「ネタバレのオンパレードにつきご注意ください!」
二年前から死ぬほど期待して、じっと恋焦がれて待ち続けた実写版『カムイ外伝』。松竹が熱意を持って宣伝活動を行ったためか、いまのところ興行的にはまずまずのようであります。ところが、ネットでの評判がすこぶる良くない。ことに若い人達が投稿する掲示板などで、そのような傾向が目立ちます。
私にとって「白土三平とカムイ」は青春そのものであり、たとえ原作ではなく映画といえども、このような感情的で一方的な酷評は許しがたいし、私自身の全人格を否定されているようでやるせなく悲しくてたまりません。この映画に対する私自身の評価も★3.5と、それほど高いものではありませんが、前述したネットでの酷評者の評価は★1で、そのコメントにもただならぬ気配が感じられます。
さてここで私自身が熱くなっては、ミイラとりがミイラになってしまう。もう少し冷静になって、原作の解説を交えながら、具体的に酷評コメントの分析をしてゆきたいと思います。
● まず原作を読んだことがないのに、クドカンの脚本が悪いと勝手に決め付けている人に
ストーリーが判り難く話が急に飛ぶのは、白土三平の作風でありクドカンだけの責任ではないことをまず理解してください。半兵衛が領主の馬の足を斬ったのも、突然渡り衆が現れたのも、不動が仲間の渡り衆をまとめて殺害したのも、ラストで不動の両手が吹っ飛ぶのも全て原作通りなのです。
もちろんクドカンの脚本ミスもあります。その理由としては、まず島民全員が毒殺されていたこと。これはちょっと不自然ですね。半兵衛の家の水かめに毒を入れたのに、なぜ島民全員が一斉に他人の家の水を飲んで死んだのか、と突っ込まれてしまいます。
原作では半兵衛一家だけが全員殺害されています。これは、米の炊き出しに「かめの水」が使われることを知っている不動が、油断したスガルとカムイを殺害する目的で使った非道な術なのです。そのため、家族全員が巻添いを食って毒殺されるはめになってしまいましたね。
この暗殺手法は同じく白土三平の『忍者武芸帳』で、最強忍者集団である影一族の大半が、蛍火という女忍者一人に一瞬のうちに殺害された手法と同じであります。このような無差別殺害を狙った方法は、毒ガスや細菌兵器同様、仕掛けるほうは無傷で済みますが、これ以上最悪最凶で非人道的な殺人手法はありません。ですから、カムイはこのような悪質な術を施した不動を心底憎み、不動の両手を切断したあとにも、生きたままサメに食わせるという、異常な復讐を成し遂げています。もちろんサメに食わせるシーンは残酷過ぎて、実写で上映することは出来なかったのですが、カムイの憎悪と悲しみの葛藤については、クドカンの脚本では描き切れなかったようですね。
それから、あくまでも外伝なのですから、アクションや主な登場人物の個性や感情などをもっと掘り下げて描いて欲しかった・・・という要求が多数ありました。これは私も同感で、いきなりカムイと敵との戦いを挿入するのではなく、まず敵の怖さや強さを誇示するシーンを創ってからカムイ戦に望むというパターンが白土三平の常套手段であります。そのほうがカムイ戦における期待度と興奮が高まるはず。
またカムイとスガルの関係が希薄だったし、彼ら追われる者たちの心理状態も観る側に伝わってきません。裏を返せば、抜忍を追う忍者達の必然性と、その心理状況なども全く説明されていないところに問題があります。
結局のところ、在日だった崔監督は、本当は差別を描いた本伝の『カムイ伝』のほうを創りたかったのだと思いました。しかし膨大でスケールの大きすぎる『カムイ伝』をいきなり創るのは、現実問題として実現不可能と判断し、とりあえず様子見というか試作品として『カムイ外伝』のほうを選択したのではないでしょうか。ところが『カムイ伝』を知らない人達は、『カムイ外伝』のほうが理解し辛いという矛盾のトラップにはまり込んでしまったのです。
もともと『カムイ外伝』は、マイナーな青年誌『ガロ』において、カムイ伝が大人気を博したため、メジャー出版社である小学館がこれに目を付け、カムイと彼に群がる忍者達との秘術合戦を中心とした一話完結の短編ものとして『カムイ外伝』を少年サンデーに連載したわけです。従って読者の対象は少年であり、忍法の面白さを爽快にスピード感溢れるストーリーで構成されていました。
具体的には、第1話の「雀落し」から第20話の「憑移し」までの20話をいい、これが『カムイ外伝第一部』といわれる作品群となります。これでおしまいならまだ判り易いのですが、このあと発表場所を『ビックコミック』に移し、内容も人間性と心情を中心とした「中編社会派ドラマ」として成人向けに大改装したのです。これが本作の『スガルの島』を含む全18話となり、『カムイ外伝第二部』と呼ばれている作品群なのです。
