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2021年1月の記事

2021年1月31日 (日)

1日10分のしあわせ

 NHK国際放送が選んだ日本の名作シリーズで、いくつかの短編をまとめた文庫本である。いまのところ本作のほかに『1日10分のごほうび』と『1日10分のぜいたく』の三冊が出版されていて、シリーズ累計で25万部を突破しているという。
 本書はわずか167頁の薄い本の中に、10作の短編が詰め込まれているため、1作平均約17頁という超短編集であり、まさに1日1作読めば10分程度で読み切ってしまうだろう。作者は8名で以下のような構成になっている。

 朝井リョウ 『清水課長の二重線』
 石田衣良  『旅する本』
 小川洋子  『愛されすぎた白鳥』
 角田光代  『鍋セット』
 坂木司   『迷子』、『物件案内』
 重松清   『バスに乗って』
 東直子   『マッサージ』、『日記』
 宮下奈都  『アンデスの声』

 全て駄作はなく、皆しっかりと読書を楽しむことはできたが、その中でも特に味わい深かった作品は以下の通りである。もちろん私自身の独断であり趣味の問題なので、決して他の作品がつまらないというわけではないので念のため。

 『鍋セット』、『迷子』、『バスに乗って』、『マッサージ』、『アンデスの声』で、いずれも家族愛がいろいろな角度から描かれており、読了後には、じんわりとしたような感動に包まれてしまった。

評:蔵研人

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2021年1月28日 (木)

ラストレター

★★★★

製作:2019年 日本 上映時間:120分 監督:岩井俊二

 岩井俊二のまさに岩井俊二たる所以とも言えるピュアな作品である。きっと誰でも青春時代を思い出し熱い涙を流してしまうことだろう。
 結婚して子供が二人いる裕里(松たか子)は、姉の未咲の葬儀のあと、姉に代わって高校の同窓会に参加する。そこで姉の死を伝えようとしたのだが、同級生たちに未咲本人と勘違いされ、言い訳するタイミングを失ったまま退席してしまう。
 そのあとを追ってきたのが、初恋の相手であり姉にラブレターを書き続けていた小説家の乙坂鏡史郎(福山雅治)だった。二人はバス停で連絡先を交換するのだが、裕里のほうから住所を記載しない一方的な文通が始まるのであった。

 前半は裕里を演じる松たか子中心のちょっとユーモラスな展開が続き、文通の中で高校時代の思い出がフラッシュバックされてゆく。そして後半は福山雅治扮する乙坂鏡史郎が中心となって、未咲への強烈な思いが描かれてゆく。未咲の若いころと彼女の娘を演じるのはともに広瀬すずで、裕里の若いころとその娘を演じるのが、やはりともに森七菜という二重構造の面白い配役となっていて、初めは戸惑ってしまうかもしれない。

 またいつもかっこいい役回りが多い福山雅治が、眼鏡をかけた売れない小説家を見事に演じ切っていたのが印象深かった。ただ豊川悦司と中山美穂のコンビを登場させたのは、あまり意味がないというか、ストーリー構成に無理が生じてしまったようである。そのために単なる病死で良かったはずの未咲の死因が、うつ病による自殺という歪んだこじつけに頼らざるを得なかったような気がする。

 あまり意味のないこの二人をちょい役で登場させたのは、もしかすると監督の処女作『Love Letter』で主演をはった二人に対するオマージュなのか、あるいはちょっとした遊び心なのかは監督に聞いてみなければ分からない。だが私にはどうしてもここの部分だけが納得できなかったのである。それよりもなぜ鏡史郎と未咲が結ばれなかったかの説明シーンのほうがどれだけ良かったことか。そのために残念ながら満点評価を逃してしまった、という非常にもったいない作品である。

作:蔵研人

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2021年1月24日 (日)

