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2025年11月の記事

2025年11月30日 (日)

滅茶苦茶

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著者:染井為人

 まさにタイトル通り、滅茶苦茶な構成と展開が印象的な一作である。

 物語の主人公は三人————マッチングアプリでロマンス詐欺に騙されるキャリアウーマンの今井美世子、不良と遊ぶようになる高校二年生の二宮礼央、そしてラブホテルの経営不振に悩む中年男・戸村茂一。それぞれがまったく接点のない生活を送っており、彼らの物語は平行に語られていく。つまり、三つの異なる視点によるパラレルストーリーの形式を取っているのだ。

 ただし、三人には共通点がある。いずれも真面目な人物であるにもかかわらず、ある日を境に人生の歯車が狂い始め、もがきながら深みへと沈んでいく————。その過程はまるで、負けが込んだ博打に熱を上げて際限なく金を注ぎ込むかのようで、読んでいて次第に焦燥感が募ってくる。とはいえ、現実社会にもこのようにして身動きが取れなくなってしまう人々は少なくないのだろう。

 まったく無関係に思えた三人のストーリーだったが、なんと終盤で突然交差するのだ。しかも、肝心な時に誰一人としてスマートフォンを所持していないという不自然さを抱えながら、物語はさらなる混沌へと突入する。やがて展開はドタバタ劇の様相を呈し、漫画さながらの追走劇が繰り広げられる。そして、読者の期待をあざ笑うかのように、結末は尻切れトンボのまま幕を引いてしまうのだ。

 面白いことだけは保証するが、初めから終わりまで、まさに「滅茶苦茶」————それ以外にこの作品を形容する言葉は見つからない。

評:蔵研人

 

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2025年11月27日 (木)

室町無頼

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★★★★
製作:2025年 日本 上映時間:135分 監督:入江悠

 原作は垣根涼介の時代小説。それを大泉洋主演で実写映画化した戦国アクション大作である。本作は、室町時代中期に起こった土一揆(徳政一揆)の指導者・蓮田兵衛の知られざる戦いを、重厚な人間ドラマとして描き出している。

 それにしても、室町時代を真正面から描いた時代劇は稀有である。京の町並みや寺院の再現度も高く、建築物のスケールやCGの完成度も上々だ。夜の都を松明の炎で覆い尽くす一揆の場面は、まさに圧巻。製作費10億円という触れ込みだが、それ以上の迫力と熱量を感じた観客も多いだろう。ただし、興行的には振るわず、製作費の回収には至らなかったという。

 物語の舞台は応仁の乱直前の京都。飢饉と疫病が蔓延し、民は困窮の極みにあった。それでも権力者たちは享楽に溺れ、腐敗した政に目を向けようとしない。人身売買や奴隷的労働、餓死が日常と化した混沌の世の中なのだ。

 そんな時代にあって、自由を求める剣の達人・蓮田兵衛(大泉洋)は、無頼の徒を糾合し、腐りきった幕府に叛旗を翻す。兵衛に救われた天涯孤独の少年・才蔵(長尾謙杜)は、彼の仲間のもとで棒術を学び、やがて戦いの渦に身を投じていく。
 しかし、兵衛の前に立ちはだかるのは幕府だけではない。かつては義兄弟の契りを結んだ悪友でありながら、今や幕府の治安維持を担う足軽集団の頭となった骨皮道賢(堤真一)もまた、兵衛の宿敵として立ち塞がる。

 一揆を率いる武士という設定や、潔い最期を遂げる結末には、白土三平の『忍者武芸帳』を彷彿とさせるものがある。さらに、棒術の天才・才蔵の姿には、同じく白土の『カムイ外伝』に登場する宿敵・ウツセを思わせる孤高の影が重なる。とりわけ才蔵が見せる棒術アクションの迫力は、本作最大の見どころと言っても過言ではないほど見事だ。

 久方ぶりに「本物の時代劇」を観たという満足感が胸に満ちる。だが、その完成度の高さに比して観客動員が伸びなかったことは、何とも惜しい。アニメ作品が興行収入100億円を超える時代に、実写映画、ましてや時代劇が観客を呼び込むのは容易ではない。製作費は嵩み、収益は乏しい————。このままでは、時代劇という文化そのものが静かに消えていくのではないか……。
 そう思うと、残念というより、胸が締めつけられるような悲しさを覚えるのである。

