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2024年2月の記事

2024年2月26日 (月)

ベル・エポックでもう一度

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★★★
製作:2019年 フランス・ベルギー 上映時間:115分 監督:ニコラ・ブドス

 自分が望む過去を映画撮影セットで再現する、と言う『体験型サービス』に、はまった老人の人生模様を描いたロマンティック・コメディーである。と言っても、タイムトラベル作品ではなく、あくまでも映画セットと俳優たちで過去を再現するサービスである。発想的にはなかなかユニークなのだが、ジャック・フィニイの『ふりだしに戻る』という小説の過去に戻る手法を参考にしたのかもしれない。

 進歩した現在を否定し、あくまでも過去に固執する元・売れっ子イラストレーターのヴィクトルは、今は職を失い妻にも見放されてしまう。そんな彼に孝行息子が、莫大な金がかかる『体験型エンターテイメントサービス』の招待券をプレゼントしてくれる。そしてヴィクトルが選んだ過去とは、愛する妻と巡り合った1974年のカフェであった……。

 序盤はなかなか興味深かい展開だったのだが、中盤以降は急にテンポが悪くなり、やや中だるみ感が漂い始めたのが残念であった。たぶん息子の友人でこの体験サービス会社を立ち上げたアントニーと、彼の恋人である女優の絡みが平行描写されたため、ストーリーの目的が分かり難くなってしまったからかもしれない。あくまでも本作では、ヴィクトルとその妻にだけに焦点を絞ったほうが、もっと感動を呼び込めたような気がするのだが……。


評:蔵研人

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2024年2月23日 (金)

あなたの涙は蜜の味

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   本書は2019年に出版され好評を得た『あなたの不幸は蜜の味』の第二弾で、女性作家7人によるイヤミス傑作選となっている。さてそれにしても「イヤミス」とは一体どういう意味なのだろうか。
 簡単に言えば「後味の悪いミステリー」ということらしい。だからといってマイナス評価という訳ではなく、ある意味ホラー的な魅力があるとも言えるだろう。

 それでは、その全七作の短編を簡単に紹介してみようか。
「パッとしない子」 辻村深月
 小学校の教師・松尾美穂は、かつて国民的アイドルグループのメンバー高輪佑の弟の担任であり、彼等の少年時代の様子を良く知っていることが自慢の種であった。ところがある日テレビ番組収録のため高輪佑が学校にやってきて、久し振りに話を交わすことになるのだが……。松尾美穂と高輪佑の二人にしか知りえないそれぞれの思い出に、大きな格差が残されていたというある種の恐怖感を見事に描いている。

「福の神」 宇佐美まこと
 余りうまくいっていない三世帯家族だったが、ある日祖母が歯科で知り合った初老の女性を家に連れてくると、家族それぞれが抱えていた悩みが急に解消されゆく。……といったファンタジックホラーという趣の作品である。

「コミュニティ」 篠田節子
 遠藤家は不況の煽りを受け、ローンを残したままマンションを売却し、僻地にある狭くて古い団地に引っ越してくる。そこでは住民たちが異常なまでに団結し、度を超えた深い人間関係が定着していた。はじめは全く馴染めなかった妻が、いつの間にかそのコミュニティにどっぷりつかってしまう様子を見た夫は、そこに何ともいえない不快感と奇妙さを感じるのだが……。
 
「北口の女」 王谷 晶
 大物演歌歌手とその付き人の話で、七作中一番の短編である。本書の解説者は本作をベタ褒めしているのだが、残念ながら私にはその絶賛する感覚が全く湧かなかった。

「ひとりでいいのに」 降田 天
 双子の女性がそれぞれ抱く感情を実に巧みに描いている傑作。さすが書下ろし作品で、まさに本書にピッタリの内容であった。ただ過去に江戸川乱歩が『双生児』という似たような作品を上梓しているのが気になったかな。

「口封じ」 乃南アサ
 本書の中で一番不愉快な話かもしれない。それは病院で付添婦をしている主人公の余りにも酷い態度の連続が延々と続くからであろうか。そしてラストでの残酷な復讐劇にも身の毛がよだつ。