AX アックス

著者:伊坂幸太郎

 
 本作は『グラスホッパー』『マリアビートル』に続く『殺し屋』シリーズの最新作。本作では妻と息子の三人暮らしをしている殺し屋「兜」が主人公である。彼は超一流の殺し屋なのだが、表向きは文房具メーカーのベテラン営業マンだ。また家では極端な恐妻家で妻には頭が上がらず、息子には優しく物分かりのよい父親を演じている。そして息子の克巳が生まれた頃から、殺し屋から足を洗いたいと考え続けていた。だが殺人仲介役の医師が、なかなかそれを許してくれないのである。

 タイトルの『AX』とは、その名の通り『斧』を意味し、兜と克巳の会話の中で登場する「蟷螂の斧」という慣用句を援用している。つまり力のないものが、自分の実力を超えた強い者に立ち向かうことを例えているのだ。またその具体的な意味は、最終章で明らかにされるだろう。
 本書は殺し屋が主人公なのだが、殺しのシーンというような非日常ではなく、日常生活をメインに描いているところが面白いのだ。ことに自分が殺し屋だとは知らない家族に対する気の配りようが、涙ぐましいほど細部にわたり描かれているところが実に魅力的なのである。

 本書の構成は『AX』『BEE』『Crayon』『EXIT』という独立した短編と、10年後の克巳視点で全てを総括した『FINE』でまとめられている。もちろん独立した4作の短編も面白いのだが、やはり一番長い最終章の『FINE』が謎の解明とともに、実に感動的な展開で読者の心を掴んで離さないだろう。

 また本作は本屋大賞にノミネートされたり、静岡書店大賞を受賞し、2020年上半期のベストセラーを達成、さらに冒頭で述べた『殺し屋』シリーズでは、累計265万部を突破しているという。とにかく思わず「面白く読ませてもらってありがとう」という気分になってしまう一冊であることは間違いないだろう。できれば未読の『殺し屋』シリーズも読んでみたいものである。

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2021年1月22日 (金)

ベン・イズ・バック

★★★☆

製作:2018年 米国 上映時間:103分 監督:ピーター・ヘッジズ

 クリスマスイブの朝である。薬物依存症の治療施設に入所しているはずの息子・ベンが実家の前に立っていた。たぶん勝手に施設を抜け出して戻ってきたのだろう。そんなベンを見て家族は驚愕するのだが、それでも母親のホリー(ジュリア・ロバーツ)と小さい兄弟たちは大喜びする。だが継父のニールと、兄を案じながらも戸惑う妹のアイヴィーは、彼がトラブルを起こすのではないかと警戒し、ホリーが監視することを条件に1日だけの滞在を認めるのだが・・・。
 
 クリスマスプレゼント購入のためだと、無理矢理外出を希望するベンの頼みを断れず、ホリーがベンと一緒にショッピングセンターに行ってしまったことが問題の始まりであった。そこでベンはかつての悪友に遭遇してしまうのだ。
 夜の教会から家に戻ると、何者かが侵入した痕跡があり、愛犬の姿が見当たらない。それを義父に咎められて家を出るベン。それを追うホリー。そして二人で愛犬を探すことになるのだが、ここから息子を守りたい母親と、母親を巻き込みたくない息子の葛藤が始まるのである。

 それにしても異常とも思える母親の息子に対する愛情を、渾身の演技力で表現した「ジュリア・ロバーツの一人舞台」という感があった。前半はホームドラマ、中盤は依存症を批判したヒューマンドラマ、そして後半はサスペンスドラマという珍しい展開。それはそれで面白かったのだが、余りにも唐突で投げやり気味のエンディングはいかがなものであろうか。もう少し感動や余韻を楽しめるような終わり方でまとめて欲しかったのだが・・・。

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2021年1月20日 (水)

スキャンダル

★★★☆
製作:2019年 米国 上映時間:109分 監督:ジェイ・ローチ

 2016年に米国で起こった女性キャスターへのセクハラ騒動を描いたヒューマンドラマである。主演はシャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーの三女優で、それぞれがFOXニュースのトップキャスター、ベテランキャスター、新人キャスターに扮している。そしてその三人ともが、CEOのロジャー・エイルズからセクハラを受けているという設定である。
 またシャーリーズ・セロンが演じるメインキャスター・メーガン・ケリーは、共和党の大統領候補討議会の進行役を務めていたが、アメリカ全土は候補のドナルド・トランプに振り回されている状況だった。メーガンはトランプの女性蔑視発言を激しく追及したが、激怒したトランプがその日から執拗にメーガンへの罵倒をツイートする。さらに世間ではトランプ支持が拡大し、メーガンのもとに膨大な数の抗議メールが届くようになる。といったくだりも併せて描かれているのである。

