1Q84「BOOK3」
著者:村上春樹
この怪物小説が初めて世に出たのが、2009年5月27日である。かなりの大作でBOOK1、BOOK2と二冊の分厚い上製本に分冊されて発売された。そして当然のように大反響を呼びこんで、あっという間に完売されてしまったのである。お陰で中古本の買取価格はうなぎ登りとなり、なんと読み終えた中古本を1冊1000円で買い取ってもらった記憶がへばりついている。
ただ『1Q84』はこれで完結ではなく、翌年に「BOOK3」が発売される予定になっていた。ところが猛爆発した人気パワーに後押しされてか、「BOOK3」は当初予定よりかなり前倒しの2010年4月16日に緊急発売されたのだった。
私自身もこの「BOOK3」の登場を心から待ち望んでいたはずである。ところがそのころは新しい仕事が忙しかったのか、『1Q84』という小説の存在そのものをすっかり失念していたようだ。そしてそれから13年後になって、ひょんなことからいまだ1Q84「BOOK3」を読んでいなかったことに気付いたという訳である。それにしてもなんとこの13年間は一体何だったのだろうか。まるで浦島太郎の竜宮城状態だったのかもしれない……。
『1Q84』の存在を思い出した途端に、どうしても「BOOK3」を読みたくて堪らなくなる。もちろん発売されてから13年も経過されているので、あっさり図書館で借りることができ、むさぼるように読みふけてあっという間に読了してしまった。また13年間も経過しているにもかかわらず、読み進めるうちに忘れていたストーリーの概要が呼び戻されてきたのが不思議でしようがない。
遅読症の私が、これほどあっという間に分厚い本を読んだのは何年ぶりであろうか。さすが全世界で注目されている村上春樹作品だと、つくづく感心してしまった。相変わらず文章は巧みだし、奇抜なストーリー展開にもぐいぐいと惹かれてしまう。さらに主体を青豆、天吾、牛河の三人に分割することにより、読み易いだけではなく、それぞれの心象風景を浮き彫りにし、この作品の世界にのめり込まされてしまうのだ。
そして青豆と天吾の「君の名は」状態にイライラしながらも、恐怖の牛河節におどおどしてしまう自分自身を制御できなくなってしまうのである。ところが実のところ、その牛河は「怖いというより気の毒な存在」であり、本当に怖いのはタマル、いやカルト教団ではないだろうか、と改めて認識せざるを得なかった。
ただラストは期待通りの幕引きであったにも拘わらず、なんとなく物足りなかったのはどうしてであろうか。まだまだ続編が出ると想像してもおかしくはなさそうだが、月が二つの世界から脱出できたのだし、13年間続編が出ていないことを考えればこの「BOOK3」で完結したと決めつけてしまおう。
それにしても『1Q84』という小説の正体は、ファンタジーかミステリーか、はたまたある種の哲学書なのか。これこそ「村上ワールドの世界」と呼ぶしかないのだろうか。
さて『1Q84』を読み終わったら、時々ベランダに出て月が二つ出てないか確認する癖がついてしまった。ただいまのところ月は一つきりなのでひとしきり安心しているのだが、いつ何時二つの月が現れるのではないかとオドオドしている次第である。
参考までに、13年前に掲載した1Q84「BOOK1」~「BOOK2」の評論文を読みたい場合は、下記をクリックしてね。
評:蔵研人
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