ラスト、コーション
★★★★
舞台は1940年前後、日本占領下の上海で、日本軍寄り特務機関のリーダーであるイー(トニー・レオン)と、抗日運動組織の女スパイ・ワン・チアチー(タン・ウェイ)の禁断の愛を描く名作である。
そもそも普通の学生だったチアチーだが、演劇仲間のクァンに惹かれ、そして彼に感化されて次第に抗日運動に巻き込まれてゆく。クァンはイーを売国奴として憎み、暗殺の機会を狙っていた。そしてチアチーを説得し、イーの家へスパイとして送り込むのである。
まず最初に感じたのは、2006年にオランダで製作された、ヴォーホーヴェン監督の『ブラックブック』によく似ているということかな。『ブラックブック』のヒロインも、レジスタンスのスパイとして、ナチス将校に近づいてゆくのである。
ただサービス精神旺盛なヴォーホーヴェンは、第二次大戦やナチという重い背景を背負いながら、『ブラックブック』をサスペンス味のするヒューマンドラマに仕上げている。
一方、本作のアン・リー監督は、あくまでも史実とテーマに忠実で、じっくり・こってり・辛辣に語り続けるのだ。そしてこの作品の中に、幾層にも亘って皮肉を塗り込めている。そこに欧米人とは異なる東洋人の繊細さと執念深さを、しみじみと感じざるを得ないだろう。
まずスパイとしてイーの懐へ潜入したチアチーだが、知らぬ間にイーを愛してしまった皮肉。
チアチーに好意以上の心を抱いていたクァンだが、処女のチアチーが自分以外の仲間とセックスの訓練をしたり、イーと濃厚なセックスを重ねていることに激しい葛藤を拭えない。そこで終盤になってチアチーにキスをするのだが、彼女に「どうして3年前にしてくれなかったの?」と責められる皮肉。
処女のチアチーは、唯一性体験のあるというだけで、好きでもない演劇仲間と義務的にセックスの訓練をする。ところが結局、全くその嫌な訓練自体が、無意味なものに終ってしまうという皮肉。
唯一心を許せると思った女が、実は暗殺者のスパイだと判ったが、既に憎しみはなく、お互いに愛が芽生えていることを理解しているイー。それでも処刑許可書にサインしなくてはならない皮肉。
同胞に裏切り者と蔑まれ、常に暗殺者に怯えながらも日本軍に協カするイーだが、米国の参戦により既に日本軍は死に体だと確信する皮肉。
などなど皮肉のオンパレードに、アン・リー監督の怨念のようなものを感じるのだが、そこに彼の人生感が存在しているのだろうか…。
また映像が超美麗であること、中年女性達のおおらかな麻雀シーン、チアチーのチャィナドレスと濃い口紅の色、などが非常に印象的に写った。
そして『レッド・クリフ』の周瑜の印象とは、全く別人のようなトニー・レオン。その演技力の奥深さには舌を巻いてしまった。一方、ヒロインのタン・ウェイは、オーデションで約1万人の中から選ばれたという。過激な性描写をものともせず、日本人似の童顔とのアンバランスな役柄が魅力的である。
ただ気の毒なことに、本作で大胆な性演技をしたため、中国政府に問題視され、つい最近まで女優活動を自粛していたという。これって監督の責任であって、別段彼女の責任じゃないのにな…。
それにしてもタン・ウェイは勇気があるよね。とにかく全世界に素顏と全裸を晒しているのだから、素性を隠してコソコソしているAV女優達より遥かに度胸が据わっていることになる。
最近になりやっと女優活動が再開されたタン・ウェイ。ハリウッドでは彼女を第二のチャン・ツィイーとして期待しているという。めでたしめでたしだね…。それでは、彼女の今後の活躍を祈りながら、そろそろ筆を置くことにしようか。
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» 『ラスト、コーション 色/戒』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「ラスト、コーション 色/戒」□監督 アン・リー□原作 アイリーン・チャン□キャスト トニー・レオン、タン・ウェイ、ワン・リーホン、ジョアン・チェン ■鑑賞日 2月10日(日)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★★☆(5★満点、☆は0.5)<感想> 日本占領下のでの中国。 実際にはもっと悲惨な描写も盛り込まれているのかと思ったけど、相変わらずの「これのどこが日本なんだ〜、あーん〜」、なんて口には出さずとも心で叫んで(笑) ほぼ隣国やないの〜(爆) 叫んでと... [続きを読む]
受信: 2009年7月15日 (水) 21時54分
» ラスト、コーション [監督:アン・リー] [自主映画制作工房Stud!o Yunfat 映評のページ]
ここではこの映画を「良質のスパイ映画」と見なして、スパイ映画的視点で褒めてみたい。 [続きを読む]
受信: 2009年7月15日 (水) 22時03分
» ラスト、コーション 色 | 戒 [LOVE Cinemas 調布]
役者としての格から言えば主演はトニー・レオン。しかし実際にはタン・ウェイ演じるワン・チアチーを中心としてストーリーは展開していく。監督は『ブローバック・マウンテン』でアカデミー賞・監督賞を受賞したアン・リー。かなり過激な性描写が話題になった作品です。... [続きを読む]
受信: 2009年7月15日 (水) 23時43分
» 『ラスト、コーション』 [ラムの大通り]
(原題:戒|色 Lust Caution)
----これは知ってるよ。
アン・リー監督の映画。
性描写がスゴいんだよね。
「うん。
でもけっこうボカしがはいってたからなあ。
これ、映画館で観たわけだけど
試写だったらどうだったんだろう」
-----でも、それだけだったら
いわゆるポルノと変わらないよね。
話題になるにはそれだけの理由があるんでしょ。
ヴェネツィアで金獅子賞に輝いたくらいだし。
「うん。じゃあ、まずお話を。
戦時中の日本占領下において
日本に協力し、抗日運動家を次々と死に至らしめてい... [続きを読む]
受信: 2009年7月15日 (水) 23時54分
» ラスト、コーション [日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~]
ラスト、コーション
¥3,416
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日本軍占領下の1942年の上海。傀儡政府の重要なポストにいるイーは、かつて、香港でであった女性、チアチーと再会します。イーとチアチーは、数年前、どちらも香港にいて、互いに、顔見知りでした。チアチーは、数年前、... [続きを読む]
受信: 2009年7月16日 (木) 00時20分
» 映画「ラスト、コーション」 [茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~]
原題:Lust,Caution/色・戒
どうしても思ってしまうのが、題名の意味だよね、最後の注意事項みたいな意味ありげなことを想像するけど、実は色欲に注意しなさいということなのね・・
マージャンのポンチー合戦の見所はよく分からなかったが、R18となったベッドシーンは... [続きを読む]
受信: 2009年7月16日 (木) 00時35分
» ラスト、コーション/ Lust,Caution/色|戒 [我想一個人映画美的女人blog]
平日昼間なのに満席!整髪剤の臭いと加齢臭{/ase/}とが入り交じって ちょっとうっとなるような空気の中、
(見渡したらおじいさんだらけ!)
