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2021年9月 1日 (水)

負け犬の美学

★★★☆
製作:2017年 フランス 上映時間:95分 監督:サミュエル・ジュイ

 原題の『SPARRING』そのままで良いのに、なぜこんな感じの悪い邦題を付けたのだろうか。まあそれはそれとして、映画の中身のほうはまあまあの出来だったと思う。
 主人公のスティーブは、40代半ばで49戦13勝3分33敗のロートルボクサーである。だがこの映画を『ロッキー』のようにチャンプに駆け上がるアメリカンドリーム的なスポーツドラマと勘違いしてはいけない。
 どちらかと言えば、貧乏にもめげず、愛妻や娘・息子たちとの平和な暮らしを営むホームドラマかもしれない。いやそれらをバックボーンにしながらも、ボクシングを淡々と続けてゆく男のヒューマンドラマなのだろうか。

 スティーブはレストランで働きながら、間を見てボクシングの試合に出場していたが、最近は年齢や戦績などからなかなか相手が見つからない。そんな情けない父親なのだが、娘のオロールには尊敬されていた。そのオロールの夢を叶えるためピアノを買ってやりたいが金がない。
 そんな折りに、欧州統一戦に出場するタレクのスタッフが、スパーリングパートナーを探しにやってくる。 だが実際の試合よりも危険が孕むことがあるため、妻はスパーリングパートナーの応募には大反対する。しかしどうしても娘にピアノを買ってやりたいスティーブは、妻の反対を押し切って無理矢理スパーリングパートナーになってしまうのだった。

 もしかするとスパーリングで大怪我をしたり死んでしまうのかなと想像していたのだが、無事スパーリングパートナーの役割を終えホットする。その後タレクの好意で、タレクが戦うリングの前座戦に出場することが決まる。そしてこれが50戦目でスティーブの「最後の試合」となるのだった。
 このクライマックスシーンこそ、米国映画なら大いに盛り上がってラストは感動の涙・涙となるはずなのだが、やっぱりこれはフランス映画なんだねえ…。
 なんと娘も応援に来ないし、勝敗もはっきりしないままエンディングとなるのである。やはり尻切れトンボ。これを文学的と考えるか物足りないと思うか、その解答は観る人の感性によって異なることだろう。
 

評:蔵研人

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