日本映画史110年
著者:四方田犬彦
110年というタイトルは中途半端なのだが、実は本書に先駆けて2000年に同著者による『日本映画史100年』が刊行されているのである。そしてその書はいくつかの大学で映画学の教科書に選定されて版を重ねている。さらにイタリア語、ドイツ語、中国語、韓国語にも翻訳され世界的な読者を獲得したという。そんな経緯もあり、2014年に2000年以降の日本映画の動向についても補足した増補改訂版として上梓されたのが本書なのである。だからこそ110年となったのであろう。
さすが大学の教科書に選定されただけあって、なかなか充実した内容で書き綴られている。これほど丁寧に分かり易く映画の歴史をひも解いた書籍は、なかなか見当たらないだろう。いずれにせよ、四方田犬彦氏の勤勉さと懐の広さには、ほとほと感心するばかりである。
さて世界の映画史は、1893年にトーマス・エジソンがキネマスコープを発明したことが原点と言ってよいだろう。そして日本映画の出発点は、1896年(明治29年)に「活動写真」としてスタートする。そのころはもちろん無声映画だったので、字幕に加えて「活動弁士」と呼ばれる解説者の活躍が重要なファクターであった。この活動弁士とは、今日でいうところのナレーターの前身とも言えるかもしれない。いずれにせよ、講談などが好まれていた日本独特のシステムだったのである。
また俳優たちは歌舞伎からの転入者が多く、歌舞伎同様男性による女形が常識であったが、時代の推移とともに生の女優も出現するようになる。それどころか、やがては多くの若い女性監督が活躍する現代に突入してゆくのだから、時代の変遷とは恐ろしくもあり面白いものだ。
もちろん俳優や監督の変遷だけではなく、社会情勢の変化(ことに戦前・戦中・戦後)に伴う作品内容の大幅な変貌、さらにはTVやビデオの出現による映画界そのものの危機による映画会社の興亡なども織り込みながら、本書は悠々と紡がれてゆく。
さてそろそろコロナ後の日本映画界を見据えながら、著者が元気なうちに是非とも『日本映画史120年』も上梓して欲しいものである。
評:蔵研人
下記のバナーをクリックしてもらえば嬉しいです(^^♪↓↓↓
↓ブログ村もついでにクリックお願いします(^^♪
| 固定リンク | 0
コメント