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2008年11月の記事

2008年11月30日 (日)

その日のまえに

 「その日」とは、あの世に旅立つ日のことである。作者はその旅立ちの日を共通テーマとして、「生きること」、「死ぬこと」、「残されること」を、それぞれ独立して描いた短編集にするつもりだったという。
 だが著者の恩師である平岡篤頼氏の急死により、『その日のあとで』というテーマでの話を書きたくなったそうである。結局『その日のあとで』に連なる形で、それまで発表していた短編を書き直したり再編集して、この作品に仕上げたらしい。

その日のまえに (文春文庫) Book その日のまえに (文春文庫)

著者:重松 清
販売元:文藝春秋
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 本作に収録されている短編は、『ひこうき雲』、『朝日のあたる家』、『潮騒』、『ヒア・カムズ・ザ・サン』、『その日のまえに』、『その日』、『その日のあとで』の7作である。そしてそれらのうち、『朝日のあたる家』以外の作品は、どこかで微妙に繋がっているのだ。
 その繋がり方については、多少無理があるように感じるが、前述した通り、あとから再編集したということなので許容範囲とすることにしたい。またその最大原因である『その日のあとで』が、短編集の中で一番出来映えが良い事を考えても、多少のブレは致し方ないだろう。

 ハッピーエンド好みの僕としては、暗く重いテーマの短編ばかりなので、かなり気が滅入ってしまったのだが、ラストの『その日のあとで』を読んで、それまでのフラストレーションが一遍に吹き飛んでしまった。『その日のあとで』は、それほど秀逸な作品なのであり、究極すれば、この本はこの一作のために存在しているのだと言っても過言ではないだろう。

 死とは人生の終着点なのか、別の世界への入口なのか、死んでみないことには答は出せない。もし死にゆく者にとって、死が「本来あるベき世界」への羽ばたきだとしても、残された者には、悲しみのセレモニー以外の何者でもないのだ…。
 ところで『未来郵便』というサービスをご存知だろうか。最長20年先の自分や家族に宛てた手紙を、保管して配達してくれるサービスである。僕もこのサービスを使って遺言を書きたいと思っていたのだが、『その日のあとで』の中でも、看護士によってその役割が果たされるシーンがあり、きっと誰もが感動してしまうことだろう。

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2008年11月26日 (水)

天国はまだ遠く

★★★★☆

 自殺するために一人旅に出たOLの千鶴だが、自殺に失敗し民宿たむらの主人田村との奇妙な出逢いにより、いつしか生きるエネルギーを取り戻すのだった。

     Tenm

 ここまではよくある話なのだが、輝く海、紺碧の空、透明の風が吹き抜ける森を背景に、手作りの素朴な料理を味わうという展開は、なんだか荻上直子の『めがね』と相通ずるところがある。

 原作は瀬尾まいこの同名小説なのだが、まだ未読であり映画との違いを分析出来てはいない。ただ少なくとも映画の中では、千鶴が自殺するきっかけや、田村の苦悩などについてフラッシュバックはしないのだ。

天国はまだ遠く Book 天国はまだ遠く

著者:瀬尾 まいこ
販売元:新潮社
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 結局二人の心の中にあったドロドロとした傷は、ほとんど説朋しないままに終わってしまった。そしてラストシーンでもはっきりとした結論は出さないのだ。あとは観客の想像力に「おまかせ」なのである。
 結局この作品の背後にあるテーマは、都会への心残りと田舎へのこだわりということなのだろうか。あとは原作を読んでみれば、別の解答が得られるのかもしれない。
 早晩、原作を読むことになると思うが、この漠然とした大らかな包容力と自然の癒し、そして「生きる」という事へのささやかなメッセージが溶け込んだこの映画の出来栄えも賞賛に値するだろう。出演者の少ない地味な作品ではあるが、今年の邦画べストワンといっても言い過ぎではないかもしれない。
 

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2008年11月19日 (水)

