ラヴソング
★★★★
製作:1996年 香港 上映時間:118分 監督:ピーター・チャン
香港の主権が英国から中国へ返還されたのは、1997年7月1日である。従ってこの映画は返還直前に創られた映画と言うことになる。私自身が出張で香港を訪れた時は、既に返還後数年が経過していたが、この映画の冒頭で主人公が載っていた電車に乗って、深センから香港へ移動したものである。
天津から電車で香港に出稼ぎにきたシウクワンの夢は、金を貯めて故郷に残してきた恋人・シャオティンを呼び寄せて結婚することだった。ある日マクドナルドでバイトをしているレイキウと知り合い、口は悪いがざっくばらんで明るい彼女と友人となる。
香港人を気取るレイキウだったが、実は彼女は広州人でシウクワンと同じ電車で香港に来たのだった。彼女の夢は、故郷の母親に大きな家を建ててやることだった。
友人関係を続けてきたシウクワンとレイキウだったが、テレサ・テンという共通の絆を見いだした二人は、ある晩はじめて夜を共にしてしまうのである。翌日、レイキウはさばさばしているのだが、シウクワンはその日を境にして、故郷に居る恋人とレイキウの狭間の中で心が揺れ始めるのだった。それにしても、いやに艶めかしいキス・シーンが印象的である。
ラブストーリーなのだが、かなり中味が濃い。返還前の香港の状況や、北京語も通じない当時の中国の貧弱さがひしひしと伝わってくる。本作は香港アカデミー作品賞を受賞しているが、レイキウ役で主演女優賞を獲得したマギー・チャンの抜群の演技力も見逃せない。
優しさゆえの風見鶏でありながらも、直球一直線なシウクワン。そして二転三転するレイキウの女心。なかなか見応えのある脚本構成である。ただ元カノのシャオティンには何の罪もないし、あれでは彼女が余りにも気の毒ではないか・・・。
さて香港ロケで製作された名作映画『慕情』と、主演のウィリアム・ホールデンは、香港人の憧れだったのであろうか。また本作の中で何度か流れてくるテレサ・テンの歌も、実にしっとりと心の中に沁み込んでくる。そしてまさに彼女の歌こそが、二人を結び付ける愛の詩だったのであろうか。
評:蔵研人
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