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2025年1月の記事

2025年1月29日 (水)

思い出エレベーター

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著者:辻村深月

 子供の頃、家族と過ごしたデパートでの楽しかった瞬間が蘇る。デパートの食堂のお子様ランチや屋上の遊園地が懐かしい。それになぜか今は亡き、大好きだったじいちゃんまでいるではないか。
 なんと摩訶不思議でほんわりとする感覚が漂ってくる。このデパートのエレベーターは、タイムマシンだったのだろうか。知らない間にじわっと涙が滲んでくるではないか。

 そう今でこそ衰退しているが、昔のデパートには夢と希望があった。そして老若男女全員の憩いの場だったのである。本作の舞台になったデパートは日本橋三越百貨店であるが、ぼくは世田谷に住んでいたので、バスで行ける渋谷の『東横デパート』に家族揃って出かけたものである。その時代の東横デパートの屋上はなんと遊園地どころか渋谷駅前の空中を横断するロープウェイまであった。

 なお本作は短編であり、三越を舞台にしたアンソロジー集『時ひらく』の中に収録されており、その中には本作のほか、伊坂幸太郎、阿川佐和子、恩田陸、柚木麻子、東野圭吾の短編も収められている。またカバーデザインが、三越の包装紙と同じなのがなかなかユニークではないか。

評:蔵研人

 

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2025年1月24日 (金)

PLAN 75

Plan-75

★★★☆
製作:2022年 日本 上映時間:112分 監督:早川千絵

 75歳以上なら安楽死を選択できる制度が施行された2025年の日本を舞台に、その制度に翻弄される人々を描いた作品であり、我が国ではタブー視されているテーマに挑んだ意欲作とも言えるかもしれない。ただいまひとつ「安楽死」の深みには嵌りきれず、ラストも中途半端なまま終わってしまったのは残念だったが、他人事とは思えず身につまされる話でもあった。

 主人公は一人静かに暮らす78歳の老女・角谷ミチで、ホテルの客室清掃員として働いている。そこには同様に働く高齢者が4人いて、仲良く付き合っていたのだが、ある日同僚の一人が業務中に突然倒れて病院へ運ばれる。それに危機感を抱いたホテル側は、その事件を機に4人の老女を解雇してしまうのだった。
 解雇されてみると、別の勤務先が見つからず、住居まで立ち退きになったミチは途方に暮れて、安楽死制度であるPLAN 75を申請することになる。

 物静かで寂しい老女・角谷ミチを演じたのは、彼女しかいないと言ってもいいほど適役の倍賞千恵子。それにしても彼女はいつももの悲しく寂しそうなのだろうか。さらに現在82歳で撮影時は80歳だった彼女は、すでに皺だらけの本当のおばあちゃんになってしまった。90歳で大暴れしている草笛光子とは実に対照的ではないか。ただ声だけは寅さん映画のさくらの声と変わらなかったのが、アンバランスで摩訶不思議であった。

 本作は邦画であるが、正確には日本・フランス・フィリピン・カタールの合作である。監督は本作が長編映画初監督となる早川千絵で、第95回アカデミー賞・外国語映画賞部門 日本代表作品に選ばれている。さらに第75回カンヌ国際映画祭ほか数多くの映画賞を受賞しているようである。
 見どころはそれぞれ繋がりは薄いのだが、主役の老女・角谷ミチと、プラン75の職員である青年・岡部ヒロム(磯村勇斗)、フィリピンから出稼ぎにきてPLAN75の火葬場で働いているマリアの三人の視点で構成されていることであろうか。またオープニングで自殺した男性は、岡部ヒロムだったのか、そして安楽死した彼の叔父はミチの前夫だったのだろうかという謎が残った……。
 
 
評:蔵研人

 

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2025年1月21日 (火)

アゲイン!! 全12巻

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★★★☆
著者:久保ミツロウ

 著者の作品の多くは本作も含めて『週刊少年マガジン』へ連載しているし、名前も男名なのでてっきり男性漫画家だと思い込んでいた。ところがよくよく調べてみると、本名が久保美津子という48歳の女性だったのだ。また著者はかなりの遅筆で作品数も少ないのだが、代表作の『モテキ』が大ヒットし、TVドラマや実写映画化されている。

