クスノキの番人
★★★★☆
著者:東野圭吾
奇妙なタイトルだが、ある意味そのものズバリのタイトルなのだ。つまり主人公直井玲斗がまかされた仕事が、柳澤家に代々伝わる大クスノキの番人だったたのである。
このクスノキは柳澤家が保有する月郷神社の奥に太古から鎮座しており、どんな願い事でも叶うというパワースポットとして地元では人気があるらしい。ただそれは表向きのご利益であり、実はこのクスノキにはとほうもなく摩訶不思議な能力があったのである。
その能力を十分に発揮できるのは、満月と新月の夜中であり、クスノキの内側にある洞窟の中で蠟燭を炊きながら念じるという、なんとなく「丑の時参り」のようなイメージがわいてくるではないか。前半ではそこで何を念じているのか、そしてその効能などについては一切知らされない。それが中盤以降になって少しずつ分かってくるのでそれまでは辛抱してほしい。
本作を一言でまとめれば、「クスノキの中で何を念じているのか、そしてその効能はいったい何なのか」といった謎解き風の妙味がブレンドされた心が熱くなる新感覚のファンタジーといったところであろうか。
また柳澤家の当主である柳澤千舟と直井玲斗は、伯母と甥の関係であるが、玲斗が生まれた時と15年前の小学生時代の二度しか会っていない。もちろん玲斗は千舟のことなど覚えているはずもない。ではなぜいまさら二人がめぐり逢い、玲斗に大切なクスノキの番人役を任せたのであろうか。それはかなり複雑なので、ここで記すのはやめておこう。
千舟はかつて大手不動産企業の柳澤グループの中心として活躍していたが、現在は年老いて第一線から身を引き、ヤナッツ・クコーポレーション顧問として鎮座している。だがその肩書も従弟たちに剥奪されようとしていたのである。それでも彼女はいつも凛とした佇まいを崩さず、玲斗に厳しく接するのであった。
本作の内容はこのヤナッツ・クコーポレーションと千舟との関わり合い、クスノキに祈念する工務店主・佐治寿明とその家族の話、同じく祈念する和菓子メーカーの跡取り息子・大場壮貴と父親との話などが中心となっている。
もちろん玲斗の出自や、彼がクスノキの番人になって少しずつ成長してゆく過程も見どころなのだが、なんといってもクスノキに預けられた「千舟の本心」には誰もが感動してしまうことだろう。もしかすると、本当の主人公は玲斗が番人になる前にクスノキの番人であった千舟だったのかもしれない。
それにしても実に後味の良い小説であり、どの話も見事な着地で収まっている。さすが東野圭吾、と言うより老いて益々進化しているではないか。これからもクスノキシリーズが創れそうだなと思ったら、なんとすでに『クスノキの女神』という続編が出版されているではないか。いずれドラマ化や映画化も間違いないであろう。
評:蔵研人
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