スリープ
著者:乾くるみ
主人公は中学生ながらTVの人気レポーター役として活躍する頭脳明晰な美少女・亜里沙である。彼女は取材で『未来科学研究所』を訪れるのだが、そこで立入禁止区域に迷い込んでしまい、見てはいけないものを見てしまう。
ここまで到達するまで、亜里沙の紹介や未来科学研究所の説明などに全体の約1/3である100頁も要して、かなり退屈感が募ってくるのだが、ここから先は30年後の世界となり、俄然面白くなるので安心して欲しい。
亜里沙は30年後の世界で目覚めるのだが、本書ではその30年後の世界について詳しく描写されているところが素晴らしい。ただしSF映画のように空飛ぶ車が跋扈している派手な世界に変貌しているわけではない。本作では、生活の中の細かな仕様や、政治経済などの分野が急激に進化しているのである。
例えば風呂場と洗濯機を一体化して、服のままで風呂に入っても一瞬にして消毒・乾燥できるシステムが普及していたり、駅のホームが透明の壁で完全に囲まれていることとか、経済的には1ドル40円前後の円高が続き物価が下がっていたり、政治の世界では大統領制が確立し道州制が導入されているのである。このほかにもいろいろな未来描写がなされているのだが、どれも将来現実に起こりそうな事象が多く、著者の慧眼に思わず膝を叩いてしまうことだろう。
ただストーリー的には、亜里沙が目覚めてからの時間が短すぎて、ことさら大きな進展がないのである。……と思っていたら、九章『胡蝶の夢』から謎の急展開が始まるのだった。もしかしてパラレルワールドなのだろうか、タイトル通りの単なる夢なのだろうか、と考えているうちに最終章に突入して、いきなり「序盤のあの時」と繋がってしまうのだ。なるほど、実に見事な予測不能のドンデン返しではないか。
評:蔵研人
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