裏切らないで」 宮部みゆき
 イヤミスというよりは、オーソドックスな刑事・探偵ものという感がある。本書の中では一番の大御所作家なので期待していたのだが、どうも長編的な丁寧な序盤が災いして短編としての味を楽しめなかったのが残念であった。

評:蔵研人

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2024年2月20日 (火)

君のためのタイムリープ

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★★★
製作:2017年 台湾 上映時間:104分 監督:シェ・チュンイー

 高校時代に『月球組』というバンドを結成していた5人組のボーカル・恩佩(エンペイ)は、その才能を認められて日本で活躍するのだが、落ちぶれてしまった挙句に若くして自殺してしまう。彼女の葬儀の後、5人組の一人だったジョンシャンは、路上で不思議な老婆から「一輪一晩」と言われて、三輪の玉蘭をもらう。そしてジョンシャンがその玉蘭の匂いをかぐと、なんと彼は高校時代にタイムリープしていたのである。
 高校時代なので当然だが、エンペイはまだ生きていて、必死でオーディションの練習をしていた。ジョンシャンはエンペイに死んで欲しくなくて、必死に彼女がデビューしない方法を考え邪魔をするのだが……。

 1997年の台湾が舞台なのだが、日本の風景も織り込まれており、安室奈美恵や小室哲哉や飯島愛に憧れている台湾の青年たちを観て、「そんな時代もあったなあ」と懐かしさがこみあげてきた。さらには『たまごっち』、『プリクラ』、『将太の寿司』などの日本カルチャーが満載なのだ。当時の台湾では、まだ日本が憧れの国だったのだろうか。
 決してつまらない映画ではないのだが、脚本が単純すぎるし、主人公とヒロインが余り魅力的ではなかったためか、中だるみ感を禁じえなかった。ただラスト前の15分間は、スクリーン全体に優しさが漂っていたよね。それにしてもその15分間のために、約100分間も我慢しなければならないのは辛過ぎるじゃないの……。

 
評:蔵研人

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2024年2月17日 (土)

傲慢と善良

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著者:辻村深月

 なんとなく学術書的なタイトルだが、実はミステリアスな恋愛小説なのだ。もしかするとジェイン・オースティンの長編小説『高慢と偏見』のコンセプトが下敷きになっているのかもしれない。また何の連絡もなく恋人が姿を消してしまい、警察に届けても相手にしてもらえず、仕方なく自分が探偵になって彼女の過去を探っゆくと言う展開は佐藤正午の『ジャンプ』から学んだのかもしれない。

 本作の前半では、ストーカーに怯える坂庭真実の突然の失踪と、彼女を探し回る婚約者・西澤架の探偵ゴッコを緻密に描いている。警察に捜査依頼するところからはじまり、真実の実家や姉、昔真実がお世話になっていた結婚相談所、そこで紹介された男たち、真実の友人、などなどとの、のめり込んだ会話の数々、そこにはまさにミステリー風味が延々と漂う。一体彼女はなぜ失踪してしまったのか、まだ生きているのだろうか、だったらどこにいるのか……。

 さらにその探偵ゴッコの中で繰り広げられる会話には、現代婚活の詳しいしくみや、若者たちの恋愛観などが解りやすくかつ興味深く綴られてゆくのである。もうそれだけでも、我々年配者には勉強になってしまうのだ。

 さて本書のテーマである傲慢とは「プライド」とも相通ずるのだが、「狭い経験と認識」と置き換えることもできるだろう。従って他人のことは欠点ばかりを誇張して厳しく評価するのだが、自分自身に対しては自己愛が強く良い面だけしか認めない、ということになるのかもしれない。一方の善良とは、単に良い子と言う意味ではなく、鈍感とか無知とか世間知らずという毒も含んでいるのであろうか。

 後半はどんでん返しのあとに復活・修正的なボランティア話に終始し、知識的には得るものがあったものの、前半の粘っこさに比べるとかなりトーンダウンした感があった。そこにやや物足りなさを感じたのは私だけであろうか。
 それにしても『冷たい校舎の時は止まる』など著者の若かりし頃の作品しか読んでいなかった自分にとっては、これホントに辻村深月の作品なの?と疑問を感じるほど「大人の作品」であった。そりゃあ彼女も母になり40代だものね……かく言う私も「善良」なヒトなのかもしれないな、ははは。