 本作は、3年間の高校生活を友達も出来ず部活にも入らず自堕落に生きてきた今村金一郎が、卒業式の日に急階段から転がり落ち、3年前の入学式の日にタイムスリップしてしまい、もう一度高校生活をやり直すというお話である。まあ最近ではよくあるストーリーなのだが、応援団員として活躍するというところがユニークかもしれない。
 さらにそのときの応援団長が美女だと言うところも珍しい設定である。と思ったら、よしづきくみちが本作より以前に『フレフレ少女』という女応援団長を描いたマンガを発表していたんだね……。

 もちろん応援団だけの話では退屈してしまうので、野球部の話や演劇部の話を絡めながら応援団の内情などを描いてゆく。画風は一見シリアス気味なのだが、あの『鬼滅の刃』同様、おバカなギャグ絵を織り込むという最近流行りの手法を用いている。
 登場人物も個性的でユニークなキャラばかりなので笑いながら読んでいるうちに、あっという間に読了してしまった。ただ最終回の話が分かり難く、中途半端な締めくくりだったのは残念だったな。
 またアゲイン後の今村が、余りにもモテモテで一体誰と結ばれるのかが興味深いのだが、なんとなく「なぜそんなにモテるんだ!」といった不自然感が湧いてきたことも否めなかった。たぶんある意味で『モテキ』の亜流作品なのかもしれないね。

評:蔵研人

 

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2025年1月17日 (金)

おすぎのいい映画を見なさい

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著者:おすぎ(杉浦孝昭)

 新書版よりはやや縦長だが横はやや短めというタブレットのような製本屋泣かせの変形本であり、第1巻から3巻までの三冊に分冊されている。元ネタは北九州の情報誌『おいらの街』に1988年10月号から1998年12月号までの約10年間に連載されたコラムである。また本書は映画評論と言うよりは、どちらかと言えば映画をつまみにした気ままなエッセイ集と言ったほうがよいかもしれない。

 従って作品ごとの詳しい評論を期待するとがっかりするかもしれない。例えば旅先などでの出来事を語りながら、思い出したように映画の感想を簡単に書き連ねるといった感覚なのである。また一つの作品に限定せず、『タイタニック』を語ると、ディカプリオの前作『ギルバート・グレイプ』や『ボーイズ・ライフ』もついでに語ったり、『プライベート・ライアン』ならかなり古い戦争映画『史上最大の作戦』などをさりげなく紹介している。

 従って主に紹介されている作品は、1988年から1998年の10年間に上映された和・洋・アニメ作品中の約120作程度であるが、前述したように関連・派生作品がその5倍前後あるので掲載されているタイトルはかなりの数になるはずである。それにしてもさすがに映画評論家を語るだけあって、ジャンルを問わずかなりの数の映画を観ているよね。私も最盛期には年間200本以上は観たと豪語したことがあるが、まさにその倍以上を観ているようなので全く勝負にならないよね。

評:蔵研人

 

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2025年1月12日 (日)

FALL フォール

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★★★☆
製作:2022年 米国 上映時間:107分 監督:スコット・マン

 なんと地上600メートルの超高層鉄塔のてっぺんに取り残された二人の女性の運命を描いたサバイバルスリラーである。岸壁をクライミング中に墜落した夫の影から逃れられずに悲しみに暮れているベッキー。彼女を慰めるために、現在は使用されていない古い鉄塔を制覇しようと提案する親友のハンター。

 二人は老朽化して不安定な鉄塔を必死で登りきるのだが、さび付いていた梯子の螺子が外れ、突然老朽化した梯子全体が崩れ落ちてしまう。さあ誰もいない荒野に建つ古い鉄塔の先端に取り残された二人は、これから一体どうなるのであろうか……。とにかくギシギシと壊れそうな梯子を登っているときからハラハラドキドと体によくないのだ。そしてまさに手に汗握るの通り、私の手のひらは脂汗でベトベトになってしまった。

 登場人物は殆ど二人で、舞台も鉄塔の上だけである。まさに限られた空間だけで展開される「ソリッドシチュエーション映画」そのものではないか。それにしてもあの鉄塔でのシーンは、どのようにして撮影されたのだろうか。まさか本当に登れるわけはないので、CGやら特撮やらを巧く繋げて編集したのだと思うが、かなり精密に創りあげたものだと感心してしまった。

 まさに本作はこの臨場感溢れる特撮が織りなす、ハラハラドキドキな緊張感と、いったい二人はこれからどうなってしまうのか、だけに限定した映画と言っても良いだろう。だからかなり不条理な描写が目立つものの、そのあたりは優しく許容してあげよう。ただ高所恐怖症の方は絶対に観ないほうが身のためである。

 さてベッキーの父親役をしていた俳優だが、どこかで見たことがあるのになかなか思い出せない。あとでよく調べてみたら、何とあの長編TVドラマ『ウォーキングデッド』のニーガンではないか!
 
