が側頭部をかすめたことにより記憶を失った元特殊工作員の専業主婦・伊佐山菜美と、彼女を守りながらも実は現役の公安警察官として監視する夫・勇輝の関係を軸に展開する。シリアスな設定でありながら、夫婦の日常にはどこかコミカルな空気が漂い、アクションとユーモアが同居した娯楽作品に仕上がっている。

 それにしても、2005年公開のハリウッド映画『Mr. & Mrs. Smith』を思い起こさせる部分が少なからずあるのは否めない。また、タイトルも往年のTVドラマ『奥さまは魔女』を連想させ、どこか既視感を覚えてしまう。

 主演の綾瀬はるかは、今年40歳を迎えたとは思えないほど若々しく、可憐で、抜群のスタイルを誇る。さらに、ボクシング、空手、総合格闘技といったアクションを見事にこなし、その身体表現には目を見張るものがある。和製アンジェリーナ・ジョリーと評しても、決して言い過ぎではないだろう。

 ただし、TVドラマを観ていない者としては、なぜ菜美が公安から執拗に監視され、さらには命を狙われるほどの存在なのか、その理由が十分に理解できなかった。また、日本の公安組織が私的な判断で人を殺害できるはずもなく、その点において物語の現実味はほぼ皆無と言わざるを得ない。

 もっとも、終盤に用意された奇跡的な展開には前振りもあり、映画的な「ご愛嬌」として受け止めることはできる。また続編を予感させるラストの締めくくりも、どこかハリウッド映画を思わせる洒落た後味を残していた。
 
評:蔵研人

 

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2026年3月 1日 (日)

二人の銀座

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★★★★
製作:1967年 日本 上映時間:79分 監督:鍛冶昇

 山内賢と和泉雅子のデュエットで大ヒットした同名楽曲『二人の銀座』を映画化した作品である。なぜか映像はカラーではなくモノクロだが、その選択がかえって時代の空気を封じ込め、ノスタルジーを増幅させているように感じられた。

 和泉雅子演じるマコは、電話ボックスで姉・玲子のかつての恋人、戸田が作曲した楽譜を落としてしまう。それを拾ったのが、東南大学で仲間たちとバンドを組んでいる健一(山内賢)だった。
 健一はその曲を、あたかも自分のオリジナルであるかのように装い、ジャズ喫茶で演奏する。その曲こそが『二人の銀座』である。演奏は観客の熱狂的な拍手に包まれ、やがてレコード化の話まで持ち上がる。しかし健一は、盗作という後ろめたさから逃れることができず、ひとり苦悩を深めていく。

 とにかく、若き日の和泉雅子が驚くほど愛らしい。整った顔立ちだけでなく、声の響きやふとした仕草、そのすべてが眩しいほどの輝きを放っている。また、ブルー・コメッツやヴィレッジ・シンガーズといった、懐かしいグループサウンズの楽曲が随所に流れるのも、この作品の大きな魅力だ。

 本作は単なる歌謡映画にとどまらず、人生のほろ苦さと青春の瑞々しさとがほどよく溶け合った、誠実な作品に仕上がっている。
 さらにラストで健一とマコが『二人の銀座』を歌う場面では、スクリーンの中の若者たちと自分自身の青春とが静かに重なり合い、気づけば涙が止めどなく頬を伝っていた。


評:蔵研人

 

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