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2019年7月の記事

2019年7月26日 (金)

アルビノの木

★★★

製作:2016年 日本 上映時間:86分 監督:金子雅和

 世界9か国で19の映画賞を受賞したというのだが、何がそれほど評価されたのか、逆に日本人には理解し難い作品かもしれない。確かにテーマは共感できるし、映像も音楽も文句なく素晴らしい。
 ただ脚本が弱々しく、端折り過ぎの感があるため、共感し辛く突っ込見所が多発してしまうのだ。また無名の役者さんばかりなのは仕方ないとしても、かなり演技力に難が目立つ。だからなんとなく素人芝居を観ているようで、ちょっぴり気恥かしくなってしまった。

 ストーリーを一言でまとめれば、「害獣駆除をしている男が、気が進まないのだが、母親の手術代を稼ぐため、村人に神と崇められている白鹿さまを撃ちに行く」というお話である。
 いかにもファンタジックな設定なのだが、映画の中では神がかりな出来事や呪いなどは一切ない。ただ淡々と害獣を撃ちに行く男を、現実的に描いているだけである。だから本作はファンタジーではなく、あくまでもヒューマンドラマなのだ。

 まあそれは特に文句をつける筋ではない。だが役所が村人たちに大切にされている白鹿の殺処分を秘密裡に行い、かつそれに賞金をかけるが如く、異常に高額な金額を猟師に支払うこと自体があり得ない。またいまどき母親の手術代稼ぎと言うのも陳腐だし、そもそも特殊なオペ以外は、健康保険の高額療養費制度でフォローできるため、これも全く説得力がない。
 さらに宿泊先が役所の担当女性の家、というのも安直過ぎるし、プライバシーの侵害ではないか。また村でその従妹らしき女性と逢っても、その話が全く絡んでこないし、祖母が欲しがっていた木の器の話も村人に伝えない。これではわざわざ不自然だった「役所の担当女性宅泊」も全く意味がなかったではないか。

 さらに途中で帰ってしまった仲間や、山小屋で待機していた猟師なども、一発屋よろしく、後に何の関りも起こらない。それになんと村の娘に至っては、無意味に唇を許してしまったり、簡単に約束を反故にしてしまうのである。とにかく前後の絡みや関連性が、ほとんど無意味になってしまう雑な脚本なのだ。
 決して駄作ではないし、そこそこのめり込めた作品だけに、ちぐはぐな脚本と社会常識等の認識不足などが目立ったのは非常に残念である。だぶん外人たちには、そのあたりの事情がよく理解出来ていないため、単に芸術観だけで高評価してしまったのかもしれないね・・・。

評:蔵研人

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2019年7月22日 (月)

輝ける人生

★★★★

製作:2017年 英国 上映時間:114分 監督:リチャード・ロンクレイン

 記念パーティーの席上で、長年連れ添ってきた夫の浮気が発覚、それにその浮気相手は自分の親友だった。ダブルに裏切られ、大恥をかかされたサンドラは頼る人もおらず、仕方なく疎遠になっていた姉の家に押し掛ける。
 最初はかたくなに自分の殻に閉じこもっていたサンドラだったが、明るく大らかな姉に連れられてダンス教室に通っているうちに、今までの自分の生き方が間違っていたことに気付く。そして新しい自分の人生を謳歌するようになるのだが・・・。

 いつも苦虫をつぶしたような顔をして、嫌な感じのブスおばさんだったサンドラ。これでは夫が浮気したくなってもしょうがないなと思った。ところが姉やその友人たちとの出会いを通じて、次第に明るく情熱的な表情になってくると、意外にも可愛い顔つきに変化してゆく。まさにメーキャップと演技力の極意といったところか。

 主役のサンドラを演じたイメルダ・スタウントンも悪くはないのだが、何と言っても姉・ビフ役のセリア・イムリーが実にいい味を醸し出していた。まさに彼女なしでは、この映画は成立しなかっただろう。
 登場人物の大半は老人というシニア向けの作品であるが、軽快な音楽とダンスを気楽に楽しめるところがこの映画の最大の売りである。シニアの人には、是非お勧めの一本と言えるだろう。

評:蔵研人

 

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2019年7月18日 (木)

運命は踊る

★★★☆

製作:2017年 イスラエル・独・仏・スイス 上映時間:113分 監督:サミュエル・マオス
 
 原題のFoxtrotは比較的テンポの速い社交ダンスの名前なのだが、邦題から推測すると次のように考えられる。フォックストロットのステップは、「前へ、前へ、右へ、ストップ。後ろ、後ろ、左へ、ストップ」でどう動いても元の位置に戻って来る。つまり人生はどうあがいても、結局は同じところへと帰って来る。既に動き出してしまった運命は、決して変えることができない、ということなのだろうか。

