著者:薬丸 岳
本書は少年犯罪の加害者家族を描いたミステリー小説である。また本書は週刊現代に連載されたものを第1章、第2章として修正し、そこに第3章を加筆して単行本化されたという。そして第37回吉川英治文学新人賞を受賞し、さらにテレビドラマも放映され2019年日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門優秀賞などを受賞している。
近ごろは子を持たない大人は少なくないが、全ての人には必ず親がいる。だから親子問題はいつの時代も避けては通れぬ命題なのだろう。そして少年少女たちが、グレたり悩んだり、ひきこもったり犯罪に手を染めたりする陰には、親との関係性が絡んでいることが多いようだ。だから親たちの責任も重大であり、会社や世間に顔向けができなくなることも必然なのかもしれない。
ある日突然、エリート社員・吉永圭一の職場に警察が訪れ、離婚した妻と同居している14歳の息子・翼を親友の死体遺棄で逮捕したと告げられる。もちろん殺人の容疑も否めないというのだ。そしてこの日を境にして吉永の生活は奈落の底へと突き落とされてしまう。
会社への言い訳、恋人との別れ、被害者の親への謝罪、弁護士費用や賠償責任問題、マスコミたちの追跡などなど、さらには心を閉ざして全く口をきいてくれない息子。とてもじゃないが親のほうがノイローゼで死にたくなってしまうほどの苦悩に塗れてしまうのだ。
本書のテーマは少年犯罪であるが、犯罪者の少年は終始沈黙し続けているだけであり、本当に殺人を犯したのか、またその動機は一体何だったのかが全く分からないまま中盤まで読み進めなくてはならない。作中の吉永も辛い思いの連続だが、読んでいるほうも辛くて堪らなくなってしまう。
だが後半になってやっと翼が口を開き始めると、俄然物語は一気に熱くなってくる。そして最終章では、裁判が終わってから4年後の吉永たちの在り方が描かれるのだが、その第3章があとで加筆されたとは思えないほどの完成度を誇っていたのには驚いた。
本書は「ミステリーの動機探し」に分類されるかもしれないが、動機そのものはなんとなく想像できる範囲かもしれない。だがその真価は、その先にある「心を殺すことと肉体を殺すことの優劣」あるいは「犯罪者の親としての苦悩と被害者の親の苦悩の重さ」などなのだろうか。
評:蔵研人
下記のバナーをクリックしてもらえば嬉しいです(^^♪↓↓↓
人気blogランキングへ
↓ブログ村もついでにクリックお願いします(^^♪
最近のコメント