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2010年7月31日 (土)

雨月物語

★★★★☆

 さすが巨匠・溝口健二監督の代表作である。始めから終わりまで、ずっと気を抜くこともなく、あっという間に鑑賞してしまった。
 そして57年前の映画だというのに、モノクロの映像にも、ストーリー展開にも全く古さを感じない。黒澤明監督のモノクロ作品と、どこか相い通じる感性が漂っている。

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 原作は上田秋成の「浅茅ヶ宿」と「蛇性の婬」だが、怪奇的なシーンは京マチ子とのからみの部分にほぼ限定されていた。どちらかといえば、戦国時代の農民たちの悲哀と葛藤を、現代社会のプロレタリズムと混合し、社会派ヒューマン作品というタッチで描かれている。
 また本作に登場する三人の女性が、なかなか個性的である。怪しい「京マチ子」、たくましい「水戸光子」、そして貞淑な「田中絹代」である。それにしてもそれぞれがハマリ役で、三人とも甲乙をつけ難い。私が彼女たちを知ったときは、すでに三人ともおばあちゃんであったが、さすがに若い時はみな美しく魅力的である。
 男性のほうは、森雅之と小沢栄太郎扮する兄弟二人が主役であるが、それぞれ形は違っても已の欲望で、現実が見えなくなっている。どちらも情けない男で、金儲けと立身出世ばかり夢見ている。だがそれは、それぞれ妻を愛しているがゆえの欲望であった。
 一方妻たちのほうは、危険を犯して金や出世を得るより、平穏な生活を望んでいるのだが、男たちにはその切実な願いが聞こえない。そして皮肉な結末を迎えることになるのだった。時代背景こそ戦国時代であるが、現代風の感性に置き換え、男性二人と女性三人の葛藤と怨念を見事に演出している。まさに名作といえよう。
 

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