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2024年1月の記事

2024年1月28日 (日)

通りゃんせ

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著者:宇江佐真理

 25歳の若手サラリーマンである大森連は、失恋の傷を癒すために休日になるとマウンテン・バイクで走りまくっていた。ところが小仏峠周辺で道に迷い、滝の裏に墜落してしまう。目が覚めると、なんとそこは天明6年の武蔵国中郡青畑村であった。
 連は時次郎とさな兄妹に助けてもらいながら、連吉と名を変えて時次郎の百姓仕事を手伝うことになる。さらに忙しい時次郎に変わって、領主である江戸の松平伝八郎のもとを訪れるのだった。

 宇江佐真理と言えば、吉川英治文学新人賞を受賞したり、何度ともなく直木賞候補に挙がっている時代小説の旗手である。ところがなんと本書は、現代っ子の若者が江戸時代にタイムスリップして、川の氾濫や天明の大飢饉で苦しむ村人たちを助けるというSF絡みの時代小説だったのだ。
 ただしSF時代劇と言っても『戦国自衛隊』や『戦国スナイパー』などのように未来人が未来の知識や武器を使ってヒーローになるような大それた話ではない。せいぜい汚れた井戸水の簡易ろ過装置を創ったり、整体やストレッチの知識を生かして感謝される程度の活躍をするだけである。それより何と言っても、主人公・連の優しさと誠実さが脈々と流れてくるような清々しく凛としたストーリーに心を奪われるだろう。

 またさすが本格時代小説家だと感じさせる的確な時代考証を土台にした、現代と江戸時代の風俗や社会構成の比較描写は実に見事であった。それに加えてワームホールなどのタイムスリップ理論や、過去の改変によって引き起こされるタイムパラドックスについても言及しているところに著者の真摯な勉強熱心さを感じた。
 ただ高校時代の友人坂本賢介の存在や行動が、説明不足かつ中途半端だったところだけが唯一気に入らない部分だったような気がする。またラストでの早苗との遭遇はよくある映画のパターンで、ほぼ私の予想通りであったのだが、ずっと暗く苦しかった連にそのくらいのご褒美はあげてもいいかな……。


評:蔵研人

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2024年1月25日 (木)

ぼくが処刑される未来

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★★☆
製作:2012年 日本 上映時間:87分 監督:小中和哉

 自分の意見をはっきり言えず、ただ漠然と毎日を過ごしていた大学生の浅尾幸雄は、橋の上で酔っ払いが寝転んでいるのを見ていた時、突然まばゆい光に包まれてしまう。気が付くとそこは25年後の未来で、なんと警察の取調室で身柄を拘束されているではないか。
 彼は未来に罪を犯したという理由で未来にタイムワープさせられたのだが、未来の罪を償うため過去の彼が処刑されると言う奇妙な理屈なのだった。それを決めたのは、未来に開発された量子コンピューターで、その計算能力は神がかりで絶対に間違いがないと言うのである。

 テーマ的には興味深いし、福士蒼汰と吉沢亮が主演だと言うことで、本作を観る気になったのだが、余りにもチープ過ぎてがっかりしてしまった。低予算と言うこともあるが、脚本も悪いしタイムトラベルものの設定や展開などのルールも全く無視状態なのだ。そもそもドラマとしても失格なのに、これではタイムトラベルファンの心さえも掴めないよな。
 
評:蔵研人

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2024年1月21日 (日)

すばらしきかな人生

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★★★★
原作:北原雅紀 作画:若狭星

 『素晴らしき哉、人生!』は1946年に製作された米国の名作映画であるが、本作はその名作映画のオマージュ版コミックといったところだろうか。
 もしもあの時に戻ることができたら、今の自分はこんな不幸にはならないはずだ……。と誰もが一度は考えたことがあるだろう。それを実現してくれるのが、バ-『ボレロ』のマスター・坂巻友郎である。
 ただしその代償は10年の寿命と引き換えだというのだ。仏のような顔付をしているマスターだが、果たして彼は天使か悪魔か死神なのだろうか……。

 本作はこのマスター・坂巻友郎が、藤子不二雄Aの『笑ゥせぇるすまん』のような狂言回しを務めるオムニバス方式を採用している。第一巻には『あの日に帰りたい』ほか9作が収められており全3巻の構成になっているのだ。全ての話がなかなか良くできているのだが、どうしても似たような話になり、オチが読めてしまうところが弱点かもしれないが、読み応え十分なことは間違いないので安心して欲しい。

