プリズム
著者:貫井徳郎
小学校の女性教師殺人事件がテーマになっているミステリーである。殺害されたのは美貌の新人教師山浦美津子で、凶器は彼女の家にあったアンティーク時計。従ってこの時計が落下した不運な事故とも考えられるが、窓がガラス切りで外されたうえ、睡眠薬入りのチョコレートが発見されてしまい、他殺の線が濃くなってきたのである。
本作は1.虚飾の仮面 2.仮面の裏側 3.裏側の感情 4.感情の虚飾 の4部構成となっており、第一部は被害者の教え子である小宮山真司ほか4名の小学生が探偵役を務め、被害者の同僚で恋敵の桜井先生が犯人だと結論付ける。
ところが第2部では、その桜井先生が探偵役となり、犯人捜しをするのである。なんだ彼女は犯人ではなかったのか。そして何人かの怪しい人物が浮かび上がるが、結局は元恋人で医師の井筒が犯人と断定する。
第3部に突入するが、井筒は犯人ではなく、今度は井筒が新犯人捜しの探偵役となる。そしてやっとたどり着いたのが、冒頭で探偵役をこなした小宮山真司の父親で、被害者の不倫相手だった。やっとこれで決着し、第1部に結局ループしてゆくのかな…。
と思いきや、第4部ではその小宮山が探偵役となって、またまた犯人捜しをはじめるのだ。それでは一体誰が犯人なのだろうか。そして小宮山が行き着いた結論は、余りにも恐ろしい結論であった…。
だが結局のところ犯人は想像だけの存在であり、含みを残しながらも曖昧なまま終劇となってしまう。どうもこれらのストーリー形式は、英国のミステリー作家アントニイ・バークリーが1929年に著した『毒入りチョコレート事件』を参考にしたようだ。
結局本作は犯人捜しのミステリーを装いながら、被害者山浦美津子の多面性をじっくりと描くことが主眼だったのだろうか。彼女は生徒たちの視点からは、はつらつとして子供たちの立場で考えてくれる信頼できる存在だが、恋敵の同僚の視点は自由奔放で身勝手な女に映っている。
また元恋人にとっては、女王様のような我儘な存在なのだが、忘れられない魅力的な存在でもあった。ところが年長の不倫相手には、孤独な女性に映ったようである。
その不倫相手の小宮山から見た美津子については、次のような記述がある。
美津子は私が思っているような女性ではなかった。堅すぎず、かといって軽薄にはならず、適度に抑制があり、適度に奔放だった。
美津子のお喋りは、手綱を解き放たれた駿馬のようにあちこちに飛んだ。音楽や絵画鑑賞など趣味の話かと思えば、若い女性らしくファッションや食事の話になる。そしてそこから派生していきなり哲学を論じたかと思えば、なぜか医学用語にも精通していたりする。私にとってそれは、目まぐるしく姿を変える万華鏡か、あるいは様々な光を乱舞させるプリズムのようだった。話をすればするほど、私の目に彼女は謎めいて映じた。
これでタイトルの『プリズム』の意味が理解できたはずである。とにかくこうした異色作品も読めるのだから、ミステリーの奥深さをつくづく感じてしまった。
評:蔵研人
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