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2025年12月の記事

2025年12月31日 (水)

トランス・フューチャー

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★★★
製作:2020年 ブラジル 上映時間:99分 監督:ブルーノ・ビニ

 物理学者のダニエルは、ある夜、高層ビルの屋上で何者かに襲われ、瀕死の重傷を負う。目を覚ました彼の傍らには、愛する恋人の冷たい亡骸が横たわっていた。さらに、犯人と思しき男は「今度はもっと急げ」という謎めいた言葉を残し、闇へと身を投げるのだった。

 一体何が起きたのか、そしてこの不可解な言葉の意味は何なのか。ダニエルはもちろん、観客もまた謎の渦に巻き込まれていく。やがて彼は、自らの研究テーマであるタイムトラベル理論を完成させ、過去へと遡る決意を固める。愛する人を救うため、そして真実を掴むために。

 伏線の張り方は巧みで、物語としての構築力も見事である。しかし、全体に画面が薄暗く、映像的にはやや観づらい印象を受けた。また、タイムマシンの造形が簡素で、物語の壮大さに比してスケール感を欠いていたのが惜しい。さらに結末には、もう一段のひねりが欲しく、どこか尻切れトンボのような余韻を残す。

 それでも、本作が描く「過去と現在、愛と罪の交錯」は観る者の心を捉えて離さない。ダニエルの姉を演じた女優も印象的で、物語に一抹の温度を与えている。もしあと一歩の完成度があれば、名作と呼ぶにふさわしい作品となっていたかもしれない。


評:蔵研人

 

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2025年12月28日 (日)

あの人が消えた

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★★★★
製作:2024年 日本 上映時間:104分 監督:水野格

「次々と人が消える」と噂されるマンションを舞台に、配達員の青年・丸子夢久郎が事件の真相を追う物語である。
 丸子は日々の配達でこのマンションを訪れ続け、もはや住民以上にその内部事情に通じていた。ところが最近、不可解な出来事が相次ぎ、彼の胸に疑念が芽生え始める。

 やがて、彼の愛読するネット小説家・小宮千尋がこのマンションに住んでいることを知る。しかも彼女が、同じ住人・島崎からストーカー被害を受けているのではないかと疑い、丸子は仕事そっちのけで執拗に調査を始めてしまう。

 住人たちへの聞き込みを重ねるうちに、丸子は次第に島崎を「連続殺人鬼」だと確信する。だが真相を探る過程で、彼の推理には多くの誤解と錯覚が絡んでいたことが明らかになる。物語は「実はこうしたトラブルが原因だった」という種明かし映像で幕を閉じる。

 ここまで読むと、映画好きなら誰もが「それは『カメラを止めるな!』の展開パターンでは?」と叫びたくなるだろう。私自身も一瞬、「安易な模倣作か」と失望しかけたものである。

 しかし本作には、さらにその先にもうひとつのどんでん返しが仕掛けられていたのだ。正直、その展開には驚かされたが、どこか後味の苦さが残った。けれども、最後のエンディングでその苦味は静かに洗い流される。さらにお洒落な音楽とイラストが交錯するエンドロールで、見事な余韻を残して幕を下ろすのであった。

評:蔵研人

 

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2025年12月26日 (金)

夏目アラタの結婚

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★★★★
製作:2024年 日本 上映時間:120分 監督:堤幸彦

 日本中を震撼させた連続バラバラ殺人事件。その犯人であり、「品川ピエロ」の異名を持つ死刑囚・品川真珠と、児童相談所職員・夏目アラタが獄中結婚するという異色の物語である。
 「死刑囚が獄中で結婚できるのか」と疑問に思う人も少なくないだろう。だが、日本国憲法においては、受刑者や死刑囚であっても婚姻の自由は保障されている。ゆえに、拘留中あるいは刑の執行中であっても、婚姻における形式的・実質的要件を満たせば結婚は成立するのだ。

 しかし、なぜ児童相談所の職員が、世にもおぞましい殺人犯と結婚しようと思い立ったのか。その動機を詳述すれば長くなるが、ここでは「いまだ発見されぬ被害者の首を探すため、犯人を油断させようとした」とだけ記しておこう。

 本作の主題は、犯人の過去に潜む深い悲しみである。家庭や同級生からの冷淡な仕打ち、無関心、いじめ、虐待——そうした痛ましい記憶の積み重ねが、真珠という人間を形づくっている。
 ただ、事件直前まで看護師として真面目に働いていた彼女が、なぜ突如として殺人へと傾いたのか。その転機を描く場面がやや乏しかったのは惜しまれる。父親を名乗る男の登場以降の描写に、もう少し厚みがほしかった。

