人間標本
奇妙なタイトルそのままに、人間――それも美少年たちを蝶に見立てて殺害し、標本にするという狂気のストーリーなのだ。さらにその狂気は小説の中だけにとどまらず、ご丁寧に6ページにもわたる人間標本の口絵まで添えられているという念の入れようではないか。
湊かなえの作品としては、かなり世界観を広げた実験的な作品だと感じた。そして添えられた口絵が誘う猟奇的ながらファンタジックな美しさに翻弄されたことも否めない。だが、少なくとも本作の核ともいえる「人間標本収集チャプター」は、特に蝶に興味もなく、かつ人間を標本にする意図も理解できない私としては、延々と続く“蝶の蘊蓄”にうんざりし、モヤモヤとした退屈感も拭い去ることができなかった。ただ、『人質の法廷』での“残虐でえげつない殺戮描写”がなかったことには救われた。
イヤミスの女王と呼ばれる作者だが、なぜ今、“江戸川乱歩”を髣髴させるような気味の悪い猟奇的な作品を書く必要があったのだろうか。正直、途中で何度か投げ出してしまおうかと思ったのだが、きっとあの湊かなえなら、このあとにゾクゾクするような展開が待っているに違いない……。
そう信じて辛抱強く終盤近くまで読み進めていると、「えっ! そうだったの」と読者をおちょくるようなどんでん返しが待っていた。それで何となく納得したものの、ところが最後の最後になって、はたまたイタチの最後っ屁のようなダブルどんでん返しに遭遇することになる。
このとき読者たちの脳裏には、読後もなお焼きつくような衝撃が走るだろう。それは真犯人の意外さだけにとどまらず、主人公の行動をすべて無に帰す超シニカルな結末であった。この後味の悪い皮肉な驚愕こそ、今まで狂気の世界に引きずり込まれていた読者たち、いや主人公自身までもが、現実世界で覚醒する雄叫びになるのだった。
評:蔵研人
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