通勤地獄 粋なおじさん
俺はこれだけ足が長いのだぞ、と言わんばかりに大股を広げて、二人分の座席を占領している若者。前に人が立っているのも我感ぜずと、足を組んで座っている若者。
もちろん若者だって、年寄りに席を譲る優しい若者もいる。別段若者の悪口を言うために書いている訳ではない。たまたまそうした若者が私の隣に座っていたのだ。そしてその若者の前にあるおじさんが立った。車内はそれほど混んではいなかったし、周囲にはいくらでも立つ場所があったのにである。
そのおじさんは角刈で、渋い紺色の着流しに草履を履いていた。まるで高倉健の世界じゃないか。
それでもタヌキ寝入りの若者は、相変わらず足を大きく組んだままである。おじさんの足元をみると、あきらかに若者の靴先が着物の裾を汚しているではないか。若者は小柄なおじさんの二倍くらいある大男である。
おじさんは無言だ。黙ったまま暫くはじっと若者を見下ろしていた。しかし若者は足をどけようとしない。それどころか、その足はさらに伸びて、おじさんの膝にぶつかっているじゃないか。
とうとうおじさんが動いた。膝にぶつかっている若者の足を自分の足に絡め、ゆっくりと半円を描き、組まれた若者の足をはずしてしまったのだ。一言も発せず、怒った様子も見せず、堂々とそしてゆったりとしている。
その途端に若者がはっとして、おじさんを睨みつけた。だがおじさんは微動だにせず、何もなかったかのように、相変わらず無言で若者を見つめている。
すると若者は急に立ち上がり、「申し訳けありませんでした!」と、頭を下げておじさんに謝ったのだ。
おじさんはニャッと笑い、小さく手を横に振ると、あとは知らんぷり。恐縮した若者は、小さく座り直してうつむいている。
やった~!私は思わず快哉し、この着流しおじさんに「サインしてください」と叫びたくなってしまった。暫くして電車が次の駅で止まると、くだんのおじさんは、ゆっくりとした足どりで電車を降りていった。
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