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2023年11月の記事

2023年11月28日 (火)

ゴジラ-1.0

10

★★★★
製作:2023年 日本 上映時間:125分 監督:山崎貴

 本作はゴジラ映画の原点に立ち戻り、巨大化した本格的なゴジラ登場は、戦後まもない東京を舞台にしている。それにしても本作は、過去の全ゴジラシリーズの中でも、圧倒的な恐怖と迫力と完成度を誇っているではないか。また今回のゴジラは完璧なVFXだけではなく、涙を誘う人間ドラマとしても十分堪能できてしまうのだ。子役の女の子もいじらしいし、自らが犠牲になり、戦後の日本を若者たちに託してゆく男たちの生きざまにも感動してしまうだろう。
 さらに試作ながらも『震電』と呼ばれた当時世界最速の戦闘機が、ゴジラに向かってゆく姿が初々しくて堪らない。この震電の開発がもっと早ければ、もしかすると米国に勝利したかもしれないと言われたほど優れた新鋭機で、私たちは子供の頃に、プラモデルの震電の雄姿に打ち震えたものである。
 
 ところで本作は『シン・ゴジラ』と比べると、キャスト陣がやや小粒であり、政治家は介入してこないし、登場人物の数も圧倒的に少数である。だが少人数だからこそ人間ドラマが描けたのだと言えばその通りだし、時代背景も異なるので仕方がないのかもしれない。
 またシン・ゴジラは、優秀な官僚と日本独自の技術をしてゴジラに立ち向かうという、日本的思考で塗り固めた作品だったのに対して、本作は個人優先のハリウッド的思考を前面に押し出しているところが興味深い。ただ在日米軍が、ソ連対策のため全く動けないという設定だけはよく理解できなかった。

 さてネタバレになるので詳しくは書けないのだが、ラストの奇跡的なハッピーエンドはいかがなものであろうか。「自己犠牲をする必要はない」という現代流のメッセージは理解できるとしても、少なくともどちらか一人が死ななければ余りにも嘘臭いし、真の感動も生まれ得ないことは、山崎監督なら百も承知のはずだが……。
 また典子の首に残っていた黒いアザが、一体何を意味しているのかが不明であり、その理由如何ではアンハッピーに繋がる恐れがあるのかもしれない。まあ裏の意図はともかく、表向きはハッピーエンドで収め、本作を米国へ輸出し易くするための妥協なのだろうか。

評:蔵研人

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2023年11月23日 (木)

時の行者 全三巻

作者:横山光輝

 戦国時代末期から江戸時代中期にかけて、10年ごとに変らない風貌で現れる謎の少年。この少年は未来からのタイムトラベラーで、その目的はなかなか明かされないのだが、ラスト間近になってやっと明確にされる。
 少年は高熱線銃やバリヤー発生装置を身に着けているため刀や鉄砲などが通じず、昔の人々にはまるで超能力を駆使する行者に見えてしまう。ただ反撃を行う際には、一時的にバリアーを解除しなくてはならないし、長時間バリアーを張っていると窒息するという弱点がある。そのため二度不覚を取ってしまい、捕まって拷問にかけられてしまう。

 主な登場人物は、織田信長、豊臣秀吉、石田三成、後藤又兵衛、徳川家康、本多正純、徳川忠長、天草四郎、由井正雪、堀田正信、徳川吉宗、天英院、徳川吉通、大岡越前、紀伊国屋文左衛門、徳川宗春、徳川家重など錚々たる歴史上の人物が多い。また関ヶ原の戦い、大坂の役、宇都宮釣り天井事件、島原の乱、生類憐みの令、享保の改革、天一坊事件、宝暦の一揆などなど歴史上の重大事件を扱っているので、歴史入門書としても役に立つかもしれない。
 ただタイムトラベルものとしては、タイムパラドックスも発生せず、タイムトラベル手法についても今一つはっきりしないため、時間系のSFとしては少々物足りなさを感じてしまうだろう。まあ忍者を未来人に置き換えた『伊賀の影丸』だと思って読めば、かなりのめり込めるかもしれないね。

評:蔵研人

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2023年11月19日 (日)

スリープ

著者:乾くるみ

 主人公は中学生ながらTVの人気レポーター役として活躍する頭脳明晰な美少女・亜里沙である。彼女は取材で『未来科学研究所』を訪れるのだが、そこで立入禁止区域に迷い込んでしまい、見てはいけないものを見てしまう。
 ここまで到達するまで、亜里沙の紹介や未来科学研究所の説明などに全体の約1/3である100頁も要して、かなり退屈感が募ってくるのだが、ここから先は30年後の世界となり、俄然面白くなるので安心して欲しい。

