傲慢と善良
著者:辻村深月
なんとなく学術書的なタイトルだが、実はミステリアスな恋愛小説なのだ。もしかするとジェイン・オースティンの長編小説『高慢と偏見』のコンセプトが下敷きになっているのかもしれない。また何の連絡もなく恋人が姿を消してしまい、警察に届けても相手にしてもらえず、仕方なく自分が探偵になって彼女の過去を探っゆくと言う展開は佐藤正午の『ジャンプ』から学んだのかもしれない。
本作の前半では、ストーカーに怯える坂庭真実の突然の失踪と、彼女を探し回る婚約者・西澤架の探偵ゴッコを緻密に描いている。警察に捜査依頼するところからはじまり、真実の実家や姉、昔真実がお世話になっていた結婚相談所、そこで紹介された男たち、真実の友人、などなどとの、のめり込んだ会話の数々、そこにはまさにミステリー風味が延々と漂う。一体彼女はなぜ失踪してしまったのか、まだ生きているのだろうか、だったらどこにいるのか……。
さらにその探偵ゴッコの中で繰り広げられる会話には、現代婚活の詳しいしくみや、若者たちの恋愛観などが解りやすくかつ興味深く綴られてゆくのである。もうそれだけでも、我々年配者には勉強になってしまうのだ。
さて本書のテーマである傲慢とは「プライド」とも相通ずるのだが、「狭い経験と認識」と置き換えることもできるだろう。従って他人のことは欠点ばかりを誇張して厳しく評価するのだが、自分自身に対しては自己愛が強く良い面だけしか認めない、ということになるのかもしれない。一方の善良とは、単に良い子と言う意味ではなく、鈍感とか無知とか世間知らずという毒も含んでいるのであろうか。
後半はどんでん返しのあとに復活・修正的なボランティア話に終始し、知識的には得るものがあったものの、前半の粘っこさに比べるとかなりトーンダウンした感があった。そこにやや物足りなさを感じたのは私だけであろうか。
それにしても『冷たい校舎の時は止まる』など著者の若かりし頃の作品しか読んでいなかった自分にとっては、これホントに辻村深月の作品なの?と疑問を感じるほど「大人の作品」であった。そりゃあ彼女も母になり40代だものね……かく言う私も「善良」なヒトなのかもしれないな、ははは。
評:蔵研人
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