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

★★★★

 芥川賞の候補になったこともある木谷有希子の同名戯曲を映画化した作品である。原作同様、長女の澄伽、次女の清深、長男の宍道とその嫁の待子の四人だけで成り立っている舞台劇そのものな映画であった。ただ田舎の田園風景が織り込まれているところに、この作品が映画としても上質なものになり得た根拠をみつけた。

     Funuke

 また主役の4人のキャストに関しては、これ以上適役はないと言い切ってもよいくらいハマリ役揃いであった。自己中で自分の周りを地球が回っていると思い込んでいる澄伽役の佐藤江梨子は、地のままを生かし切っている。
 頑固で底意地の悪い次女役の佐津川愛美も、蝉時雨』のふく役よりもずっと生き生きしていた。長男役の永瀬正敏と嫁役の永作博美に至っては、抜群の演技力で役柄を制覇していたと思う。
 かなり荒唐無稽なストーリーではあるが、のどかな田舎の風景や変人たちの滑稽なやりとりに気をとられているうちに、終了してしまったという感じなのだ。
 映画のほうは、澄伽の行動に的を絞って展開してゆくので、やや判り辛い部分もあるかもしれない。ただ原作では、待子の生い立ちについて記述されているので、彼女の心のうちや、田舎村に嫁いできた理由がよく判るのである。今どき珍しい位薄い文庫本なので、映画を観た後で是非原作を読んでみて欲しい。

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2008年11月16日 (日)

レッド・クリフPart1

★★★★

 三國志の中の『赤壁の戦い』に焦点を絞って製作された中国の大作映画である。二部構成になっているため、本編では赤壁の海戦が始まる直前までしか描かれていない。
 『赤壁の戦い』は、三國志全体からすればほぼ最終章ともいえるため、登場人物も限定的になってくる。それはすでに劉備玄徳の影が薄く、諸葛孔明 が中心人物になっているのをみても一目瞭然であろう。

           Redcliff

 三國志に関しては、過去に何度も小説・映画・コミック・ゲー厶などで馴染み深いため、ストーリー展開よりも、登場人物の比較やVFXの出来映えに興味を持ってしまった。その二点に関しては、かなり秀逸な完成度であるといっても良いだろう。またこの長い物語の骨子と多彩な登場の個性を、短かい上映時間の中で巧妙にまとめあげた構成力にも敬意を表したい。

 ただ主要な登場人物の数が少ないことと、彼等のバックボーンの描き方が不十分かもしれない。だから心の底から湧き出るような感動がない。そうは言っても、これだけの超大作を、たった二部にまとめるのだから、ある意味仕方がないとも言える。本来なら最低十部作位にしなければ、「三國志の世界」を描くことは不可能だからである。
 いずれにせよ、第二部を観た後でないと公正な評価は難しい。記憶の途切れないうちに、早く第二部を観たいものである。

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2008年11月12日 (水)

ホームレス中学生

★★★☆

 主演の中学生に小池徹平、高校生の姉に池脇干鶴、大学生の兄に西野亮廣と、全員が10歳程度若い役柄にチャレンジしている。ちょっと図々しい気もするが、これが意外にさまになっているから大したものだ。さすが俳優だね。

           Homeless

 原作はお笑いコンビ麒麟、田村裕の自叙伝だという。一昨年、やはりお笑いの島田洋七が『佐賀のがばいばあちゃん』を大ヒットさせたが、最近のお笑い芸人は、皆ただ者じゃないよね。

 ストーリーのほうは、若くして母親が亡くなり、借金まみれの父親のせいで家と家財が差し押さえをくらい、一夜にしてホームレスに成り下がった兄弟の悪戦苦闘ぶりを、笑いと涙で爽快に綴ってゆく。とにかく大泣きさせられるのでハンケチをお忘れなく…。
 父親役に個性派のイッセー尾形、母親役には急に老けこんだ感のある古手川祐子と、どちらも僕の好きな俳優さんなのだが、どうもこの二人には、この役にハマリ切れない雰囲気を感じてしまった。むしろ友達の父親役の宇崎竜童と、母親役の田中裕子の二人のほうが、パワーとエネルギーで満ち溢れていたと思う。