 テルアビブに住むミハエルとダフナ夫妻のもとに、軍の役人が息子ヨナタンの戦死を知らせにやってくる。それを聞いた妻ダフナはショックの余り気を失ってしまうシーンから始まる。もちろん夫のミハエルも冷静さを装っているものの、かなりのショックを受け、自ら熱湯で手の甲に大火傷させてしまうほどだった。

 ところが後日になって、息子の戦死が誤報だったとの連絡を受ける。妻やその他の親族は、誤報で良かったと喜ぶのだが、ミハエルだけは激怒してすぐに息子を呼び戻すよう、知り合いの軍の上層部に要求するのだった。しかしこれが皮肉にも、逆に後味の悪い結果を呼び覚ましてしまうことになるのであった。

 両親の葛藤シーンが第一幕で、息子とその同僚たちが国境の検問所で間延びしたような任務をこなしているシーンが第二幕となる。そして大逆転の第三幕で終演という流れなのだ。そしてほとんどのシーンが同じような場所で、同じようなメンバーで推移してゆく。まるで舞台劇を観ているようである。
 
 なかなか難解な作品で、第三幕が始まるまでは、ストーリーの意図がなかなか掴めない。第二幕のオープニングで突如ラクダが登場するのだが、このラクダこそがこの作品の鍵となっている。なんとなくプロ好みの作品という感が否めないのだが、観る者を選ぶ作品であることも間違いないだろう。

評:蔵研人

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2019年7月13日 (土)

MEG ザ・モンスター

★★★

製作:2018年 米国 上映時間:113分 監督:ジョン・タートルトーブ

 かつて人が潜ったことのない深海が発見され、最新鋭の潜水艇で調査に行くのだが、そこでは200万年前に絶滅したはずの超巨大鮫メガロドンが生息していた。そしてなんとその怪物は、人間の後を追って近海へ現れるのであった。
 という怪生物パニック映画であるが、不思議と恐ろしさも緊張感もないのだ。たぶん主演のジェイソン・ステイサムが余りにも人間離れした強さを発揮したからかもしれない。なんとなくプレデターと戦ったシュワちゃんを髣髴させられてしまったね。

 だからパニック映画というより、「ステイサム型のアクション映画」と言ったほうが分かり易いかもしれない。もちろんメガロドンは、全長20m超の巨大モンスターであり、いくらステイサムが強いといっても、素手で倒せる相手ではないのだが・・・。
 本来こうした怪生物ものは、次々に人が殺されてゆき、最後に敵の弱点を見つけた主人公だけが、なんとか必死に生き延びるというパターンが多い。ところが本作では、海洋アクション・家族愛・淡い恋愛などに力点が移ってしまい、パニック映画としては中途半端な展開となってしまったようだ。残念ながらそれが、緊張感や恐怖感を薄めてしまったのだろう。

評:蔵研人

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2019年7月10日 (水)

ワイルドライフ

Wlife

★★★★

製作:2018年 米国 上映時間:105分 監督:ポール・ダノ

 監督のポール・ダノは、『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』で主役を演じた俳優だが、本作で初めて監督を経験している。
 さて本作の時代背景は1960年代で、ジェリー(ジェイク・ギレンホール)一家は、モンタナ州の田舎町へ引っ越して来る。14歳の息子ジョーはフットボール部に入部したが、なかなか馴染めない。だが父親・ジェリーがゴルフ場で働き、母親ジャネット(キャリー・マリガン)が楽しそうに家事に専念している姿を見てホッとしていた。

 ところがある日ジェリーが仕事をクビになってしまう。はっきりした原因は分からないが、たぶん客と賭け事をしたためではないだろうか。その後上司から、誤解があったのでもう一度復帰してみないかとの連絡があるのだが、もうその職場では二度と働きたくないと言うのだ。
 このあたりから、なぜこの家族がこの地に引っ越して来たのかが、それとなく解明されることになる。そうジェリーはいつも現実と向き合うことが出来ず、仕事も長続きしないようなのだ。

 そんな夫に我慢しながら、なんとかついてきたジャネットだった。ところが突然ジェリーが「危険な山火事の消火に行く」と言い出すと、ついに切れてしまうのだった。そして仕事先で知り合った金持ち爺さんと出来てしまうのである。
 本作は息子の視点で創られているため、その経緯をずっと見ているジョー少年の辛さと切なさがひしひしと伝わってくる。ジョーはほとんど文句を言わないのだが、その心象風景は若い監督だからこそ巧みに描けたのかもしれない。