評:蔵研人

 

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2025年1月 7日 (火)

ザリガニの鳴くところ

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★★★★
製作:2022年 米国 上映時間:125分 監督:オリビア・ニューマン

 本作は全世界で1500万部を売り上げたディーリア・オーエンズの大ベストセラー小説を映画化したものである。また奇妙なタイトルは、そもそもザリガニが鳴く訳はないのだが、自然の声に耳を傾ければ聞こえてくるような深い場所を指すメタファーとして使われている。またヒロイン・カイアが住んでいる湿地の周辺は、彼女の恋人の父親がザリガニ漁をしているところでもある。

 ただ映画評論家たちの間では、「原作小説を再構成して、雰囲気に不自然なところがないドラマを作り上げることができなかった」とかなり厳しい評価が下されたのだが、興行収入的には予想を大きく上回り、公開初週末に1725万ドルを稼ぎ出し、全米週末興行収入ランキング初登場3位となったというから大したものである。

 ノースカロライナ州の湿地帯で、将来有望な金持ちの青年が変死体となって発見される。そして検察側が逮捕したのは、なんと「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で育った無垢で純真な少女カイアだった。彼女は6歳の時に両親に捨てられて以来、学校へも通わずに湿地の自然から生きる術を学び、たった1人で生き抜いてきたのだが、土地の人々からは狼少女とか湿地の娘と疎まれていたのである。だがそんなカイアにも黒人の雑貨屋夫婦や老いた弁護士、そしてザリガニ漁師の父を持つ心優しい青年との出会いもあった。

 とにかく大自然の超美麗な映像には度肝を抜かれてしまうだろう。さらに時間を遡って語られるカイアの純な心とその悲しい運命にも惹き込まれてしまうのだ。
 不利な状況証拠を突き付けられて検察に責められ続けるカイアだが、果たして彼女は本当に人を殺したのだろうか。それともほかに真犯人がいるのだろうか。あるいは転落による事故死だったのだろうか。だんだんストーリーは核心に迫って行く、そして判決が言い渡されるのだか……。さらにラストには皮肉などんでん返しが待っていた。

 それにしても、なぜ米国の映画評論家たちの評価が良くなかったのだろうか。原作を読んでいないほうがよいのだろうか。いずれにせよ、本作のように多重構造を持った作品も珍しい。あるときは湿地で孤独に暮らす逞しい少女のサバイバルものであり、またあるときは事故死か他殺かを巡る法廷ものでもあり、またまたあるときは父親のDVや田舎の人々の偏見を描いたヒューマンものでもあり、さらにまたあるときは少年と少女のラブストーリーとも言えるからである。
 
 
評:蔵研人

 

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2025年1月 2日 (木)

オットーという男

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★★★★
製作:2022年 米国 上映時間:126分 監督:マーク・フォースター

 どこかで観たような映画だと思ったら、やっぱり2015年に製作され、第89回アカデミー外国語映画賞ノミネートされたスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のリメイク版であった。たかがリメイク版ではあるが、トム・ハンクスの主演でオリジナルにも引けを取らない、されど名作に仕上がっているではないか。

 北欧風味のオリジナルには、どっぷり感情移入し大泣きしてしまったものだが、米国風味の本作は舞台や人種、カルチャー、時代背景などが異なるだけではなく、名優トム・ハンクスの品の良さと幅広い演技力のお陰で独特の雰囲気を醸し出していた。また若かりし日のオットーを演じたトルーマン・ハンクスの実直な演技にも感動するだろう。実はなんと彼はトム・ハンクスの三男だというので二度驚いてしまった。

 最近は巨費を投じた派手なドンパチ作品ばかりに拘っているハリウッドでも、こうした良質な作品も創れるということを証明した映画であった。惜しむらくはリメイクではなく、オリジナルでこうした良品を創ってもらいたかったね。

 ストーリーの内容については、オリジナルの『幸せなひとりぼっち』とほぼ変わらないので、ここでは割愛させてもらう。良ければ上記タイトルをクリックすれば、過去に当ブログでオリジナルを評した記事があるので参照してもらいたい。


 
評:蔵研人

 

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