フォックスキャッチャー
★★★★
製作:2014年 米国 上映時間:135分 監督:ベネット・ミラー
この作品は実話であり、登場人物もすべて実名である。それも超有名人ばかりなのだ。その一人がジョン・デュポンで、アメリカではロックフェラー、メロンに並ぶ三大財であるデュポン財閥の御曹司である。彼が所有する「フォックスキャッチャー農場」にレスリング施設が建設され、二人の金メダリストが招聘された。二人は兄弟であり、兄はデイヴ・シュルツ、弟はマーク・シュルツである。
彼等はソウルオリンピックに向け、ジョンが率いるレスリングチーム「フォックスキャッチャー」に勧誘されたのだ。そしてリーダー格のデイヴには、家族も一緒に住める住宅が敷地内に提供された。
当初ジョンは、弟のマークをスカウトして自分の傘下に置いたが、マークには精神的な弱さがあった。そこで彼よりも人格者で、指導力のある兄のデイヴが欲しくなり、かなりの高条件で彼を招聘するのだった。それに不満を抱いたマークは、かなり荒れて反発を続けるが、やがてジョンのもとを離れてゆく。
それから暫くして、あの忌まわしい惨劇が起こったのである。休日の雪道の中、車を走らせてデイヴの家を訪れたジョンは、玄関先で車のメンテナンスをしていたデイヴに、いきなり拳銃を発砲したのだ。発射された弾丸3発は、いずれもデイヴに命中して、デイヴはあっという間に殺害されてしまうのである。
なぜジョンは、友人であり有能な指導者であるデイヴを殺してしまったのであろうか。結局のところ、はっきりとした殺害動機は不明のままらしいが、これには次のようないくつかの原因が複合していたと考えられる。
絶対的に服従していた可愛いマークが自分の元を去った上に、未だに自分の成長を認めないまま母親が死去してしまい、精神的にだいぶ落ち込んでいたジョン。その空虚な心をデイヴに埋めてもらおうとしたが、彼には「休日は家族と過ごしたい」とあっさり断られてしまう。
それが引き金になったと思うのだが、もともとジョンには心を許せる友人がいない。また母親にも一人前として認めてもらえないという苛立ちが渦巻いていたようだ。それでかなりの奇行が目立ったようである。まさにジョン・デュポンは、金や資産は有り余るほど所有していても、心の充足感が全く得られないという悲しい男だったのである。
またマーク・シュルツは、幼いころに両親を亡くしたため、ずっと兄のデイヴに助けられながら生きてきた。従って兄には感謝しているものの、いつまでも兄の擁護から自立できないというコンプレックスを抱えていたようだ。そのあたりは母親に認めてもらえず、苛立ちを隠せないジョンと共通するものがあったような気がする。
また兄のデイヴ・シュルツは、家族思いで弟のマークにも優しい。そのうえ苦労人ため大人で人格者であり、レスリングの実力も弟以上で、その指導力も抜群であった。三人の中では一番まっとうな精神を持ち、静かに暮らしているこの人物が殺されてしまうのだから、なんとも皮肉な展開と言うよりないだろう。
この映画では、大財閥の御曹司であるジョン・デュポンの狂気と、貧困を乗り越えて金メダリストにまで到達した兄弟の心情を巧みに絡ませて、三者三様の個性と生きざまを巧みに描いている。また「男の嫉妬心」を繊細に描いている作品とも言えよう。
ことに狂気のジョンを演じたスティーヴ・カレルが醸し出す独特の雰囲気は怖くなるほどだった。さすがアカデミー主演男優賞にノミネートされただけの力量なのだと言えよう。
それにしても、前半のレスリング練習でのタックルなどのスピードは凄かった。ことにマーク・シュルツを演じたチャニング・テイタムの抜群の運動神経は驚異的である。さすが元スポーツ選手である。
最後にこの実話の顛末を簡単にししておこう。逮捕されたジョン・デュポンは、2010年72歳で獄死。殺されたデイヴはレスリングの殿堂入り。マークは引退後プロレスに転向、今はレスリング教室を開いていると言う。
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