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2016年10月31日 (月)

解夏

★★★★

製作:2003年 日本 上映時間:113分 監督:磯村一路

 げげと読むのですが、解夏とは禅宗用語で、夏の辛い修行期の終了のことを指すのだそうです。
 小学校の教師である主人公(大沢たかお)は、体の変調から医師に相談するが、診断結果はべーチェット病で数ヵ月後に失明するというやるせない結論でした。やがて彼は職を捨て恋人も捨てて、故郷長崎の母のもとに帰ります。そして失明するまでの数ヶ月間に、生まれ育った長崎の街を眼に焼き付けようと心に決めるのです。

 その後、主人公を追って東京から恋人(石田ゆり子)がやって来て、彼の家に住むようになるのですが、彼は自分のふがいない姿に苦悩し、失明の恐怖に苦しむことになります。やがて主人公は回りの親しい人達に助けられながら、失明することにより恐怖感と苦悩から開放されることになりますが、これが彼にとっての『解夏』となるわけです。

 さだまさしの原作は、末読なの比較は出来ませんが、質が良く完成度の高い映画に仕上がっていたと思いました。またキャスト陣もそれぞれ味のある演技で、自分の役割を演じていましたが、母親役の富司純子、恋人役の石田ゆり子、郷土史研究者役の松村達夫が印象に残りました。ことに石田ゆり子がマリア像の前で手を合わすシーンと『あなたの眼になりたい』と言うシーンには胸を打たれました。

 もし自分が失明したら、こうして好きな映画も観られないし、絵も描けなくなります。それを考えるととても他人ごとには片付けられませんでした。
 また幻想的な坂や広大な港がおりなす長崎の風景も魅力的であり、長崎弁の人情味溢れる優しい響きも印象的でした。そしてゆったりと流れてゆく時間の中で、主人公を取り囲む人々の愛情に思わず涙が流れ出して止まりませんでした。久々にみる良質の日本映画だったと思います。

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