評:蔵研人

 

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2025年11月24日 (月)

歌舞伎町ララバイ

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★★★
著者:染井為人

 とにかく凄まじい小説である。だが同時に、ある意味で読後に強い不快感を残す作品でもある。ぼったくりバー、ホスト、キャバクラ、ヤクザ、家出少女——。もし歌舞伎町の実態が本書の描く通りであるなら、それはまさに現代の地獄絵図と呼ぶべきだろう。
 著者・染井為人が、かつて芸能マネージャーであったという経歴を持つことも興味深い。彼はいったいどのような経路で、この街の闇に肉薄したのか。想像するだけで背筋が寒くなる。

 物語の主人公は、わずか十五年の生を経て「完璧な絶望」を味わった少女・七瀬である。中学卒業と同時に家を飛び出し、たどり着いたのが歌舞伎町だった。彼女にとってその街は、唯一心が安らぐ“居場所”であった。
 トー横広場で仲間と語り合い、危険なバイトに手を染め、そして闇社会の住人や家出少女を食い物にする大人たちと関わっていく——。

 本作は二部構成をとる。第一部では、七瀬が堕ちてゆく過程とともに、歌舞伎町という都市の暗黒がこれでもかと描き出される。そして、やり過ぎた彼女がヤクザによって生き埋めにされる場面で幕を閉じる。
 第二部では、奇跡的に生還した七瀬が壮絶な復讐劇を繰り広げる。まるでタランティーノ監督の『キル・ビル』を彷彿とさせる、血と報復のカーニバルだ。

 全体として、作品は強い吸引力を持つ。前半の「闇の街・歌舞伎町」の描写は吐き気を催すほど生々しく、後半の復讐劇は悪人たちを次々と斬り伏せていく痛快さに満ちている。
 だが、総理大臣暗殺にまで及ぶ復讐のスケールは現実味を欠き、やや漫画的な誇張に終始した点が惜しい。それでも、ホストを葬る場面には必殺仕置人のような陰惨なカタルシスがあり、思わず溜飲が下がる思いだった。

評:蔵研人

 

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2025年11月20日 (木)

MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない

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★★★★
製作:2022年 日本 上映時間:82分 監督:竹林亮

 一週間のタイムループを延々と繰り返す広告代理店の社員たちの奮闘を描いた、異色のSFコメディである。舞台はほとんどが狭いオフィスの一室、登場人物もほぼ無名の俳優十名足らずという超低予算作品だ。

 タイムループという題材自体はもはや珍しくないが、限られた空間で登場人物全員が徐々にその異常事態を理解していくという構成が新鮮である。さらに、「上司にだけループの存在を気づかせなければ終わらない」という設定は、日本のサラリーマン社会に根付く上下関係や同調圧力を痛烈に風刺しており、笑いの中に鋭い社会批評を潜ませている。

 タイムループの原因は部長にあるものの、当の本人だけがその事実に気づかない。社員たちは一丸となって部長に現状を理解させなければ、永遠に同じ一週間を繰り返す羽目になるのだ。その過程で、彼らが組織の中で自我を越え、協働していく姿が描かれていく。

 出演者は無名の俳優が多いが、いずれも個性的で説得力のある演技を見せている。中でも、キャリア志向の女性社員・吉川朱海を演じた円井わんの存在感が際立っていた。彼女はこれまでも個性派俳優として様々な作品に出演しており、本作でも確かな印象を残している。

 本作はタイムループ映画としての完成度も高いが、それ以上に『カメラを止めるな!』のように、発想と構成の妙で勝負した低予算映画として光る一篇である。派手な映像やスター俳優に頼らず、脚本と演出の力で観客を引き込むその姿勢は、まさに日本インディーズ映画の醍醐味と言えるだろう。
 ただ、テレビドラマでも成立しそうな規模の物語であるため、「映画館で観る価値」をどう判断するかは観る者に委ねられている。しかし、それを含めてもなお、本作がもたらす小さな驚きと温かな余韻は、現代の映画シーンに確かな意義を刻んでいる。


