その日のまえに
「その日」とは、あの世に旅立つ日のことである。作者はその旅立ちの日を共通テーマとして、「生きること」、「死ぬこと」、「残されること」を、それぞれ独立して描いた短編集にするつもりだったという。
だが著者の恩師である平岡篤頼氏の急死により、『その日のあとで』というテーマでの話を書きたくなったそうである。結局『その日のあとで』に連なる形で、それまで発表していた短編を書き直したり再編集して、この作品に仕上げたらしい。
その日のまえに (文春文庫) 著者:重松 清 |
本作に収録されている短編は、『ひこうき雲』、『朝日のあたる家』、『潮騒』、『ヒア・カムズ・ザ・サン』、『その日のまえに』、『その日』、『その日のあとで』の7作である。そしてそれらのうち、『朝日のあたる家』以外の作品は、どこかで微妙に繋がっているのだ。
その繋がり方については、多少無理があるように感じるが、前述した通り、あとから再編集したということなので許容範囲とすることにしたい。またその最大原因である『その日のあとで』が、短編集の中で一番出来映えが良い事を考えても、多少のブレは致し方ないだろう。
ハッピーエンド好みの僕としては、暗く重いテーマの短編ばかりなので、かなり気が滅入ってしまったのだが、ラストの『その日のあとで』を読んで、それまでのフラストレーションが一遍に吹き飛んでしまった。『その日のあとで』は、それほど秀逸な作品なのであり、究極すれば、この本はこの一作のために存在しているのだと言っても過言ではないだろう。
死とは人生の終着点なのか、別の世界への入口なのか、死んでみないことには答は出せない。もし死にゆく者にとって、死が「本来あるベき世界」への羽ばたきだとしても、残された者には、悲しみのセレモニー以外の何者でもないのだ…。
ところで『未来郵便』というサービスをご存知だろうか。最長20年先の自分や家族に宛てた手紙を、保管して配達してくれるサービスである。僕もこのサービスを使って遺言を書きたいと思っていたのだが、『その日のあとで』の中でも、看護士によってその役割が果たされるシーンがあり、きっと誰もが感動してしまうことだろう。
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コメント
『朝日のあたる家』に登場した武口と入江の名前が、『その日のまえに』で夫婦が訪れた新婚期に住んでいたアパートの表札に再度登場しています。
あらたな一歩を踏み出す彼らの姿が間接的に描かれているといえるのではないでしょうか。『朝日のあたる家』が他の作品と接点を持たないというのは違うと思います。
投稿: | 2009年6月13日 (土) 12時14分