セントアンナの奇跡
★★★★
新宿高島屋12階にあるテアトルタイムズスクエアは、8月限りで閉館となる。ミニシアター系のテアトル直営映画館では、最大のスクリーンを誇り、ロケーションも含めてなかなかお洒落な存在だっただけに、非常に残念である。
ここには何度も足を運んだので、いろいろな思い出が、走馬灯のように脳裏を掛け巡る。経営の効率化による閉館だと聞いたが、かなり家賃が高いのだろうな…と余計なことを考えてしまう。とにかくここへ来るのも今日限りで、文字通り最後の観映になるのだろう。
…といった思いでこの映画館を選んだため、本作品のほうはまったく予備知識もなければ、期待もしていなかった。ところが嬉しい誤算というのか、なかなか充実した素晴らしい映画だったのである。
本作のテーマは、反戦・人種差別・言葉の壁など、重いテーマがぎっしりと詰まっている。だが、ミステリアスなイタリア少年との交流が、その重苦しさを中和して、なにげにファンタジーのような味わいもあった。
ストーリーのほうは、黒人郵便局員が、切手を買いに来た客を、いきなり拳銃で射殺するところから始まる。とにかくあっという間の出来事だった。
犯人の名はへクター、過去に軍隊で勲章をもらっている。また、郵便局での勤務ぶりも実直で、あと3カ月で無事定年を迎えるはずだった。妙なことに、犯行に使われた拳銃は、ドイツ製のルガーであり、彼の部屋からは、イタリアの歴史的に重要な「女神像」が発見されたのである。
その翌日のイタリア。この犯行記事を読んだ途端、飲みかけのカプチーノを、思わず落としてしまう男の正体も気になった。
一体、何故、どうして??。実に不可解な謎のオープニング。観客達は一遍にスクリーンの中に引き込まれてしまうのだ。
やがてへクターは、取り調べ室で、重い口を開き始める。そしてスクリーンは、1944年のイタリアへ跳び、第二次大戦の局地戦を写し出すのだ。
主人公は四人の黒人兵と謎のイタリア少年。そして舞台は、イタリア・トスカーナ地方の小さな村。タイトルのセントアンナとは、ナチスが、罪の無いイタリア市民560名を虐殺した村の名で、『セントアンナの大虐殺』として歴史に刻まれている。この虐殺シーンでは、老人・女・子供たちが、なすすべもなく射殺される。余りに残酷過ぎて目を背けたくなるはずである。
さすがにスパイクリー監督は、黒人たちの描き方が巧いね。戦闘には不向きなお人好しの大男。白人を毛嫌いし、友人をも平気で裏切るのだが、なんとなく憎めない男。アメリ力を愛し、白人を理解しようとする優しい男。寡黙だが、職務に忠実で一番冷静に行動する男。
四人の黒人達を個性的に描き分けているせいか、洋画にありがちな登場人物たちの混同は全くなかった。むしろ白人達のほうが、皆同じように見えたのは僕だけだろうか。
また黒人に対する差別シーンにおいては、手を変え品を変え手厳しく追求しているよね。ドイツ軍の白人女性によるアナウンスも面白いし、イタリア美女の誘惑にしても、他国では全く黒人を差別しないのに、なぜアメリカ人だけは極端な差別をするのだろうか。そしてイタリア人にしても、あの極悪非道のナチでさえも悪人もいれば良い奴もいる。ところがアメリカの白人だけは、黒人を差別する悪人しかいないというような強烈なメッセージが聞えるのだ。
しかしそれでもアメリカから出国しない黒人たち。いくら差別を受けても、アメリカという国には、それ以上のとてつもない魅力があるのだろうな。
終盤の法廷シーンから、あっという間に意外なラストを迎える。このラストを観て号泣してしまったが、なぜか『ショーシャンクの空に』を思い出してしまった。とにかく心に染みる感動的な締め括りなのだ。
ただ2時間43分という上映時間は、かなり長過ぎたかな…。中盤多少中だるみし、尻が痛くて何度も足を組み替えたもの。途中で休憩の入らない映画は、2時間が生理的限界点だろうな。
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製作年度 2008年
上映時間 163分 映倫 R-15
原作・脚本 ジェームズ・マクブライド
監督 スパイク・リー
出演 デレク・ルーク/マイケル・イーリー/ラズ・アロンソ/オマー・ベンソン・ミラー/ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ/ヴァレンティナ・チェルヴィ/マッテオ・スキアボルディ/ルイジ・ロ・カーショ/ジョセフ・ゴードン=レヴィット
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