 亜里沙は30年後の世界で目覚めるのだが、本書ではその30年後の世界について詳しく描写されているところが素晴らしい。ただしSF映画のように空飛ぶ車が跋扈している派手な世界に変貌しているわけではない。本作では、生活の中の細かな仕様や、政治経済などの分野が急激に進化しているのである。
 例えば風呂場と洗濯機を一体化して、服のままで風呂に入っても一瞬にして消毒・乾燥できるシステムが普及していたり、駅のホームが透明の壁で完全に囲まれていることとか、経済的には1ドル40円前後の円高が続き物価が下がっていたり、政治の世界では大統領制が確立し道州制が導入されているのである。このほかにもいろいろな未来描写がなされているのだが、どれも将来現実に起こりそうな事象が多く、著者の慧眼に思わず膝を叩いてしまうことだろう。

 ただストーリー的には、亜里沙が目覚めてからの時間が短すぎて、ことさら大きな進展がないのである。……と思っていたら、九章『胡蝶の夢』から謎の急展開が始まるのだった。もしかしてパラレルワールドなのだろうか、タイトル通りの単なる夢なのだろうか、と考えているうちに最終章に突入して、いきなり「序盤のあの時」と繋がってしまうのだ。なるほど、実に見事な予測不能のドンデン返しではないか。


評:蔵研人

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2023年11月16日 (木)

ファイナル・スコア

★★★
製作:2018年 英国 上映時間:105分 監督:スコット・マン

 元米国海軍特殊部隊の精鋭だったマイケル・ノックスは、戦死した戦友の故郷・ロンドンを訪れていた。そして実の伯父のように慕ってくれる戦友の愛娘ダニーを誘いサッカーの試合を観戦に出かけるのだが……。そこで待っていたのは、超満員の観客35,000人を巻き込もうとしている恐るべきテロリストたちであった。

 果たしてノックスは、テロリストから観客たちを守れるのだろうか。さらにノックスの弱点であるダニーがテロリストにつかまってしまう、といったハラハラアクション映画である。それにしてもラスト直前まで、ずっとサッカーの試合は続いているし、観客たちは誰もテロの存在を知らない。そんな中で刻々と大量の爆弾が爆発する時刻が迫ってくるのである。

 ノックスは体格もよく米国海軍特殊部隊の精鋭だったので、スーパーマン的に強いのかと思っていたのだが、残念ながら悪人たちと一対一で必死に戦ってやっと勝つ程度の強さなのだ。もっとも現実的にはそれが当たり前なのだが、映画なのでなんとなく物足りない。
 それにいつも一発で球場関係者たちを殺していた女殺人鬼が、ノックスの味方の球場関係者だけは殺さないのだ。またバイクシーンでも敵の弾が全くノックスに当たらないし、人質交換の時も光だけで誤魔化せたのも無理がある。などなどかなりご都合主義的で、突っ込みどころが満載であった。ただハラハラドキドキで面白かったので許してあげようか……。

評:蔵研人

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2023年11月12日 (日)

イニシエーション・ラブ

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著者:乾くるみ

 イニシエーションとは「通過儀礼」のことである。従ってタイトルの『イニシエーション・ラブ』とは永遠の恋ではなく、大人になる前の一時の恋ということになるのだろうか。また本書はバリバリの恋愛小説だと思っていたのだが、実は「必ず二回読みしたくなる」と絶賛された傑作ミステリーであった。
 本書の裏表紙にある内容紹介文には、「甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説----と思いきや、最後から二行目(絶対先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。」と綴られているのである。

 これは一体何を意味しているのだろうか、ネタバレになるのでここでは解説は避けることにするが、いくつかのヒントだけ紹介しよう。第一のヒントはこの小説のタイトルである。そして第一章、第二章という区分ではなく、かつてのカセットテープのようなside-Aとside-Bという区分も意味深ではないか。さらにside-Aではしつこいくらい細かくじっくりと丁寧な描写に終始しているのだが、side-Bではテンポの速い展開に変化しているのだ。また本作はタイムトラベル系の小説ではないのだが、時系列をゆがめて描いているため、二度読みが必要だということ……。まだほかにも矛盾することがいろいろあるのだが、これ以上記すとネタバレになってしまう恐れがあるのでこのへんで止めておこう。