というわけで、その構成と内容から絵柄までがらりと変わってしまったのであります。従って『カムイ外伝』と一口で簡単にくくる事もできないのです。また当時『カムイ外伝』を読んでいる人達のほとんどは、『カムイ伝』も読んでいる訳であり、いちいちカムイが抜忍になった理由など説明しなくても、承知の助だったのであります。そうしたバックボーンを一切承知していない現在の若い世代に、いきなり『カムイ外伝』を理解しろというのも無理があると思いました。
● ワイヤーアクション、CGなどSFXの出来映えの悪さを必要以上に非難している人に
確かにハリウッドの最新SFXと比べると、スピード感に乏しく映像の粗さも見られます。ですが全世界を配給対象としている怪物ハリウッドと、日本だけの興行収入に頼る邦画の製作費の違いくらいは理解しましょうよ。SFXのワイヤーアクションはもともと香港発だし、CGに至っては日本人のクリエーターが中心になってハリウッドで製作しているのです。
従って日本の技術が稚拙なのではなく、ハリウッドという巨大資本に全世界の技術を買収されただけなのです。いまやSFXなどは、金さえ出せばどうにでもなるのです。少なくとも高校生くらいならこの辺りの論理は分かりそうなものだと思うのですが。
だからといって、この作品のSFXがこのままで良いと甘やかしている訳ではありません。もし次回作が製作されるのなら、もっとスピード感あふれるアクションとカムイの強さをもっと強調した戦い方にしてもらいたいと思います。またアクションシーンの長さについても、緊張感を失わない程度にもう少し長い時間配分を考えて欲しいですね。
● 総括として
私のような「白土教カムイ命」のような輩には、今回の実写映画『カムイ外伝』は、神からの授かりもののようで、諸手を挙げて雄叫びをあげるほど嬉しかったのです。またストーリーは承知の上なので、実写でのカムイやスガルの容姿、飯綱落としや変移抜刀霞斬りの映像を確認するのが目的でした。しかしながら『カムイ』も『白土三平』も知らない世代にとっては、まず「なぜ今頃カムイなの?」という素朴な疑問が湧き出ていることでしょう。これについては、前述した通り、『カムイ伝』に対する崔監督の強烈な思い入れがあったからだと考えたい。監督とほぼ同年代の者として、痛いほど監督の執着心が伝わってくるからであります。
それはそれとして、裕福で平和な日本に生まれ育った若者達に、『カムイ伝』の中核的ポリシーとなっている「身分制度と差別」について語ること自体に無理があったのです。また彼らには愛と平和と笑いが必須であり、それらの要素をことごとく排除した本作品が、そもそも受け入れられるはずもないのでしょう。ですがそれは承知の上で、どうしても映像化したかった崔監督は、若者に圧倒的な人気を博している松山ケンイチをカムイに仕立てる事で、そのリスクを回避しようと図ったわけです。
それは一方では成功したものの、超美貌でひたすら強く逞しいカムイに比べて、かなりイメージが異なってしまう結果を招いてしまいました。さらには本来「男の映画」であるべき本作品に、マツケン目当ての若い女性が乱入したため、「判らない、怖い、残酷」という罵りの嵐と化してしまったのです。原作はもっと残酷でエロいシーンが沢山あります。映画化にあたって、それらをだいぶカットしたのですが、やはり平和な世代の女性には耐えられなかったのでしょう。
また最近の若者たちの気質として、じっと辛抱する事が出来ないため、好き嫌いが激しく結論を急ぎ過ぎる傾向にあります。それでちょっと気に入らないことや理解出来ないことがあると直ちに「×××××」で、逆に好きなことや気に入ったことには、どっぷりと漬かり切って「○○○○○」だという、極端な判断を直感的に下してしまう人が増えていることも見逃せない事実であります。
もうひとつ、マンガの原作ものが実写化されると酷評されるというジンクス。しかしそれは団塊の世代が子供のころや青春時代に夢中になって読み漁った作品に多くみられます。具体的には、『キューティーハニー』、『デビルマン』、『鉄人28号』、『キャシャーン』、『どろろ』と、救いようのないほど容赦なく徹底的に叩きのめされて、累々たる屍をさらしています。これらの例を見ても、ただ人気俳優を配しただけではリスク回避には繋がらないことが分かるはずです。
さすがに崔監督といえども、そこまで最近の若者の心理状態を読み切れなかったようですね。その現代若者気質が、今回も例外なく発動されただけであり、この作品の完成度の高低とは無関係に酷評の嵐が流れる事になったのでしょう。それでも今のところ興行ランキング三位と健闘しています。思うにこの3位という評価こそ、この作品の本当の評価なのかもしれませんね。
崔監督は『カムイ外伝』をあと2作創り、そのあと『カムイ伝』を創る事が夢のようであります。それが実現すれば私も非常に嬉しいのですが、現状の酷評の中ではかなりその実現は厳しいものになりそうです。あとは「トロント国際映画祭」と「ロンドン国際映画祭」でのニンジャ評に期待するばかりです。
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