評:蔵研人

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2024年2月14日 (水)

ハーメルン

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★★★☆
製作:2013年 日本 上映時間:138分 監督:坪川拓史

 福島県のある村にある廃校に、元校長が一人で暮らしている。彼はこの古びた校舎をコツコツと修理しながら、まるで愛おしむような日々を送っているのである。なぜそんなことをしていて、なぜそんなことが許可されているのかなどの野暮な説明は一切ない。
 ただ翌春には解体することが決定されており、イチョウの葉が全て落ちるまでには退去しなくてはならない。そんな折、校舎に保管されている遺跡品の整理をするために、博物館の職員である野田がやってくる。
 彼は本校の卒業生で、恩師だった綾子先生の娘・リツコが営む居酒屋を訪れ、綾子が認知症で老人施設に入所していることを知る。子供のころから暗いイメージがつきまとう野田であるが、今も何かを隠しているような、後ろめたい雰囲気が漂っている。

 超美麗な風景を映し出す映像と、懐かしい歌の数々。その歌を綺麗な声で唄う初老のリツコを、70代の倍賞千恵子が淡々と演じている。まさに彼女にピッタリの配役である。寡黙な博物館職員・野田は西島秀俊、元校長に坂本長利といずれも役柄にはまりきっていた。
 ただ格調高いと言うのか、説明がなさすぎるというのか、ストーリーが掴みにくいし、何をテーマにしたいのかも見えてこないのが残念である。それはそれとしても、季節の移り変わりを美麗な映像と自然音で、巧みに絡めた抒情的で味わい深い名品であることは否めないだろう。

 タイトルの「ハーメルン」とは、「ハーメルンの笛吹き」をモチーフにしたからくり時計が本作のキーポイントになっているからである。なお本作のロケ地で取り壊される予定だった築80年の旧喰丸小学校は、本作上映以降に昭和原風景を懐かしむファンが足繁く訪れ、観光用の建物として再生されているらしい。
 
評:蔵研人

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2024年2月 8日 (木)

ループ・ループ・ループ

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著者:桐山徹也

 桐山徹也のことは本作を読むまで全く知らなかったのだが、それもそのはず本作以外には『愚者のスプーンは曲がる』という作品しか発表していないようだ。
 本作はタイムループもので、毎日が何度も繰り返されるという学園小説である。最近似たような小説を時々読むのだが、事故に遭いそうな人がその事故を回避した場合には、その人も時間が繰り返していることに気づくという設定が斬新であった。

 ただストーリー自体には深みもなければ捻りも見つけられなかった。ただ最後まで興味を惹かれたのは、なぜこのようなループ現象が生じてしまったのかという一念のお陰であろう。ただしその結末も余り説得力がなかったが、平易な文体で読み易かったことも間違いない。まさにジュニア向けの作品なのであろうか。

評:蔵研人

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2024年2月 4日 (日)

ウィンズ・オブ・ゴッド

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★★★☆
製作:1995年 日本 上映時間:97分 監督:奈良橋陽子

 売れない漫才師コンビ田代と金太は、交通事故のショックで、太平洋戦争中にタイムスリップし、なんとあの「神風特攻隊員」になっていたのである。ただしタイムスリップというよりは、魂が過去の人物と入れ替わったのだから、映画の中でも語られているように、「輪廻転生」の変形と考えたほうがよいのかもしれない。
 この過去の世界で、田代は戦争批判を繰り返し、独房に叩き込まれるのだが、純な金太のほうはだんだん過去の世界に馴染んでゆく。仲間の特攻隊員たちは、田代の説得にも応じず、家族や国を守るため次々に敵艦めがけて自爆してゆくのだった。そしてしまいには金太までが……。

 そもそも本作は1988年に今井雅之が舞台用に書き上げた戯曲なのだが、これが大好評を得て1995年に小説化・映画化されたものである。映画ではその今井雅之が田代役で主役を演じているのだが、残念ながら2015年に大腸がんのため54歳の若さで死亡している。
 
評:蔵研人

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