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2025年6月14日 (土)

終の盟約

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著者:楡周平

 本作は現代における医療システムの問題点と安楽死や尊厳死をテーマにした社会派小説でもあり、登場人物たちの心理的葛藤を綿密に描いた群像劇仕立てのミステリー小説とも言えなくもない。従って常に緊張感が漂い、読者は一瞬たりとも気を抜けないような状態が続くのである。

「ぎゃあああーー!」
 内科・開業医の藤枝輝彦は、妻・慶子の絶叫で跳ね起きた。元医者であった父・久が風呂場を覗いていたというのだ。さらに輝彦が久の部屋へ行くと、なんとそこには妻に似た裸婦と男女の性交が描かれたカンバスで埋め尽くされていたのである。
 このときにやっと輝彦は、父の認知症を確信し、専門医に検査を依頼すると、やはり心配していた通り「レビー小体型の認知症と診断されてしまった。

 その後輝彦は、久が残した事前指示書「認知症になったら専門の病院に入院させ、延命治療の類も一切拒否する」に従い、父の旧友が経営する病院に入院させることになるのだった。
 これからの長い介護生活を覚悟した輝彦であったが、なんと久は一か月後に心不全で突然死してしまうのである。だがそれは「医師同士による密約の実行」だったのであろうか……。

 この父の早過ぎる死に疑問を持った次男で弁護士の真也が真相を探ろうとするのだが、結局調査は医師である兄の輝彦に任せて、自身は安楽死や尊厳死という難解なテーマ自体に興味を持ち始めるのだった。そんな夫の煮え切らない行動に不満を感じた真也の妻・昭恵は、友人の美沙の知り合いであるフリー記者に調査を依頼してしまうのである。

 ほとんど極悪人は登場しないのものの、この昭恵の強欲さと嫉妬深さだけは異常極まりなく不快感を拭えなかった。ただ極端に描かれてはいるものの、このような妻は世の中に蔓延していることも否めないだろう。またこの昭恵こそこの小説の影の推進役であったのかもしれない。なかなか重量感のある充実した作品であるが、ラストがあっけなかったのがやや残念であった。

 さて本作を書き上げたころは、認知症は恐怖に満ちた不治の病であったが、近年やっと「認知症の進行を妨げる薬」の発明がなされ、医薬品としての認可に続き保険適用という朗報が流れたことは実に喜ばしい限りである。
 まあいずれにせよ、本作のテーマである安楽死や尊厳死こそ、そろそろ世界中が本気になって論じてゆかねばならないギリギリの瀬戸際に辿り着いているいることだけは間違いない事実であろう。

評:蔵研人

 

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