 いずれにせよ、絵は綺麗だし、原作ものなので一つ一つの話は分かり易くしっかりしているし、全三巻という手ごろな構成なので誰にでも楽しめるだろう。ましてやタイムトラベルファンは必読かもしれないね。

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2024年1月16日 (火)

リピート TVドラマ

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★★★

 乾くるみの長編小説をドラマ化したものだが、原作とはかなり異なっているので、原作既読者にも楽しめるはずだと思う。かくいう私も原作を読んでから本作を観たクチなのだ。さて原作と異なっていた部分とは次の通りである。

 最大の相違点は、原作の主人公が毛利圭介だったのに、ドラマでは篠崎鮎美に変わっていることだ。もしかすると大物俳優が少ない中で、貫地谷しほりが篠崎鮎美を演じたからかもしれないし、TVドラマということで女性受けを狙ったからかもしれない。いずれにせよそれによって、ストーリー展開自体にも大幅な修正が必要になってしまったのだろう。

 また原作では、リピートした10人のうち女性は篠崎鮎美だけなのに、ドラマでは9人のリピート中3人の女性が含まれているのだ。さらに鮎美は圭介と同年代だったのに、ドラマではかなり年上になってしまった。これらも全て貫地谷しほりが篠崎鮎美を演じた副作用に違いない。
 次にリピート場所がかなり異なっていた。原作では上空で、ヘリコプターを使って移動するのだが、撮影費用の増加やヘリの運転にかかわる諸事情から、徒歩で行ける洞窟に鞍替えされてしまったのだろう。

 それからリピート仲間が次々に死亡するのだが、その順番も異なっている。これは前述した主人公の変更に伴うドラマの構成上、やむを得なかったのかもしれないね。このほかにも細かい変更はいろいろあるのだが、何と言ってもエンディングが全く違っていた。これについてはネタバレになるので、ここに記すことは出来ないが、原作よりは多少救われるかもしれない。やはりTVドラマだね。

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2024年1月13日 (土)

終わりに見た街

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著者:山田太一

 多摩川を見下ろす東京近郊の住宅地に住む家族が、ある朝目覚めたら突然、家ごと太平洋戦争末期の昭和19年にタイムスリップしてしまうというお話である。家ごとタイムスリップするという展開は珍しい。だが戦時下で家族全員が生きていくためには、未来の珍しい品物を売って食をつなぐしか方法がないため、こうした設定を考えたのであろう。従って家自体は目立つため無用の長物に過ぎず、すぐに炎上してしまい、家財道具だけを持って各地を転々と移動することになる。
 また物語に変化をつけるために、旧友の敏夫さんも息子と一緒にタイムスリップしてくるのだった。この敏夫さんがなかなか逞しい人で、頼りない主人公に変わって、戦時下という苦境の中でも生き抜く術を教えてくれるのだ。

 戦時下へタイムスリップする話は幾つか知っているが、本作のように恐ろしい話は初めてである。何が恐ろしいのか、敵の米軍よりもっと怖いのが、なんと味方であるはずの隣人たちや日本兵たちなのだ。隣人たちは自分の保全のため、変わった風体や言動のある者を見つけると、直ちにお上にタレコミするからである。
 また憲兵や軍人たちは、有無を言わさず「お国のために働け!」と威張り腐って跋扈するばかり。ああーこんな時代に生まれなかっただけでも幸せなのだなと、つくづく現在を生きていることに感謝してしまうのだ。いずれにせよ戦前生まれの著者だからこそ、救いようのない戦争の恐ろしさを表現できたのであろう。

 さてタイムトラベルものの楽しみの一つは、ラストはどのような形で締めくくるのか、またどんなどんでん返しが待っているのだろうかということである。果たして驚くべきどんでん返しが用意されていたのだが、いまひとつ状況が把握できないまま終わってしまった。まさしくタイトル通り『終わりに見た街』なのだが、パラレルワールドなのか、夢落ちなのか、もしかすると辻褄が合わない部分もあるが、実は『猿の惑星』だったのだろうか。

評:蔵研人

 

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2024年1月10日 (水)

