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2013年6月 8日 (土)

はじまりのみち

★★★★

製作:2013年日本 上映時間:96分 監督:原恵一

Hajimari
 日本映画の黄金期を築いた木下恵介監督の生誕100年記念作。予告編を観た限りでは、それほど食指が動く作品ではなかったのだが、ネットでの評価がかなり高いので観る気になってしまった。
 てっきり木下恵介監督の半生記かと思っていたのだが、戦時中に病気の母を疎開させるため、リヤカーに乗せて必死に山越えしたというシーンが大半を占めていた。あとは木下恵介監督の数々の名作と名シーンを織り込んでゆくという構造である。
 だから観客もほとんどが年配者であり、昔観た同監督の映画をしみじみと思い返して涙するということになる。逆に言えば若い人たちにとっては退屈極まりない映画とも言えるかもしれない。

 この映画を観てつくづく実感したことは、木下恵介監督は非常に家族に恵まれた人だということである。父母も兄も妹たちは、みんな優しいし、映画監督になった彼を誇りにしていたようだ。人間の愛を描いて数々の傑作を生み出した裏には、そうした家族の愛情が渦巻いていたのである。
 またキャストが実に良い。『俺俺』の底意地の悪いタジマ主任とは、まるで180度違う真面目で頑固な木下恵介監督を演じた加瀬亮の懐の広い演技力にも感心したが、母親役の田中裕子の枯れたような品格の漂う演技も素晴らしかった。さらに女好きでお喋りな便利屋を演じた濱田岳が、実に良い味を絞り出していて、淡々として変化の少ないこの映画を、ピリリッと引き締めてくれた。
 便利屋が語る映画『陸軍』のラストシーンで母親を演じる田中絹代と、本作で母親を演じた田中裕子が重なり、さらには田中裕子似の亡母の思い出までが蘇ってきて、涙が止まらなくなってしまった。
 そして終盤は木下映画のオンパレードが続く。まあいずれにせよ、ドラマとして観るのではなく、『木下恵介監督の生誕100年記念オマージュ』として鑑賞する作品だったような気がする。

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