武士の家計簿
★★★★
幕末の加賀藩で、刃ではなく「そろばんと筆」で戦う武士の物語である。主演が堺雅人ということで、かなりコミカルなお話かと思っていたのだが、これが意外と深刻なドラマだったのだ。
御算用者とは藩の帳簿を記録する武士で、どちらかと言えば下級武士が多いという。現在ならさしずめ会社の経理部といったところであろう。
彼等は一般的に、ただパチパチとそろばんをはじき、黙々と帳簿を記録しているだけの存在であったようである。堺雅人扮するところの猪山直之は、六歳のころから難しい鶴亀算を解き、御算用者としても抜群の才覚を発揮していた。
さらには言われるままに計算と記録をするだけでは飽き足らず、奉行たちの不正を指摘したため、能登に転勤を言い渡たされてしまう。ところが上司たちの不正が明るみに出て、直之はいきなり藩主の目に止まって出世をすることになる。
だが武士とは、身分が高くなればなるほど、見栄を張らねばならず、出費も増えるという構造的な問題があった。そのため猪山家には、父母が作った借金が山程残っていたのである。
直之は渋る父母を説得し、自からも武士の面子を捨て、猪山家の借金返済に本格的に取り組むことにした。いわば不用資産の売却と経費削減を行うのである。また同じく財政に苦しむ加賀藩の経費削減にも尽力するのだ。現代流に言えば、彼はかなり有能な経理マンだったのである。
ただ余りにも仕事に没頭し過ぎて、父親の通夜にさえ自室に閉じ込もってそろばんをはじく姿は、ちょっとやり過ぎではないか。またたった四文のために、嫡男に怪我をさせたり、夜中の河川敷や雨中に放り出すのはいかがなものか。
直之のこれらの行動は、たぶん現代の若者たちには理解されないだろう。だが昔の父親というものは、皆それ以上に厳しかったのも事実である。実は長男だった私も、子供のときに父によく叱られ殴られたものだ…。一瞬、直之の姿が亡父の姿と重ってしまい、あとは次から次へと涙が落ちてくるではないか。
主人公の猪山直之は実在した人物だが、脚本のセンスが素晴らしいし、時代考証もなかなかしっかりしている。また幕末という武士にとっては厳しい時代背景。そして単なる倹約ではなく、工夫を凝らした倹約や、必要ならば小さな贅沢は残しておくなど、不透明な現代社会にも通ずる生きざまが面白いのだ。
若い人には理解出来ない感性かもしれない。だが少なくとも、中年以上の方には是非お勧めしたい一本である。
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受信: 2010年12月19日 (日) 08時47分
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ユナイテッドシネマとしまえん 武士の家計簿 日本映画 座席位置:前方中央 監督:森田芳光 脚本:柏田道夫 出演:堺雅人 仲間由紀恵他 撮影:沖村志宏 美術:近藤成之 音楽:大島ミチル 公式サイト http://www.bushikake.jp/top.html 好感度点数=☆☆☆★★ 武士の家計簿... [続きを読む]
受信: 2010年12月21日 (火) 22時40分
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『わたし出すわ』の森田芳光監督の作品であり、また原作本を出版直後に読んだことがあり、その内容はす... [続きを読む]
受信: 2010年12月24日 (金) 18時43分
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堺雅人・仲間由紀恵さん主演。
体面を重んじる武士社会だからこそ、苦しい家計でも、それを繕うために借金を重ねてしまうという矛盾…それを無駄を省くことで家計の立て直しを図る、兎にも角にも色んな倹約術のおかげで一大事は免れるも、もっと奇抜な倹約術がでてくるのかと思っていた分、すこしがっかりもしました。
実在する家計簿から作られた作品なので、それほど起伏に富んだ出来事は起こらず、淡々とした作品になっています。全体的に地味かな。
堺雅人さんが、算盤ひと筋で堅い信念をもち、シビアで、とても良かったよう... [続きを読む]
受信: 2011年6月16日 (木) 09時52分
» 武士の家計簿 [食はすべての源なり。]
武士の家計簿
★★★★★(★満点!)
幕末から明治――。
これは、実在する家計簿から生まれた、 ある家族の物語。
刀ではなく、そろばんで、家族を守った侍がいた 。
貧しいときも、豊かな愛を注ぎつづけた妻がいた。
よかったです。
映画館に見に行こうかと思ってたけど、地味な話だしと思ってDVD鑑賞になってしまいました。
原作を読んだ人からは、「よくあの本を映画にしたよな」っていうぐらい、キャラクター設定とかエピソードはフィクションかもしれないけれど、心温まる作品。貧しくても武士の誇りを忘れず、お... [続きを読む]
受信: 2011年7月 5日 (火) 13時33分
» 別館の予備(武士の家計簿 感想227作目) [スポーツ瓦版]
6月17日 武士の家計簿(感想227作目)
アメブロが5月15日よりTB廃止する事が発表されましたので
5月15日以降に更新した記事では当ブログでTBを受付ます
当ブログに ... [続きを読む]
受信: 2012年6月17日 (日) 14時39分
» 武士の家計簿 : これぞ、ホームドラマ (`・ω・´)キリッ [こんな映画観たよ!-あらすじと感想-]
バレンタインデーいかがお過ごしでしょうか。今日は、昨日に続き時代劇を紹介します。
【題名】
武士の家計簿
【製作年】
2010年
【製作国】
日本
【鑑賞手段】
DVD
【 [続きを読む]
受信: 2012年11月26日 (月) 21時12分
コメント
パピママさんこんにちは
ホントに最近は時間の経過が早く感じます。
どうか良いお年をお迎えください。
投稿: ケント | 2010年12月18日 (土) 12時54分
KLYさんこんにちは
仰る通り、たまたま幕末ですが、現代人に対するメッセージでもありますね。
「いやじゃいやじゃ」ですか「鯛じゃ鯛じゃ」もよかったですよ。(笑)
投稿: ケント | 2010年12月18日 (土) 12時52分
ご無沙汰です。
コメントありがとうございました。
ちょんまげをつけていようが、スーツを着ていようが、中身は同じく生活に追われる人間です。
猪山家の皆さんには、いろいろなことを現代の私したちに教えてくれましたね。
今年も残すところ半月です。
年をとると、1年はあっという間に過ぎ去って行くような気がします。
来年はうさぎ年、ぴょんぴょん飛び跳ねないように亀さんになって、ゆっくり年を越したいな~ぁ、なんて思ってます。
投稿: パピのママ | 2010年12月15日 (水) 17時13分
たまたま幕末でしたが、今にも通じる日本の古きよき家族の物語でした。
弁当箱が無くなって、貸すといわれても、毅然として我が道をいけるあの姿勢が武士ならではだなぁって思いましたよ。現代に通じる内容だけに、それを武士であったらどうするのかみたいな。
それにしても松坂慶子さんの「いやじゃいやじゃ~」は必殺シリーズの中村家を思い出して面白かったです。(笑)
投稿: KLY | 2010年12月13日 (月) 23時26分