たんぽぽ娘
1962年にロバート・F・ヤングが発表したラブファンタジー作品。ロマンチックSF短編の旗手である梶尾真治が影響を受けた作品だという。だからファンタジーSFファンには堪らない魅力を持つ短編なのだ。
ところが残念なことに絶版で手に入り難い。こうなると益々欲しくなるのがファン心理なのである。それでアマゾンマーケットプレイスで探したら、『たんぽぽ娘ー海外ロマンチックSF傑作選2』が、何と中古品で15,000円也!
さすがの私も15,000円払うほどオタクではない。そもそも短編なので、ほかのタイトルで収録されている書籍があるはずである。そう考えて調べたところ、文春文庫の『奇妙なはなし』というタイトルの中に、『たんぽぽ娘』が収録されているではないか!。
ところがこちらも絶版で、やはりアマゾンで中古品が2,600円~8,500円とある。みんな良く知っているのだ。それで地元の図書館の蔵書をネットで検索したら、あったあった!やっと見付けて貸出予約をすることが出来たのである。
てなわけで、やっと手にした『たんぽぽ娘』は、期待にたがわず、実に素晴らしい「珠玉の名作」であった。そしてストーリーは判り易く、ポエムのように美しく流れて、あっという間に読了してしまった。
主人公は法律事務所を経営するマークという44歳の男性である。彼は毎年四週間の夏休みのうち、前半の二週間は、妻と息子が選ぶ避暑地で親子水入らずで過ごし、後半の二週間は、湖のほとりにある山小屋で妻のアンと二人で過ごす習慣になっていた。
ところが今年は、アンに陪審員の役が回ってきたため、マークは一人ぽっちで、山小屋で過ごさなくてならない。だがそのお陰で彼は不思議な体験をすることになる。
それは彼が、湖の先にある森を抜けたところにある丘を散策しているときに起った。そこには古風な白いドレスを身につけ、たんぽぽ色の長い髪を風になびかせている若い女が佇んでいたのだ。
彼女の名前はジュリーといい、未来からタイムマシンに乗ってやってきたという…。その日から、マークとジュリーは毎日のように丘の上で逢う。そしてマークは年がいもなく、彼女に淡い恋心を抱き始めるのだった。
ここまで書けば、だいたいの成り行きがわかるだろう。決して不倫小説ではないので念のため。本作は恥しくなるほど純情で優しい、リリカルなラブファンタジーなのだから。
そして忙しい現代では、いつの間にか忘れ去ってしまった清らかな心を蘇らせてくれる。さらに感動のラストシーンは、タイムトラべルによる循環の輪によって、実に見事に収束されているではないか。
かなり古い本ではあるが、それこそ時代を超えた珠玉の名作といえよう。さらに付け加えると、この『奇妙なはなし』には、本作のほか福島正美『過去への電話』、つげ義春『猫町紀行』、江戸川乱歩『防空壕』、谷崎潤一郎『人面疸』など、そうそうたる19作の短編が収められている。なぜこんな凄い短編集が絶版なのか、つくづく不思議でならない。
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