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2020年10月31日 (土)

血槍富士

★★★☆

製作:1955年 日本 上映時間:94分 監督:内田吐夢

 1954年に中国から復員した内田吐夢監督の戦後第一作であり、名作時代劇のひとつに数えられている。主演は槍持ち権八を演じた片岡千恵蔵で、若殿・酒匂小十郎とお供の源太の三人で、のんびりと江戸に向かってゆくというロードムービーである。
 道中、小間物商人、身売りに行く田舎娘と父親、あんま、巡礼、旅芸人母子、挙動不審の男、浮浪児などと一緒に旅することなる。そうこうしているうちに、若くて世間知らずの小十郎は、市井の人々の悲喜交々の人生と人情に触れて感動し、虚栄ばかりの武士の世界に嫌気がさしていくのだった。
 
 さてその小十郎は、普段は聡明で部下想いの優しい男なのだが、ひとたび酒が入ると酒乱の気がある。それで本人も付き人達も注意し、せめて旅の間は禁酒を通そうと決意していたのだが、あることがきっかけでとうとう禁を破ってしまうのである。それでも一回目は権八が駆けつけて、なんとか事無きを得たのだが、二回目は大変な事件へと発展してしまうのだった。

 中盤までは東海道の景色を眺めながらの、のんびりとした旅が続き、後半は大泥棒逮捕劇と人情噺に花が咲く。この映画には殺陣シーンはないのだろうか、と思っていると終盤になって突如惨劇が起こって、権八の大立ち回りが始まるのである。
 ただその殺陣シーンも、擬音が出るではなく、血が流れるわけでもなく、まるで歌舞伎を観ている感があった。まだこの時代の殺陣はそんなものなのだが、黒澤明以降の時代劇を知っている者には物足りない。そこだけが減点要素だが、製作当時に本作を観ればがもう一つ増えただろう。

評:蔵研人

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