パンドラの匣
★★★★
太宰治の作品は、高校時代に貪るようにして読み漁ったのだが、この作品のタイトルは記憶に残っていなかった。サナトリウムの患者と看護婦の恋物語で、太宰の作品の中ではポジティブな作品かもしれない。
とにかくオープニングの昭和天皇敗戦宣言のあと、最初から最後まで山奥のサナトリウムだけの狭い舞台が続く。前半はやや退屈なのだが、少しずつ少しずつ太宰の感性が僕の心に染み込んで来るのだ。
後半になるに従って、もしかすると、大昔にこの作品を読んだような気がしてきたが、確信するには至っていない。サナトリウムという舞台背景、時々一人淋しく死んでゆく患者たち…。
本来暗く重い気分になるはずなのだが、どこかお茶目でポップな香りがする。そこが太宰の魅力であり、本作もなかなか味わい深かい映画に仕上がっていた。
まず患者と看護婦のあだ名が楽しい。患者側は、つくし・ひばり・越後獅子・かっぽれ・固パン、看護婦側は竹さん、マア坊、孔雀など。また彼らの挨拶も面白い「やっとるか」、「やっとるぞ」、「がんばれよ」、「ようしきた」というパターンなのだ。
また登場人物も個性的で、「一目惚れ」、「憧れ」、「ひいき」、「可愛い」、「好感」、「尊敬」などなど微妙な心の綾や、人物間の相関関係も楽しめる。また『乳と卵』で芥川賞を受賞した川上未映子の演技もみものだったが、無難にヒロイン「竹さん」を演じていたのは立派だったね。
太宰治生誕100年ということで、とにかくここのところ太宰作品の映画化ラッシュが続いている。本作のほかには『斜陽』、『ヴィヨンの妻』、『人間失格』と続くからね。
余り期待していなかったのだが、そこはかとなく太宰の世界を再現した演出は見事だし、音楽の使い方もなかなか絶妙であった。太宰ファンなら、観て損のない一本といえよう。
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コメント
ほんやら堂さん、コメントありがとうございました。太宰治が本格的に流行ったのは、かれこれ70年以上前ですからね。今なぜブーム再燃なのか良く分からないですね。
不況で世の中の暗いムードが似ているといっても、時代背景は全く異なりますからねぇ・・・
SF全般も嫌いではありませんが、とくに「タイムトラベルもの」が大好きです。
投稿: ケント | 2009年11月 2日 (月) 20時33分
ケント様
TB有り難うございました.
対応が遅くなって申し訳ありません.
太宰作品は小説も含め案内が暗く,この作品が太宰の中では明るい作品だと聞かされても,へーそーと言うのがやっとです.
またいろいろとお教えいただければ嬉しいです.
SFもお好きなのですね.ブラッドベリとかは如何ですか?
投稿: ほんやら堂 | 2009年11月 1日 (日) 22時46分