投身
著者:白石一文
本作を読み始めたとき、主人公の旭を男性と勘違いしていて、なにか辻褄が合わないと感じていたら、実は49歳の女性であった。彼女は医療機器販売会社の営業ウーマンで、顧客に体の提供も厭わない熱心な仕事ぶりで成績優秀な営業ウーマンであった。顔は平凡なのだが、巨乳で脚が美しく男好きなスタイルを保持していたため、かなりモテていろいろな男が次々と入れ替わる。
仕事ができてセックス好きな女性を盛り上げるという面では、直木賞を受賞した『ほかならぬ人へ』とか、その姉妹作で三人称一元視点の『かけがえのない人へ』などの亜流のような気がする。ただ前二作に比べると本作のヒロインの男出入りは頻繁で、そのセックスもやや変態じみているところが好き嫌いの分岐点かもしれない。
営業関連の顧客たちは別にしても、大金持ちの二階堂さん、同僚のイケメン・リッチ、年下のゴロー、義弟の藤光などとの絡みが丁寧に描かれている。だが彼女が真剣に愛したのはゴローだけで、あとは成り行きといった感覚のようだ。
冒頭に登場したのが二階堂さんだったのだが、そのあとは二階堂さんの娘と金で買われたツバメたちの話が織り込まれるものの、二階堂さんとの絡みはラストになるまで沈黙したままだった。同時に旭と二階堂さんが交わしたと言う「交換条件」も、ラストに明かされるまで秘密のままであった。
最終的にタイトルの『投身』が意図する結末に繋がって行くのだが、どうもひとつひとつの話が切り張りのようで、ほとんど関連性がなく全体的にまとまりがなかった。また二階堂さんとの描写が少なかったためか、彼の心情や行動がよく理解できないままで終わってしまったのも残念としか言いようがない。まあ内容的にはいま一つの感があり、小説としての完成度も高くはないのだが、相変わらず読み易くやみつきになる白石節は健在だったのであっという間に読破してしまった。
評:蔵研人
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