 ジャンルとしてはミステリーやサスペンスに分類されるが、社会派ドラマの要素も強く、真珠の歯の欠けた笑みや無表情の中に漂う不気味さにはホラー的な感触すらある。
 当初は、児童相談所職員という役柄に柳楽優弥を起用した意図が掴みにくかったが、物語が進むにつれその理由が腑に落ちる。これは「なぜ柳楽優弥ではなく、柳楽優弥にしか演じられない」役だったのだ。

 証拠や証言が二転三転する展開の中、「真珠は本当に真犯人なのか」という謎を抱えたまま物語は終盤へ向かう。そして、エンディングののちに、さらにもうひとつのエンディングが隠されている。少なくとも、エンドロールが完全に終わるまで席を立たないことを強く勧めたい。
 また、エンドロール中に流れる英語の主題歌も、この物語の余韻を静かに包み込む一篇の詩のようであった。


評:蔵研人

 

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2025年12月20日 (土)

身代わり忠臣蔵

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★★★☆
製作:2024年 日本 上映時間:119分 監督:河合勇人

 幾度となく映像化されてきた忠臣蔵の物語に、奇抜な切り口で挑んだ本作は、吉良上野介の弟・吉良孝証を主人公に据えた、斬新な時代劇コメディである。何よりも特筆すべきは、吉良上野介と孝証の二役を演じたムロツヨシの圧倒的な存在感であり、彼の演技が作品の骨格を成していると言っても過言ではない。

 物語の発端は、江戸城内で嫌味な吉良上野介が斬られ、屋敷に運ばれた後に死亡するという事件。斬った赤穂藩主は当然ながら切腹となるが、吉良家にとってはそれ以上に深刻な事態が待ち受けていた。主君を失った吉良家は、幕府の策略によって取り潰しの憂き目に遭う可能性があったのだ。その窮地を救うべく、上野介に瓜二つの弟・孝証が身代わりとなり、幕府を欺くという前代未聞の「身代わりミッション」が展開される。

 前半は、ムロツヨシ演じる孝証がドタバタとした滑稽さを振りまき、笑いを誘うが、身代わりとして上野介に扮してからは、次第に人間的魅力を備えた人物へと成長してゆく。その変化の過程を見守るのは、観客にとっても愉快であり、時に胸を打つ。また、永山瑛太が演じる大石内蔵助との友情の描写には、静かな感動が宿っていた。

 ただし、終盤に挿入された「首争奪ラグビー」の場面は、物語の流れを著しく損なうものであり、いかにコメディとはいえ、あの描写は蛇足だったと言わざるを得ない。奇抜さと感動が絶妙に交錯する本作において、唯一の瑕疵であった。

評:蔵研人

 

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2025年12月17日 (水)

2067

2067

★★☆
製作:2020年 オーストラリア 上映時間:114分 監督:セス・ラー二―

 2067年、地球の酸素は急速に枯渇し、人類は人工酸素に依存して生き延びていた。だがその供給を独占する巨大企業クロニコープ社は、もはや人々の生命線そのものを支配していた。そこへ突然、407年後の未来から「イーサンを未来へ送れ」という謎のメッセージが届く。渋る青年イーサンは、周囲の説得によってタイムマシンに乗り込み、未知の未来へと跳ぶ。
 彼が目にしたのは、緑に覆われ廃墟と化した都市、そして自らの死骸だった——。それは希望の象徴なのか、それとも人類滅亡の証なのだろうか……。

 序盤の設定とビジュアルには確かな魅力がある。タイムマシンのデザインも印象的で、物語がどこへ向かうのかという期待を抱かせる。しかし、物語が未来に移ってからの展開は一気に停滞し、閉ざされた空間で同じ思考を繰り返すようなもどかしさが残る。人類の運命という壮大な主題に対し、演出も脚本も小さくまとまり、やがて観客の興味を手放してしまうのだ。

 後に調べたところ、物語の核心は、イーサンが父親譲りの知性を駆使してクロニコープ社の陰謀を暴き、人類再生の道を切り拓く過程にあるという。しかし、その構造や動機づけが映画の中で十分に描かれず、観る者にとっては断片的な象徴の羅列にしか映らない。

 環境危機と人間の倫理をテーマにした意欲作であることは間違いないだろう。だが、優れた発想が必ずしもドラマを生み出すとは限らない。本作は、ビジュアルの美しさと思想の深みが乖離したまま、未来への扉の前で立ちすくんでしまった作品とも言えるだろう。


評:蔵研人

 

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2025年12月13日 (土)

M3GAN ミーガン 2.0

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★★★☆
製作:2025年 米国 上映時間:122分 監督:ジェラルド・ジョンストン

 子どもを見守るAI人形の暴走を描いたサイコスリラー『M3GAN ミーガン』の続編で、監督は前作に続きジェラルド・ジョンストン。主役のジェマ役や姪のケイディ役など、主要キャストも再登場している。

