将棋の子
著者:大崎善生
本書は『奨励会』でしのぎを削り、プロ棋士を目指す将棋の天才少年たちの、ノンフィクション劇場である。奨励会とは正式名称を『社団法人日本将棋連盟付属新進棋士奨励会』といい、将棋の天才たちがプロを目指して修行する「虎の穴」だ。
ただプロとして認められるには、その厳しい「虎の穴」の中で勝ち抜き四段にならなくてはならない。そして四段となれば将棋連盟から給料、対局料などの収入が保障されるが、それまでは何の権利も保証も一切ないのである。つまり三段と四段の差は地獄と天国と言ってもよいだろう。さらに奨励会には、満二十六歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなければ「退会」しなくてはならないという厳しい年齢制限規定があるのだ。
本書の主人公は、著者と同郷の北海道から奨励会入りした成田英二なのだが、中座真、岡崎洋、秋山太郎、関口勝男、米谷和典、加藤昌彦、江越克将など、無事プロ棋士になった者、あるいは途中で奨励会を退会した者たちの悲哀のエピソードも織り交ぜて描かれている。
著者の大崎も少年時代から将棋が好きで大学時代に四段まで昇段したが、奨励会に入会できるほどの腕はなかった。ただ毎日将棋を指しに来る大崎を見ていた将棋道場の席主の紹介により、大学卒業後の1982年、日本将棋連盟に就職し、将棋道場の手合い係を経て、雑誌編集部に移り、『将棋年鑑』『将棋マガジン』『将棋世界』を手がけ、1991年には『将棋世界』編集長となった。
そんな大崎だから奨励会の少年たちとは親しく付き合ったが、ことに同郷で親しみの持てる成田英二は弟のようにかわいがったようである。その成田は両親の期待と愛情に染まりながら、青春の全てをかけて四段を目指して必死に頑張った。だが残念ながら父を亡くし、母を亡くし、将棋の夢も叶わず泣く泣く奨励会を退会してゆく。そしてその先に待つ、無残で非情な生活に溺れてゆくのだった。
本書はそんな成田を優しく見守る感動の一冊であり、第23回講談社ノンフィクション賞受賞作でもある。将棋好きな人はもとより、将棋を知らない人たちにもお薦めしたい名作である。
評:蔵研人
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