 ところどころでかなり感動させられる作品ではあったが、全体的にストーリー展開が単調でまとめ方も今一つであることは否めない。やはりそのあたりは、素人原作の限界なのだろうね。

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2008年11月 9日 (日)

西伊豆 土肥温泉

 約三年振りで西伊豆へ出掛けた。残念なことに大雨で、名物の夕陽を見ながらの入浴は叶わない。また前回の泊りは堂ヶ島温泉の『ホテル天遊』だったが、今回は趣向を変えて土肥の『明治館』という老舗旅館を選んだ。
 まず『玉しげ』という割烹料理店でランチを食ベることにした。ここのお勧めは、何と言っても鮮度のよい豊富な魚を盛り込んだ「海鮮丼」である。これで1570円だから、信じられないほどお買得な値段なのだ。

  Img_1596

 さて雨ということもあり、前回パスした『土肥金山めぐり』を敢行してみた。旧金山跡の「観光抗道」を探索するのだが、内部は思ったより長く続き、ところどころに当時の坑内夫たちの人形が配置されている。

    Img_1609_2

 この人形は蝋人形のように精密なうえ、首や手足が微妙に動くので不気味なのだ。とてもじゃないが、真夜中に一人でこの抗道を歩くのはご免蒙りたいね。抗道は天井がかなり低いので、身長の高い人は歩き辛いと思う。逆に言えば当時は、身長が170cmを超える人は余りいなかったのだろうと推測出来るよね。

     Img_1612

 長い抗道を抜けると、今度は金山関連の資料などが展示されている「黄金館」に続く。ここでは古文書や金山の村のミニチュアセットなどを観ることが出来る。面白いのは、数億円もする実物の金塊や千両箱などが展示されていて、手で触れられること。

  Img_1613

 もちろん盗難防止のため、金塊は防弾ガラスのケースの中に納められており、やっと片手が入る程度の穴が開いているだけなのだ。これだけ観て入館料が760円(ネット割引)だから、かなりリーズナブルな料金設定なのである。
 当日はこの金山だけ観てすぐに旅館にチェックインすることにした。といっとも既に午後4時を回っていたのだが…

 『明治館』はその名の通り、創業は明治37年だという。もちろん何度か建て直されているにものの、建物は少し古い印象がある。だが部屋は落ち着いた雰囲気で、かつ全室オーシャンビューなので、部屋からの眺望は素晴らしい。

  Img_1629

 この周辺は民宿が多いため、東伊豆に比ベると旅館全搬の宿泊料金が安いようである。そのせいもあり仕方がないのだが、従業員の数が極端に少ないところに、大番頭さんの苦労がにじみ出ていて、老舗の風格が余り感じられなかったのが残念。また料理は美味しいものの、品数が少ないところにも、苦しい台所事情を感じてしまった。ただ従業員1人1人のマナーは悪くはないので、良い旅館であることは確かである。

     Img_1637_2 

 さて翌日は定番である恋人岬や堂ケ島遊覧を楽しんだのだが、前回の『堂ヶ島紀行』で詳しく紹介しているので、今回は省略することにした。
 帰りがけに「黄金崎」に立ち寄ったが、ここからの眺めは、まさに絶景かな…である。天候と時間の関係で、夕日に染まる海を観られなかったのだけが心残りだ。またいつか西伊豆を訪れた折りには、もう一度必ずここに立ち寄って、夕日に染まる海や富士山を拝みたいものである。

  Img_1662_2  

 このあと、早めの帰途に着くのだが、遅いランチを食べるため、土肥金山駐車場入口にある『味蔵山』という磯料理店に入った。ここは土産物店内にあるので見逃がし易いが、かなり美味しくボリュームのある料理が出るので、いつも盛況なのである。
 前回は、ここが気に入って、二回も足を運んだものだ。そのとき1000円という脅威的な値段だった金目の煮付け定食を注文したが、今回は1600円に値上がりしていた。

  Img_1674_2 

 ところが実際には、値上がりしたのではなく、塩辛や海草など20品以上のサラダ・デザートバーが付いていたのだ。また金目の煮付本体も、1000円のときよりずっと大きくなっている。これで満足度が更にヒートアップし、良い気分で帰路に着くことが出来たのだった。

