靖国への帰還
大平洋戦争末期、米軍機の本土空襲を阻止するため、残り少ない戦闘機「月光」に勇んで搭乗する武者中尉。だが健闘むなしく、空中戦で被弾して厚木基地に不時着する。
そのまま気を失って、気が付くと基地の病院のべッドの中であった…。ところが見た事もない蛍光灯という照明器具があるし、敵の米国兵もいる、どうも妙な違和感を感じるのだ。
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靖国への帰還 著者:内田 康夫 |
次第に判ってくるのだが、武者中尉は昭和20年から、現代の世界へ愛機月光ごとタイムスリップしてしまったのである。同乗していた部下は、着陸時に死亡してしまったという。そのために、自分の存在とタイムスリップを証言してくれる人間が不在となってしまった。
だが月光の存在を含めて、武者の話を信じないと辻つまが合わなくなるため、国家としても武者のタイムスリップを信じざるを得なくなってくる。この件については、国家的極秘事項として扱われていたが、月光の墜落現場を見た者や米軍兵の口から、次第に噂が広まり、マスコミ達の興味を惹くことになってしまう。
当然、武者の外出は禁止され、狭い基地内だけの不自由な日々が続いていた。ところが、突然中越大地震が勃発し、マスコミの興味がそちらに移ってしまったとき、やっと武者の外出が許可される。もちろん武者の最大の希望は、靖国神社参拝であった…。
このあと、過去の軍人からみた靖国神社論が展開されるのだが、なかなか判り易く説得力のある論理である。またA級戦犯についても、戦争に負けたからこそ大罪人扱いされるが、もし日本が勝っていれば、マッカーサーこそA級戦犯になったはずだ…と小気味よく持論をぶちまける。
そしてお国のために身も心も捧げ、靖国へ軍神として奉られることを信じながら、散っていった同胞たちの心情を吐露するのだ。読んでいるうちに、なるほどと妙に納得してしまう自分が怖かったが、この問題には正解がないことも真実であろう。
どちらかといえば硬派な作品であるが、初恋の女性との再会に絡むストーリーは、なかなかロマンチックでかつ興味深い。そしておばあさんになってしまったが、いつまでも武者の面影を抱いて生き抜いてきた彼女がいじらしいのだ。
ラストのまとめ方は定石通りだが、武者の心情を考えれば、あれ以外には方法はないだろう。自分を含めて、現代の軟弱な男性と比較すると、まるでサムライのような戦前の男性。戦争経験のあった亡父を思い出し、とどめなく涙が溢れ出してしまった。
人生とは国家とはそして青春とは一体何かを問う感動小説である。日米戦争の存在さえ知らない現代の青年たちにこそ、是非一読してもらいたい作品ともいえよう。
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