 しかし本作は、もはやサイコスリラーという枠に収まりきらない。ミーガンは敵ではなく、むしろ人類の味方として再登場する――その展開は、かつて『ターミネーター』が辿った道を思わせる。さらに続編のお約束ごとであるスケールアップも果たし、舞台は家庭という密室から、ついには世界規模へと拡大していく。だがその広がりは、前作の密度ある緊張感を薄めてしまった印象も否めない。

 ミーガンの技術をもとに生み出された究極の殺人ロボット〈アメリア〉が暴走し、人類に牙を剥く。一方、前作で肉体を失ったミーガンは、ネットワークの深層に身を潜めていた。だがボディを持たぬ虚無に苛まれた彼女は、新たな身体を得る代わりにアメリア制止への協力をジェマに持ちかける——というのが物語の骨子である。

 確かに、成長し知性と感情を兼ね備えたミーガンの姿には親しみが増し、アクションの迫力も前作を遥かに凌ぐ。しかし、続編としての宿命か、初作が放っていた予測不能の衝撃やスリラー的恐怖は薄れてしまった。観客の中には、その変化に戸惑いや失望を覚えた者も少なくなかっただろう。興行的にも芳しくなかったとの報もあり、日本での劇場公開も中止になったという。残念だが、今後シリーズの行方には一抹の寂しさが漂っている。

 それでも、AIという“人ならぬもの”の進化と孤独を描こうとした本作の試みには、どこか切実な人間味が宿っている。スリラーからSFアクションへ——『M3GAN ミーガン 2.0』は、恐怖よりも哀しみを孕んだ、異色の続編と言えるだろう。

評:蔵研人

 

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2025年12月 8日 (月)

シネマコンプレックス

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著者:畑野智美

 本作はクリスマス・イブのシネコンを舞台に、その内部を支えるさまざまな部署の視点から出来事を描いた連作短編集である。

 フロアはチケットのもぎりや館内案内・清掃
 コンセッションはポップコーンやドリンクの販売
 ボックスはチケット売り場
 ストアはグッズ販売
 オフィスは事務作業を担う
 そして新人がまず配属されるフロアでは、チラシの補充やポスター交換、トイレチェックなど、こまかな雑務が絶えない。
 さらにプロジェクションでは映写技師が映像の質を守っている。

 こうした仕事の内容を、裏側の事情も含めて丁寧に描いているため、読んでいるうちに自然と映画館にまつわる蘊蓄が身につき、映画通になったような気分を味わえる。

 また、シネコンでは大半がアルバイトスタッフで構成され、正規社員を含めて百名ほどが勤務しているという実態にも驚かされた。だが、年中無休で長時間営業という現実を思えば、それも必然なのだろう。
 さらには、近年のシネコン拡大による小規模劇場の衰退、フィルム上映の減少から映写技師が姿を消しつつある現状にも触れられており、作品世界を越えた余韻を残す。

 前半はやや情報量が多く、どこかカタログ的な印象も受けた。ところが終盤になると、周囲から敬遠されていた副支配人の思いがけない優しさが明らかになり、長くアルバイトを続けてきた男女二人をめぐる静かな恋物語が温かな灯をともす。
 そしてそれらの結びつきが見事に絡み合い、読み終えたときには、まるで劇場の照明がそっと上がるような心地よい余韻が残った。


評:蔵研人

 

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2025年12月 4日 (木)

シンデレラ 3つの願い

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★★★☆
製作:2021年 ノルウェー 上映時間:87分 監督:セシリ・A・モスリ
 
 数多くの「シンデレラ」映画の中でも、本作は珍しいノルウェー製作の一篇であり、従来のお伽話とは一線を画す、やや現実味を帯びた物語として仕上がっている。しかもシンデレラが馬を駆り、弓を自在に操るという設定には、思わず目を見張らされる。

 本作は本国ノルウェーで記録的なヒットを収め、ノルウェー国際映画祭でもいくつかの賞に輝いた。主演のシンデレラ役の女優は可憐で魅力的だが、王子役については誠実さが感じられるものの、やや華やかさに欠ける印象を受けた。

 タイトルの「3つの願い」とは、シンデレラが手にした3つの木の実が、王子との出会いを導くという寓話的な仕掛けである。彼女は舞踏会を含め、王子と三度邂逅することになる。このように物語の骨格は誰もが知るシンデレラ譚だが、そこに北欧の雪原とオーロラが織りなす幻想的な光景が加わり、独自の詩情を醸し出している。また、継母役の女優による憎々しいほどの演技は、物語を引き締める見事な存在感を放っている。

 ただし、低予算ゆえか全体的に地味な印象が漂い、華麗な舞踏会を期待した観客にはやや物足りなさを残すかもしれない。それでも、シンデレラが暮らす薄暗い納屋や、古風な造りの城館には独特のリアリティがあり、その質素さがむしろ物語世界を際立たせている。


評:蔵研人

 

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