評:蔵研人

 

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2025年11月18日 (火)

侍タイムスリッパー

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★★★★
製作:2024年 日本 上映時間:131分 監督:安田淳一

 本作はもともと自主製作映画として池袋シネマ・ロサの一館のみで静かに封切られた。ところが、口コミによって評判が広まり、やがてギャガが共同配給に加わることとなる。新宿ピカデリーやTOHOシネマズ日比谷をはじめ、全国百館以上での順次拡大公開へと発展し、異例の大ヒットを記録した。さらに第48回日本アカデミー賞では、ついに最優秀作品賞を受賞する快挙を成し遂げたのである。

 物語の舞台は幕末の京都。会津藩士・高坂新左衛門は、家老から長州藩士討伐の密命を受ける。標的の男と刃を交えた瞬間、落雷に見舞われ、彼は気を失ってしまう……。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所であった。新左衛門は自らが時を越えてしまったことに気づかぬまま、撮影の現場に紛れ込んでしまう。

 やがて彼は、江戸幕府がすでに滅び、時代が大きく変わったことを知り、愕然とする。一度は死を覚悟するが、心優しい僧侶夫婦に助けられ、やがて“時代劇の斬られ役”として新たな生を歩む決意を固めるのだった。

 自主製作ゆえに有名俳優の出演はないものの、主演の山口馬木也をはじめ、各俳優がそれぞれに味わい深い演技を見せている。特に僧侶夫婦の存在は『男はつらいよ』の“おいちゃん夫婦”を思わせ、観る者の頬を自然に緩ませる温かさがあった。

 侍の現代へのタイムスリップを描いた作品は『満月』や『ちょんまげぷりん』など過去にも存在するが、本作はそれらとは一線を画している。コメディの体裁をとりながらも主人公は終始真摯であり、終盤には真剣を手にした本格的な殺陣が展開される。その中で浮かび上がるのは、時代を超えて受け継がれる武士道精神の凛とした輝きである。

 衰退が囁かれる時代劇というジャンルにおいて、本作はまるで新風のような力強さと説得力を放っている。次回作では、もう少し潤沢な資金を得て、ぜひ“本物の時代劇”を堂々と撮り上げてほしい————そう願わずにはいられない。

評:蔵研人

 

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2025年11月14日 (金)

時帰りの神様

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★★★
著者:成田 名璃子

 北鎌倉の静かな一角に佇む、一条神社。参拝客もまばらなこの神社を切り盛りするのは、イケメン神主・若宮雅臣と、美しい妹巫女・汀子の兄妹である。一見なんの変哲もない、時代に取り残されたような古びた神社。だが、ここにはある特別な力が秘められている——それは「過去へ時帰り(タイムリープ)できる」という不思議な力である。

 本書は、雑誌に掲載された短編5話を収めた作品集であり、川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』の“喫茶店”を“神社”に置き換えたような構成とも言えるだろう。どの物語も、過去に戻り、やり直したい瞬間と向き合う人々の心の旅を描いている。

各話のあらすじ:

第1話『この胸キュンは誰のもの』
 女子高生の頃、思い切ってイケメンのクラスメートに告白したものの、その後悔を抱え続ける20代半ばの女性が、もう一度“あの日”の自分と向き合う物語。

第2話『想い出の苦いヴェール』
 管理職としての重責に疲弊し、平社員時代の自由を懐かしむ中年男性が、自らの初心と再会する物語。

第3話『高くついた買い言葉』
 初めての子育てに追い詰められ、夫との些細な言い争いを悔やむ女性。母となった自分の弱さと向き合いながら、夫婦の絆を見つめ直す女性の話。

第4話『永遠の縁日』
 転校が決まった親友と最後に夏祭りへ行けなかった——そんな後悔を胸に秘めた小学生が、子どもながらに友情の重みを知る一篇。

第5話『だいすき』
 事故で幼い娘を失った夫婦が、彼女と過ごした最後の日へと時帰りする。子どもを育てたことのある読者なら、きっと涙を禁じ得ないだろう。

 著者がライトノベル出身ということもあり、どの物語も重すぎず、暗さや陰惨さを極力避けた、優しく穏やかな語り口で貫かれている。心温まる雰囲気に包まれながら読み進められるのは、本作の大きな魅力の一つだろう。

