アイガー北壁
★★★★
この作品は、ナチス政権下1936年に実際に起こった、山岳史上最大の悲劇を映画化したものである。舞台の中心は、当時前人未到のアルプスの名峰アイガーだ。ことにこの山の北壁は、高さ1800mの岩壁で、ウォーカーバットレス北壁、マッターホルン北壁とともに世界三大北壁と呼ばれている。
ドイツ国家の期待を背負って登頂に挑むクライマーは、トニーとアンディ。そして同時にオーストリアのエディー・ライナーとヴィリー・アンゲラーも競って同じルートを登攀し始める。結局このことが、運命の分かれ道となってしまうのだ。
落石と激しい吹雪の中を命がけで岩壁をよじ登る四人の男達。麓の豪華なホテルの暖かい暖炉の前で、ワインを飲みながら彼等の成否を待つ観光客と記者。この皮肉めいたコントラストが非常に印象的であった。また二次遭難を恐れて救助を躊躇する山男達。生死を彷徨うトニーを気遣ううちに、二人の思いが友情ではなく、恋であることに初めて気付く幼馴染のルイーゼ。そして彼女は、記者として高見の見物をすることに耐え切れず、ペンとカメラを捨てて生身の人間に変身してゆくのだ。
雄大なアルプスの景色は実に美しく、命がけの登山に挑む男達の意気込みが、ヒシヒシと伝わってくる。しかしあの岩壁登攀シーンは、どうやって撮影したのだろうか。昨年上映された邦画『劔岳 点の記』の登攀実写もかなり厳しかった伝えられたが、このアイガー北壁』は、それどころではない。まさに命がけの撮影だったのではあるまいか。
トニー生還まであと3メートルのクライマックスシーンがまた感動的だ。もしあそこで彼が助かってしまったら、アイガー北壁に対する恐怖は薄められてしまったし、単なるエンタメ映画に成り下がっていただろう。あの苦悶の表情と悔しい結末があってこそ、この映画が真の登山映画になり得たのだと確信する。
男の映画ということもあり、男性キャストは全員がハマリ役で生き生きしていた。一方紅一点ともいえるルイーゼ役のヨハンナ・ヴォカレクは、前半は冴えない顔付きをした女優に見えたのだが、ドラマの展開に伴い次第に顔が引き締まり、終盤は美しい女性に変身してしまったと感じたのは私だけだろうか。
それにしても、登山とは恐ろしいものだ。ちょっとしたことが運命を左右する。もし天候さえ良ければ、もしライバルが怪我をしなければ、もし彼等を見捨てて登り続けていれば、もしザイルを外していなければ、もしアイゼンを持っていれば・・・。
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この記事へのトラックバック一覧です: アイガー北壁:
» 『アイガー北壁』(2008)/ドイツ・オーストリア・スイス [NiceOne!!]
原題:NORDWAND監督・脚本:フィリップ・シュテルツェル出演:ベンノ・フュルマン、フロリアン・ルーカス、ヨハンナ・ヴォカレク、ウルリッヒ・トゥクール、ジーモン・シュヴァルツ、ゲオルク・フリードリヒ試写会場 : よみうりホール映画『アイガー北壁』公式HPはこち...... [続きを読む]
受信: 2010年3月27日 (土) 19時50分
» アイガー北壁 / Nordwand [勝手に映画評]
事実に基づく映画です。
1936年夏。ドイツは既にナチス施政下で、ベルリンオリンピック直前の時期。ドイツの優位性を示すため、ナチスはドイツ人によるアイガー北壁の初登頂を望んでいた。これは、それに際して発生した、登山家達の悲劇。ドイツ=オーストリア=スイス合作。全編、ドイツ語です。ネタバレ有りです。
結構衝撃でした。どの辺りが衝撃で有ったかと言うと、その結末。この手の映画って、過酷な運命に晒されながらも、最後は上手く行きましたって言う感じの話が多いのですが、そうでは有りません。いやぁ、特にトニーの... [続きを読む]
受信: 2010年3月27日 (土) 21時58分
» アイガー北壁 [LOVE Cinemas 調布]
前人未到のアルプスの難所・アイガー北壁の初登頂に挑む若き2人のクライマーたちの壮絶な運命を描き出した実話ベースの山岳ドラマだ。出演は『スピード・レーサー』のベンノ・フュルマンと『グッバイ、レーニン!』のフロリアン・ルーカス、『バーダー・マインホフ 理想の果てに』のヨハンナ・ヴォカレクドイツの人気俳優。監督は本作が長編二作目となるフィリップ・シュテルツェル。... [続きを読む]
受信: 2010年3月27日 (土) 23時13分
» 映画「アイガー北壁」@よみうりホール [masalaの辛口映画館]
試写会の主権はテレビ朝日さんとアウトドアブランドのモンベルさんだ。映画上映前にモンベル会長・辰野勇氏と久保田直子アナが、アイガーに関する冬山登山のトークショーが行われた。客入りは7割くらい。 映画の話 ベルリン五輪開幕直前の1936年夏、ナチス政権は国...... [続きを読む]
受信: 2010年3月28日 (日) 00時00分
» 「アイガー北壁」 [みんなシネマいいのに!]