 なぜジェリーは妻が反対するボランティアのような山火事消火作業に参加したのか、それは自分の不甲斐なさのために妻や息子に労働を強いてしまった苦悩の裏返しなのだろう。また山火事自体も小さな火種から大きな災害になる。それと同様に、家族関係もちょっとしたきっかけが災いして、崩壊してしまうという戒めが込められているのである。いずれにせよ夫婦と息子の三人とも演技力が素晴らしく、ことに父母の双方を愛しているジョーのピュアな葛藤を演じたエド・オクセンボールドには絶賛の拍手を送りたい。

評:蔵研人

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2019年7月 6日 (土)

パスト&フューチャー 未来への警告

★★★

製作:2018年 スペイン 上映時間:92分 監督:ダニエル・カルパルソロ

 タイトルがなんとなくタイムトラベル風だったので、思わず衝動借りしてしまったのだが、現在と10年後を同時進行で描いたスペイン産のミステリーであった。ではなぜ10年間の時を隔てて、同時進行して描かれなければならないのだろうか。

 それはあるコンビニで、1913年、1955年、1976年、2008年の同じ日に、発砲による殺人事件が発生したからである。これは偶然か呪いなのだろうか。さらにはどの事件も、現場に居合わせた被害者・犯人・目撃者は合計5人で、その年齢構成は、53歳・42歳・32歳・21歳・10歳なのだ。そのパターンを解析した数学者のジョンが出した結論は、『10年後の2018年4月12日に、そのコンビニで10歳の子供が死ぬ』というものだった。
 その因果律を阻止するために、ジョンは必死に動き回るのだが、周囲の人々は彼を異常者扱いするばかり。そして彼の行動は全て空回りして増々悪い方向へと反転してゆくのだった。
 
 一方10年後に殺される予定の子供は、母子家庭のためか、学校でいじめの対象となっている。また母親が過剰に関与してくるため、なかなか独り立ちできない。そして少年は、4月12日にコンビニに行くと殺されるという警告書を発見し、さらに臆病になってしまう。
 ところが母親は、そんな息子を強くしようと、嫌がる少年を無理矢理コンビニへ連れて行くのである。そこへ拳銃を持った強盗が侵入してくるのだが…。

 こうした展開により緊迫感を持たせるため、10年の時を隔てて同時進行風に描いたのであろう。それはそれで良いのだが、どうもジョンの行動に冷静さが全くみられず、まるで麻薬中毒者のように悪夢に襲われる状態にイライラが募ってしまう。また嫌がる少年を強引にコンビニへ引っ張ってゆく母親のしつこさも納得できない。
 ラストの締めくくりが気になるので、それとなく退屈もせず観終わったのだが、なにか余りすっきりしないし、殆ど予測の範囲内で感動もなかったのが非常に残念である。まあ悪い映画ではないのだが、数字ばかりいじくりまわさないで、もっと人間関係の部分を掘り下げて欲しかったね。

評:蔵研人

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2019年7月 3日 (水)

タクシー運転手

★★★☆

製作:2017年 韓国 上映時間:137分 監督:チャン・フン

 ドイツ人記者ピーターが登場するあたりから、序盤のコミカルタッチな展開とうって変わり、急にシリアスで重いヒューマンドラマに衣替えしてしまうところが、いかにも韓国映画らしいよね・・・。
 なおこの作品は、1980年5月に実際に韓国で多数の死傷者を出した『光州事件』を世界に伝えたドイツ人記者と、彼を危険な事件現場まで送り届けたタクシー運転手の実話がベースになって創られた。そしてなんと韓国で1200万人を動員する大ヒットを記録したと言われている。

 それにしても光州事件は余りにも惨過ぎる。一体どこまでが真実でどのシーンが映画としての創作なのであろうか。催涙弾やら放水などは現実的だが、無防備の国民をあそこまで無差別に銃殺したのだろうか。あれではまるでナチではないか、いやナチでも自国民にあそこまで乱暴な行動はとらなかったはずである。しかもそれほど大昔の話ではなく1980年代という最近の話なのだから、人間ほど恐ろしい生物は他に存在しないだろう。

 なかなか出来の良い映画だとは思うのだが、個人的にはラストの光州タクシーのアクションシーンは余り気に入らなかった。また警察のしつこさや無差別銃殺の後味の悪さが鼻を突いて余り楽しめなかった。ただ韓国では近年このような忌まわしい事件があった、という史実だけが脳裏に刻まれた感がある。

評:蔵研人

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