 ただ、物語がすべて「過去の後悔を癒す」という同じ構図の繰り返しであるためか、読み終えた後にはやや物足りなさを感じたのも事実である。またもう一歩踏み込んだ心理描写や、想定外の展開があれば、より深みが増したのではないかとも思う。とはいえ、人生の機微にそっと寄り添うような、静かで優しい短編集として、多くの人の心に小さな余韻を残すことだろう。

評:蔵研人
 

 

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2025年11月11日 (火)

リバー 流れないでよ

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★★★☆
製作:2023年 日本 上映時間:86分 監督:山口淳太

 人気劇団「ヨーロッパ企画」が手がけたオリジナル長編映画の第2作。冬の京都・貴船を舞台に、わずか2分間のタイムループを繰り返す人々の混乱と可笑しみを描いた群像コメディである。

 タイムループものが大好きな私だが、今回はその「わずか2分」という極端な短さゆえ、同じ光景が幾度となく繰り返される前半では、やや焦燥を覚えた。しかし、主人公だけでなく登場人物全員がループを自覚しているという設定は新鮮で、物語に独特のテンポと知的な面白さをもたらしている。

 一体、このループを生み出しているのは何なのか。そして、いつになったら彼らは時間の檻から解き放たれるのか。観る者もまた登場人物とともにその謎に翻弄され、時の流れを取り戻す瞬間を息を詰めて待ち続ける。終盤、ようやくその原因が明らかになる。心理的なトラウマや人間関係のひずみかと思われたそれが、実はまったく別の————物理学的な要因によって引き起こされていたと知ったとき、思わず膝を打つ。

 撮影は京都・貴船神社と貴船川のほとりに佇む老舗料理旅館「ふじや」の全面協力によって行われた。静寂に包まれた雪の貴船の風景が、時間の停止というテーマを見事に映し出しており、この場所なくしては成立しえない映画であったといえるだろう。

評:蔵研人

 

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2025年11月 7日 (金)

黒い糸

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著者:染井為人

 怖い、怖い、とにかく怖い。久々に心の奥をざらりと撫でられるような恐怖小説に出会った。
 ただし、最初から恐ろしいわけではない。どこか不気味な、子どものいたずらのような違和感から始まり、じわじわと日常が侵食されていく。そして気づけば、終盤には震えるほどのホラーへと成長しているのだ。

 主人公の平山亜紀は、39歳のシングルマザー。結婚相談所で勧誘員として働き、小学6年生の息子・小太郎と二人暮らし。物語は、小太郎の同級生の女子が行方不明になるという事件をきっかけに動き始める。それを皮切りに、次々とクラスに関連した不可解な出来事が起こっていく。

 さらに、亜紀がストーカー気質のある顧客とトラブルを起こした後、無言電話やゴキブリの死骸といった執拗な嫌がらせが日常を襲う。ページをめくる手が止まらないほど、常に緊張感が張りつめており、読者の精神すら巻き込んでいく筆致は見事というほかない。

 気づけば、夜更けに灯りを消すこともためらわれるようになり、あっという間に読み終えてしまった。

 物語のもう一人の軸として登場するのが、小太郎の担任教師・長谷川祐介だ。彼もまた事件に深入りし、やがて「巻き込まれる側」へと転じていく。その姿が、読者自身と重なって見える瞬間すらある。

 終盤に至るまで真相はベールに包まれ、犯人の気配すら掴めない。だがラスト直前、まるで堰を切ったように怒涛の展開が押し寄せ、真実が明らかにされる————その急転直下ぶりには、やや狐につままれたような感覚も残った。

 そして、最後にただ一人「生き残ったある少女」の存在が、不気味な余韻を物語に残して終わる。恐怖の正体が明かされたあともなお、読み手の心に黒い糸が絡みつく。そんなほろ苦い後味を持つ一冊であった。

評:蔵研人

 

