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リバー

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★★★★
著者:奥田英朗
 
 なんと648頁に亘るこの分厚い本を10日かかってやっと読み終わった。タイトルのリバーとは、渡良瀬川連続殺人事件のことを警察で『リバー事案』と略称で読んでいるからであろう。
 この事件は、群馬県桐生市と栃木県足利市で若い女性の殺人が相次いで勃発したもので、いずれも首を絞められ全裸で両手を縛られており、発見場所も群馬県と栃木県の県境付近を流れる渡良瀬川の河川敷であった。さらに10年前にも、同様の手口で若い女性が2人殺された未解決の事件が存在していたのである。
 
 本書はこの『渡良瀬川連続殺人事件』をめぐり、刑事、犯罪被害者、新聞記者、それぞれの視点でストーリーが紡がれてゆく。ただ犯人と思われる三人の人物たちの内面については真っ黒に塗りつぶされているだけで、読者としては彼らの行動や刑事たちの調査内容から想像するだけに留められている。そうすることにより、より犯人の不気味さやリアル感、さらには逮捕の難解さを強調しているのであろう。
 
 また本書は単なる推理小説ではなく、複数の登場人物の葛藤などを巧みに練り込んだ群像劇であり、主な登場人物を記すと次のようになる。
警察側
・斎藤一馬:捜査一課三係の刑事で、イチウマの愛称で呼ばれている警察側の主人公
・野島昌弘:足利北署刑事一課の巡査部長で、斎藤より若いが終盤に犯人逮捕の証拠をつかむ大手柄を挙げる
・滝本誠司:元刑事。十年前の事件を担当していたが、現在は警察を退職しているがOBとして後輩から慕われている
容疑者側
・池田清:十年前の渡良瀬川連続殺人事件の際に逮捕されたが、証拠不十分で不起訴となっている。ヤクザも怯える狂気の満ちた恐ろしい男
・刈谷文彦:ゼネラル重機に勤める期間工で、無口だがスナック「リオ」のママに惚れられて男女の関係となる
・平塚健太郎:県会議員の息子だが、無職でひきこもりで多重人格者である
新聞記者側
・千野今日子:中央新聞の新人女性記者で、まじめで一生懸命事件の担当をこなしている
・小坂:支局デスク。警察担当のキャップで警察との折り合いのつけかたが巧い
事件関係者側
・松岡芳邦:十年前の事件で娘を殺された遺族。写真館を営むが、その執拗な性格と復讐心は恐ろしいくらいだ
・吉田明菜:スナック「リオ」のママで、容疑者刈谷文彦にぞっこんである
・篠田:犯罪心理学の学者で、平塚健太郎の内部に潜む別の人格と会話ができる
 
 とにかく事件そのものよりもこれらの登場人物たちの行動や心象風景に圧倒されるだろう。ことに被害者遺族の松岡芳邦と元刑事の滝本誠司の異常とも思える行動としつこさ頑固さには、読者までが辟易させられてしまうだろう。また警察出身でもない著者が、よくこれほど詳細に警察の内部事情を書き連ねることができたものだと感心しっぱなしである。それにしてもよくできた小説であり、著者の最高傑作作品かもしれない。
 
評:蔵研人

 

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