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2011年10月24日 (月)

一命

★★★☆

 1962年に製作された小林正樹監督の『切腹』のリメイク版である。その『切腹』はかなり古い映画になってしまったので、若い人達には馴染みがないかもしれない。どちらかと言えば、海老蔵の復帰作ということに、話題が集中しているようである。
 だが『切腹』は歴代時代劇べストスリーといっても良いほどの名作である。だからどうしても、この作品との比較をしてみたくなってしまうのだ。

Ichimei
 大きな話の流れはほとんど同じ。貧乏にあえぎ病を患う妻子を、医者に診てもらう金もない浪人千々岩求女が、やむなく井伊家に「狂言切腹」を申し出る。井伊家ではこれが「狂言切腹」と知りつつ、無理やり彼を切腹させてしまう。

 後日この事実を知った義父の津雲半四郎が、単身井伊屋敷に乗り込み、回想を交えながら、家老の斎藤勘解由とわたり合う。といった筋書きであり、形骸化した武士道に振り回される武士たちを風刺した時代劇である

 さてキャストのほうは本作が津雲半四郎に市川海老蔵、その娘美穂に満島ひかり、娘婿の千々岩求女に瑛太、家老の斎藤勘解由に役所広司といった面々。
 『切腹』のほうは津雲半四郎に仲代達矢、その娘美穂に岩下志麻、娘婿の千々岩求女に石浜朗、家老の斎藤勘解由に三國連太郎といったところ。

 まず主役の津雲半四郎役について、セリフ回わしでは、海老蔵もなかなか頑張っていた。だが、仲代の演じた半四郎の表情や、なにげない仕草の中には、心に秘めた怒り・憎悪・悲しみが、にじみ出ていたのである。
 さすがに海老蔵も、この奥深い演技力には及ばなかったようである。これはもう、苦労人と裕福なボンボンの違いとしか言いようがない。

 また家老の斎藤勘解由役については、決して役所広司が下手だということではなく、どうしても彼の人の良さのようたものが拭いきれないのだ。少なくともこの役は、あの怪人三國連太郎には全く歯がたたなかった。
 ただ千々岩求女役だけは、石浜朗よりも本作の瑛太のほうに軍配をあげたい。ことに、あの竹光での切腹シーンは凄まじかったよね。

 それからセットとか映像美については、さすがに技術の進化や製作費の関係で本作のほうが優れていると思う。だが『切腹』のモノクロ画面というのも、なかなか味があって捨て難いものである。

 最後にチャンバラシーンに関しては、『切腹』のほうに大軍配をあげたい。まず敵の三人をまとめて退治した本作は、なんだかいやにあっけない。『切腹』では三人と別々に対決し、ことに達人・彦九郎(丹波哲郎)との荒野での必死の対決がみものであった。このシーンでは、なんと本物の真剣を使ったという。まさに命がけの撮影である。

 さらにラストの殺陣も、本作ではあえて新発想として竹光で行っているが、やはり『切腹』のように真剣でなくては、迫力が出てこないのだ。
 なかなかうるさいことを書き連ねてしまったが、やはり総合的にみても、本作は『切腹』には遠く及ばなかった。だが決して出来が悪いわけではない。ただ余りにも『切腹』が偉大な作品だったのだと言えよう。

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映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

クマネズミさん コメントありがとうございます。
クマネズミさんの丁寧なブログ記事を読めば、この映画の隅々まで良く分かりますね。
三池監督は本作を『切腹』のリメイクではないと言っています。彼が自分の主張を通したい気持ちは分かりますが、その主張にも余り共鳴出来ませんでした。映画は大衆文化であり、監督の私物ではないと言うことを言いたいです。
まあ、出来上がりはそこそこ良い映画でした。本ブログ記事にも書きましたが、なにせ『切腹』が凄すぎただけであります。

投稿: ケント | 2011年11月 2日 (水) 11時56分

お早うございます。
はじめてコメントさせていただきます。
そのDVDを簡単にレンタルできるにもかかわらず、「ケント」さんのように、本作と『切腹』とを比較しているブログの数は余り多くはありません。
あるいは、本作について三池監督が、『切腹』のリメイク版ではなく原作の再映画化だと強調しているせいなのかもしれません。
ただ、ケントさんがおっしゃるように、「大きな話の流れはほとんど同じ」ですから、リメイク版ではないということが何処まで実現されているかは、見る者によって判断が様々となるでしょう。
そして、山場となる「ラストの殺陣」は、ケントさんがおっしゃるように、「やはり『切腹』のように真剣でなくては、迫力が出てこない」のは明らかで、そうしてみると『切腹』の方がズット面白いのは間違いないでしょう。
ただ、この映画を、『切腹』のようには復讐譚としないというところから、例えば斎藤勘解由の性格付けをかなり替えたり(役所広司の雰囲気に適合していると思われます。剰え、足が酷く不自由な姿に描かれています)、「ラストの殺陣」でも津雲が竹光を使うようにしていると思われます。
また、『切腹』では、仲代達矢と「達人・彦九郎(丹波哲郎)との荒野での必死の対決がみもの」でしたが、本作では極く簡単に描かれるだけとなっています〔何しろ、本作の彦九郎は、上手く介錯が出来ない程度の武士に描かれているのですから!〕。
こうやって、三池監督らの制作陣が『切腹』をなんとか乗り越えようと様々な工夫を凝らして、しているわけで、それが上々の首尾をもたらしたかどうかはともかく、そうした気構えくらいは評価してあげても良いのでは、と思ったところです。

投稿: クマネズミ | 2011年11月 1日 (火) 06時34分

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