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2025年11月 4日 (火)

新幹線大爆破

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★★★★

製作:1975年 日本 上映時間:152分 監督:佐藤純弥

 いま改めて観ると、まず配役の豪華さに圧倒される。犯人役の高倉健を筆頭に、千葉真一、宇津井健、山本圭、竜雷太、宇津宮雅代、藤田弓子、多岐川裕美、志穂美悦子、渡辺文雄、小林稔侍、志村喬、丹波哲郎、北大路欣也、田中邦衛、川地民夫──日本映画黄金期の顔ぶれが勢揃いしているではないか。

 タイトルからして危ういが、その内容もまさに「新幹線に仕掛けられた爆弾をいかにして解除するか」を描く、直球勝負のパニック大作である。

 物語は、国鉄(現・JR)本社にかかってきた一本の脅迫電話から始まる。犯人は、東京発博多行き「ひかり109号」に爆弾を仕掛けたと告げ、列車の速度が時速80キロを下回れば爆発する仕組みだという。虚言ではない証拠として、北海道・夕張線の貨物列車に同種の爆弾を設置したとも話す。まもなくその列車が実際に爆発し、脅迫が真実であることが明らかになる。

 犯人グループは、高倉健演じる倒産した町工場の社長・沖田哲男、その元社員で沖縄出身の青年・大城浩、そして過激派崩れの古賀勝の三名。彼らは500万ドル(当時約15億円)を要求し、金銭と引き換えに解除方法を伝えるという。

 新幹線「ひかり109号」は時間稼ぎのため速度を100キロ前後に落とし、他の列車はすべて運休。しかし予期せぬトラブルが次々に重なり、状況は悪化の一途をたどる。異常な運行に乗客が気づき、車内は次第に混乱と恐怖に包まれていく。

 スリルと緊迫感の連続に、観る者は息を詰めてスクリーンに釘付けとなる。だがその一方で、警察の無能ぶりにはいささか苛立ちを覚える。物語の都合上とはいえ、四度も失態を重ねる展開はやや作為的だ。日本中の警察が総力を挙げてなお、町工場の男3人に翻弄されるというのは、いささか信じがたい。あきらかに物語を引き延ばすための方便と見えてしまう。

 そのためか、上映時間は実に152分。アメリカ版では115分、フランス版では100分に短縮されたというのも頷ける話だ。

 それにしても、こんな危険な題材にJRが協力することは、今の時代ではまず不可能だろう──そう思っていた矢先、なんと2025年、草彅剛主演によるリブート版がNetflixで配信されたと聞き、思わず驚かされた。時代を超えてなお、列車と人間の緊迫したドラマが再び走り出したのだろうか。

評:蔵研人 

 

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2025年11月 1日 (土)

芸能界

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著者:染井為人

 本書は、芸能界を舞台に描かれた七編からなる短編集である。ふだん短編集には途中で気持ちが途切れてしまいがちなのだが、染井為人の筆力はさすがと言うべきか、気づけば一気に全作を読み終えていた。

 これら七つの物語はすべて芸能界という共通の舞台を持ちながら、それぞれが独立した構造を持ち、異なる角度からこの世界の光と影を描き出している。その展開の巧みさと、多彩な視点が実に魅力的だった。

 『クランクアップ』『ファン』『いいね』『終幕』『相方』『ほんの気の迷い』『娘は女優』の七作は、いずれも2019年から2023年にかけて「小説宝石」に掲載された作品であり、全体としては、染井作品の中では比較的軽やかな語り口が特徴的である。

 とはいえ、SNSの「いいね」に執着するかつてのアイドルを描いた『いいね』、芸能プロダクションの女社長が見せる老いらくの恋を綴った『終幕』など、作者特有の“病的な執着”がにじむ作品もあり、その狂気じみた感情の描写に引き込まれてしまった。

 全体的に陰影の濃い話が多い中で、最終話『娘は女優』だけは例外的に、さまざまな人々の愛情が交錯し、未来への希望を感じさせる温かい物語となっていた。この一点において、染井為人には珍しい、柔らかな光が差す一編と言えるだろう。

評:蔵研人

 

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