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2011年12月 6日 (火)

アイリス

★★★☆

 アイリス・マードックは実在の人物で、アイルランドで生まれ、一家は彼女が幼いときにロンドンに移り住んだようです。そして彼女は1938年にオックスフォード大学に入学し、古典と哲学を学び大蔵省に入り、国連救済復興機関に加わり、第二次世界大戦後はベルギーやオーストリアの難民救済キャンプで働いています。
 またサルトルにも会い、実存主義への関心を深め、1948年から1963年までオックスフォード大学で哲学の特別研究員として研究指導にあたるかたわら、小説や哲学書を著し1978年に「海よ、海」でブッカー賞を獲得しています。そして晩年はアルツハイマー症に冒されてしまうという、英国を代表する偉大な女流作家であります。

Airis

 映画のほうは、そのアイリス女史と夫ジョン・ベイリーの若き日と晩年の愛をパラレルに描いてゆくシリアスなラブストーリー仕立てになっています。
 キャスティングは若き日のアイリスに、タイタニックのケイト・ウィンスレット、ジョンにはヒュー・ボナヴィル。晩年のアイリスにはジュディ・デンチ、同じくジョン役には本作でオスカー助演男優賞を獲得したジム・ブロードベントと同一人物に2人ずつの配役です。この4人のうちジョン役の男性2人は同一人物ではないかと勘違いするほど風貌も性格も似通っています。しかし主役のアイリスのほうは若いケイトが自由奔放で明るいのに、晩年のジュディのほうは暗くて怖くて無表情な感じがしました。たぶんアルツハイマー症の患者である部分が中心であったので、そちらのほうの演技とイメージを考えてのキャスティングだったのではないかと勝手に想像しています。

 四人とも素晴しい演技で、知らず知らずに何度も感動の涙を誘われましたが、ちょっと気になることがいくつかありました。ひとつは晩年のまだアルツハイマー症に冒される前のアイリスの講演が「抽象的な言葉の羅列」だけで、余り感動的な演説でなかったことです。これは翻訳上の問題とか、慣習の違いなどによるのかもしれませんが、字幕の中には僕のこころに響くような素晴らしい言葉は見つけられませんでした。

 それからこれは重大なことかもしれませんが、この作品ではアイリスよりも夫のジョンのほうにスポットが当てられているような気がしてなりませんでした。。ジョンは若い日からアイリスの男出入りの激しさにも、気まぐれで我儘な性格にもよく我慢していました。
 またそれにも拘わらず晩年に子供のようなアイリスに対しても自ら老体に鞭打ちながらも、よくあれだけ優しく辛抱強く介護を続けたと思います。こんな「奇跡的な献身」が出来る人は、アイリスのような「才女で有名で偉い人だけの人」よりも遥かに立派で素晴らしい人なのではと思ってしまいました。
 助演が主演を喰ってしまったのか、それとも初めからそれを意識したシナリオだったのかは不明ですが、この映画の原作がアイリスの夫ジョン・ベイリーが書いた回想録であることを知ってなんとなく何かが分かったような気がしました。
 ちょっとひねた発想だと非難されるかもしれませんが、もしかすると、これは夫ジョンの妻アイリスに対する「ある種の復讐」だったのかもしれないと・・・・・

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