終わりに見た街
著者:山田太一
多摩川を見下ろす東京近郊の住宅地に住む家族が、ある朝目覚めたら突然、家ごと太平洋戦争末期の昭和19年にタイムスリップしてしまうというお話である。家ごとタイムスリップするという展開は珍しい。だが戦時下で家族全員が生きていくためには、未来の珍しい品物を売って食をつなぐしか方法がないため、こうした設定を考えたのであろう。従って家自体は目立つため無用の長物に過ぎず、すぐに炎上してしまい、家財道具だけを持って各地を転々と移動することになる。
また物語に変化をつけるために、旧友の敏夫さんも息子と一緒にタイムスリップしてくるのだった。この敏夫さんがなかなか逞しい人で、頼りない主人公に変わって、戦時下という苦境の中でも生き抜く術を教えてくれるのだ。
戦時下へタイムスリップする話は幾つか知っているが、本作のように恐ろしい話は初めてである。何が恐ろしいのか、敵の米軍よりもっと怖いのが、なんと味方であるはずの隣人たちや日本兵たちなのだ。隣人たちは自分の保全のため、変わった風体や言動のある者を見つけると、直ちにお上にタレコミするからである。
また憲兵や軍人たちは、有無を言わさず「お国のために働け!」と威張り腐って跋扈するばかり。ああーこんな時代に生まれなかっただけでも幸せなのだなと、つくづく現在を生きていることに感謝してしまうのだ。いずれにせよ戦前生まれの著者だからこそ、救いようのない戦争の恐ろしさを表現できたのであろう。
さてタイムトラベルものの楽しみの一つは、ラストはどのような形で締めくくるのか、またどんなどんでん返しが待っているのだろうかということである。果たして驚くべきどんでん返しが用意されていたのだが、いまひとつ状況が把握できないまま終わってしまった。まさしくタイトル通り『終わりに見た街』なのだが、パラレルワールドなのか、夢落ちなのか、もしかすると辻褄が合わない部分もあるが、実は『猿の惑星』だったのだろうか。
評:蔵研人
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