ナイト&デイ

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★★★☆
製作:2010年 米国 上映時間:109分 監督:ジェームズ・マンゴールド

 平凡な女性ジューンは、ある日空港でイケメンだがミステリアスな男と運命的な出会いをする。だが男の正体は、重要な任務を帯びたスパイであり、彼女は大騒動に巻き込まれて何度も危険な目なあってしまうのだった。

 ミステリアスな男・ロイにトム・クルーズ、ジューンにキャメロン・ディアスと、人気2大スターが共演するアクションコメディーである。とにかくドンパチ・ドタバタの連続で休む暇がない。そしてピンチが訪れても、いつの間にか場面が変わって脱出しているといったテキトーで雑な展開が続く。だがなんとなくお洒落で爽快な気分にさせてくれるのだ。これもトムとキャメロンのオーラのお陰なのだろうか。

 旅客機の中の死闘から不時着に始まり、絶対に不可能なカーチェイス、敵の弾は全く当たらない不死身男が、走る走る走る、とまるでミッションインポッシブルのコメディ版だ。いずれにせよ、ストーリーはハチャメチャでないに等しいのだが、結局ラストは急にラブラブコメディーに収まってしまった。ははは、ただ面白いだけだったね。それにしても、一体この映画は何だったのだろうか。

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2024年1月 7日 (日)

ハウンター

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★★★
製作:2013年 カナダ 上映時間:97分 監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ

 主人公はリサという高校生の少女なのだが、この話は彼女の誕生日前日がずっとループしているところから始まる。だからタイムループ作品なのかと勘違いしてしまったのだが、実は彼女は既に少女殺人鬼エドガーによって殺されていたというホラー作品なのであった。
 ただ余りにも同じことの繰り返しが多く、外には出られず家の中のシーンばかりなので中だるみしてしまうのだ。それに両親や兄弟が入れ替わったりと、なんだか異次元を彷徨うような展開にも、正直言って戸惑いうんざりしてしまった。

 ヴィンチェンゾ・ナタリ監督と言えば、「CUBE」が有名だが、本作もその流れを汲んで、なかなか家の外に出られないというシチュエーションなのであろうか。ただ同じ日が何度も繰り返したり、父親の性格が変貌したり、家族が入れ替わったり、といった謎についての丁寧な解説がなかっため、観賞後もなんとなくすっきりしなかった。私の読みが浅かったのかもしれないが、万人向けではなく不親切な作品であったような気がしたのは私だけであろうか……。
 
 
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2024年1月 4日 (木)

時間島

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原作:椙元孝思 作画:松枝尚嗣

 本作の舞台になっている『時間島』と呼ばれる『矢郷島』は、三重県の無人島という設定になっている。なんだか本当に存在するのかとグーグルマップで調べたら、似たような形をしている『大築海島』が見つかった。
 ただしその大築海島は、昔からずっと無人島であり、かつての鉱山や廃墟などは全く存在しない。むしろ鉱山や集団ビルの廃墟なら、先ごろ世界遺産に登録された長崎県の『軍艦島』そのものであろう。まあ実在の島を舞台にはし難いので、島の形は『大築海島』で廃墟は『軍艦島』をモデルにしたのであろう。

 本作のオープニングは、この時間島にある地底湖に落ちると、一瞬にして5年間が跳び去り、戻ったときはまるで「浦島太郎現象」を引き起こすという話から始まる。それで断然ボルテージがアップするのだが、残念ながらこの地底湖に絡むのは、主人公の佐倉準がそこに公用のケータイを落としてしまうという絡みだけなのだ。
 その後落としたケータイから佐倉が持っている私用のケータイにメールが着信し、そのメールには謎のミイラ男からの動画が添付されていた。そして彼は5年後の未来からメールを発信しているのだと言い、まもなく大地震が起こり、全員が殺されてしまうと警告するのだった。

 タイムトラベル絡みと言えばこのあたりの展開だけで、あとは殺しの犯人探しとミイラ男の正体に興味が集中するのだが、いまひとつ殺人の理由が納得できない。さらにミイラ男の正体と最後のどんでん返しにも、それほど説得力がなかったのが残念である。決して駄作ではないのだが、ストーリー展開にもう少し味付けが欲しかったね。まあ一巻完結なのでやむを得ないのかもしれない。

 
評:蔵研人

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