完全犯罪
著者:小林泰三
本書には50頁程度の独立した短編が5作掲載されている。タイトルから想像するとミステリー小説のように感じるのだが、ミステリーのほか、SFありホラーあり怪奇ありと、そのポケットの多さに感心してしまうだろう。
さてではその5話に分類して、それぞれのレヴューを簡潔にまとめてみようか。
1.『完全・犯罪』
本編を読むために本書を購入したのだが、なんとこの作品はミステリーではなく、SF小説なのである。つまりタイムマシンを使って過去に行き、憎いある人物を殺せば、その人物は現代には存在しないことになる訳であり、完璧な完全犯罪を実行できると言うのである。
ところがなかなか思ったようには事が進展しないのである。そこで焦った主人公が過去の過ちを修正しに過去に戻るたびに、何人もの自分と遭遇してアタフタする。
そして「過去は変わらないが未来は変わる」という論理の渦に巻き込まれて、SFなのかギャグなのか意味不明となってしまうのだ。なんとなく前半は広瀬正で後半のドタバタは筒井康隆を思わせる一遍である。
2.『ロイス殺し』
海外が舞台で、作風もまさに外国の小説のようだが、作者は間違いなく小林泰三である。またロイスというと女性のように感じるのだが、実は主人公が少年時代に苛められた悪い男の名である。さらにロイスは主人公が好きだった美しく優しい少女のことも弄んで殺害しているのだった。
だから主人公は大人になっても、ずっと彼を追い求めて復讐の牙を研いでいた。そしてついに密室でロイスは殺されるのだが、その手口がいやにまどろっこしいのだ。
むしろ誰もいない砂漠にでも行って、後ろから撃ったり刺したりしたほうが余程簡単で足が付きにくいのに、なぜ人が大勢集まるホテルで面倒なトリックを使って殺害したのだろうか。つまりこの密室ミステリーを創るために、無理矢理創ったストーリーだからさ、ということなのだろうか・・・。
3.『双生児』
一卵性双生児で親も見分けが付かない姉妹がいた。だから二人が時々入れ替わっても二人以外は誰も気付かない。では自分とは何か、果たしてアイデンティティーは存在するのか。それが犬の場合は単なる記号の読み違いで済まされるのに、人の場合は許されないのだろうか。
ではもし彼氏が自分と間違えて妹と付き合ったらどうなるのだろうか。などなどネチネチとした双子の悩みを執拗に綴ってゆく。なんとなく江戸川乱歩を髣髴させる作風ではないか。
4.『隠れ鬼』
前半、河川敷で偶然目が合ったホームレスにしつこく追いかけられる恐ろしい展開は、まさにホラーそのものである。だがその謎が少しずつ解明されるにつれ、だんだん不条理であり得ない世界に嵌まってゆく。ラストの展開がちょっぴり投げやりではなてかと感じたのは私だけであろうか・・・。
5.『ドッキリチューブ』
いわゆるネット版の「ドッキリカメラ」なのだが、「ドッキリ」の看板を免罪符に果てしなくエスカレートする番組制作者の暴走を描いた狂作?である。本編にもなんとなく筒井康隆の世界観が臭ってくる気がするのは、果たして私の考え過ぎだろうか・・・。
また本編はフジテレビの『世にも奇妙な物語』の一遍として放映されたようである。まあまさに奇妙な話そのものだね。
評:蔵研人
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