 それにしてもどこの国でも同じようなセクハラが行われているのだが、米国ではいまだにこんな古い性差別がまかり通っているのかと驚いてしまった。ただスカートをたくし上げてパンティーをちらつかせる程度で、セックスシーンなどは全く皆無なのでそのあたりを期待しないように。(笑)
 またシャーリーズ・セロンのそっくりメイクは、第92回アカデミー賞で「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」を受賞している。この特殊メイクを担当したのがカズ・ヒロという日本人ということで話題になったようだ。驚くほど面白いわけではないが、いずれにせよ女性向けの映画であることだけは間違いないだろう。

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2021年1月18日 (月)

グランド・ジャーニー

★★★★☆
製作:2019年 フランス・ノルウェー 上映時間:113分 監督:ニコラ・ヴァニエ

 「バードマン」の異名を持つ気象学者で、『WATARIDORI』の制作にも携ったクリスチャン・ムレク氏の実話を基に描くドラマである。絶滅危惧種の渡り鳥たちを従えて、手動飛行機でノルウェーからフランスへ向かう少年の無謀な旅を描いている。

 反抗期でゲームにしか興味のない少年トマは、ある日母親と離婚した実父のクリスチャンの元に預けられる。自然の中で鳥の研究ばかりに夢中になっている父親の家に来ても、ゲームも出来ずに、はじめは退屈でしょうがないトマだった。ところが父親が飼育していたガンの出生に立ち会ってからは、自分がガンたちの親になった気分になってガンたちと過ごすことが楽しくなってくる。

 このあたりの展開まではよくある話なのだが、ふとした弾みからノルウェーから鳥たちを伴って手動飛行機でフランス目指して飛んで行く、という荒唐無稽な展開にすり替わって行くのだ。そしてあっという間に少年の冒険がネットに流され、彼は超有名人になってしまうのである。さあ果たして彼は無事フランスへ辿り着けるのだろうか。

 鳥類の保護、家族愛、自然描写、そして大冒険と、様々な切り口で鑑賞できる優れものの作品である。是非家族と或いは恋人と感動を味わって欲しい一本といえるだろう。

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2021年1月16日 (土)

風の電話

★★★☆

製作:2020年 日本 上映時間:139分 監督:諏訪敦彦

 『風の電話』とは、岩手県上閉伊郡大槌町の海(三陸海岸)を見下ろす丘にある「ベルガーディア鯨山」内に置かれた私設電話ボックスである。この電話は電話線には繋がっておらず心で話すことになっている。だから来訪者は、電話で亡き人に思いを伝えたり、ノートに気持ちを記載したりするようである。
 そもそもは、庭師の佐々木格氏が、2010年に死去した従兄ともう一度話をしたいとの思いから、海辺の高台にある自宅の庭の隅に白色の電話ボックスを設置したことに始まる。その後2011年3月11日の東日本大震災で、佐々木氏は自宅から浪板海岸を襲った津波を目にした。そして生存した被災者が震災で死別した家族への想いを風に乗せて伝えられるようにと敷地を整備し、祈りの像や海岸に向かうベンチを置き「メモリアルガーデン」を併設した上でこの施設電話ボックスを開放したという。

 本作は東日本大震災で家族を亡くした女子高校生のハルが、広島にある叔母の家から高校へ通うところから始まる。ところが帰宅すると叔母が倒れていて、緊急入院することになってしまう。眠っている叔母を残して病院を出たハルは、これまで蓄積していた家族への思いを込めて泣き叫ぶ。そしてここから心が切れたようになり、当てのない旅に出ることになるのだった。
 旅先で知り合うのは良い人ばかり、だと思ったら三人組の不良たちに囲まれて困ってしまうのだが、そこに通りかかった謎めいた森尾という中年男性に助けられる。ここから本格的なロードムービーが展開されるのだが、森尾の故郷福島を経由して岩手の実家跡へ、そして大槌町にある風の電話へと引き込まれて行くのである。

