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2021年9月22日 (水)

鑑定士と顔のない依頼人

★★★★
製作:2013年 イタリア 上映時間:131分 監督:ジュゼッペ・トルナトーレ

 ある日のことである。天才的審美眼を誇る美術鑑定士ヴァージル・オールドマンに「資産家の両親が遺した美術品を鑑定して欲しい」という電話がかかってくる。ところが何度会う約束をしても、彼女は一向に姿を見せないのだ。ヴァージルは腹を立てるが、最初は事故に遭遇したと言われ、さらに何度か約束を破られたあとに、彼女は自閉症で人に会えないのだと言い訳する。こんなことが繰り返されていくうちに、ヴァージルはなんとか彼女の姿を見れないものかと切望し、彼女の家に忍び込んで物陰から彼女が部屋から出てくるのを覗き見するのだった。

 このあたりからこの映画の観客たちもヴァージル同様、彼女(クレア)の正体を「見たくてしょうがない状態」に陥ってしまうのだ。
 さてそのヴァージルはかなり年配なのだが、未だに独身で生身の女性には全く興味が湧かない「童貞男」であった。そしてオークションの傍らに友人ビリーとつるんで収集した膨大な「女性絵画」を恋人にしている変態的な人物だったのである。
 こんな変態かつ偏屈な男には、どんな美女でも、正面切ってアプローチしては、相手にされないだろう。だからこそ押したり引いたり、そして姿を見せないなどの手法を用いて、さんざんイライラさせた挙句に、やっと姿を見せて「愛している」と言えば、今度は仕事も手につかないほど夢中になってしまうのであろうか…。

 この作品の邦題はそのものズバリの味気ないタイトルだが、原題は『BEST OFFER』で「最上の出品物」という意味になる。これはオークション中につるんでいるビリーへの合図の言葉でもあり、ヴァージルがクレアに感じていた魅力とも考えられるだろう。
 それにしても、主人公は美術品を見る目は超一流だが、生身の女をしっかり鑑定できなかったという皮肉たっぷりの展開だ。また逆転・逆転と執拗に逆転が続いた後に、やっとハッピーエンドかと思ったのだが、まだ残り時間がかなり残っていたので、「これはきっとまだ何かあるな」と思った途端にまたどんでん返し。
 なんと最後のどんでん返しはかなり厳しい。ヴァージルは驚愕と悲しみの嵐に巻き込まれ失意のまま精神病院へ…、という切なさを遥かに超えた余りにも悲し過ぎる終盤は救い難く観るに堪えられない。

 ただ監督は本作を「ハッピーエンド」だと明言していると言うのだ。うっ…もしかするとラストに頻繁に繰り返される時系列の映像の解釈に、そのヒントがあるのかもしれない。たしか執事が郵便物を持って病院を訪れた回想シーンがあったが、その郵便物の中に彼女からの手紙が混在していたと考えたい。
 そしてその手紙を見たヴァージルが、あの時計だらけの喫茶店で誰かを待っているシーンこそが本来のラストシーンなのかもしれない。その後果たして彼女は本当に現れるのか否かは、もちろん観客の想像力にまかせたのであろうか。

評:蔵研人

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