 なお本作はなかなか映像化し難い部分があるのだが、なんとそれを巧みに凌ぎながら2015年に映画化されているようである。ちなみに監督は堤幸彦で、主演は松田翔太と前田敦子になっている。機会があったら是非観てみたいものである。

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2023年11月 9日 (木)

リピート

著者:乾くるみ

 主人公は、一人暮らしの大学4年生・毛利圭介で、夜は歌舞伎町のスナックでバイトをしている。ある日、風間という見知らぬ男から電話がかかってくる。なんと要件は、過去に戻るリピートツアーに参加しないかということだった。余りにも荒唐無稽な話なのだが、その信ぴょう性を証明するために告げた地震予知が的中し驚いてしまう。その後にまたもや、再度正確な地震予知が大当たりし、このリピートツアーは本物かもしれないし信じ始めるのだ。

 このリピートとは、タイムマシンなどに搭乗するのではなく、ある一定の日に現れる黒いオーロラに突入すると、記憶だけが10か月前の自分の中に上書きされるというものだった。そこで人生のやり直しをするのだが、もちろんそこでは未来の記憶を利用して、競馬や株で儲けることも自由自在だ。
 リピートツアー参加者は風間を含めて10人、その中には一人だけ若い女性が参加していた。この女性の存在が、毛利にいろいろなプレッシャーを与える原因になるのだが、とにかく彼は女性にモテモテなのである。ただこのモテモテが最大の災いを生むことになるのだが……。

 このような記憶だけのタイムトラベルといえば、すぐに思いつくのがケン・グリムウッドの長編小説『リプレイ』である。ただ本作が僅か10か月前の自分に戻るだけなのに対して、『リプレイ』の主人公は25年前の18歳の青年に戻れるのである。さらに43歳になると自動的に心臓発作を起こしてまたまた18歳に戻れるのだ。
 そしてそれが何回も続くのである。それに比べると本作では、もう一度リピートするためには、ある一定の日に現れる黒いオーロラに再突入しなければならないという点が異なっている。
 また『リプレイ』では主人公が、未来の記憶を利用して大儲けしたり、つきあう女性たちを変えてみたりと、「もしもあの時こうしていれば良かった」を次々と実現させてゆく。だが本作ではそんな『リプレイ』のような痛快さは余り楽しめない。どちらかといえば、リピートしたために起こった記憶にない数々の嫌な事件に翻弄されてしまうのだ。そしてなぜそんな事件が起きるのか、犯人は一体何者で何のための犯行なのか、ということがメインテーマとなってくるのである。

 それにしても著者の巧みなブラックパズルのような悪魔的展開にはいつも脱帽せざるを得ない。中盤からはなんとあの『罪と罰』のラスコーリニコフのような心情に堕ち込んでしまったではないか。まさに乾くるみは天才としか言いようがないね、と思い込み続けてどんどんページをめくっていったのだが、ラストが余りにもあっけなく、無理やり感が残ってしまったのが非常に残念であった。

評:蔵研人

 

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2023年11月 4日 (土)

セブン

★★★☆
著者:乾くるみ

 著者は女のような名前だが、れっきとした59歳のおじさんである。また別名の市川尚吾名義では評論活動を行っている。1998年に『Jの神話』で第4回メフィスト賞を受賞し、34歳で作家デビューしているが、主な著作には本書のほか『イニシエーション・ラブ』、『スリープ』、『リピート』などのファンタジック系のミステリー作品が多い。なお本書は、2014年に単行本として角川春樹事務所より刊行されたものである。

 本書はそのタイトル通り「7」という数字絡みの作品が7作収録されている。
1.ラッキーセブン
2.小諸-新鶴343キロの殺意
3.TLP49
4.一男去って……
5.殺人テレパス七対子
6.木曜の女
7.ユニーク・ゲーム

 7作全てが楽しめたのだが、特に面白かったのは『ラッキーセブン』と『ユニーク・ゲーム』である。前者はA~7までの7枚のトランプを使ったカード対戦を7人の女子高生で争い、負けたほうは首を切られるという恐ろしいゲームであり、後者は捕虜になった7人の多国籍兵に課せられた0~7の数字絡みの生き残りゲームである。
 どちらも似たような数字を使ったシンプルなゲームなのだが、その勝利方法の思考過程がくどいほど綿密に解説されている。一体この著者の頭の中には、どれほど複雑な歯車が絡み合っているのだろうかと唸ってしまうことだろう。ことにミステリーファン、SFファンにはのめり込める一冊である。

評:蔵研人

 

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