 良い映画だと思うのだが、序盤が説明不足であり、少女の暗さばかりを強調し過ぎているところが分かり難いし、音声の収録が今ひとつで何を喋っているのかよく聞こえないのだ。またストーリー展開が強引だったり、端折られ過ぎていたりと、何となくご当地映画または素人映画という雰囲気がプンプンと漂っていたのはいただけない。ただ主人公のハルを演じたモトーラ世理奈の、死人のような生めいた仕草は演技力なのか素なのかよく分からなかった。

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2021年1月13日 (水)

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

★★★☆

製作:2019年 米国 上映時間:135分 監督:グレタ・ガーウィグ

 原作は誰でも知っているあの『若草物語』で、1860年代のマサチューセッツ州に暮らすマーチ家四姉妹の暮らしぶりを描いている。ただ本作は姉妹が実家を離れた後に焦点を当てており、次女のジョーが過去を振り返る形で進むんでゆき、かなり時系列が入り乱れる構成となっているため、うっかりしているとよく分からなくなってしまうのでご注意!

 若草物語を読んだことのある人にとっては、原作をやや捻って時系列を複雑に入れ替えた本作に拍手を送るかもしれない。ただそうでない観客にとっては分かりにくい構成だっただろう。
 だが本作は批評家から絶賛されており、批評家支持率は95%、平均点は10点満点で8.62点となっているようである。これは米国の歴史や風俗をなぞりながら、当時の女性たちの自立や価値観を克明に描いているからであろうか。
 さらに付け加えると、第92回アカデミー賞では作品賞、主演女優賞(シアーシャ・ローナン)、助演女優賞(フローレンス・ピュー)、脚色賞、作曲賞、衣装デザイン賞の6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞している。

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2021年1月10日 (日)

一度死んでみた

★★☆
製作:2019年 日本 上映時間:93分 監督:浜崎慎治

 一度死んで2日後に生き返る薬を飲んだ製薬会社の社長・野畑計と、そんな父親が大嫌いな娘・野畑七瀬の荒唐無稽なお話である。計は一度死ぬことによって会社内のスパイを暴こうとするのだが、そのスパイとライバル会社の社長に先手を打たれて、生き返らないうちに火葬されてしまう。それを秘書の松岡と七瀬が必死に食い止めようとする超・ドタバタ喜劇なのだ。

 そもそもドタバタ喜劇は好きじゃないのだが、主演の野畑父娘を演じた堤真一と広瀬すずのほか、リリー・フランキー、木村多江、松田翔太、佐藤健、竹中直人、妻夫木聡と、かなり贅沢な役者を揃えてこんなおバカ映画を創る意味があるのだろうか。それに広瀬すずの率いるロックバンドの曲がやたら騒々しくて、耳を塞いでしまったくらいだ。アイデア自体は悪くないのだが、とにかくうるさくて内容のない、バカバカしい作品と言うよりないだろう。

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2021年1月 8日 (金)

敵の名は、宮本武蔵

著者:木下昌輝

 武蔵と戦い敗れ去った剣豪たちは数多い。本書は彼等の視点から見て、宮本武蔵の実像を語っているところがユニークである。345頁の長編であるが、読み易く天下無双の面白さのためか、あっという間に読破してしまった。

 著者の木下昌輝氏は、ハウスメーカーから脱サラしてフリーライターとなり、2012年に『宇喜多の捨て嫁』でオール読物新人賞を受賞している。また同作は直木賞候補になり、その他数々の文学賞も受賞している。
 さらに本書『敵の名は、宮本武蔵』でも、直木賞・山本周五郎賞・山田風太郎賞の候補作になっているという。