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2008年11月 2日 (日)

ぐるりのこと

★★★★

 初めのうちは、どことなく頼りなく、はっきりせず、女の尻ばかり追っている夫役のリリー・フランキーにイライラしていた。だがストーリーが進むうちに、だんだんこの男の好感度がアップしてゆくのが不思議だった。
 このあたりは、リリー・フランキーの演技のない演技力なのか、脚本の妙なのかは判明出来ないが、なかなか味わい深い映画だなという印象が残った。さらに妻役木村多江の迫真の演技力にも驚かされた。

 Gururi_2

 鼻水をたらしながら泣きじゃくったり、常軌を逸したうつ症状など、まさに何かに憑依されたような凄まじい演技だった。あれでもし風呂場で全裸を晒していたら、文句のつけようのないパーフェクト女優に昇格していただろう。
 それにしても、日本美人でこんな凄い演技力を持っていた女優がいたことに、今まで気付かなかった自分の浅学さを恥じるばかりだ。今後、彼女の活躍を見守ってゆきたいね。

 ストーリーのほうは、精神面でのスレ違い夫婦の日常と、胎児を死亡させてしまった妻の苦悩を、長回わし技法とユ―モア混えながらを描いてゆく。そして、唯一お互いに理解し合える「絵画の世界」を通して、社会風刺と癒しの世界を平行して織り込んでゆく。なかなか、お洒落で緻密な構成であり、『ゆれる』『かもめ食堂』などと同様、邦画の新しい風を感じた。

 夫婦というものは、性格は正反対でも良い。いやむしろ正反対のほうが長続きするかもしれない。だが、やはり価値観や趣向に共通点がなければ、難しいだろう。どちらかが我慢するしかない一方通行の付き合いでは、やがて破綻してしまうのは火を見るより明らかだ。
 どちらも少しずつ譲歩しながら、それぞれの持つ価値観や趣向を共有してゆく努力ことが、夫婦円満の秘訣なのである。この映画を観ながら、ふとそんな常識論を一つ一つ噛みしめながら再確認しようじゃないか。

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2008年11月 1日 (土)

私の男

 絶句!…第138回直木賞を受賞したこの小説を、どう評したらいいのだろうか。テーマが近親相関というタブーであるだけではなく、その愛情描写が異常なほど熱いエネルギーを放射しているのだ。まさに一歩間違えれば狂気の奈落の底である。ギリギリの瀬戸際で綱渡りをしているかのようだ。再度、絶句!

私の男 Book 私の男

著者:桜庭 一樹
販売元:文藝春秋
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 もし、著者が男だったら、ロリコンでマザコンの変態と罵られよう。もし、時間軸を逆転させなかったら、単なるエロ小説に成り下がっていたかもしれない。もし、二つの殺人事件が挿入されていなければ、初めから結論を書いてしまったことがアダになり、ストーリー展開に対する興味が薄まってしまっただろう。 

 これら全てを見事にクリアしてしまう緻密な構成力と、唸るほど巧妙で流れるような美しい文体に、呆れてしまうほど感心し、嫉妬してしまった。これなら直木賞は当たり前、逆立ちしてもこんな作品は書けないな。
 さらに全6章の語り部が、主人公の「腐野花」、「花」の婚約者である「尾崎美郎」、私の男である「腐野淳悟」、そして再び高校生の「腐野花」、次に淳悟の恋人だった「大塩小町」、そして終章では小学生の「腐野花」と、次々と変遷してゆくので飽きることがない。

 それでもテーマがテーマだけに、そのドロドロとした禁断の男女関係に耐えられない読者もいるだろう。だから、かなり好き嫌いの評価がはっきりする作品であることは否めない。それにしてもだ、これほど巧妙に計算され尽くされた作品に巡り逢ったこともない。何度も繰り返すようだが、感動とか面白いというレべルではなく、ただただ絶句するほど凄い小説なのだ。
 桐野夏生にしても、宮部みゆきにしても、最近の女性作家たちの宇宙人的な力量は計り知れないものがあるよね。

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