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2009年10月21日 (水)

パンドラの匣

★★★★

 太宰治の作品は、高校時代に貪るようにして読み漁ったのだが、この作品のタイトルは記憶に残っていなかった。サナトリウムの患者と看護婦の恋物語で、太宰の作品の中ではポジティブな作品かもしれない。
 とにかくオープニングの昭和天皇敗戦宣言のあと、最初から最後まで山奥のサナトリウムだけの狭い舞台が続く。前半はやや退屈なのだが、少しずつ少しずつ太宰の感性が僕の心に染み込んで来るのだ。

          Pandora

 後半になるに従って、もしかすると、大昔にこの作品を読んだような気がしてきたが、確信するには至っていない。サナトリウムという舞台背景、時々一人淋しく死んでゆく患者たち…。
 本来暗く重い気分になるはずなのだが、どこかお茶目でポップな香りがする。そこが太宰の魅力であり、本作もなかなか味わい深かい映画に仕上がっていた。
 まず患者と看護婦のあだ名が楽しい。患者側は、つくし・ひばり・越後獅子・かっぽれ・固パン、看護婦側は竹さん、マア坊、孔雀など。また彼らの挨拶も面白い「やっとるか」、やっとるぞ」、がんばれよ、「ようしきた」というパターンなのだ。
 また登場人物も個性的で、「一目惚れ」、「憧れ」、「ひいき」、「可愛い」、「好感」、「尊敬」などなど微妙な心の綾や、人物間の相関関係も楽しめる。また『乳と卵』で芥川賞を受賞した川上未映子の演技もみものだったが、無難にヒロイン「竹さん」を演じていたのは立派だったね。
 太宰治生誕100年ということで、とにかくここのところ太宰作品の映画化ラッシュが続いている。本作のほかには『斜陽』、『ヴィヨンの妻』、『人間失格』と続くからね。 
 余り期待していなかったのだが、そこはかとなく太宰の世界を再現した演出は見事だし、音楽の使い方もなかなか絶妙であった。太宰ファンなら、観て損のない一本といえよう。

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コメント

ほんやら堂さん、コメントありがとうございました。太宰治が本格的に流行ったのは、かれこれ70年以上前ですからね。今なぜブーム再燃なのか良く分からないですね。
不況で世の中の暗いムードが似ているといっても、時代背景は全く異なりますからねぇ・・・
SF全般も嫌いではありませんが、とくに「タイムトラベルもの」が大好きです。

投稿: ケント | 2009年11月 2日 (月) 20時33分

ケント様
TB有り難うございました.
対応が遅くなって申し訳ありません.
太宰作品は小説も含め案内が暗く,この作品が太宰の中では明るい作品だと聞かされても,へーそーと言うのがやっとです.
またいろいろとお教えいただければ嬉しいです.
SFもお好きなのですね.ブラッドベリとかは如何ですか?

投稿: ほんやら堂 | 2009年11月 1日 (日) 22時46分

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» パンドラの匣 [LOVE Cinemas 調布]
太宰治の生誕100周年で公開される作品群の1つ。同じ太宰原作の『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ』と同日公開。主演は『フレフレ少女』の染谷将太。共演に『乳と卵』で芥川賞を受賞した作家の川上未映子が出演して話題を呼んでいる。他に仲里依紗、窪塚洋介といった全体としては若い俳優が多く出演。監督・脚本は『パビリオン山椒魚』の冨永昌敬。... [続きを読む]

受信: 2009年10月21日 (水) 22時41分

» 独断的映画感想文:パンドラの匣 [なんか飲みたい]
日記:2009年10月某日 映画「パンドラの匣」を見る. 2009年.監督:冨永昌敬. 出演:染谷将太(ひばり),川上未映子(竹さん),仲里依紗(マア坊),窪塚洋介(つくし),ふかわりょう(固パン),... [続きを読む]

受信: 2009年11月 1日 (日) 22時40分

» 【映画】パンドラの匣(はこ) [しづのをだまき]
2009 日本 原作 太宰治 [続きを読む]

受信: 2010年11月11日 (木) 18時29分

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