 本書は7つの話に分割されているのだが、決して時系列順ではないところが、本書のミソとなっている。まず鹿島新当流免許皆伝の有馬喜兵衛が、13歳の少年武蔵と戦うことになった経緯に始まる。
 そして第2章は、牛馬同然に売買され蔑まれていたシシド(吉川英治の小説では宍戸梅軒)が、鎖鎌の達人として山賊の頭領になり、武蔵により成敗されるまでの儚く悲しい物語となる。

 さらに第3章では4代目吉岡憲法こと吉岡源左衛門が、武蔵との試合を通して「憲法染」と呼ばれる黒褐色の染物を発明し、家伝の一つである染物業に専念するまでを描いている。このあたりは吉川文学には登場しないが、こちらの成り行きのほうが史実らしい。そして武蔵も憲法との戦いを経て、剛力だけだった剣に優しさを匂わせるようになるのである。

 その後武蔵は神道夢想流杖術の流祖である夢想権之助や、自身の弟子である幸坂甚太郎との戦いを経て、巌流津田小次郎との試合へと導かれてゆく。なお吉川文学の佐々木小次郎は架空の人物であり、古文書によると巌流島での決闘相手は、津田小次郎という年老いた剣士のようだ。本書は史実に沿って巌流津田小次郎として、架空の物語を創りあげているところが面白いのである。

 さて本書がさらに俄然面白くなるのはこの辺りからである。まず巌流津田小次郎の出自というか、その悲運に満ちた生涯に心が痛む。そして武蔵の父・無二のさらに悲しき生き方に遭遇し、ここではじめて本当は彼が裏の主人公であることを確信する。
 これだけでも、嫌というほど面白いのだが、このあたりで今まで少しずつ疑問に感じていた部分が、時間を遡って順次完全解明されてゆくのだ。まさにこれはミステリー小説の収束技法だと言っても良いだろう。それにしても、緻密に調査した事実をベースにしながら、これだけの嘘(創作)を捻り出した著者の力量は計り知れない。

評:蔵研人

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2021年1月 6日 (水)

Fukushima 50

★★★★
製作:2019年 日本 上映時間:122分 監督:若松節朗

 2011年3月11日に世界を震撼させた東日本大震災。それに伴う巨大津波に襲われた福島第一原発は、全ての電源を喪失し原子炉の冷却ができなくなってしまう。そしてメルトダウンの危機が迫る中、現場の指揮を執る吉田所長をはじめとする約50名の作業員たちの命懸けの戦いがはじまるのである。
 主なキャストは渡辺謙、佐藤浩市、吉岡秀隆、緒方直人、日野正平、萩原聖人、佐野史郎と主役級の男優が顔を揃えている。もちろん女優も安田成美、富田靖子などが参加しているが、本作は何と言っても男たちの物語だ。

 ストーリーは東日本大震災の大津波にあっという間に福島第一原発が飲み込まれてしまうところから始まる。そして全ての電源を喪失した原子炉は、炉心冷却機能を失い炉内の温度が急上昇してしまう。さらに核燃料が自らの熱で溶けだしてメルトダウンを起こし始めるのだった。
 もしこのままメルトダウンを引き起こせば、日本列島の半分が被害を被ってしまう。それを防ぐにはベント=排気操作を決行しなければならない。しかし電源を全て喪失したため、高い濃度の放射能が充満する建屋に人間が入って、人力で作業しなければならないのである。

 そしてストーリーは、決死の覚悟で作業する現場の50人と、無策無能の政府や東電本社の幹部たちを対比しながら、緊張感を漂わせながら事実通り克明に描かれてゆく。ここまではなかなか感動的で素晴らしい展開であった。
 ところが終盤になると、製作時間の制約のためか、あっという間に収束してしまい、収束原因がよく分からないままエンディングを迎えてしまったのが非常に残念であった。あくまでもパニック映画と言うより、50人の原発現場作業員たちを称えるドキュメンタリータッチの映画と認識したほうが良いのかもしれない。
 ところでなぜタイトルが『Fukushima 50 』とローマ字になっているのだろうか。もしかすると、米軍にゴマを擦った「ともだち作戦」を挿入したことから推測して、米国での配給を意識しているのであろうか。

評:蔵研人

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