昔、知人を山の遭難で亡くした。 死体は見つかっていない。 おそらく、今も永遠に [続きを読む]
受信: 2010年3月28日 (日) 10時49分
» アイガー北壁 [象のロケット]
1936年、ドイツ・ナチス政権は、アルプスの名峰アイガー北壁を初めて征服した者にベルリン五輪で金メダルを授与することを決定する。 山岳猟兵のトニー・クルツとアンディ・ヒンターシュトイサーは、除隊して北壁に挑戦することを決意。 2人の幼なじみでベルリン新聞社のアシスタントをしているルイーゼは、上司と共に取材に向かっていた…。 実話に基づく山岳物語。... [続きを読む]
受信: 2010年3月28日 (日) 13時59分
» アイガー北壁(2008) NORDWAND [銅版画制作の日々]
生きて、還るーーー
久々のドイツ映画は、壮大なスケール作品でした。自然を相手にどこまで闘えるのかしら?なんて思ったけど。。。やっぱり自然ほど怖いものはない、と改めてまた痛感しましたよ(汗)伝説の登山家トニー・クルツの死闘は、こんなに凄かったんだと衝撃を受けましたわ。その昔、登山をやっていました。とはいっても岩壁と万年雪の山への登山経験はありません。クライミングも少し体験したことがあります(笑)それも一日の挑戦でリタイアしたもので。。。。お恥ずかしい話です。あ!そうそう冬山の経験もちょこ... [続きを読む]
受信: 2010年4月17日 (土) 22時04分
» ■『アイガー北壁』■ [〜青いそよ風が吹く街角〜]
2008年:ドイツ=オーストリア=スイス合作映画、フィリップ・シュテルツェル監督&脚本、ベンノ・フュルマン、フロリアン・ルーカス、ヨハンナ・ヴォカレク、ウルリッヒ・トゥクール、ジーモン・シュヴァルツ、ゲオルク・フリードリヒ出演。... [続きを読む]
受信: 2010年4月18日 (日) 20時49分
» アイガー北壁 [映画的・絵画的・音楽的]
『アイガー北壁』を、ヒューマントラストシネマ有楽町で見てきました。単なる山岳映画ではないということを耳にしたので映画館に行ってみた次第です。
(1)この映画は、第2次世界大戦直前に、アイガー北壁を登頂しようと試みた男たちの物語です。
とりわけ、登頂の最中の迫真的な映像は、山岳映画として素晴らしい出来栄えだと思いました。
比較するとしたら昨年大きな話題を呼んだ『劔岳 点の記』でしょう。
その映画では、陸軍測量部と民間人パーティとが初登頂を競いましたし、本作品では、ドイツ隊とオーストリア隊とが... [続きを読む]
受信: 2010年4月29日 (木) 06時09分
» 映画「アイガー北壁 」そこに山があるからって簡単には言えない [soramove]
「アイガー北壁 」★★★☆WOWOW鑑賞
ベンノ・フュルマン、ヨハンナ・ヴォカレク、
フロリアン・ルーカス、ウルリッヒ・トゥクール出演
フィリップ・シュテルツェル監督
127分、2010年3月20日公開,
2008,ドイツ、オーストリア、スイス,ティ・ジョイ
(原作:原題:NORDWAND)
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「間違えて録画していたものを
冒頭だけどんなか見... [続きを読む]
受信: 2011年7月29日 (金) 20時29分
コメント
亮さんこんにちは、コメントありがとう
観てきたんですね。
かなり満足されたようですが、「ハート・ロッカー」には及ばなかったとのこと。
ハート・ロッカー」まだ観ていませんが、DVDで観てみる価値はありそうですね。
投稿: ケント | 2010年4月18日 (日) 21時11分
やっと観てきました。
すごい映画でしたね。
あの映像を見せられたら・・・
緊張と迫力で、心が押しつぶされそうになりましたよ。
すごい映画でした。
投稿: 亮 | 2010年4月18日 (日) 19時40分
KLYさんこんにちは
そうミスと運ですね。
アイゼンなしで登ったのは解せないですよね。
ベンノ・フユルマンは、なかなか渋味もあって良かったと思います。
『ミュータント・クロニクルズ』ですか、なんとなく面白そうですね。でも彼は主役じゃないのですね。
投稿: ケント | 2010年3月28日 (日) 18時15分
そうなんですよね。いくつかのif、小さな小さなミスが重なってそれがまさに雪だるま式に大事になっていく。私はとにかく何が嫌いって山登りほど嫌いなものは無いんですが、(爆)アイゼンなしで登るなんてあるんですねぇ。
このトニー役ベンノ・フユルマンのめっちゃ好演を見て1週間後、超B級映画『ミュータント・クロニクルズ』で彼はミュータントと戦う軍人でした。(笑)
投稿: KLY | 2010年3月27日 (土) 23時16分