約3時間も大丈夫か?という不安がよぎってたけど
そんなことは30分くらいでほとんど気にならなくなるくらい
面白かった!
2人の立場の違う男の間で揺れる女スパイとのスリリングな心理的駆け引き。
ドラマなどには出演経験ありらしいが、マイ夫人になりすまし、イーに近づいて行くワン役をつかみ取ったのは
1万人の中から選ばれた新人タン・ウェイ。
少女のよう... [続きを読む]
受信: 2009年7月16日 (木) 01時07分
» 映画 【ラスト、コーション】 [ミチの雑記帳]
映画館にて「ラスト、コーション」
アイリーン・チャンの自伝的短編を『ブロークバック・マウンテン』のアン・リー監督が映画化。
おはなし:1942年、日本占領下の上海。女子学生ワン・チアチー(タン・ウェイ)は、演劇部の仲間クァン(ワン・リーホン)に感化され、過激な抗日運動に身を投じていく。やがて彼女は日本軍と通じる特務機関長、イー(トニー・レオン)のもとへスパイとして送られる。
1940年前後の中国というものを予習しておくことが重要だなと思いました。当時、重慶に蒋介石の国民党政府があったのに、日... [続きを読む]
受信: 2009年7月16日 (木) 07時58分
» ラスト、コーション [★YUKAの気ままな有閑日記★]
予告で観る限り、、、性描写がキツイっぽい? R-18だしムフッ【story】1940年前後、日本軍占領下の上海。ワン(タン・ウェイ)は、女スパイとしてイー(トニー・レオン)のもとへ送られる。しかし、大臣暗殺を企てる抗日青年クァン(ワン・リーホン)との間で心が揺れ動くワンは― 監督 : アン・リー 『ブロークバック・マウンテン』 『いつか晴れた日に』 原作 : アイリーン・チャン 『ラスト、コーション』(色、戒)〜2007年ヴェネチア国際映画祭金獅... [続きを読む]
受信: 2009年7月16日 (木) 08時20分
» どちらも捨てられなかった愛情。『ラスト、コーション 色/戒 』 [水曜日のシネマ日記]
日本軍占領下の上海、香港を舞台に抗日運動家たちが目論む暗殺計画に参加した女性の物語です。 [続きを読む]
受信: 2009年7月16日 (木) 12時37分
» ≪ラスト、コーション≫ [日々のつぶやき]
監督:アン・リー
出演:トニー・レオン、タン・ウェイ、ワン・リーホン、ジョアン・チェン
その愛は、真実なのか?
「日本占領下、香港大学の学生だったワン・チアチーは演劇部の仲間が自分達も国のために何かできることは・・と特務機関のイーを殺す... [続きを読む]
受信: 2009年7月16日 (木) 16時09分
» ラスト、コーション [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
禁断の、そして極限の愛の場面にヴェネツィア騒然!「ブロークバック・マウンテン」からわずか2年、アン・リー監督が、再び全世界を衝撃の渦に巻き込んだ愛の問題作だった。
時は1942年。日本占領下の上海で、傀儡政権特務機関の顔役イーの懐に飛び込み、命を狙う女スパ...... [続きを読む]
受信: 2009年7月18日 (土) 01時30分
» ラスト、コーション [シャーロットの涙]
ヴェネチア映画祭グランプリ受賞作品
[続きを読む]
受信: 2009年7月19日 (日) 07時51分
» ラスト、コーション [虎猫の気まぐれシネマ日記]
第64回ヴェネチア国際映画祭で,金獅子賞を受賞したアン・リー監督作品。1942年の,日本占領下の上海を舞台に描かれる,抗日運動に身を投じる女スパイ、ワン・チアチー(タン・ウェイ)と、特務機関のリーダー,イー(トニー・レオン)との禁断のラブ・サスペンス。女スパイが暗殺目的で仕掛ける恋という,緊迫したス... [続きを読む]
受信: 2009年7月23日 (木) 20時02分
» 『ラスト、コーション』 @シャンテシネ [映画な日々。読書な日々。]
日本軍占領下の1942年の上海。傀儡政府のスパイのトップであるイーは、かつて香港で出会った女性ワンと再会する。数年前、香港大学の学生だったワンは、抗日に燃える演劇仲間たちとイーの暗殺計画に加わっていた。その時、イーが突然上海に帰ったことで計画は流れたが、レジ... [続きを読む]
受信: 2009年7月29日 (水) 23時42分
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